ウィークエンドアバンチュール
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第二章
第二章
「それでいいよ、こっちも」
「じゃあ話は決まりね」
確かにこれで決まりだった。俺も異論なんてない。
「それで何処に行くの?」
「そうだね。最初は」
ネオンを見て考える。俺が見るのはその中にある無数の楽しみの中で一つだった。それが何なのかはこれからじっくり考えればよかった。
「あの中に入ろうぜ」
「一晩だけなのに余裕があるのね」
「まだ夜は長いさ」
彼女にこう言葉を返した。
「少しデートをしてもいいと思うけれどな」
「まあそうね」
彼女もそれに乗ってきた。
「夜のデートっていうのもね。いいわよね」
「じゃあ行こうか」
「ええ」
こうして俺達は一夜だけの恋人同士になった。二人並んで歩きだす。それから少しだけ歩いて飲んだりゲーセンに入ったりして最後はホテルに入った。いつもの浮気のコースだった。夜なんて本当にあっという間だった。
「もうすぐ終わりね」
「だよな」
一夜二人で騒いで今はベッドの中。もう服は着ている。
「早かったかしら」
「早いね」
俺は彼女にこう答える。派手さと可愛さが何か妙な感じで入り混じったホテルの中身はこれはこれで面白い。俺は本当はもっと都会風のお洒落な感じが好きだけれどここは彼女の趣味に合わせた。所謂レディーファーストってやつだった。
「あっという間だったよな」
「けれどそれがいいんじゃない」
彼女もあっけらかんとしたものだった。
「遊びなんだし」
「遊びか」
「そうよ、遊び」
彼女もベッドの中だった。コートだけ脱いでもう服は着ていた。ベッドの中でも布団ははだけさせている。そのうえに俺達が寝転がっている。
「だからそれでいいのよ」
「名前も聞かないでね」
「名前も聞かない方がいいのよ」
今度はこう言ってきた。
「やっぱり遊びなんだし」
「結局そうなるんだな」
「それでいいじゃない。後腐れなくね」
「そうだよな。けれどよ」
「何?」
「これ言ったら駄目なんだけれどな」
少し苦笑いを浮かべて言うのだった。
「名残惜しいよな」
「それをあえて別れるのがいいのよ」
何か随分と達観していた。こうしたことにかなり慣れているのがわかる。
「別れ際までは恋人でも」
「別れてからはそうじゃない」
「だって。遊びなんだし」
これはやっぱり変わらなかった。
「そうなるわね」
「そうだよな。けれどそのわりには」
俺は昨夜は随分楽しい思いをした。それを彼女に言うことにした。
「随分楽しんでいたよな」
「遊びだからよ」
それが彼女の理由だった。
「遊びだからか」
「遊びだから本気で楽しまないと駄目じゃない」
そういうことだった。
「だからよ。本気だったわよ」
「本気ねえ」
「遊んでも何でも本気は本気よ」
それをまた言う彼女だった。
「それはわかるかしら」
「わからないな。いや、わかりたくはないね」
俺は少し言葉を選んでこう返した。
「マジになりかけたからさ」
「遊びには本気になってもいいじゃない」
するとまた同じように言葉を返された。
「そうじゃないと楽しめないから」
「そうか」
「それで」
ここで話題を変えてきた。
「私はどちらに見えたかしら」
「どちら?」
「そう。天使か悪魔か」
何かここで可愛くてそれでいてずるい微笑みを俺に見せてきた。もうすぐ何もかもが終わるって時に思わせぶりに聞いてきた。
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