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IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―

作者:★和泉★
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Introduction
  第九話 褐色の問題児

 アメリカの代表候補生、ダリル・ケイシー。第三世代の開発で他国に今一つ後れを取っているアメリカにおいて、第二世代の最後期に開発された彼女の専用機『ヘルハウンドVer2.5』は現状アメリカでの最高戦力の一つと言える。まぁ、もうすぐアメリカの国家代表にアメリカ初の第三世代機がロールアウトされるって情報もあるけど……当然国家機密。プロトタイプのデータがシミュレーションの中になんて入ってなかったよ、僕は何も見てないよ!
 ……こほん、それはそれとして、ケイシーさん自身の操縦技術も卓越しており、ISの技量のみで言えば学年で間違いなくトップであり例え三年生の上位陣であっても学園の訓練機では彼女に敵わないだろう。でも素行に少し問題があり、授業もよくサボるため座学の成績はあまりよくない。また学園外での暴力沙汰やISの無断展開などで何度か懲罰歴がある。今現在も、数日前に他校の男子生徒に怪我を負わせたとして停学処分中になっている。

「というのが、学園における彼女の評価ね」

 思わせぶりに前置きを告げ、楯無さんは続けた。

「ただ、実際に彼女が懲罰対象となった事件の真相は必ず相応の理由があったことが確認できてるわ。暴力事件のときは街で不良に絡まれている人を助けたりしてるし、ISの無断展開のときは急病で倒れた人を病院に運ぶためだったみたいね。……他にもいろいろあるみたいだけど。でも彼女自身が何も弁解しないし、よくサボるのは事実だから学園側もそのまま鵜呑みにしてしまってるのが現状よ」

 なんていうか、男らしいというべきか要領が悪いというべきか。ともあれ、それが事実なら悪い人じゃないのかな。実際に会ってみないとなんとも言えないけど。

「と、いうわけでもし彼女と接触することがあったら教えてちょうだい。別に勧誘なんかはしなくていいわよ、逆に怪しまれちゃっても嫌だし。基本的に時期をみてこっちで動くから」
「わかりました」

 ケイシーさんについての話が一段落ついたところでこの日の生徒会はお開きとなった。
 虚さんともうまくやれそうでホッとした。上級生とは今までほとんど会ったことなかったからなぁ。ケイシーさんのこともあるし、これからは接点も増えてくるかもしれない。



 翌日、クラスはいつもと違う雰囲気に満ちていた。期待と不安が入り混じるこの状況の原因は、今日からスタートする実技演習だろう。僕ら専用機持ちにとってはISはもう身近なものになっているし特別なことではないけど、一般の新入生は基本的に適性試験や入学時の実技試験くらいしか触れる経験はなかったはず。
 これまでの授業は理論などの座学がメインで、ISを使った演習どころか体育すらなかった。それが今日から解禁される。つまり、本格的にIS操縦に向けた授業が始まるということ。

「そういえば今日から実技があるんスね~」
「そうですね、いきなり難しいことはやらないでしょうけど少し楽しみですね」

 ISを初めて動かしたときは僕も興奮した。まぁ、最初に起動させてしまったときは驚きのほうが大きかったし、これから起こりうる問題に頭を悩ませもしたけど。それでも空を実際に飛ぶことができた時にはそんなこと忘れるくらい嬉しかった。……まぁ、当時に思い悩んだ問題なんて生ぬるいくらいの状況に今はいる訳だけど。

「これでぇ、ようやく買っておいたISスーツが着られますぅ」

 そう言いながら話に加わってきたのは同じクラスのフィオナ・クラインさん。彼女の希望でみんなフィーさんと呼んでる。フォルテさんの同室ということで、彼女を介して仲良くなった。肩ほどまでのウェーブがかった茶髪と花飾りが印象的で、話し方もちょっと癖がある。……フォルテさんといいIS学園に来る留学生はみんなそうなんだろうか。いや、サラさんは綺麗な日本語だったし彼女たちが特殊なのか。

「フィーも指定のじゃなく特注ッスか?」

 フォルテさんがそうフィーさんに尋ねる。ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知し、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、反映する。ISスーツがなくてもISを動かすことはできるが、反応速度が鈍くなるなどの障害が発生してしまう。逆に言えば操縦者に適合したISスーツは操作性などの向上に繋がるため、基本的にISスーツは購買で学園指定(というより推奨)のものが販売されているものの、代表候補生や専用機持ちなどはカスタム品や特注品を好む傾向がある。

「そうなんですよぉ。指定のものだと胸のサイズが合うものがなくてぇ」

 そう言いながらフィーさんは自分の胸を両手で抱えて持ち上げて見せる。 
 ……彼女が言うように、その、胸が確かに大きい。山田先生クラスだと思う。あれ? この流れサラさんの時にもあったような、いやそんなに見てないからね!?

