『八神はやて』は舞い降りた
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第1章 悪魔のような聖女のような悪魔
第7話 凸凹姉妹
前書き
・視点変更ですが、◇なら主人公視点、◆ならその他視点になっています。
・念話は()書き。デバイス発言は『』です。
兵藤一誠が転生悪魔となってから、数日が経った。
その間、サーチャーを使って彼のことを監視していたが、目立った動きはなかった。
いや、まあ、悪魔見習いの活動はある意味すごかったが。
ダンディなおっさんの魔法少女コスチューム姿なんか、誰が好き好んで見たいと思うのだろうか?
というか、リアル魔法少女――――現在の姿、年齢を考えると「少女」は微妙かもしれない――――として、文句の一つもいいたいところだ。
兵藤一誠には、心底同情してしまう。
秘密裏に監視しているので直接慰めることはできないが。
前もって、原作知識で知っていたボクでさえ、大きなトラウマを残したのだ。
ヴィータは、睡眠中、苦しげにうなされていたし、リインフォースなんか、その場で気絶していた。
ただ、シャマルだけは、目が輝いていたのは、なぜだろうか。
……気にしてはいけないな、うん。
(毎日のように、男性の行動を監視するとは――まるで、恋する乙女みたいだな)
愛なら仕方ないね!
と、ストーカー行為を正当化してみる。
さすがは、原作主人公。
監視していると、意外と好青年であることがわかる。
普段の変態振りがなければ、もっとモテただろうに。
でも、ボクが彼に恋することがあるか?と言われれば、否だろう。
いまだに、性別には、戸惑いを感じる。
女性であることは間違いないのだが、ね。
自嘲しつつも止めるわけにはいかない。
そんなストーカー生活が日常になりつつある今日この頃。
今日も今日とて、サーチャーごしに、兵藤一誠の映像を垂れ流している。
すると、外国人の美少女が、彼に道を尋ねていた。
一瞬頭を悩ませ、すぐに答えが出た。
彼女の名は、「アーシア・アルジェント」という。
――――近い将来、一誠ハーレムの構成員の一人になる予定の少女である
傷を癒す神器『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の持ち主であり、心優しい少女である。
彼女は幼いころから、教会で、傷を癒す奇跡を起こす聖女として、祭り上げられてきた。
ところが、ある日、悪魔の傷を癒したことで教会から追い出されてしまう。
行くあてのなくなったアーシアは、堕天使に保護――という名のもとに利用されることになった。
レイナーレが、彼女の身柄を拘束し、とある目的のために生贄にしようと目論んでいるはずだ……原作通りなら、という注釈がつくが。
現在、彼女と兵藤一誠は、英語で流暢に会話している光景が、サーチャー越しに映っている。
言っては悪いが、彼の頭の出来はあまり良くない。
もちろん、英会話などできるわけない。
にもかかわらず、彼が英語で会話できる理由は、一重に悪魔化した恩恵ゆえにだ。
音声限定とはいえ、自動翻訳能力を悪魔は備えており、転生悪魔も同様の能力をもっている。
ボクの場合、前世の知識という反則技のおかげで、英語は得意だから必要ないかもしれないけれども
後日、悪魔がもつ自動翻訳能力の理不尽さを愚痴ったところ、リインフォースに翻訳魔法の存在を教えられた。魔法も大概反則技であると、改めて認識した出来ごとであった。
さて、彼女も今後の鍵を握る原作キャラクターの一人ということで、サーチャーをつけることにした。
行動を監視するという意味もあるが、堕天使に虐待されないか見守り、もしものときに保護するためでもある。
いくら原作で彼女が助かるということを知っていても、手の届く限りにおいて、見捨てるという選択は許容できない。
しつこいようだが、ボクは、いまを「現実」として認識しているし、この世界の住人も同様である。
そもそも、ボクという存在がいる時点で、原作知識は絶対ではない。
あくまで、参考程度にとどめるべきだろう。
むろん、重要な価値があることに変わりはないが。
物思いに耽っている間に、アーシアが教会前まで、兵藤一誠に案内され、お礼をいっているようだ。
