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ネギまとガンツと俺

作者:をもち
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第16話「京都―決戦②」

 木々に囲まれた山の中。決して人が立ち入ることはないであろう山奥。

 まるで自然だけが吸い取られたかのように綺麗に抜け落ち、約20m四方が平野と化している奇妙な空間があった。

 まるで決闘をするためにあるかのような、そんな場所。

 現代にはそぐわないそんな地で向かい合っていた2匹の獣が同時に動いた。
 



 チェーンメイルで全身を覆った男―メルビン―が大地を蹴った。




 ――黒い服で身を包んでいた男―タケル―が足をスライドさせて、安定した足場を整える。




 地が爆ぜ、大地が砂塵と化して舞い上がる。一歩目を踏み込んだ時点で約5mの距離を潰し、踏み込んだ足の力に耐えられなかった大地が砕けた。




 ――腕にこもった力にスーツが反応し、明らかな筋繊維の膨張を引き起こして腕を肥大化させる。




 さらに一歩。爆発的な力でさらに距離を詰め、西洋の剣で刺突を繰り出した。




 ――腰だめに構えられたソードが圧倒的な速度で閃いた。

「なんと」

 星人の声が自然とこぼれた。

「なに?」

 タケルの声が自然と漏れた。




 一瞬で決着はついていた。

 おそらく、お互いに相手の動きを目で捉えることはできなかったのだろう。

 しばらく呆然としていた星人だったが、諦めたように微笑んだ。2,3歩下がり、タケルの顔をジッと見つめる。そして――

 そのままズルリと上半身が体からずれ落ち、地に落ちた。辺りに広がる赤の血がおびただしく、生々しい。

「見事、猛」

 そのまま動かなくなった。

 それを無表情で見つめていたタケルの口からは、血が。

「……お前も」

 そのままガクリと膝を突き、体に突き刺さっていた敵の剣を抜き捨てた。地面に倒れこみ、血を咳き込みながらも呟く。

「ガンツ……俺の転送を、頼む」

 ――にしても、ミスった。

 唸るように、自分の失敗を反省する。

 今回、たまたま勝てたから良かったものの、あまりにも無謀すぎた。

 もっと相手との距離をとって、相手の戦闘法、得意レンジ、苦手レンジ、観察を重ねて慎重に。それが生きるための最低限。

 余りにも相手が威風堂々としていたため、その勢いに呑まれてつい付き合わされてしまった。

 たまたまこちらの刃が早かったからこうして生き延びているわけだが、あと数瞬遅れていたら先に絶命していたのはこちらだった。

「……」

 自己の反省をしつつ、転送を待つ。

 だが。

 5秒、10秒。

 一向に転送は始まらない。

「……?」

 恐ろしいほどの嫌な予感と共に、コントローラーを見て

「……まいった」

 苦笑。

 赤点は相変わらず、一つ。そして、場所も変わらず、動いていない。

 つまり――

 体は動かさずに、首だけを動かし、メルビンの死体を見つめる。

「……」

 音もなく、声もなく。

 両断されたはずの体はゆっくりと地を這い、つながっていく。

「……ぬぬ」

 立ち上がった星人は、だが、もはやメルビンではなかった。

「てめぇ、こら。いてぇじゃねえか、おう!?」

 特攻服に身を包み、リーゼントをした暴走族。バイクがあったらそのまま駆け出していきそうな姿に、タケルはついついほっとしたようなため息を。

「あんだ、こら。何ため息はいてんだ、おい」

 ギョ―ンと。そんな音が響き、数秒。

「……あん?」

 首をかしげた暴走族の男の頭が弾け飛び、肉片を周囲に撒き散らした。首を失った体は2,3歩進み、よろよろと地面に倒れた。

 とりあえず、それを見届けたタケルは穴の開いた体に鞭を打ち、どうにか立ち上がる。Xガンを敵の動かない体に何発も撃ち込み、肉片すら残らないほどに弾けるのを確認。

 呟く。

「……まずい、な」

 刃を伸ばしたソードを杖代わりにし、歩き出す。

 このままだと、また敵が復活することを見越したのだろう。ステルス状態になり、森の中に退避して、敵を見つめる。

 ――復活した敵次第、か。

 最初のように強ければいくら姿を消していてもこのまま居場所を見つけられるだろう。逆に、さっきのようにただの人間のような敵ならば素通りしていく確立が高い。

「……ぬぬぬ」

 やはり、立ち上がった。傷は見事に消失し、その姿も先程とは完全に別人だ。

「Oh! Where is he? Shit!」

どうやら今度は外国人―欧米人のようだ。そのまま首をめぐらしながら森の中に入っていった。

「……ふう」

 とりあえずは生き延びることができたことに安心し、木に背をもたれさせたタケルだがまだまだ安全になったとはいえない。

「さて、どうするか」

 傷の処置……は不可能のため、考えない。一旦街に出て病院に行って、などは選択肢としてありえない。その間に、あの星人に襲撃されてGAME OVERになること請け合いだ。