「あー、そッスかー。そりゃ大変ッスねー」

 そのどうでもいい理由のせいか途端に興味を失ったかのように言葉が棒読みになるフォルテさん。

「あらぁ、そういうフォルテさんもですよねぇ? さすがに子供用は売ってなかったなかったですしぃ」
「そうッスね!? 確かにウチも特注品ッスよ! でもこれは国に支給されてるからで別にサイズがないからじゃないッス、断じて違うッス!?」

 フォルテさん、そこまで否定すると逆に認めてるようようなものでは……。というか何度か一緒に話しててわかったけど、フィーさんはたまに辛辣なこと言うけど本人は悪気ないみたいなんだよねぇ。天然の毒舌なんだろうか、おっとりした話し方とのギャップが凄い。悪い人じゃないんだけど、フォルテさんも同室で苦労してそうだな。

「騒いでないで席に着け、SHRを始めるぞ!」

 いつの間にかそんな時間になっていたらしく、千冬さんが教室に入ってきた。この状況で騒ぎ続ける命知らずはいないためすぐに静かになりSHRが始まった。

「さて、今日からいよいよ諸君はISに触れることになるわけだが事前にいろいろと注意事項などを説明しておく」

 その後、千冬さんはIS実習についての説明を始める。今回は2組との合同であることや訓練機は数に限りがあるため現地で班分けを行うことなど。更衣室の場所なども説明があった。

 ……更衣室? 何か忘れているような。

 あれ? そういえば実習がしばらくないってことで最近は僕ISスーツ着てなかったな、もちろん今日も……。

 ん? ということは……。

 しまった!? え? てことは僕、更衣室でみんなと一緒に着替えないといけないの!? 
 前回使ったあとクリーニングしてロッカーに入れておいたのが仇になった、実習に合わせて部屋から持ち出すようにすれば気づいただろうに……。
 僕のは一般的なレオタードタイプじゃなくて上下タイプ。下は下半身のサポーターを兼ねてるから念のため常時着用してるんだけど上は胸を押し付けるから苦手で最近は着けてなかった。
 う~ん、一時限目からだから部屋に戻って着替えるのは間違いなく遅刻する……といより遅刻したら千冬さんの制裁が怖い。

「ん? 紫音どうしたんスか? 急に小刻みに震えだして」
「……ははぁん、なるほどなるほど」

 後ろから声が聞こえるけどそれでどころじゃない、どうしよう。体操着とかならまだしもISスーツの着替えなんて水着に着替えるようなものじゃないか。いや、体操着の着替えならいいってわけじゃないんだけど。どちらにしろ女生徒に混ざって着替えるなんてもう言い逃れできない!? バレるバレない以前に完全に犯罪者だ!

「ほら、紫音ちゃん。いつまで震えてるの。早く着替えないと遅れるわよ」
「……え?」

 楯無さんに声をかけられて周りを見ると、もうそこには僕ら二人以外だれもいなくなっていた。

「もうみんな更衣室に向かっちゃったわよ。フォルテちゃんはフィーちゃんと一緒みたい。ほら、あなたのISスーツ。私たちも行くわよ」
「あれ? 私のロッカー鍵かかってたはずなのに。いや、ちょっと待ってください。更衣室は……だめですって!」

 いつの間にか僕のISスーツを持ってきていた楯無さん……というか勝手に人のロッカーをこじ開けないで下さいとか言いたいことはあるけど、それ以上に勘弁してください! あ、引きずらないで……ってIS部分展開してないですか!? あぁ、抜け出せない……。

 抵抗虚しく気付けば更衣室前にいる。もちろん女子更衣室だ、そもそも男子用なんてない。
 楯無さんはそのまま僕を掴んで、そのまま扉を……。

「た、楯無さん!? これ以上は……だめですよ!」

 僕の願いが聞き入れられることはなく、楯無さんは躊躇なく扉を開け放ち僕を引きずったまま更衣室に入っていく。僕は咄嗟に、せめて中に居るだろう女生徒達を見ないようにと目を瞑った。

「ほら、いつまでそうしてるの。早く着替えるわよ。……というか目開けていいわよ、誰もいないから」
「え……?」

 恐る恐る目を開けると、そこには確かに誰もいなかった。
 ……どういうこと?

