ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百二十二話:プロポーズへの答え方
立て続けに惨劇を目の当たりにして警戒する私を、宿の女将さんをはじめとする三人の女性が呼び止めてきましたが。
そんな警戒心はおくびにも出さず、穏やかに応対します。
「……女将さん。どうしました?何か、忘れ物でもありましたか?」
「そんなんでねえ!あたしら、ただ、申し訳ねくて。こんな田舎まで助けにきてくれただに、うちの男どもときたら!」
これは。
かなり、好意的な感じですね。
そうだ、確かゲームでもこうだった。
大人の男性たちの頭の固さに比べて、女性と子供は柔軟で好意的な感じだった。
もう一人の女性も、頷いて続けます。
「んだ。うちの人も、悪い人でねえんだけど、頭さ固くて。とにかく村を守るってそればっかりで、肝心なことが見えてねえんだ。本当、悪いことしただな。あたしらだけでも、お礼さ言わせてけれ。あんたのお蔭で、またみんな畑仕事に精を出せるだ。あんたは、あたしらの命の恩人だべ。ありがとう」
どうもこの方は、村長さんの奥様のようですね。
あの村長さんでは村の先行きが不安だったけど、この奥様が付いてるなら大丈夫ですね!
こんな気のいい人たちもいるのに、村ごと滅んでしまえなんて、そんなこと思えるほど人でなしでは無いからね、私も!
「男どもは、オラがやらねば、守らねばって気張るばっかりに、意固地になる嫌いさあるだからな。時間さ経てば、わかるようになるべ。許してけれとは言わねえけども、あたしらはわかってるから。ありがとうな」
このお婆さんは、ゲームだと自ら姥捨ての憂き目に遭おうとされる奇特な方ですね!
こんな村にはこんな方が必要だろうから、手遅れになる前に来られて良かったです!
温かい言葉をかけてくれたみなさんに、感謝を込めて微笑みかけます。
「……みなさん、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしたのは、こちらなのに。そう言って頂けると、救われます」
なんだかぽっ……と赤くなってしまったみなさんに、やっぱり女性のぽっ……は和むわー、と微笑ましく眺めつつ、さらに笑みを深めていると。
「おねえちゃん!」
また、声がかかります。
先ほど実の父親に拉致された、有望重要モブ少年です。
走ってきたようで、息を弾ませています。
「君は、さっきの。……お父さんは、どうしたの?私に会ったら、また怒られちゃうでしょ?」
「いいんだ!あんな、わからず屋!おらも、お礼さ言いたかったんだ!」
本当に、この子は。
この村で生まれ育ったとは思えない、将来有望なイケメン予備軍ですね!
「……そっか。怒られるかもしれないのに、わざわざ言いに来てくれたんだ」
「んだ!おねえちゃんはモンスター使いだから、ちょっとわかんねくなってたその子さ、なだめて連れてきたんだべ?その子はおねえちゃんと一緒さいれて、おらたちはもうビクビクしねくて良くて。全部、おねえちゃんのおかげだ!おねえちゃん、ありがとう!」
モモはちゃんとわかってたから少し違うけど、でも大体合ってる。
……なんにも、説明しなくても。
こんなに、わかってくれる子もいるんだ。
自然に笑顔になって、目の前の少年を抱き締めます。
少年が驚いたように身動いで、耳が赤くなってるようですが。
「お、おねえちゃん!?」
嫌がるようならやめようと思ったけど、この分なら大丈夫だろう。
「……ありがとう。……私、この村に来て。あなたたちに会えて、良かった」
胸の高さにある少年の頭を抱き締めながら、囁きかけます。
囁きかけた耳はさらに真っ赤になってますが、一方的に私が抱き締めてた少年の腕がおずおずと腰に回されたので、受け入れてはもらえてるようです。
「ん……んだか!……お、おらも!おらも、おねえちゃんさ会えて、よかった!」
「そっか。良かった」
そのままだと顔が見えないので、抱き締めてた腕を離して、腰にしがみつくような形になってた少年の肩を掴んで静かに引き離し、目を合わせて微笑みます。