 かといって、応急処置の知識などタケルにはほとんどない。包帯の代わりに制服を体に巻いておくことくらいしか出来そうにない。ほんの少しだけ血が抜けにくくなるだけで、何の意味もない処置だが、これで十分だ。

 要は、体からこぼれる血が致死量になる前にミッションをクリアすればいいのだ。傷は深いが幸いなことに、直接的に致命傷になるほどではない。後半日はもつだろう。

 よって、最も必要なことは傷の処置ではない。

 敵の正体、弱点の把握。これらが生き残るために必要なことだった。

 とりあえず、包帯がわりの制服を体の穴の部分に巻き、気休めの処置を完了させる。

 ちなみに巻いた制服は詰襟のほうではなく、インナー―いわゆる白いカッターシャツ―を、体に巻きつける。その方が布が柔らかいので、体に優しく巻き付けやすい。しかも血がどれだけ漏れているのか、白いシャツが赤く染まった具合によって簡単に確認できる。

 ステルスのまま先程の戦闘場所に戻り、少しでも情報がないか、辺りを見回す。

 ――完全再生型ではない、か。

 チェーンメイルや特攻服、さらにはおびただしいほどの血が流れていることからも巻き戻しのように再生するわけではない、と一応の類推を立てておく。

 というか、そもそもタケルが見てきたどの再生型の敵とも違っていた。

 道具を寄り代に再生する敵、核が残っていれば再生できる敵、意識があれば再生できる敵、複数の命をもち、それが尽きるまで再生できる敵……etc。

 そもそも今回のあれは再生というよりも変身に近い。タイプとしては複数の命を持つ敵に近いのかもしれない。

 ――いや、待て。

 座り込んだまま顎に手を置き、考える。

 今まで見てきた全ての敵の記憶を手繰る。

 どこかに既視感があった。以前どこかで苦戦を強いられたような、そんな少し曖昧な記憶。

「……確認、するか」

 呟いて、コントローラーにて敵位置を確認。 死という時間制限を負った体で、少しでも時間が縮まらないように、慎重に歩き出した。

「ガンツ……武器の転送を……」

 その表情は、明るくもなく、暗くもなく。淡々と無色に。

 正に、彼の『用事』だった。



 
 既に日が暮れていた。

 どっぷりと夜の顔を見せ始めた誰もいない山の中、其は苛立ちを押さえられずにいた。

 最も自信のあった伝説の西洋騎士の命をつかえば、大和猛も簡単に取り込むことが出来たはずだったからだ。だが、それは失敗した。それも、完敗という形で。

 猛に負わせた傷は、深いが致命傷には全然足りない。精々動きの精彩を欠くようになる程度だ。

 ――バカが、意味のない決闘方式をとりやがって。

 真正面から戦ったのは完全にメルビンの暴走だった。彼の命が強すぎて上手く扱いきれなかったのだ。もっと隙を突くなり、慎重に戦うなりしていれば恐らく大和猛などメルビンの敵ではなかっただろう。

 苛立ちが募るままに其は姿を変える。

 最も捨て駒になる凡人の人間形態をとっていたが、いつまでたっても大和猛は襲ってこない。こうなったら、こっちから襲うしかない。下手に回復されても困る。

「……ウウ~~」

 人から獣へ。肉や骨に血や神経、あらゆる体組織が姿を強制的に変化させ、欧米人の姿はいつの間にか狼のようなそれに変化していた。

 獣独特の唸り声をあげ、鼻をひくつかせる。

 ――ここから北北東に約1キロ。

 近い。この程度ならすぐに着く。

 メルビンほどに強い命はないが、それに準ずる強さの命ならまだまだある。

 ――……今行くぞ、大和猛。

 もう一度姿を変えようと、其の肉体が変形を始めた時だった。

 頭部が弾けとんだ。

「グ?」

 次いで、後脚、前脚、腹部……。

 次々と肉片と化していく自分の姿に、だが其は動じない。

 ――まさか、大和猛?

 全てが原型すらとどめずに弾けた後、ゆっくりと別の命への変化を始める。別に焦る必要はない。どれほどに粉微塵に砕かれようが、どうせ、本体は破壊されはしない。

 足がつながり、下半身をなした。腕が体に接合し、上半身になる。上半身と下半身がお互いに求め合い、最後の頭部は首の中から生えた。

「……ぬぬぬぬ」

 生まれ変わったように人間の姿に戻った。今度はタケルと同年齢程度。服も高校生の学生服だろう、学ランを羽織っている。

「……どこだ?」

 大和猛の位置を探ろうと首をめぐらせる。だが同時に今度はレーザーのようなものが飛んできた。

「……なんだ?」

 咄嗟に身を捩ってそれを避けるがどうやら追跡性能があるらしく、見事にレーザーで縛られ、地面にアンカーで固定されてしまった。

「なんだ、これは?」

 ピクリとも動かない体から少しずつ力が抜けていく。

 ――なんだ?

