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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-11



朝日が二人を照らし始めている。その朝日を二人は、同じベンチに座って寄り添いあいながら見ていた。少女、刀奈の先ほどまでの焦燥感に駆られて不安でいっぱいだった表情はなく、隣に蓮がいるせいか、安心しきっていた。


刀奈は、蓮にいきなり抱きついた理由を話そうとはしなかった。蓮もそんなに問い詰めようとはしない。すぐに刀奈の不安を安心に変えることに努め、抱きしめてやったのだ。その時の刀奈は儚かった。少しでも力を入れてしまえばガラスのように砕けてしまいそうなくらい儚げだったのだ。そのため蓮は、割れ物を扱うように優しく抱きしめた。


二人の間に会話はない。ただ水平線から上ってくる朝日を眺めていた。朝日の光が、海に反射してきらきらと輝いている。
そんな二人の時間の中、先に言葉を発したのは、蓮でも刀奈でもなかった。


「ずるいなあ、たっちゃんは。れんくんの独り占めはよくないぞっ。というわけで、空いている方かしてねー」


何処からともなく現れた第三者。それは、ISに関わる者なら必ず知っている人。いや、ISのことを少しでも知っていれば、名前ぐらいは聞いたことある。そんなビックネームの人だった。
薄い紫色の髪を腰のあたりまで伸ばし、独特なファッションで不思議の国のアリスを連想させる。頭には、うさ耳のカチューシャをそれも機械で作られているものをつけていた。そんな容姿を持つ人は、刀奈が蓮の左側にいるため、右腕を取って思いっきり近づいた。


そんなことをする人が例えISの開発者である篠ノ之束であったとしても、二人は驚きはしない。もう慣れてしまっているのだ。束は昔からこういうことが好きな人であった。それも蓮に対しては、異常なほどの愛情がある。当時、高校生であった束は人目を憚ることなく、当時小学校中学年であった蓮にキスをせがんでいたのは、もう思い出として残っている。


「お久しぶりです、束さん」
「うんうん、久しぶりだねー。元気だった?」
「ええ、相変わらず、そちらもお元気そうで何よりです」


刀奈と束が蓮を巡って争うようなことはしない。もしそんなことをすれば、蓮が切れてしまい。しばらく口も聞いてくれなくなるからである。そんなことになってしまえば、二人にとって残酷なことで食事も咽喉を通らなくなってしまうのだ。


今まで黙っている蓮は、口を開かない。ただ黙ってベンチに深く腰掛けて登っていく朝日を眺めているだけである。
刀奈も束もあいさつを済ませ、蓮の肩に頭をのせて、同じようにして朝日を眺めていく。
今ここには、特別な肩書などいらなかった。IS発明者にして世界指名手配者。IS学園生徒会長にして第十七代目更識家当主。世界で表向き上二番目に見つかったIS男性操縦者にして亡国機業最高幹部。そんなものはいらない。いるのは、一人の女性と少女と青年だった。


そして、そんな仲睦まじげにしている三人の様子を屋上へ入るための扉から覗くようにして窺っている人がいた。織斑千冬である。
寮の廊下を走っていく音を聞き逃さなかった。朝早くで日課のトレーニングをするためでもあったが、その準備をしているときに誰かが廊下を走っていくのだ。まだ朝早いので怒鳴り散らすわけにもいかないため、こうして屋上まで足を運んだのだが……。
まさか、束がいるとは思わなかった。いや、蓮に対しての感情については今はいい。昔からそんな気がしていたのだ。だが、それでは今そこに束がいる理由の説明にならない。


出て行こうとも悩んだのだが、どうもいい雰囲気を出しているあの中に入っていく勇気が千冬にはなかった。千冬とて一人の女性。恋愛には興味があるが、どうも自分の丈に見合う人がいない。やはりブリュンヒルデになんかなったから、お高く感じてしまうのかもしれない。しかも、今はIS学園の教師である。男のおの字もないこの職場でどうやってそういう恋愛沙汰になるのか。……そんなもの決まりきっている。
目の前でいちゃついている御袰衣蓮か織斑一夏しかないのだ。一夏は、実の弟。男として見られるわけがない。ただ心配ではあるが。


一夏といえば、束は一夏を毛嫌いしていた。いっくんとなんだか良く分からないあだ名で呼んではいるが、束から一夏に話しかけることはなかった。どちらかといえば、一夏から束に話しかけた時が多いのではないのだろうか。
千冬は、束が一夏に話しかけたところを見たことがない。
千冬は、心の中に一つの考えが浮かんだが、それを押し込めた。なぜなら、それはあまりにもばかげているもので現実味のないことだったからだ。だが、もしこれが現実となってしまえば大変なことである。
そう、絶対にあってはならないことなのだ。篠ノ之束とその束からIS訓練を受けてきた御袰衣蓮の敵対化なんて。


俯いて考えていたが、考えるのを一旦やめると顔を上げる。相変わらず、あいつらはくっ付いて朝焼けを見ている。そんな姿に小さな痛みが心に走るのを実感するも気のせいと思い、屋上に入っていくことなく階段を下っていった。


      ◯



織斑一夏は、無自覚のシスコンである。理由としてあげるとするのであれば、やはりクラス代表戦の時にセシリアと戦っているときに大声で言い放った言葉だろう。


『俺は……俺は最高の姉を持ったよっ!』


そう言い放って、一次移行(ファースト・シフト)して使えるようになった織斑千冬が現役時代に使っていた唯一の武装と同じ、雪片。その後継といってもいいのだろうか。一夏のISが唯一持てる武装雪片弐型。さらには、まだ二次移行(セカンド・シフト)すらしていないのに単一能力(ワンオフ・アビリティー)まで使える始末。
これは、一夏は知ることがまず有り得ないことなのだが、倉持技研が開発を途中で投げ出したISを束がISに願われてしょうがなく最後まで作ってやり、一夏のもとへとしょうがなく送ったものなのだ。


