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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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序章 手を取り合って
  第3話 闇の書より愛をこめて

 
前書き
シャマルの使い勝手の良さに感激。見事にオチ担当。
彼女の趣味は料理……を食べさせることです。 

 
『転生か、憑依か、現実か』


 自問すれど、答えが出ぬまま、お子様ライフを送るお気楽幼女。


 ――――その名は、「八神はやて」


 彼女は、前世の記憶を持つだけの、ちょっぴり変わった女の子。
 明日は、大好きなお父さんと祝う9歳の誕生日。夜中に目覚めた少女の前には


 ――――異形に殺された父の姿が広がっていた。


 日常が非日常に塗り潰されたとき。
 夜天の王は覚醒し、異世界の動乱に巻き込まれていく。


 彼女の望みは、小さな幸せ。ただ家族と暮らすこと。
 悪意に満ちた世界で、少女は何を願うのか。


 慈愛に満ちた心優しき主を、騎士たちは守りきれるだろうか。
 修羅に変わりし夜天の王を、騎士たちは抑えきれるだろうか。


 最後に微笑むのは、神か悪魔かそれとも――――





 高校生活に慣れ始めた6月4日。
 ボクは16回目の誕生日を迎えていた。
 ハッピバースデーの歌を歌い、ろうそくを吹き消す…のだが、17本のろうそくは多すぎやしないか。
 ケーキそのものが、まるで燃えたようにメラメラとしている。
 結局、一回じゃ吹き消すことができず、ちょっとショックだった。
 誰だ、ろうそくを立てたの?――シャマル?なら仕方ないね。


「このケーキ、ギガウマだぜ」


 ヴィータが嬉しそうに感想を述べる。
 リインフォースと一緒に作った手作りケーキ。自信作である。
 手料理をおいしそうに食べてくれる姿をみると、心がほっこりする。


「はやてちゃんは本当に料理が上手よねえ――誕生日くらいわたしが代わりに料理したっていいのに」

「おい、それはぜってーヤメロ」


 隙があれば料理をしようとするシャマル。
 彼女に料理をさせてはいけない。八神家の総意である。
 ヴィータが渋い顔をして、やめてくれという。
 ボクや他の家族も渋面を作っていると思う。
 シャマルはオホホとわざとらしい声をあげて黙った。
 うん、あの顔は諦めてないな。
 彼女曰く、わたしは料理が趣味、らしい。
 毒物の間違いじゃないだろうか、と思う次第である。


 その後、誕生日プレゼントをもらう。
 シグナムからは、欲しかった小説。
 ヴィータからは、うさぎのぬいぐるみ。
 ザフィーラからは、犬型のヘアピン。 
 シャマルからは……手作りクッキー。


 おい、シャマル、おまえ全然反省していないだろ。
 自信作だから大丈夫だって?まあ、見た目はおいしそうだけど。
 よし、そこまでいうなら食べてみよう。
 周りの皆は悲痛な面もちだが、シャマルは自信たっぷりの顔をしている。
 ごくりと唾をのむ。


「いただきます」


 視界が暗転した。





 もう、何年も前の話。
 ボクは、9歳の誕生日を迎えようとしていた。
 前日の6月3日にわくわくしながら、眠りにつく。
 ベッドにはいつものように父が側にいる。
 母はボクを産んでまもなく亡くなったらしい。
 男手一つで育ててくれた父。
 いつも優しかった父のお蔭で、ボクは母親がいなくても寂しさを感じることはなかった。 
 

 その日、真夜中に突然身体を揺さぶられて目が覚めると、そこには――血まみれでボクを庇う父が居た。
 目の前の化け物に、あわやボクも殺されそうになったとき、『夜天の書』が起動した。 
 ボクは、誕生日に肉親を失い、新たな家族を得たのだった。 
 家族だけではない。
 いままで、なんとなく知らない知識があることを知ってはいたが、『夜天の書』が起動したとき、思い出したのだ。
 その記憶とは――原作知識。
 使い方次第で、エースにもジョーカーにもなれるカードだった。


