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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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ひとりの人


聖なる光(エーテリオン)が、偽りの楽園へと落とされる。

その塔の玉座の間で、エルザとジェラールはお互いを抱きしめ。

塔の階段を昇っていたナツは眩しさに腕で庇を作り、隣にいたティアを抱き寄せ。

抱き寄せられたティアは突然の事に目を見開きながらも事態が事態なので振り解かず。

「終わった・・・」

シモンは呆然と呟いた。









海が荒れる。
大波を起こし、小舟を一気に破壊する。
目を覚ましたルーシィが必死でもがき、自分の魔法を使って水のドームを造り出したジュビアによって助けられた。

「え!?な、何!?」

エーテリオンが落ちたと同時に目を覚ましたルーは、慌てた様子でアルカに訊ねる。
が、アルカは全ての感情を一気に失ったように呆然とし、何も言わない。
ただ、その口は何かを紡ごうと動き、震え、言葉が出ない。

「エーテリオン・・・」

驚愕の表情で、グレイが呟いた。








魔法評議会会場、ERA(エラ)

「エーテリオン目標に命中!繰り返す!エーテリオン目標に命中!」
「破壊は成功か!?確認急げ!」
「エーテルナノ融合体濃度上昇!」
「異常気象が予測されます!」

慌ただしく動き回る、2足歩行のカエル達。
そんな慌ただしい空気の中、評議員10人の1人、オーグは杖を持たない左手で顔を覆った。

「あの塔には何人の人がいたのか・・・」
「ゼレフの復活を阻止したのだ。その為の犠牲ならやむを得んよ」

嘆くオーグに同じく評議員10人の1人、ミケロがそう言う。
が、オーグの表情は全く晴れなかった。

「我々のした事をどう正当化しようと、犠牲者の家族の心は癒されんよ」








楽園の塔近海。
荒れ狂っていた波は収まり、通常的な波が海を揺らす。
水のドームの中にいる人間は、全員同じ方向を見ていた。
――――――エーテリオンを喰らい、煙に包まれる楽園の塔。
そんな中、目に涙を浮かべたハッピーは小さい声で呟いた。

「ナツぅ、エルザぁ、ティアぁ・・・」









抱き合う2人は―――無事だった。

「え・・・?生きてる?」

確かにエーテリオンは落ちた。それは衛星魔法陣(サテライトスクエア)と自分が感じた地鳴りが証明している。
エーテリオンは超絶時空破壊魔法。喰らえば、運悪く目標に外れるか、あったら凄いがエーテリオンを微量も残さず食べるかしなければ確実に死ぬ。
が、今ここにエルザとジェラールは生きていた。抱き合った状態で、生きていた。

「くく・・・」
「ジェラール?」

エルザが驚愕の表情で自分の手を見つめる中、ジェラールは笑い声を漏らす。

「あはははははっ!!!」

そして、その小さい笑い声は、高笑いへ変わった。








「爆心地中央にエーテルナノ中和物・・・い、いえ・・・これは・・・!」

しましま模様のカエルが、突然声を響かせた。

「融合体濃度急速に低下!」
「別エネルギーと思われる高魔力発生!」
「カウンターが追いつかない!」
「何だこれは!?」
「映像回復します!」







煙が晴れはじめる。
そこに、ルーシィ達の知る楽園の塔はない。

「な、何・・・あれ・・・」

ジュビアが呆然と呟く。

「外壁が崩れて・・・中から水晶?」
「いあ、ただの水晶にしては凄まじい量の魔力を感じる・・・が、面白くはねぇ」

グレイの言う通り、そこにあったのは水色に透き通った水晶だった。
漸くアルカが感情を取り戻し、いつもの調子で口を開く。
が、その表情はまだ強張っていて、身体が小刻みに震えていた。

「ねぇ・・・無事だよね?ナツもエルザもティアも、シモンって人も・・・」

目に涙を浮かべ、ルーシィが呟く。

「大丈夫だよ・・・きっと・・・ううん、絶対無事だよ」

その言葉はルーシィを落ち着かせようと言ったのか、それとも自分を落ち着かせようと言ったのか。
ルーが今にも泣きだしそうな顔で体を震わせながら、水晶を見つめた。







「いってぇ・・・」

楽園の塔の階段―――エーテリオンが落ちたからか、階段はなくなっている―――にいるナツは、右手で顔を覆った。

「大丈夫か?ティア」
「何とか・・・」

左腕で抱き寄せたままのティアに目を向けると、彼女は左手を床についてバランスをとっていた。
ティアから香る謎めいた花のような甘い香りが、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の常人離れした嗅覚&至近距離でナツの鼻を擽る(髪を中心に香る為、彼女のシャンプーだろう)。
右手はしっかりと帽子を押さえていた。