「さすがに私もあなたを女生徒の着替えの現場に放り込まないわよ。これでも生徒会長よ? 率先して風紀乱してどうするのよ。ここはこの時間では使われてない更衣室よ。」
「……はぁぁぁ」

 よ、よかった。一時はどうなることかと。あぁ、楯無さんの背中に後光が見える。どちらかというと率先して風紀乱す方だと思ってたけど誤解でした、さすが生徒会長。ありがとうございます!

「……何か失礼なこと考えてないかしら。それにそんなにため息つくなんて着替えが見られなくて残念ってことかしら? 仕方ないわね、私の着替えで我慢しなさい」

 そう言いながら楯無さんはベルトを外しスカートに手をかけ……

「ちょ、ちょっと楯無さん!?」

 スルスルとそれと脱ぎおろすとすぐに下着……ではなくISスーツが目に入った。

「残念、下に着てきたの」
「……ですよねぇ」

 なんか疲れてしまいそのまま呆けていると、構わず楯無さんは制服を脱ぎ始めた。
 とはいえ、ISスーツ自体水着のようなもので下着と大差ないどころかピッチリしてるせいか体の曲線が強調されてなんだかこれはこれでエロティックな感じが……。

「あ、あのね。自分で言っておいてなんだけど、そうまじまじと見られるのはさすがにお姉さん恥ずかしいわ」
「え? あ! ご、ごめんなさい」

 い、いつの間にか凝視していたみたいだ。楯無さんもちょっと顔が赤い、ていうか照れるくらいなら最初からやらないで欲しい。まぁ、この状況では見てる僕が100%悪いけど。

「というか、早く着替えないと本当に遅れるわよ?」
「あ、はい。そうですね!」

 気づけば楯無さんは既に着替え終えて、というより脱ぎ終えていた。
 僕も慌てて制服を脱ぐ。下は既に穿いているので、上だけだ。そのため制服だけ全部脱いだのだが……。

「へぇ……改めて見ても本物にしか見えないわね」

 今度は楯無さんが僕の胸を凝視していた。もちろん偽物の。

「あ、あの。さすがに私も恥ずかしいんですが」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。……触ってみてもわからないのよねぇ、感触も本物そっくり」

 そう言いながら今度はその偽物の胸を触り始めた、というより揉み始めた。

「ちょ、ちょっと楯無さん。やめて下さい、着替えられないですよ」
「ねぇ、こうやって揉むとあなた自身はどんな感じなの?」
「な、なんか押し付けられたり擦れて変な感じです。……あっ」
「……なんだか色っぽいわね、ちょっと興奮してきちゃった」

 た、楯無さぁぁぁーーーん!?
 
 その後も楯無さんの暴走はとどまることを知らず……。

「この馬鹿者が!」

 授業に遅れて揃って千冬さんの鉄拳制裁、もとい出席簿制裁を受けたのは言うまでもない。

 ……うぅ。頭も痛いけどそれ以上に何か大事なものを失った気がする。いや、別に変な意味じゃないしあれ以上何もなかったけどね!? 僕の男としての尊厳とか、そういうのだよ!?

 この日以降僕は、自分の部屋以外ではISスーツは必ず着用しておくことを心に決めた。
 そうすれば着替え時は、更衣室に誰よりも早く行くかギリギリで行くかすれば誰にも会わないで済むし、何かあった際も誤魔化せるはず……。



「それではこれより実際にISの起動と簡単な操縦を体験してもらうわけだが、その前に臨時の助手を紹介しておく」

 若干遅れたものの(僕らのせいだけど)全員集合したことで、授業が開始となる。まずは千冬さんが説明に入るが、山田先生に加えてもう一人、見慣れない女性が隣に立っていた。見た感じ、教師というよりは僕らと同じくらいに見える。短めで、赤に近い茶色の髪に褐色の肌が健康的な少女だ。その表情はやや険しい。

「彼女はダリル・ケイシー。お前らの一つ上の二年だが実力は三年にも劣らん。学年唯一の専用機持ちでもある。訳あってしばらく一年の実習にヘルプとして参加することになった」