 原作知識を得ることで、自分の状況を再認識できた。
 ボクは、リリカルなのはの「八神はやて」に酷似している。
 「夜天の書」が起動し、その主となった。
 住んでいる町は「駒王町」、とすれば、この化け物は「はぐれ悪魔」の可能性が高い。


 はぐれ悪魔は、瞬く間にシグナムに切り捨てられた。
 安全を確保したうえで、彼女たちは、誓いの言葉をつむぐ。
 とまどいつつも、ボクは彼らの主になることを受け入れた。
 凄惨な現場にも係らず意外と冷静に思考することができた。
 いや、混乱が極みに達していて、逆に冷静になることができたのかもしれない。
 父が殺されたことを、現実として受け入れられなかったのだろう。 


 都合のいいことに、『闇の書』と呼ばれる原因となっていた防衛プログラムのバグは修正されており、デメリットなしで、フルスペックの『夜天の書』を使用できた。
 完全体といえる夜天の書の主にボクはなったのである。
 これが、リインフォースが生存している理由だ。 
 さらに、ボクには魔法の才能があって、リインフォースにヴォルケンリッターという心強い味方が傍にいた。
 魔力も多すぎて測定不能らしいし、身体能力にも自信がある。
 これが、「転生特典」というやつなのかもしれない。





 目が覚めたら、朝だった。
 あれ、たしかシャマルのクッキーを食べたところまでは覚えているんだが。
 食べてそのあと、目の前が真っ暗になった。
 ゆっくりと起き上がると、そこには心配そうに看病しているリインフォースが居た。


「マスターが目覚めました!」
 

 彼女は大声をあげると、ばたばたと音がして、人が近づいてくるのを感じる。
 状況を確認すると、ボクはパジャマ姿になっており、汗でぐっしょりしていた。
 ポイズンクッキーのせいかとも思ったが、それだけではない。


(久々に、昔の夢をみたな)


 みんなと出会ったあの日のことは、あまり思い出さないようにしている。
 いや、あの日だけではない。昔のことを思い出すのが、怖い。
 思い出そうとすると、父の笑顔がちらついて、あの幸せな日々を失った喪失感に襲われそうで――怖い。
 だから、思い出さない。


 原作について考える。
 すべてを失うと同時に、『原作知識』、『魔法の力』、『夜天の書』を手に入れた。
 原作――駒王町が舞台となる「ハイスクールD×D」という作品は、バトルものの皮を被ったラブコメだったはず。
 ハーレムとおっぱい成分が90%くらい占めていたように思う。
 ただし、三大勢力と呼ばれる、天使・堕天使・悪魔陣営がドンパチやっているので、油断はできない。
 現に、父ははぐれ悪魔に殺されたのだから。


 原作に積極的に関わらなければ、自衛程度の戦闘で済むはず。
 ならば、原作とは距離を置いた方がいいかもしれない。
 しかしながら、「夜天の書」をつけ狙う不届き者が現れる可能性は、残念ながら非常に高い。
 あえて、原作に関わることで、予期せぬ事態を避けられるかもしれない。


 来年から原作の物語が始まる。
 リアス・グレモリーや兵藤一誠といった原作の人物がいることは、確認済み。
 ただし、接触は避けている。
 原作知識のアドバンテージを活かすには、なるべく原作キャラと関わらないほうがいいだろう。
 もっとも、グレモリー眷属とは「仕事」で何度か一緒になっているのだが。
 非常に悩ましい問題である。
 でもいまだけは、家族とともに過ごす日常を大切にしたい。
 口々に無事を喜ぶみんなを見ながら、苦笑しつつ思った。
 あ、シャマルは罰としてご飯抜きだから。


 なぜ、昔のことを思い出さない――――いや、『思い出せない』のか。
 ボクは何も疑問に思うことはなかった。





 暴走した闇の書を防ぐため、ギル・グレアム提督は、同僚のクライド・ハラオウンごとアルカンシェルで消滅させるという苦渋の決断をせざるを得なった。
 己の非力さを嘆きつつ、震える声で、アルカンシェルを放つよう命令。
 史上最悪のロストロギアである闇の書を――――永遠に葬り去ることに成功したのだった。
 しかし、一番驚いた人物は、グレアム提督本人だっただろう。
 当時は、無限転生機能によって、闇の書は新たな宿主にもとへ転移したものと、誰もが思っていた。