倉持技研は投げ出したが、事実上倉持技研の方で作ったということになっている。その当時、ほぼ同時進行で開発を進めていた更識楯無の妹、更識簪の専用機《打鉄弐型》を中断して開発したということになっている。
これにはさすがに楯無も文句を着けに倉持技研に詰め寄ったが、ただ謝るばかりで特に言い訳もせず、理由も話すことなく謝るもので、楯無もこれには引き下がるをえなかった。


……話がずれている。
つまり何が言いたいかというと、自らの姉である千冬の活躍は嬉しい。自分もそこにたどり着きたい。明確な目標をくれた姉のところまで行きたい。――――強くなりたいという一夏の気持ちを言いたかったのだ。


そしてクラス代表決定戦の末、最下位でもあったに関わらず、代表に選考されてしまった。そのせいでほぼ初心者であるのに、期待されているのだ。クラスメイトの期待が両肩に重くのしかかる。期待されて嫌なわけがない。でも、初心者である人に期待されても……ということだ。
重く憂鬱な気分になりながら、思う一夏。


時計を見てみるが、まだ時間は5時前。あと1時間は睡眠時間をとれるのだろうが、如何せん、一度起きてしまえば目が冴えてしまう一夏。二度寝などできる訳もなく、いつもなら隣のベットにはもういない筈の箒も珍しくまだ寝ているようで、その寝顔を少し眺めると、起こさないようにベットから出る。
後々で遅れないように音を立てないように制服に着替えると、なんとなく風に当たりたくなった一夏は、屋上に行くことに決めてこれまた音を立てない様に部屋から出ていく。


部屋から出ると、当たり前だが廊下は物音一つなくしんと静まり返っている。まだほかの人は寝ているのだから起こさないように歩きながら屋上への階段へと歩いていく。そしてその屋上への階段の前で、見慣れた顔を見かけた。


「あれ? 千冬姉。どうしたんだ?」
「ん? ああ、一夏か。いやなに、風に当たってきたんだ。後、今は別に構わないが、学校では織斑先生と呼べよ?」
「分かった。じゃあ、俺も風に当たってくるよ」
「そ、そうか……別に止めはしないが、騒ぐようなまねはしないでくれよ。では、学校でな」


一夏の脇を通り過ぎていく千冬。その背中を見送ると千冬が残していった言葉が気になったが、関係のないことと割り切り、屋上へ向かっていく。
あとは屋上の扉を開けばいい風が体に当たってくるはずだった。不意に声が聞こえてきて開けるのを躊躇った結果、少しだけ扉が開いた。


その隙間から屋上の様子を窺うと、あるベンチに3人、人が座っていた。一夏は、その中の二人には見覚えがあった。一人は、御袰衣蓮。一夏と同じISを操縦できる男。自分の次に見つかったと一夏自身は思っているのだが、それは違う。真実は蓮が最初に動かしたのだ。それを束が知った。というより、たまたまだったのだ。偶然。


……もう一人は、ISの生みの親である篠ノ之束である。こちらは幼馴染である箒の姉ということもあって接点はあったのだが、どうやら嫌われているようだ。決して、こちらから話しかけないと話をしてくれない。まあ、良く分からない人だからそれでいいのかもしれない。
それで最後の3人目が問題なのだ。一体誰なのだろうか。
水色の髪が外側に跳ねて活発な印象を与える。それに出るところは出ている。容姿端麗。思わず、一夏は見惚れていた。一瞬にして胸がきゅっと締め付けられるような感じがする。彼女だけを見ていたい。彼女のあたりだけが鮮明に見え、きらきらと輝いているように見え、その他は、霞みかかったようにぼやけて見えない。胸の鼓動が早くなるのが分かる。


今はまだ会わない方がいい。どこか本能的にそう思った一夏は、来たところを音を立てない様にまた戻って行った。どうして束がここにいるだとか。あの人たちの関係は一体何なのかとか、そんなことはどうでもよかった。初めて見た彼女の笑顔を瞳に焼き付けて、どこか上の空で歩いていく。


      ◯


「そういえば、束さんの左手薬指の指輪は?」
「んふふー。これはれんくんとの婚約指輪なのだよっ!」
「……そんなわけないだろ。ただ束が何か形になる物がほしいって言ったから、名前と一緒に上げただけじゃねえか。まあ、俺はこんな感じにネックレスにしてるけどな」
「それってあの時の……? って、あー!! 裏側に名前が彫ってあるっ。ローマ字でTabane shinonono。いいなあー私もほしいっ!」
「……だってさ、どうする束」
「んー? 別にいいんじゃない? だってこれって親愛の形でしょ? みんなでみんなの名前が彫ってある指輪を身に着けることにしちゃお?」
「そうするか。となると、俺の名前が彫られているやつと束の名前が彫られているやつが一つずつ。楯無……どっちの名前で彫る?」
「んー……じゃあ、刀奈で」
「それなら刀奈のほうの名前が彫られたやつが二つっと……三日だな」
「おっけー! それじゃあ、私はもう行くねっ。ばいばーい!」
「ああ、またな。……よし、戻るか……刀奈」
「さようならー! ……ええっ、戻りましょう?」


 
 

 
後書き

気分が乗って、時間が開いていたので投稿。

地の文で楯無と刀奈の二つを使っていますが、決してミスではないのでご理解いただきたいです。
このシーン、三人が会うところは本文にも書いていますが、ただの一人の少女として見ていただきたかったからです。更識楯無を。 
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