 出てきた名前は最近聞いたことのある、しかしとても意外なものだった。
 それもそのはず、昨日生徒会であがったばかりではあるが、確か彼女は停学中だったはず。

「ヘルプに参加させるかわりに停学期間を短縮させる、とかじゃない? 彼女も代表候補生だからなんらかの圧力が働いたのかも」

 横で同じく意外そうな顔をしていた楯無さんが自身の考察を教えてくれた。なるほど、そういうこともあり得るのか。確かに代表候補生ともなれば国家が絡んでくるしそういうことがあってもおかしくない。それに学園としても優秀な人材を使えるならそれに越したことはないだろうし。

「あー……ダリル・ケイシーだ。てかちっふー、なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだ?」
「……念のため確認しておくがそのちっふーとやら、よもや私のことではあるまいな?」
「あ、いや。お、織斑先生?」
「ふん、お前にも悪い話ではないんだ。大人しくヒヨッコどもに訓練をつけてやれ」

 聞いてた話に違わずなかなかに……男らしいな。というかちっふーって……。一応は学園一の問題児となっているケイシーさんを手なずけるあたりはさすが千冬さん、といったところか……。

「ったく、しゃーねぇか。お前らぁ、面倒かけんなよー」

 やる気が全く感じられない臨時ヘルプに千冬さんは嘆息しつつも、今日の実習内容について説明をする。今日は訓練機の起動を各自で行い、可能なら歩行~飛行までを行うらしい。

「西園寺、サファイア、更識。お前たちは今回の実習ではサポートに入ってくれ。これから班分けを行うからそれぞれ割り振られた生徒の補助をしろ」

 僕ら三人とケイシーさん、それに山田先生を加えた五人で行うことになった。班分けの際に若干揉めた(具体的には何故か僕と楯無さんに集まった)けど、千冬さんの鶴の一声で出席番号順になった。
 僕は2組の生徒の一部を担当することになり、それなりにスムーズに進行できた。ただ、自分のクラスではある程度落ち着いてきていた、僕に向けられる何とも言えない視線が今は強く感じられる。
 他の班も概ね順調に進行しているみたいだ。ケイシーさんの態度が不安だったけど、遠目で見ていた感じだと、いざ実習が始まってしまえば丁寧に教えていたように思える。意外と面倒見がいいのかもしれない。

 午前中の実習が終了し、昼休みになった。僕らはせっかくなので、ということでケイシーさんを誘って昼食に行こうという話になる。

「ケイシー先輩、よろしければご一緒にお昼はいかがでしょうか?」
「あー? お前は確か最近あのいけ好かない会長をぶちのめしたっていう更識楯無か?」

 楯無さんが声をかけると、相変わらずの気怠そうな口調で応えてくる。そういえば前会長のことは何も知らないけど、ケイシーさんの口ぶりだと評判よくなかったのかな……? 今度楯無さんに聞いてみよう。

「はい、更識楯無です。既に新生徒会長として任命されてます。こちらの二人も生徒会のメンバーで」
「西園寺紫音です。よろしくお願いします、ケイシー先輩」
「フォルテ・サファイアッス~」
「お前らが噂の新入生どもか。もう一人の学年主席と……イタリアの代表候補生か。てかダリルでいいぜ、敬語も別に必要ない」

 ケイシーさん……ダリルさんは僕らを見ながら続けた。どうやら、楯無さんだけではなく僕やフォルテさんのことも知っているみたいだ。

「あら、じゃお言葉に甘えるわ。ダリル先輩」
「わかりました、ダリルさん」
「な、なんか初めて何も言われずまともに受け入れてもらった気がするッス……!? ウ、ウチは先輩にならついていけるッスよ!」

 一通りの自己紹介も済んで、ダリルさんも一緒に昼食を食べるのを了承してくれたのでそのまま食堂に向かうことになった。若干一名、ダリルさんへの好感度が急上昇してる気がするけど気のせいだろう。



「それがよぉ、どうせ停学してグダグダしてるなら授業の手伝いしろって、ちっふー……じゃなくて織斑せんせーに言われてな。期間短縮も考慮するからって言われて仕方なくな」

 食事しながら、手伝いに参加するに至った経緯を話してくれた。やはり楯無さんが予想してたように何かしらのやり取りがあったみたいだ。ただ口調は荒いものの、別に恨みがましく話している印象はなく何だかんだで受け入れているように思える。

「そもそもダリル先輩は何で停学に?」

 聞きにくいことをズバリと尋ねる楯無さん。確か他校の男子生徒に怪我を負わせたと楯無さん自身が言っていた気がするけど。

「いやな、街でこの学園の生徒がナンパされてたんだよ。別にそれくらいなら問題……まぁ無いとは言わないけどよくある話だが、腕を掴んだりちょいと強引になってきたから問答無用で後ろからはり倒したんだ」