 首を傾げようとして、気付いた。

「……転送されているのか!」

 ――なら!

 命を変形させる。今まで高校生でしかなかった体が大いに膨れ上がり、その膨張率に耐え切れなくなったアンカーが地面から抜け落ちた。転送は中断され、転送された一部の肉体も無事に其のもとへと戻った。

 グニグニと姿を変え、人間の頭を形成し、翼を背に携え、大きな爪を――

 ドン

 変化を果たそうとしていた肉体が、肉片に留まらず、粉微塵に留まらず、比喩でもなく、本当に血と化した。

 地盤に穴を開け、血だまりを形成したその様子に、

「……ぬぬ、へ?」

 唯一、残った頭部から呆けた声が漏れた。目だけをウロウロさせる星人の眼前に、失血のせいだろう、顔を蒼くさせたタケルが姿を現した。

 闇の帳が包み込む。山中の虫達が謡い合い、互いの存在を光らせる。月明かりがほとんど届かぬ木々の中、まるで闇の申し子がこの地に生誕したかのような、そんな恐怖が其を襲う。

 情けなく顔を歪ませる星人に、タケルはZガンを無言で掲げる。

「ちょ、ま――」

 ドン

 細部すら残さず、圧殺。

 ドン

 追撃。

 ドドン

 微塵の存在すら許さない。

「……」

 やはり無言のタケルだが、決してあえて口を閉ざしているわけではない。ただ、話すことすら億劫になってきていたのだ。

 自由がきかなくってきている手足。霞む目。衰える思考力。

 虫達の鳴声にかき消されているが、じっと耳を凝らし、目を凝らせばすぐにでも気付くだろう。
「……はぁ……はぁ」

 呼吸が乱れている。目の焦点が合ったり、外れたり。

 しばらくジッとしていたタケルだったが、コントローラーを見て、どんどんと離れていく赤点に顔をしかめた。どうやって逃れたのか、なかなかの勢いで星人は移動していた。

「……ガンツ、バイクの転送だ」

 転送されてきたバイクにノロノロと乗り込んだタケルに、命は余り残されていない。



 ――こええ、こええよ。

 其は必死にタケルから遠ざかろうとしていた。

 数ナノしかない本体さえあれば、それまでに吸い取った命をその数だけ再生できる其は全ての命を捨て、モグラになって地中に逃れていた。

 いうなれば寄生の再生型、とでもタケルは分類するだろう。

 ――なんだよ、あいつ。あいつのほうがまるっきりバケモノじゃねえか。

 数ナノしかない本体を破壊するなど、砂漠の中から一つの小さな宝石を見つけることほどにありえない作業のはずだった。

 だが、タケルはそれを簡単に覆した。

 まず点ではなく、面の攻撃。たしかにこれなら寄生している肉体ごと攻撃すれば問題なく潰せる。

 しかし、それでもあの圧殺が一度放たれただけならば、それは其の本体を潰すには至らない。あれほどの圧壊力を持つ兵器ですら、数ナノしかない肉体を潰すのは不可能なはずなのだ。

 だが、一度だけではない、何度も何度も。まるで全てを理解しているかのように執拗な攻撃だった。

 もしもあと一瞬でもモグラに変身が遅れていたら、こうして逃げることすらかなわずに死んでいただろう。

 ――あいつ、どうやって気付いたんだ!?

 大半の恐怖と僅かな苛立ちを以て地中を突き進む。

 ――ん?

 ふと、大きな魔力を感じた。そこからいくつもの小さな魔力が生じ、群れを成している。

 ――しめた!!

 其は少しでも大きな力を得るために、そこへと向かう。



 時をほぼ同じくして、別の場所。

 木乃香を連れ去ることに成功したフェイトと天ヶ崎 千草はサルの式紙に木乃香を抱えさせ、ある儀式のための祭壇の場所へ向かおうとしていた。

「待て!」

 だが、そうはさせまいと追いついた一行。最も戦士として洗練されている刹那を筆頭にネギとアスナがそれに続く。

「……またあんたらか」

 千草がつまらなそうに呟く。

「天ヶ崎千草! 明日の朝にはお前を捕らえに応援が来るぞ! 無駄な抵抗はやめて投降するがいい!!」
「ふふん、応援がなんぼのもんや。あの場所まで行きさえすれば……。――それよりも」

