人形の姫と高校生の鬼
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今ある日常-1-
ほのかに冷たい風が優しく髪を撫でた。その心地の良さにふと目が覚める。今日は快晴か、外から感じる柔らかな日差しがとても気持ちがいい。あぁ・・・・・・一体ここは・・・・・・どこだっ
カァンッ!!!
「・・・・・・!?・・・・・・!!!痛えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?」
何か当たった!おでこに!何か凄く固い物が!!
思わず立ち上がり額を押さえる。何だ?何が起きた!?ゆるやかに覚醒しつつあった意識が一転して一瞬で刈り取られるかと思った!?
「黄城・・・・・・去年、高1の時から何度言えばわかる?俺の授業で寝るな。次はチョーク程度では済まさんぞ」
涙目になりながらも声の聞こえた方を見る。そこには教壇と黒板が有り、近くにはスーツ姿に髪を後ろに一房纏めただけの男が・・・・・・いや訂正、女教師が居た。というか男じゃないのか本当は?その目つきに喧嘩っぱやさ、そして貧乳具合・・・・・・。
「いいか、黄城?お前はバカだ、バカなんだよ。つまり誰よりも真面目に、この俺の授業を聞かねばならんのだ。それが何だ?授業を受けるどころか優雅に居眠りだと?・・・・・・てめぇ!俺の授業はリラクゼーションソングじゃねぇんだよ!誰が人間睡眠促進装置だ!!」
「まだ何も言ってないでしょう!?てか、自分がそんな高尚な存在だと思ってるんですか!?どちらかというと子守唄だ!昭和とか大正とかに歌われた思いっきり年代物の子守唄だ!」
「なんだとこらぁ!」
彼女は教科書を教壇に叩き付け、腕まくりをしながらこちらに近づこうとする。いいだろう、こっちも良い眠気覚ましを貰った礼をしてやる・・・・・・!と、場の空気が臨戦態勢になりつつあったその時
「葉賀音先生ぇ・・・・・・授業しましょうよぉ・・・・・・」
俺と「葉賀音」と呼ばれた女教師のやり取りに、目に涙を溜めて訴える女子がそこに居た。しっかり教科書で自分の頭をガードしてる辺りこれから何が起きようとしているのか、しっかり体に染み付いている様だ。
「・・・・・退いてろ葉山、ここは今から処刑場だ。俺はこのバカを処刑してその見せしめに首を吊るして飾るんだ。二度とふざけた真似をする奴が出ない様にな・・・・・・!」
「ここは教室ですよ!?あと私の机持ち上げてどこに投げる気ですかぁぁ!」
机を投げようと息を巻く葉賀音先生、バラバラと教材やらノートやらが落ちる机を投げられまいと必死に掴むクラスメイトの葉山。
「・・・・・・今日もこれで授業終わりだな」
誰かがそんな事を呟いたのとほぼ同時に、授業終了を知らせるチャイムが鳴った。つまりはいつもこんな感じであった。
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「それにしても、葉賀音先生ったら何で腕怪我してたんだろうね~?」
教室で机の奪い合いを演じていた葉山は葉賀音先生の腕に包帯が巻かれているのを見たらしい。
「おおかた目に付いたヤンキーに片っ端から教育的指導でもしてんじゃね?ピッタリだ」
「そして磨いた拳を常時居眠りの問題児に振り下ろす、と。愛を感じるねぇ」
「バカ言うなよ・・・・・・」
学校も終わり俺は葉山藍、そしてクラスメイトの宮島健と3人で下校している。俺達3人は小学校の時からの付き合いであり、学校が終わる度に集まりこうして一緒に過ごす事が多かった。
「それにしても一鬼、お前最近あまりにも寝すぎじゃないか?」
「・・・・・・そうなんだよぁ。まじであの教師から睡眠誘導波が出てるのかもしれん」
「もうっ!そんな事言わないの!葉賀音先生きっと気にしてると思うよ!」
「気にする訳ないだろうが。・・・・・・内容は覚えては無いんだけどさ、よく居眠りする様になってからセットで変な夢を見るんだよなぁ」
西日が眩しい、思わず日差しを遮る様に手をかざす。
「なーんか、結構シリアスと言うかその・・・・・・グロい系って言うのかな。和風ホラーな感じでさ、最後の最後の『これがオチだ』みたいな所でいっつも目が覚めるんだよ」
「ホラー好きだっけお前?」
「・・・・・・大嫌いだよチクショウ」
「私大好き!」
「へいへい。スプラッタ、ゴシック、ダークファンタジーなんでもござれの葉山センセーまじかっけー」
「もう・・・・・・面白いのにぃ・・・・・・」
葉山が足元の小石を蹴飛ばした。何だ?不貞腐れたのか?チラリと葉山の顔を伺ってみる。よくは見えなかったがどうやら今の俺の一言が微妙に堪えたのか俯いたまま道を歩いている。・・・・・・ちょっと言い過ぎたか?
「・・・・・・ホラーコメディなら一鬼も見れるかな、今度DVDを部屋に投げ込んで・・・・・・いやいっその事プレイヤーに仕込んでおけば」
そんな事なかった。
「あ、悪い一鬼」
「何?一鬼ってばまたイタズラでもしたの?」
「そういう意味じゃねーだろ!!」
あはは、と楽しそうに笑う葉山。くそ、さっきの仕返しのつもりか・・・・・・?
「ちょっとこれから用事あるんだわ。先帰っててくれ」
「おう、わかった。・・・・・・何だ?デートか?」
「えぇ!?タケ君、もしかして・・・・・・彼女出来たの!?」
「あぁ、藍ちゃんにはまだ話してなかったっけ。うん、ちょっと前にね」
「おぉ~・・・・・・タケ君がねぇ・・・・・・」
本当に驚いたのだろうか、何故かその場で飛び跳ね始めた葉山。若干呆けていた葉山だが一瞬ハっとした顔になり、俺に耳打ちしてきた。
「タケ君の彼女って・・・・・・小学生とかじゃないよね?」
「・・・・・・安心しろ、一個下って聞いてる」
彼女が何を言わんとしているかはわかっている。タケは・・・・・・そう、「年下が好き」なんだ。俺と葉山が心配になるほどその・・・・・・年の離れた子が。
「んじゃ、俺はここまでな。また明日よろしく」
「ん、お疲れ」
「またね~」
学校指定の鞄を肩に背負い直し、タケは駅に向かって走り出した。実は駅と俺らの家の方角は逆だったのだが・・・・・・まったく彼女との時間、もっと大事にしてやりゃ良いのに。
「変に気を遣ってるっつーか・・・・・・物好きな奴だな」
「へ?何が?」
さぁね、と葉山に素っ気無い返事をし、俺達二人は自分達の自宅へ戻る。先程より日が落ちてきている。夕焼けが、いつもよりとても紅く感じた。一体これから、どれ程同じ景色を見る事が、どれ程皆との時間が過ごせるのだろうか。
あの夢の光景と、この夕焼けの景色が重なって。
俺はそんな事は考えていた。
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