真っ赤な顔で惚けたように見つめ返してくれてた少年が、不意に真剣な顔になります。
「……おねえちゃん!」
「なに?」
「……おら、絶対立派な男になるだから!だから、おらが大人になったら!おらと結婚して、おらのお嫁さんに、なってください!!」
……なんと。
プロポーズをされてしまいました。
アランさんと、一応カウントに入れればカールさんに続いて、三人目の。
真っ赤な顔で、でもまっすぐな瞳で真剣で、かなり微笑ましいし嬉しいんだが。
だがしかし、これは。
……将来有望には違いないんだが、さすがにちょっと歳が離れすぎだなあ。
惜しいなあ、歳が合えばなあ。
かなり真剣に検討したのに。
結婚はまあ無理として、答え方としては二択になりますけれども。
子供に夢を見させる意味で、軽い感じで約束してしまうのと、真剣に受け止めてお断りするのと。
子供自身がすぐ忘れちゃうような話なら前者でいいけど、真に受けちゃうような子だと、かえって傷付けるのが前者だよね。
私が見込んだイケメン予備軍たるこの子であれば、正しい対応は後者だろう。
好意自体は喜んで受け止めつつも、現実を見据えて真面目にお断りする方向で。
結論が出たところで、改めて少年に微笑みかけます。
「……ありがとう。嬉しいよ」
「本当だか!?……なら!!」
「でも」
「悪いが、お前が大人になるまでコイツは待ってない。俺がいるからな」
真面目にお断りしようとした私の言葉を遮って割り込んできたヘンリーが、後ろから引き寄せるように抱き締めてきました。
少年が、驚愕に目を見開いています。
……これは。
子供ながらに真剣に告白した相手を、目の前で他の、大人の男に持ってかれるとか!
下手したら、トラウマものじゃね?
「……ちょ、ヘンリー!子供相手に」
将来有望な少年を、変に傷付けて歪ませてはいけないと焦りつつ、小声でヘンリーに囁きます。
「子供相手でも、ちゃんと断ろうとしてたんだろ?なら、いいだろ。このほうが」
「……」
……そういうものか?
……よくわからないが、男のヘンリーがそう言うなら、そうなのかもしれない。
納得できるようなできないような感じで黙る私を他所に、少年がヘンリーに向かって震える声で問いかけます。
「……あんちゃんは……おねえちゃんの、恋人だか?……結婚、するだか……?」
「そうだ。コイツは、俺が貰う」
ああ、ちょっと……!
少年、涙目じゃん……!!
大丈夫なの?
大丈夫なの、これ!?
涙目でヘンリーを睨み付けるような感じになってるけど、本当に大丈夫なの!?
「……あんちゃん。……強そうだな」
「ああ。強いな」
「……男前、だな」
「そうかもな」
「…………わかっただ。あんちゃんが相手なら、仕方ねえ。おらは、まだ子供だから。おねえちゃんを待たせて、おばちゃんにさせたらダメだから」
暫しの逡巡の後、決然とした様子で口を開いてくれたのはいいんですが。
なぜ、ヘンリーがいなければ待つような話になっているのか。
子供の言うことだし、いいけど別に。
微笑ましいような安心したような納得いかないような、複雑な気分で見守る私に、少年が切なく微笑みかけます。
「おねえちゃん。……幸せに、なってけれ」
「……ありがとう」
「あんちゃん。……幸せに、してやってけれ」
「ああ。任せろ」
通りすがりに憧れたお姉さんを、大人の男のような悟りきった顔で祝福して見送ってくれる少年と、爽やかに受け止める青年。
……なんだかなあ……。
……まあ、いいか。
彼の中では、少年時代の甘酸っぱい思い出として処理されるんだよね、きっと。
(見た目は)綺麗なお姉さんにきちんと応対されて、逞しい大人の男に対等みたいに扱ってもらえて。
きっと、いい思い出になるよね。
今の出来事を整理して割り切った私に、ヘンリーが声をかけてきます。
「それじゃ、行くか」
「あ、待って!あの、村長さんの奥様。これ、お返しします」
村長さんと話しただけなら、そのまま何の抵抗も感慨も無く持っていったけど!