 その後。紆余曲折の末、闇の書が次元世界より、姿を消したと確信できた。
 そのとき、彼は、英雄としてはやしたてられた。
 だがしかし、クライドを殺した自分が、英雄として賞賛されることに、彼は苦悩し続けた。
 闇の書事件の解決で結果的にクライドの仇をうった自身を自嘲した。
 

 ――彼は、どこまでも実直で、真面目すぎたのだ。


 グレアムは、自責の念を増していき、めっきりと老けこみ、やがて隠棲してしまった。
 彼は、実の娘のように可愛がっている「三人」の家族たちと、ひっそりと暮らすことを選んだ。


 しかし、歴史は、彼の平穏を許さなかった。


 管理局を引退したのちも、彼は大きな事件に関わり続けた。
 最愛の娘たちとともに。
 娘であり。孫であり。後輩となった娘。
 彼女は、尊敬する養父に憧れ管理局員になり――――史上最年少の提督になった。


 当時の彼は、喜びと悲しみがないまぜになった複雑な心境だったのだろう。
 それでも、強く美しく成長した愛娘を全面的にバックアップした。
 忌み嫌っていたはずの「英雄」とう称号すら利用して。
 その辺の事情で、自ら手にかけた部下の息子と、ひと悶着あったものの。
 全力で娘を支援した。


――――彼は、親ばかとしても有名だった。


 時を経て、英雄として次元世界の歴史に名を残したギル・グレアム提督。
 彼の心中と、晩年を知る者は死に絶え、名声だけが残った。


 ありえた歴史――本来の物語――とは異なる最期を迎えた「英雄」ギル・グレアム。
 悲願だった闇の書事件を解決した結末は皮肉なものだった。
 史実では、救済される筈だった彼は、事件解決の代償として、自らの手で道を閉ざした。
 けれども、史実では、ありえない出会いにより娘を得た彼の死に顔は、穏やかだったという。


―――だがそれでも。望まぬ賞賛は、生涯彼を苦しめ続けるのだった。


『英雄は異なる運命を強制され
 英雄に虚構の奇跡を強制する

 英雄は望まぬ賞賛を強制され
 英雄に虚像の真実を強制する

 英雄は仮定の未来を強制され
 英雄に孤独な懺悔を強制する』

           (とある女性提督の手記――造られた英雄の詩)


 ここで語られた話は、あったかもしれないIFの話。終わってしまった物語。





 「闇の書」は、アルカンシェルを浴び、消滅しようとしていた。
 が、すぐに無限転生機能が発動した―――――瞬間に、異質な力の干渉を受け、エラーが発生した。
 イレギュラーの発生で、第97管理外世界「地球」の所有者に転移するはずの闇の書。
 この悪名高いロストロギアは、次元世界の壁ではなく、三千世界の壁を乗り越えた。
 不可能な筈の「異世界」への旅路の中で、何者かに導かれるように、運命に流されるように、「異世界の地球」に転移した。


――――なお、このイレギュラーの発生は、時空管理局によって、把握されており。後年の「闇の書事件の終焉」を判断する根拠となった。


「世界」を越えた影響か、異質な力によってか、奇跡のように防衛プログラムのバグが修復された。
 復活した「夜天の書」――闇の書の正式名称――は、この世界で1人しか存在しない主に相応しい少女――の元に転移した。


 幾年かの時を経て魔力の充填が終り、起動する寸前。
 主の危機を察知した書は、主を守るために力を発動した。
 駆けつけた守護騎士たちは、たちまち敵を打ち倒す。
 少女の嗚咽と慟哭が響く中、騎士たちは出会い――――家族になった。


 この日、少女――八神はやては、夜天の王となる。


 世界の異分子にして異端。
 少女と騎士たちの前に、如何なる運命が待ち受けているのだろうか。
 八神家を巻き込み、歴史は歩みだす。
 
 

 
後書き
主人公の誕生日は、原作と同じ6月4日です。
母親は神器持ちでしたが、出産後すぐに死亡。
父子家庭でした。
グレアムの養女はあの人です。
かなり後で登場します。 
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