ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百二十一話:信じるということ
前書き
暴力的な描写があります。
苦手な方はご注意ください。
私を呼び止めたカールさんは、縋るような目をして必死に問いかけてきます。
「ドーラさん、嘘だべ?化け物と仲間で、グルだっただなんて!村のもんが、見たって、そうだって言ってたども!」
また、化け物か。
全く事情を説明して無いんだから、そこは仕方ないんだろうけど。
だけど、この聞き方は。
「……カールさんは、どう思ってるんですか?」
仲間だって答えたら、即結論に飛び付きそうな。
そんなことを思いながら静かに問い返す私に、カールさんが一気に捲し立てます。
「……おら!おら、そんなの信じてねえ!おらは、ドーラさんを信じてるだ!化け物と仲間なんかでねくて、おらの頼みを聞いて化け物を退治して、村を助けてくれたんだって!」
やっぱり、そういう二択なんですね。
化け物の仲間の悪者か、化け物を退治する正義の味方か。
そんな信じ方をされても、困る。
それじゃ、あなたが信じてるのは、私じゃない。
「……畑を荒らしてた魔物が、私の仲間だったのは、事実です」
事実は、それだけなのに。
「……ドーラさん!なして、なしてそっただこと!……おらは、信じるだから!他のもんみてえに、濡れ衣さ着せて追い出すなんてこと、しねえから!だから、本当のこと!言ってけれ!!」
本当のことしか、言ってないのに。
「……この子が、その魔物です」
自分が信じたい結論が先にあって、それに当てはまる行動を、状態を求めてるから。
当てはまってない私は、悪者にしかなれない。
「な!?……そ、そうだか、ここまで引っ張ってきて、目の前で化け物さ退治してくれるつもりだな!」
当てはまらないものを、目の前で見せつけても。
それでもまだ、そっちに誘導しようとするのか。
そんなつもりではなくて、ただ希望に縋ってるだけなんだろうけど。
こういう悪気の無さが、一番扱いに困る。
「この子を、化け物なんて呼ばないでください。私の仲間で、大切な家族です」
説明してわかってもらえる気が全くしないけど。
それでも、その呼び方は許せない。
「ドーラさん!!まだ、今なら間に合うだから!!こんな、悪者扱いされて、なにもそんな化け物のために」
「化け物ではありません。……あなたが信じたがっているような悪い魔物も、それを退治する正義の味方も、いません。私は、そんな人間ではありません」
これだけ思い込まれると、説明しようという気も起こらない。
この人に、わかってもらいたいと思えない。
冷たく切り捨てる私の言葉に、カールさんが衝撃を受けたように目を見開き、俯いて拳を強く握ります。
「……ドーラさん。……おらは、おらは、信じてただに……」
信じるって、何を?
あなたが望んだ通りの私であることを?
あなたが望んだ通りに、世界が動いていくことを?
私が、あなたの思う通りに動くということを?
……それをあなたは、信じるって呼ぶんだ。
「……私は。そんな人間だと言った覚えはありません。あなたの理想を、私に押し付けないでください。迷惑です」
私なら、そうは呼ばない。
勝手に相手を理想の枠に当て嵌めて、そう思い込むことを、信じるだなんて。
「……おらを。おらを、騙してただか……?」
振り絞るように呟く、カールさん。
思い込まれてるのを知ってて訂正しないのを、騙すと呼ぶならそうだけど。
「……私は。何も、嘘は言っていません」
勝手に思い込んだのが悪いとは思うけど、訂正しなかった私が全く悪くないなんて、言い張るつもりも無い。
カールさんが顔を上げ、自嘲的な笑みを浮かべます。
「……はは。結局、アイツの言った通りだっただか。強くて綺麗で可愛くて、おまけに気立てもいい都会の娘っ子に会って、おらだけ浮かれて。ドーラさんは、そんなんでねかったのに。……誑されたようなもんだっただな、これでは」
あなたを誑そうなんて、そんなつもりは全く無かったけど。
あなたから見れば、そうかもね。
思い込みの強い、あなたから見れば。
諦めきって冷えた目を向ける私とは対照的に、ヘンリーの怒りはまた燃え上がってきたようです。
「……おい。何を、勝手なこと」
「……ヘンリー。いいから」
この人にどう思われても、もうどうでもいいから。
だから、私のために怒らないで。
そう思いながらヘンリーの腕を掴む私に、軽蔑したような目を向けるカールさん。
「……ドーラさん。……見損なっただ」
掴んだヘンリーの腕が、怒りに震えます。
……不味い。
これは、完全に不味い。
「ヘンリー、お願い」
殴ったって、何かが変わるわけじゃ無いんだから。
私のために誰かを傷付けたり、誰かが傷付けられたり。
そんなのは、見たくない。
腕を掴む手に力を込めて、懇願するように顔を見上げますが。
「駄目だ。次は無理だって、言ったよな?」
きっぱりと、言い切られて。
「だけど、さっきも」
殴って、それで気まずそうにしてたところなのに。
「それはそれだ。一応謝る、すまん」
「ヘンリー!!駄目!!」
振り払われた手をまた伸ばして捕まえようとするのを、またピエールに阻まれて。
あっという間も無くヘンリーがカールさんを殴り飛ばし、吹き飛んだカールさんの胸ぐらを掴んで持ち上げます。