この方たちと話してしまっては、図々しく受け取って去るわけにはいきません!
村長さんの奥様に、依頼の報酬のお金が入った皮袋を差し出します。
「あれ。それは、仕事の報酬だべ?いいんだよ、持っていってけれ」
受け取ってはもらえなそうだなと思った通り、軽く手を振って断られます。
「ですが。生き別れていたとは言え、元々私の家族だった子が、売り物にも食料にもなる大切な野菜を食べてしまってたんですから。怯えさせてしまったこともありますし、これは頂けません。むしろ、こちらが代金を払わないと」
変な人たちに絡まれもしたけど、それとこれとは別だからね。
お金は大事だし、こういうところはちゃんとしておかないと!
相手がちゃんとした人であるならば!
「いいんだよ。そうだとしても、男どものしたことは、あんまり失礼だ。宿で渡してくれた食べ物、あたしらも分けてもらっただし、それだけでも野菜の代金にはお釣りがくるくらいだ。迷惑料としてこれくらい持っていってもらわねえと、かえって申し訳ねえだよ」
「……ですが」
確かに、結構奮発して色々買ってきたが。
迷惑料って、一方的にこっちが迷惑かけられたわけじゃないしなあ。
「あんたみたいな若くて綺麗な娘っ子が、わざわざ旅してるんだから。なんか、訳ありなんだべ?あって困るもんでもねえ、無くなるのも村のもんにはいい薬だ。いいから、持っていってけれ」
そんなことまでわかるのか。
……わかるか、それは。
普通に考えれば。
ちょっと、普通じゃない人たちと接しすぎて感覚が。
「……わかりました。ありがとうございます、大事に使わせて頂きます」
そういうご厚意として頂けるなら、ありがたく。
役立てさせて頂きます!
「冒険者の装備は、金がかかるって言うだからね。いいんだよ、パーッと使っちまえば」
「そうですね。無駄にはしないように、使います」
「それじゃ、もういいな。行くか」
「うん。行こう」
「もう暗くなるから、気を付けてけれ!こんなんでなかったら、泊まっていって欲しいとこだども」
「大丈夫です。気を付けます、ありがとうございます」
「また来てけれ、とは言えた義理でねえから。元気でな!」
「はい。みなさんも、お元気で」
「おねえちゃん!おら、おねえちゃんと結婚はできねくても!でも、立派な男になるだから!」
「うん。なれるよ、君なら。頑張ってね」
「うん!おら、頑張るだ!幸せにな、おねえちゃん、あんちゃん!」
「ああ。お前もな」
村の女性たちと少年に見送られて、カボチの村を出ます。
色々と、嫌なことはあったけど。
でも、最後はいい人たちに見送られて。
いい感じで出てこられて、良かったなあ。
……だけど、やっぱり。
ちょっと、かなり、疲れたかな。
素通りもできたのに、戻るって決めたのは私だから、仕方ないけど。
「ドーラ。……大丈夫か?」
そしてちょっと溜め息を吐いただけなのに、またコイツは目敏いな。
「うん、大丈夫。暗くなる前に急ぎたいし、早く行こう」
微笑んで答えたのに、じっと見詰められて。
「……ピエール。悪いが外、頼む」
「承知」
「え、頼むって」
ピエールに何かを断ったヘンリーに、抱き上げられます。
「え、ちょ、ま」
いや、ちょっと。
急ぎたいって言ってるのに何やってるの、この人は!?
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