悪魔の領地内にも関わらず、堂々と堕天使が不法占拠している教会である。
気づけよ、と思う。それでいいのかグレモリー。
彼と別れ、教会の入り口に向かう彼女の顔は、先ほどとは打って変って、痛々しい表情をしている。
いまのところ、堕天使に著しく不当な扱いはうけていないようだ。
もっとも、丁重にもてなされているわけでもなさそうだが。
なぜだろう。
アーシアをみてから、彼女のことばかり考えている。
なぜこんなに彼女のことが気になるのか。
思い悩んでも、答えはでなかった。
◇
アーシアを発見した日の夕方、リアス・グレモリーから、はぐれ悪魔が出現した、との報告を受けた。
名前は、原作通りバイサーだった。
普段とは違い、協力要請はなかったものの、こちらから協力を申し出ると、やんわりと断られた。
おそらく、彼女としては、兵藤一誠の赤龍帝としての力をみたいのであろう。
彼が神器を所有していることを、ボクたちに知られたくないのだと思われる。
ボクたちは所詮客人でしかないので、迂闊に情報を渡そうとしない姿勢には好感をもてる。
サーチャーでつつぬけなんだけどね。
したがって、「偶然」彼女たちと遭遇し、彼の力を観察することにした。
「二人だけで、戦場に赴くと言うのですか!?」
「そうだよ。理由はこれから説明するけれど――――」
偶然を演出するのならば、八神一家が勢ぞろいしていてはまずいだろう。
どうみても、スタンバイしていたことがばれてしまう。
ばれてしまえば、どうやって場所とタイミングを合わせたのか追求されることになる。
下手すれば、サーチャーの存在に勘付かれるおそれすらある。
「――――と、いうわけで、ボクとリインフォースの二人で現場に向かうことにするよ。買い物帰りを装えば、本当に偶然遭遇したのかを疑いはしても、断定することはできないだろうからね」
「理由については納得しました。しかし、危険ではありませんか?」
「ううん。所詮は、はぐれ悪魔だ。『原作』で最初の敵だけあって、素人の兵藤君にすら倒されるほどだよ」
「たしかに、いままで討伐してきたはぐれ悪魔の戦闘力と原作知識とやらを考えれば、問題ないかもしれません」
「そうだろう?だったら――」
「しかしながら、あえて主はやての身を危険にさらす行為には、賛同しかねます」
「シグナムの言う通りですよ。わたしも、少し心配かな。もしものときのために、回復役がいた方がいいのではないかしら」
「私としても、主の自宅警備員として傍に控えさせていただきたいです」
旗色が悪くなってきた。いまのところ、シグナム、シャマル、ザフィーラは反対の立場をとっている。
リインフォースは、一緒についてくるから除外するとして、残るはヴィータのみ、か。
「うーん。賛同者はなし、か。ヴィータ姉はどう思う?」
「あたしは賛成するぜ。どうせ、これから戦いは厳しくなっていくんだ。いまから怖気づいていたら、後で苦労する羽目になる。それに、リインフォースがついているんだ。滅多なことにはならないだろうさ」
「マスターの身を、必ず守ることを約束します。鉄槌の騎士の言う通り、これからマスターは戦いに身を投じていくことになりますから。早いうちに、慣れておいて損はないはずです」
「うんうん。ヴィータ姉の言う通りだよ。ボクがしてきた修行の成果は知っているでしょ?」
「……わかりました。たしかに、ヴィータとリインフォースの言う通りだ。主はやてに従うことにする。皆も異存はないな?」
ふぅ。シグナムたちを、なんとか説得することが出来た。
皆、ボクの身の案じていることが伝わってきて、ちょっとばかり、こそばゆい。
特に、ヴィータの援護射撃には感激してしまった。
「ヴィータ姉」と呼んでいるのは、決してからかいの気持ちからだけではない(少しはあるが)。
ボクは、彼女を本当の姉のように思っている――口に出すのは恥ずかしいけれど。
だから、姉に認められたようで嬉しく、そして誇らしかった。
所詮バイサーは、序盤のヤラレ役に過ぎない。
この程度の相手に苦戦するようならば、今後の計画を大幅に軌道修正する必要があるだろう。
――――それに、原作で描写されていた光景を、この目で確かめたいのだ