「何がどうなってやがる」
「エーテリオンが落ちたのよ・・・」







壁だった瓦礫にもたれ掛かる様にして、シモンはいた。
呆然と、呟く。

「エーテリオンは落ちた・・・な、なぜ俺は生きてる?」






ははははは・・・と、ジェラールの高笑いが響く。

「ついに・・・ついにこの時が来たのだァ!」
「お前・・・」

高笑いするジェラールを、エルザは呆然と見つめる。

「くくく、驚いたかエルザ」

笑みを崩さないまま、ジェラールはエルザの方を向く。

「これが楽園の塔の真の姿。巨大な魔水晶(ラクリマ)なのだ」

そこまで言い、腕を広げる。





「そして評議院のエーテリオンにより、27億イデアの魔力を吸収する事に成功した!!!!ここに、Rシステムが完成したのだァ!!!!」





そう。ジェラールの本当の目的はこれだった。
Rシステムは禁忌の魔法であり、発動には27億イデアもの魔力が必要となる。
エルザの言った通り、そんな膨大な魔力は大陸中の魔導士でやっと足りるかどうか、というほどだ。

―――――――が、ジェラールにそんな事は通用しなかった。

彼はそんな事はとっくに知っていたのだ。
だから、27億イデアの魔力を一気に手に入れる方法を思いついた。
全てを『無』に還す超絶時空破壊魔法、エーテリオンを吸収するという、有り得ない方法を。








「目標健在!い、いえ!何だアレは!」
「巨大な魔水晶(ラクリマ)!」
魔水晶(ラクリマ)がエーテリオンの魔力を吸収したァ!?」
「何じゃと!?」

突然の言葉に評議員たちは驚愕する。
ワーワーと騒ぎ出す評議員たちを、ジークレインは2階から見つめていた。

()ーク!これは一体どういう事かね!」

その背中にヤジマは怒ったように声を掛け―――――

「!」

驚愕した。







「だ・・・騙したのか・・・」
「可愛かったぞ、エルザ」

ジェラールを睨むエルザに、声がかかる。
その声は聞き覚えがあり、今も聞いている声だ。

「え!?」

その人物を見て、エルザは驚愕する。

「ジェラールも本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから騙すしかなかった」

笑みを浮かべそう言う人物は―――――

「ジークレイン!?」

本来ならERA(エラ)にいるはずの評議員10人の1人・・・ジークレインだった。
その顔は、その声は、全てがジェラールにそっくりで、鏡に映したかのように見える。

「な・・・なぜ貴様がここに!?」

エルザが叫ぶが、ジークレインは思い出話を話し始める。

「初めて会った時の事を思い出すよ、エルザ。マカロフと共に始末書を提出しに来た時か。ジェラールと間違えて俺に襲い掛かってきた。まぁ・・・同じ顔だし無理もないか・・・」

水晶の塔に、ジークレインの声だけが響く。

「双子だと聞いて、やっと納得してくれたよな。しかし、お前は敵意を剥き出しにしていたな」
「当たり前だ!貴様は兄のくせにジェラールのやろうとしてる事を黙認していた!いや・・・それどころか私を監視していた!」
「そうだったな・・・そこは俺のミスだった。あの時『ジェラールを必ず見つけて殺す』とか言っておくべきだった」

そう言いながら、ジークレインは双子の弟のジェラールに歩み寄る。

「しかし・・・せっかく評議院に入れたのに、お前に出会ってしまったのが1番の計算ミスだな」
「咄嗟の言い訳ほど苦しいものはないよな」

その言葉に、エルザは憎々しげに2人を睨みつける。

「やはり・・・お前達は結託していたのだな・・・」







ヤジマは見つめていた。
――――――誰もいない、否、先ほどまでジークレインがいた空間を。

「消えた・・・()ークが・・・消えた」






「結託?それは少し違うぞ、エルザ」

双子は全く同じ笑みを浮かべ、衝撃の真実を口にした。










「俺達は1人の人間だ。最初からな」










その瞬間、ジークレインが映像のようにブレ―――――――姿を消した。

「そ、そんな・・・まさか・・・」

並んだジェラールに、ジークレインが合わさり、1つになっていく。

「思念体!?」

思念体とは、実態を持たない分身をつくる魔法だ。
つまり――――――

「そう、ジークは俺自身だよ」

今まで評議員の10人として生きていたジークレインは評議員の1人であると同時に――――偽りの楽園の支配者でもあったのだ。

「バカな!な、ならばエーテリオンを落としたのも自分自身!!!その為に評議院に潜り込んだと!?」

驚愕するエルザに、ジェラールは笑みを浮かべる。

「かりそめの自由は楽しかったか、エルザ。全てはゼレフを復活させる為のシナリオだった」

そのジェラールの言葉に、表情に、姿に。
エルザは怒号を上げる。

「貴様は一体どれだけのものを欺いて生きているんだァ!!!!」

が、ジェラールはそんなエルザの怒号など意にも介さず、ゆっくりと、自分の手を握りしめた。

「フフ・・・力だ・・・魔力が戻ってきたぞ」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
もうすぐジェラールとの決戦が書ける!
ふふっ・・・シモンの言う『巫女』の力が書けるぞー!

感想・批評、お待ちしてます、 
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