Element Magic Trinity
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聖なる光に祈りを
楽園の塔の玉座の間で、2人は対峙する。
1人はウェットな青い髪に顔の右側の赤い紋章が特徴的な男性。
1人は美しい緋色の髪に晒と袴を纏った女性。
「あと7分だ。あと7分でエーテリオンはここに落ちる。この7分間を楽しもう、エルザ」
「今の私に恐れるものはない。たとえエーテリオンが落ちようと、貴様を道連れに出来れば本望」
その言葉が始まりとなったのか、否か。
「行くぞ!」
ジェラールの左手から、怨霊のような魔法が放たれ、それは容赦なくエルザを襲う。
エルザはそれを綺麗に避け、持っていた刀を振るった。
「!」
そのエルザの動きを予想してたかのように、ジェラールは右手をエルザに向ける。
エルザの腹辺りに魔力の衝撃波が直撃し、エルザの体は楽園の塔の外に勢いよく飛び出た。
「っ!」
頭を下に向け落ちかけるエルザは体を回転させ、ガッと自分と一緒に落ちる塔の柱だった瓦礫を強く踏みしめた。
そのまま階段を駆け上がるように瓦礫を踏みしめ、再び玉座の間に戻る。
「せっかく建てた塔を自分の手で壊しては世話がないな」
そう言いながらエルザは刀を振るい、ジェラールは跳躍して避ける。
「柱の1本や2本、ただの飾りに過ぎんよ」
口角を上げそう言うジェラール。
「その飾りを造る為にショウ達は8年もお前を信じていたんだ!!!!」
怒鳴るようにエルザは叫び、ゲームを現していたチェス盤を勢い良く斬る。
その拍子に、女王の駒が宙を舞い、ドラゴンの駒を巻き込んで壁に直撃した。
「いちいち言葉のあげ足をとるなよ。重要なのはRシステム。その為の8年なんだよ」
そう言うと同時に、右手に魔力が集結していく。
「そしてそれは完成したのだ!!!!」
叫び、魔力を一気にエルザに放つ。
怨霊のような魔法はエルザの全身を包み、閉じ込める。
「!」
ジェラールは目を見開き、驚愕した。
少しの間自分の放った魔法に閉じ込められていたエルザだが、右手に持っていた刀が魔法を斬り裂き、それと同時に魔法が完全に斬り開かれる。
「ぐあ!」
それに驚愕している間にエルザは一気にジェラールとの距離を詰め、その腹を斬った。
(これが・・・あのエルザだと!?)
8年の年月は、幼くか弱い少女を強く凛々しい女性へと変えた。
ジェラールはそれを知らない。エルザには、強い決意と覚悟があるという事を。
「くっ」
そしてジェラールが気づいた時には、エルザに馬乗りにされ、首元に刀を向けられていた。
「お前の本当の目的は何だ?」
目に闘志を宿したまま、エルザは問う。
歯を食いしばったまま、ジェラールは答えない。
「本当はRシステムなど完成してはいないのだろ?」
「!」
「私とて8年間、何もしてなかった訳ではない。Rシステムについて調べていた。確かに構造や原理は当時の設計図通りで間違っていない。しかし、Rシステムの完成には肝心なものが足りてない」
エルザの言葉にも、ジェラールの笑みは崩れない。
「言ったはずだ・・・生け贄はお前だと・・・」
が、その言葉もエルザには通用しない。
「それ以前の問題さ。足りてないものとは『魔力』」
エルザによって斬られ、倒れたチェス盤に光が反射する。
その付近には城壁の駒と梟の駒、水瓶の駒が転がっていた。
「この大がかりな魔法を発動させるには、27億イデアもの魔力が必要になる。これは大陸中の魔導士を集めてもやっと足りるかどうかというほどの魔力。人間個人ではもちろん、この塔にもそれほどの魔力を蓄積できるハズなどないのだ」
「・・・」
エルザの言葉に、ジェラールはただ沈黙を貫く。
「その上、お前は評議院の攻撃を知っていながら逃げようともしない。お前は何を考えているんだ」
首元に突き付けられた刀は動かない。
ただ、ジェラールの首元に向けられている。
「エーテリオンまであと3分だ・・・」
ジェラールの言葉に、エルザは怒鳴る。
「ジェラール!!!お前の理想はとっくに終わっているんだ!!!!このまま死ぬのがお前の望みかァ!!!!」
「うっ・・・く・・・」
ギシ、と。
エルザが掴むジェラールの手首が、より強く握られる。
「ならば共にいくのみだ!!!!私はこの手を最後の瞬間まで放さんぞ!!!!」
エルザの怒鳴り声が静寂と沈黙の玉座の間に響き渡る。
ゆっくりと、ジェラールは口を開いた。
「あ・・・ああ・・・それも悪くない・・・」
その言葉に、エルザは刀は下げずに口を閉じる。
「俺の体はゼレフの亡霊にとり憑かれた。何も言う事を聞かない・・・ゼレフの肉体を取り戻す為に人形なんだ」
「とり憑かれた?」
「俺は俺を救えなかった・・・仲間も誰も、俺を救える者はいなかった。楽園など・・・自由など、どこにもなかったんだよ」
ジェラールの言葉に、エルザは目を見開いた。
「全ては始まる前に終わっていたんだ」
「エーテリオン射出最終フェイズ完了。衛星魔法陣展開!!!」