 結局、そのまま周りにいた男の仲間も含めて乱闘騒ぎになり、そのすべてを病院送りにしたそうだ。女尊男卑の今の社会、女性が男性を傷つけた程度では大した罪にならない。まぁ、嫌な世の中ではあるのだけど、そんな世の中にあってもさすがにやり過ぎたらしい。学園側が一応は処分するということで話がついたとのこと。

「ま、やり過ぎたのは認めるが別に殺しちゃいねぇしいい薬になっただろ」
「全くだわ、むしろもう少しやってもよかったのでは?」
「お? 楯無、話が分かるじゃねぇか。気が合うな」

 何やら黒い部分で意気投合している二人。勧誘を見越して話を合わせてるのか素で言ってるのか……考えたくはないけど後者な気がする。だって楯無さんだもん。

「ていうか先輩IS無くても強いんスね~。それにISはISで学年どころか三年にも勝てるとか?」
「そりゃな。あの馬鹿会長が以前、グダグダと難癖つけてきたから思わずぶちのめしたことがあるんだが……まぁ、楯無があいつをどかしてくれてせいせいしたよ」

 爆弾発言である。というか、一応前会長は楯無さんが入学するまでは学園最強だったはずだからつまりダリルさんはそれ以上だったということだ。というか、ならなんで会長にならなかったんだろうか。

「えぇ!? んじゃなんで会長にならなかったんスか!?」
「えー、だって面倒じゃんか」

 ……ということらしい。まぁ彼女らしいのだろうか。というかそういう理由で会長にならなかったのなら生徒会入りは難しいんじゃないか?

「そういえば、ダリルさんは何か部活入ってるんですか?」
「いや? 面倒だからなんか適当に入部届だけ出して一回も顔出してないな。どこの所属になってるのかも忘れた」
「そ、その手があったッスか!?」

 いや、フォルテさん。見落としていた的な感動してるけどそれは真似したらいろいろまずいと思うよ。

「なるほど、ということはダリル先輩はいろいろ暇してるわけですね?」
「そういう訳だ。……まぁ、お前の言おうとしてることはある程度予想できるが、一応聞いておこうか。それがどうした?」

 楯無さん、ここで切り出すのか。まぁ確かにダリルさん相手だと後回しにしていろいろ回りくどいことをするよりは直接いったのほうがいいかもしれない。

「よかったら、生徒会に入ってくれないかしら? 人手不足なの、今」
「却下だ、そんな面倒なのやってられるか」
「あら、もちろんメリットもあるわよ? とりあえず学園に黙認してもらって部活無所属の件も正式に解決できるし、今の停学の件も口利きできるわ。それに、多少の問題を今後起こしたとしても私が生徒会長権限で握りつぶすわ」
「……ったく、お前もなかなかの悪だな」
「いえいえ、ダリル先輩にはかないません」

 どこぞの時代劇的なやり取りをしながら『くっくっく』と笑い合う二人。本当に気が合うみたいだ……、というか別にダリル先輩はそこまで悪いことしてないと思うんだけどノリがいいな。

「だがそれでも却下だ。面倒事は嫌いなんだよ」
「私にはむしろ、あなたが自分から面倒事に首を突っ込んでいる気がするけど? それに、生徒会といっても面倒な仕事というよりは問題が起きたときのヘルプ要員だと思って頂戴。つまり、今あなたがやっているようなことを、正式に生徒会で受け持つということよ」

 と、そこまで楯無さんが言い切ったところでダリルさんの雰囲気が急に変わる。今までの気怠そうな感じは微塵もなく、表情が引き締められた。

「……てめぇ、なんでそれを」
「ダリルさんもご存知のように、私は"更識"、それが答え」
 
 今までダリルさんが関わった事件にどうも表沙汰にできないものがあって、更識家がそれを掴んでいた、ということかな。そしてそれを生徒会が受け持つということは……一つしかない。亡国機業だ。

「なるほどな……いいだろう。だが条件がある」

 そのまま少しの時間、楯無さんを睨み続けた後に今までに無いくらいの迫力を込めて言葉を続けるダリルさん。僕らはそのまま無言で続きを促した。

「俺は自分より弱いやつの命令に従うつもりはない。だから楯無……俺と勝負しろ」

 また……波乱の予感がする。

 
 
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