原作という色眼鏡を通すことで、空想と現実が混同しないだろうか。
架空の登場人物と目の前の人物を切り離して考えられるだろうか。
原作知識に振り回されて現実を軽視しないだろうか。
いろいろと心配の種があるとはいえ、あまり緊張はしていない。
ボクには頼もしい家族がいる。
これから赴く戦場にも、リインフィースという心強い味方がいるのだから。
「ありがとう、シグナム、みんな。さあ、未来に向けての第一歩をいっしょに踏み出そう――――と、いうわけで、今日の晩御飯は何がいい?偽装に気づかれないためにも、いつも通り晩御飯の買い物にいかないとね」
◆
「――ヴィータ姉はどう思う?」
はやてが、あたしに尋ねてくる。眼をみれば、行く気まんまんだということが丸分かりだ。
あいつは、意外と頑固なところがある。
この問いかけも、家族の理解が欲しいからであって、確認に過ぎないのだろう。
だから、あたしは迷わず賛同した。なぜなら――――
「――――これから戦いは厳しくなっていくんだ。いまから怖気づいていたら、後で苦労する羽目になる」
あたしを含むヴォルケンリッターが、はやてと出会ったのは、あいつの誕生日の日付に変わったとき。
……もっと早く駆けつけられなかったのかと、いまだに悔んでいる。
第一印象は、両親を殺され泣きじゃくる年相応のか弱い女の子。
主の身を守り、命令に従うのが守護騎士の役目だから、助けた。
いつものことであり、特別な感情を抱いてはいなかった。
しかし、その後すぐに考えを改めることになる。
嗚咽をこらえながらも、突然現れたあたしたちに、毅然とした態度であいつは接した。
ほどなく駆けつけた魔王とやらには、状況がよくわかっていないあたしたちに代わって、彼女が主導して話を合わせた。
――――前世の記憶やら、原作知識やらのおかげだよ
と、はやては、どこか自嘲しながら謙遜していた。
しかし、年相応に振る舞う姿は、決して演技にはみえなかった。
ここが異世界だとしても、関係ない。
どのような事情があろうと、あたしは「八神はやて」という少女が大好きなのだから。
『ヴィータってお姉ちゃんみたい。ヴィータお姉ちゃんって呼んでもいい?』
当時、9歳になったばかりのはやてと、外見年齢が8歳~9歳相当のあたしは、背格好が同じくらいだった。
一見すると、姉妹にみえないこともない―――もちろん、姉はあたしだ。
外見年齢が近いからだろうか。
大人びているように見えて、実は、寂しがりで甘えたがりなあいつは、とりわけあたしに懐いていた。
『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と連呼しながら、後をついてくるはやて。
あたしは、実の妹のように可愛がっていたし――――はやても、あたしを実の姉のように慕っていた、と思う。
あいつが、10歳の誕生日に、「家族になってから1周年記念日」だといいながら、渡してくれたプレゼントは、いまでもあたしの宝物だ。
それは、「のろいうさぎ」という名前のぬいぐるみ
原作の「ヴィータ」が好きだったぬいぐるみを参考にした手作りらしいが、あたしの嗜好にぴったりだった。
うぬぼれでなければ、一番近くであいつの成長を見守ってきたのは、姉貴分のあたしだろう。
――――だから、あたしだけは、はやてがしてきた努力とその成果を認めてやらなくてはならない
あいつが一人で立ち上がれるように背中を押し、危なくなったら助ける。
過剰に甘えさせれば、成長して独り立ちしたとき苦労するのは、はやて自身だ。
したがって、適度な距離を保ちながら、接しなければならない。
嬉しそうにこちらを見つめる姿には、苦笑してしまう。
「晩飯は任せる。その代わり、デザートにアイスをつけてくれ」
「はいはい、わかったよ。えっと、ヴィータ姉は、どのアイスが好きだったっけ――」
――――やれやれ、手のかかる妹だぜ
後書き
・アーシアが気になる主人公。恋ではありません。
・姉御肌なヴィータ。ギャップ萌え。
・心配性なシグナム。でも、一番強いのは主人公だったり……
・ミルたんは最強、いろんな意味で。
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