ひとりぼっちのナタリー
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第二章
第二章
「そう、あんたもねえ」
「隅に置けないな」
お袋だけでなく親父も笑っていた。親のそんな様子が異様に頭にきた。
「別にいいだろ」
俺はむくれた顔でそう言ってやった。
「俺が誰を呼ぼうとさ」
「まあそうだけれどね」
「やっとその歳になったんだなってな」
「ハイスクールだぜ」
今思うとこの言葉は背伸びだった。
「当然だろ。ガールフレンドの一人や二人」
「まあね」
お袋はかえって俺のそうした背伸びの言葉が微笑ましかったらしい。余計に笑ってきた。
「二人いたらまずいけれど」
「むしろ二人いたら褒めてやるさ」
親父はこう言ってきた。
「それだけもてるんならな」
「じゃあ今度は一ダース呼んでみせてやるよ」
俺も馬鹿だった。ついついそんなことを言っていた。結局今でも馬鹿だからこんなことになっちまったんだが。けれどあの頃の馬鹿さが今では懐かしい。
「いいな」
「楽しみにしてるよ」
「それでもうすぐなんだろ」
「ああ」
お袋に答えた。
「邪魔しないでくれよ」
「わかってるわよ」
「じゃあ俺達も行くか」
「そうね」
お袋は親父の言葉に合わせて応えた。それで二人で家を出た。
「私達もデートに行って来るわね」
「後はよろしくやれよ」
「家出るのかよ」
「当たり前だろ」
親父は何を言っているんだと言わんばかりの声を返してきた。言葉を返しながらゆったりとしたリビングのソファーから立ち上がっていた。
「それとも御前はあれかい?」
親父は笑いながら俺に言ってきた。
「彼女と会うのにダディが必要な甘えん坊なのか?」
「馬鹿言うなよ」
俺はむくれた声でこう返した。白くて広いリビングがやけに目に入った。
「そんなわけねえだろ」
「そうだろ。そういうことさ」
「わかってるじゃない」
お袋も言ってきた。
「じゃあな。頑張れよ」
「応援はしているから」
「それで何処へ行くんだよ」
楽しそうに出かける準備をする二人に対して尋ねた。
「そうだな。ドライブでも」
「若い日に戻ってね」
「じゃあ気をつけてな」
俺は二人にそう言った。
「ああ。じゃあ御前も」
「決めなさいよ」
「うるせえよ」
最後にそう憎まれ口を返した。そして両親を見送ってから暫くしてナタリーがやって来た。
「よお」
俺は砕けた様子でナタリーを出迎えた。ナタリーもピンクのシャツにジーンズでラフな格好だった。
「遅れて御免ね」
「ん!?ああ」
時計を見たら約束した時間より少し遅かった。けれど言われるまで気付かなかった。
「それじゃあさ」
俺はそれは特に気にしなかった。そんなことはどうでもよかったからすぐに彼女に声をかけた。
「あがって」
「うん」
ナタリーはそれに頷いて家にあがった。俺は彼女をリビングに案内した。
「部屋には行かないの?」
「いや、ここでいいよ」
俺は別に変なことをするつもりじゃなかった。勿論期待はしていたけれどこの時はそれよりもずっと大切なことがあった。だからそれを先にしなきゃけないと思っていた。
それが音楽だった。もうギターは持って来ていた。リビングのソファーに彼女を座らせて俺はキッチンのテーブルの椅子の一つに腰掛けた。その手には当然ギターがあった。
「じゃあはじめるね」
「曲は?」
「俺の曲でいい?」
俺はそう尋ねた。それが嫌なら別の曲を選ぶつもりだった。ギターは毎日やっている。その中でもプレスリーの曲にはかなりの自信があった。
「それでよかったら」
「ええ、それでいいわ」
ナタリーはそれに頷いてくれた。それで決まりだった。
「ポップスよね」
「ああ」
俺は答えた。
「軽い曲だけれどね。一番新しい曲でいいよね」
「ええ」
こうして俺は自分の曲を演奏して歌った。その間ナタリーは黙って俺の曲を聴いてくれた。
曲が終わってから俺は彼女に顔を向けた。それから尋ねた。
「どう?」
俺の曲のことを。これは自然な流れだった。
「俺の曲。よかった?」
「ええ」
彼女は笑みを浮かべて頷いてくれた。
「いい曲ね、軽いっていうか」
「あれっ、違った?」
その反応に俺は少し戸惑った。リズムは軽いように作ったつもりだったからだ。ナタリーの言葉に何か不安になったのを覚えている。
「いえ、歌詞が」
「歌詞が」
「ええ。悲しい歌詞ね」
「ああ、これね」
それを言われて安心した。それで俺は歌詞のことを説明した。
「この歌詞はね、そうした歌詞なんだ」
「あえてそうしたの?」
「うん、それに気付いてもらったんだね」
俺はそれがかなり嬉しかった。歌詞まで聴いていてくれていることがわかったからだ。
「有り難う」
「御礼はいいわ」
ナタリーは俺が御礼を言うと照れ臭そうに笑ってくれた。
「ただ感想言ってくれただけだから」
「いや、歌詞までちゃんと聴いていてくれたから」
俺はそれが嬉しくて仕方なかったからそれをまた述べた。
「それを有り難うって言いたいんだ」
「そうなの」
「それでよかったんだね」
「そうよ」
それはまた微笑んで答えてくれた。
「とてもね。いい曲だったわ」
「それじゃあさ」
俺はその言葉に気をよくしてまた新しい曲を彼女に伝えた。彼女はその曲も笑顔で聴いてくれた。
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