凄まじい魔力が形を成し、球体を描いていく。
「祈りを」
「祈りを」
「祈りを」
これから失われるであろう命を弔うように黙祷する評議員たち。
「祈りを・・・」
その中で、ジークレインも呟いた。
―――――彼は知らない。
その後ろで、ヤジマが自分の事を睨んでいる事を。
「・・・ククッ」
―――――彼は、否、『彼等は』知らない。
そのヤジマから遠く離れた場所でクロノが笑い声を漏らし、その場から姿を消した事を。
笑うクロノの向かう先、この建物の出入り口付近に、キャラメルカラーの髪の少女がいる事を。
雲が晴れる。
そして、晴れた雲が円を描き、そこに魔法陣が展開し始めた。
「オ、オイオイ。本気でエーテリオンを落とす気なのかよ、評議院は!?」
「みゃあ!?」
「マジかよ!?くそっ、ここは面白れぇと素直に言っていいのか!?いあ、でも下手すりゃ等の中の奴等は・・・くっそー!アルカンジュ・イレイザー、19年間生きてきて最大の悩みとブチ当たってんぞコノヤロー!」
楽園の塔から少し離れた小船の中、塔から脱出したウォーリーとミリアーナは驚愕する。
その近くには全身に火傷を負ったグレイ、気を失うルーシィとジュビア、疲れが来たのか眠るルー、妖精の尻尾の人間メンバーで唯一起きているアルカ、目に涙を溜めるハッピーがいた。
「ナツ・・・ティア・・・エルザ・・・早く脱出して・・・」
「Rシステムなど完成するはずがないと解っていた。しかし・・・ゼレフの亡霊は俺を止めさせなかった。もう・・・止まれないんだよ。俺は壊れた機関車なんだ」
玉座の間では、先ほどと同じ体勢のエルザとジェラールがいた。
「エルザ・・・お前の勝ちだ、俺を殺してくれ。その為に来たんだろ?」
そう言うジェラールの顔には、薄い笑みが浮かんでいた。
それを見るエルザの脳裏に、奴隷時代のジェラールの姿が思い浮かぶ。
機械的な音を立てながら、上空には魔法陣が展開されていた。
「私が手を下すまでもない・・・この地鳴り、既に衛星魔法陣が塔の上空に展開されている」
魔法陣が展開すると同時に、塔全体が揺れ始める。
「終わりだ。お前も、私もな」
すっ、と。
エルザは掴んでいたジェラールの手首を離し。
首元に突き付けていた刀を、乾いた音と共に放った。
「不器用な奴だな・・・」
ジェラールが溜息をつき、エルザも溜息をつく。
エルザはジェラールの上から降り、その隣に座る。
「お前もゼレフの被害者だったのだな」
エルザの言葉に、ジェラールは辛く悲しそうに俯く。
「これは自分の弱さに負けた俺の罪さ、理想と現実のあまりの差に、俺の心がついていけなかった」
そのジェラールの言葉に、表情に、エルザは笑みを浮かべる。
「自分の中の弱さや足りないものを埋めてくれるのが、仲間という存在ではないのか?」
「エルザ・・・」
その言葉に、ジェラールは顔を上げる。
「私もお前を救えなかった罪を償おう」
そう言うエルザの表情は、辛そうであり、申し訳なさそうであり、どこか―――嬉しそうでもあった。
「俺は・・・救われたよ」
地鳴りが響く。
玉座の間で、亡霊にとり憑かれた男と緋色の妖精女王は、お互いを抱きしめた。
「聖なる光に祈りを!!!!エーテリオン解放!!!!」
衛星魔法陣が完全に展開する。
ウォーリー、ミリアーナ、ショウは驚愕に顔を染め目を見開き。
ハッピーは目に涙を浮かべて届かない頭を抱え。
グレイ、ルーシィ、ジュビアは目を覚まさず。
ルーは膨大な魔力にゆっくりと目を開き。
アルカは呆然と、全ての感情が抜け落ちてしまったかのように、ただ驚愕した。
「この光・・・間に合わなかったか・・・」
ナツとティアと別れたシモンは、怪我を負った左胸を押さえ、呆然と呟いた。
「エルザ!」
「眩しい・・・!」
塔の階段を駆け上がるナツは焦りながら叫び、ティアはその光に目を眩ませる。
抱き合う2人。
お互いの表情は見えない。
――――――だから、エルザは気がつかなかった。
ジェラールが、アルカやクロノとは全く違う、歪みきった笑顔を浮かべていた事に――――。
そして。
その瞬間。
光が。
眩い光が。
聖なる光が。
超絶時空破壊魔法が。
衛星魔法陣から。
エーテリオンが。
聖なる光の、全てを『無』に還す裁きの魔法が。
楽園と名付けられた、偽りの楽園へと。
緋色の妖精女王と。
妖精女王を信じ続けた男と。
紅蓮の炎を操る桜色のドラゴンと。
凍てつくように煌めく深海色の閃光と。
亡霊にとり憑かれた楽園の支配者を。
偽りの楽園へと残して。
―――――――――落ちた。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
最後の方は「こう書いてー・・・あ、でもこれも使いたいな。あ、あとこれも・・・」と加えまくってたらこんなに長くなりました。
「無駄に長いよコレ!」と思った方、解ってますので大丈夫です。
感想・批評、お待ちしてます。
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