悲鳴も上げずに堪えたカールさんは、掴まれて苦しそうにしながらも、ヘンリーを睨み付けて。
「……なんだべ。どうせあんたも、浮かれた田舎もんさ見て、笑ってたんだべ……?殴りたければ、いくらでも殴ればいいだ。それで、気が済むならな」
吐き捨てるようなカールさんの言葉に、ヘンリーが激昂します。
「……こんなもんで、気が済むわけあるか!!お前らの勝手な都合で振り回して、無遠慮に近寄って、……あり得ないやり方で確認なんかしやがって!!そんな真似しておいて図々しく言い寄って、勝手に思い込んで被せてたイメージと違ったら、今度は手のひら返すのか。これのどこに、笑えるところがある?俺は最初から、お前なんかに関わらせたくは無かった。ドーラがどう言っても、関わらせるんじゃ無かった!」
掴んだ胸ぐらをさらに締め上げながら怒りを爆発させるヘンリーに、カールさんが戸惑いを見せます。
「……思い込み、だ?……だども、現に」
「お前にわかるように、説明してやる義理は無い。お前なんかに、ドーラの価値はわからなくていい。いつか気付いて後悔するか、気付かないまま死ぬか。そんなことも、どうでもいい。ただ、勝手に振り回して傷付けたお前を、俺が許せない。だから、殴る。気は済まないが、それで終わりにしてやる。歯、食い縛れ」
カールさんの戸惑いをヘンリーが冷たく切り捨てて、カールさんが焦ったように声を上げて。
「……ま、待ってけれ!おら、なにか」
「話は終わりだ。行くぞ」
予想以上のヘンリーの怒りっぷりにまた呆ける私の前で、惨劇は繰り返されました。
手加減の程度に差があったのか無かったのか、理不尽お兄さんよりは随分時間がかかったような気がするところで、またピエールがヘンリーを止めて。
「ヘンリー殿。そこまでです」
「……まだ、殴り足りないが」
不満げながらも、先ほどよりはかなり冷静な様子のヘンリーが、ひとまず手を止めます。
「それ以上やれば、意識を失います。何も、楽にさせてやることも無いでしょう。ここが、頃合いにござる」
「……そうか。わかった」
「この者であれば、薬草は三つほど要り用ですな。念のため、五つほど置いてゆけば問題無いでしょう」
……ピエールさんは、慣れすぎだと思います!
なんで、そんな淡々と!
やり慣れた簡単な作業でもこなすかのように!!
そんなことを思って戦慄する私の前で、また作業的にピエールが薬草を放り投げます。
「武士の情けにござる。ドーラ様に働いた無体を思えば、此奴こそ殺しても殺し足りないところにござるが。ドーラ様のためを思えばこそ、それは出来ぬゆえ。ドーラ様のお優しさに、生きている限り感謝することにござる」
なんだかまた、不穏な言葉を吐いてますが。
「……あの。……無体って。……ピエール、知ってた、の?」
……触られたとか、揉まれたとか!
知らないところで広まってるって、かなり恥ずかしいんですけど!!
気まずい感じで上目遣いになった私から、ピエールも気まずそうに視線を外します。
「……ドーラ様を確実にお守りするため、ヘンリー殿とは随時、情報交換を行っておりますゆえ。失礼ながら」
「……」
そうだよね、ヤツしかいないよね!
カールさんから聞いたわけは無いから、当然そうだよね!
……まさか、揉ませたほうは言ってないよね!?
色々と思い出したのと羞恥から来る怒りとで赤くなってヘンリーを睨む私、目を逸らすヘンリー。
ピエールがフォローするように言葉を続けます。
「ヘンリー殿をお責めくださるな。ヘンリー殿とて、必要と思わねば言われぬでしょう。このような不埒者は最優先で排除する必要があるとは、拙者にもヘンリー殿にも異論の無いところでありますゆえ」
……この感じであれば、揉ませたほうは言ってないね!
言ってたら、悪いのは私でも、ヘンリーへの対応も理不尽に厳しくなりそうなところだもんね!
「……あんまり、言わないでね?他の人には」
「無論。妙な憶測を招いてドーラ様を辱しめる等、拙者の望むところではありませぬ。決して、口外は致しませぬ」
「……そう。ならいいや、ありがとう」
カールさんは一応は事故のはずだから、そこまでされると逆に悪い気がするけど!
要注意人物を警戒してもらえるのは、基本的には悪いことじゃないからね!
「……ガウ?ガウウ?」
『……むたい?この人、なにしたの?』
「え、なに、むたいって?おいらも知りたいー」
「……なんでも無いから!もう、行こう!」
そして可愛い担当のみなさんは、そんなに無邪気に興味を示さないでください!
「ガウウ、ガルルルル!」
『待って、ちょっとこの人も威嚇してくから!』
「お、そっか!平等にしないとダメだよな、さすがモモちゃん!」
「ガウウ!」
『でしょー!』
「ピキー!」
『スラリン!おこる!』
「いや、だから……やめてあげて……」
また盛り上がりかけたモフモフと小動物たちを宥め、薬草は供え済みのカールさんも放置して村外れに出て。
「ちょいと、旅人さん!待ってけれ!」
今度は、女性の声に呼び止められます。
振り返ると声をかけてきたのは宿の女将さんで、他にもう一人の女性と、おばあさんも一緒にいます。
なんだろう、女性相手ならそんなバイオレンスな事態にはならないと思うけど。
村長さんじゃないけど、厄介事ならそろそろ勘弁して頂きたい。
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