 刹那の呼びかけにも全く動じず、彼女はむしろ面白いおもちゃを見つけたかのような顔をしてみせる。

「あんたらにもお嬢様の力の一端を見せたるわ、本山でガタガタ震えとけばよかったと後悔するで」

 ――お嬢様、失礼を。

 小声で呟き、中指と親指をこすり合わせて弾く。いわゆる指パッチンというやつだ。

「オン」

 途端にいくつもの魔方陣が生成された。

「キリ キリ ヴァジャラ オーンハック」

 呪文が完成されるに伴い、魔法陣からいくつもの鬼が召喚されていく。全てが終わり、ずらりと並んだその鬼の数、約150。木乃香の膨大な魔力で、適当に、そして無造作に呼びだされた結果がこの数である。

 彼女の魔力が桁外れのものであることがよくわかる。

 さすがに顔を蒼くさせたネギたちに、千草は自慢げに笑う。

「あんたらはその鬼どもと遊んでてもらおうか。ま、ガキやし、殺さんよーにだけ言っとくわ。ほな」

 そのまま遠ざかる背に、だが彼等は目の前の鬼たちに囲まれていて追いかけることは許されなかった。

 


 生い茂る木々を器用に避けて、ガンツバイクで巧みに斜面を降りる。

 ――……そろそろ、リミットか?

 傷口に当てた包帯代わりのシャツは隙間なく真っ赤に染まり、それどころか吸収しきれなくなり、時折血が滴り落ちていくサマがはっきりと見ることができた。

 失血のせいで途切れそうになる意識は、幸いなことに、穴が開いている胸の激痛がひどくなってきているおかげでどうにか保つことが出来ていた。

「……!」

 コントローラーにて敵位置がついに動かなくなった。やっと星人が移動を止めたらしい。なかなか縮まらなかった距離に半ば絶望しかけていた時だったのだ。そもそも森の中で、バイクが出せる速度などたかが知れている。走ったほうが速い。

 それをしなかったのは体力の温存をしたかったのと、血が足りていないような状態で走ったとして、追いつけるはずがない、ということもあった。

 ――次で決めないと死ぬな。

 あまり実感が出ないが、それは確実だろう。

「……上等だ」

 乱れる呼吸をおして、気合を入れなおす意味でも呟く。

 が、それが良くなかった。

 意識が一瞬だけ飛び、視界が真っ暗になった。途端にタケルの体を浮遊感が包み込んだ。

「っ!!」

 すぐに復活した視界に映ったのは、山から投げ出された自分の体とバイク。そして底の見えない断崖。

 自身が落ちても大したことはないだろうが、バイクが無事かどうかの保証はない。というか、いくらガンツ製のバイクでも、この高さからならさすがに故障するだろう。

 移動手段を失うことは、即ち、時間切れによる死を意味する。

「……ふ!」

 ――諦めるな。

 そんな言葉が一瞬の記憶と共に脳をよぎり、反射的に体が動いていた。

 この際、バイクは捨てる。バイクを蹴り、空中での推進力を得る。どうにか断崖に手をかけ、飛び移ることに成功。

 ――……方向はこのまま真っ直ぐ。距離は……。

 コントローラーで敵位置の方向と距離を確認。

「……」

 目を閉じ、足に力をこめる。

 腕を放し、断崖との僅かな距離を保ったまま落下。体勢を絶壁から見て垂直に立て直し、全力でその壁という大地を蹴った。

 凄まじい速度で黒い弾丸が放たれた。闇の空に放物線を描き、流星の如く突き進む。

「……?」

 不自然な竜巻が起こっていた。だがそれは全く動く気配を見せず、天災としての脅威を感じない。そして何よりもその足元。みたこともない鬼のような生物がイナゴの如く群れを成している。自然発生とは思えないソレらに、タケルは首を傾げていたが、すぐにその危険性に気付いた。

 ――直撃コース……だと?

 このまま行けば竜巻に頭から突っ込むことになる。さすがに天災とガンツスーツの耐久力勝負など、予想もつかない。

 とはいえ、この世界において限りなく凡人の彼に空中で方向転換など出来なるはずもない。結局、胸の傷と頭を庇って、竜巻に突っ込んだのだった。




「出てこいごらぁ!」
「てがだせねぇな、こりゃあ」

 鬼達が呑気に呟く中、最後尾の一鬼への寄生に成功した其は遂に命を得た。さすがに鬼というだけあって居心地は素晴らしく、力もなかなかのものだ。

 ――だが、タリネェナ。

 まだ大和猛を殺すには及ばない。

「なんだ、ありゃ?」

 最も大きな鬼が呟いた。なかなかに強そうな鬼だ。どうやらリーダー格のようで、周りもその鬼に従うように動いている。

 ――アイツも、もらうか。

 にやりと笑みを浮かべ、ばれないようにさりげなく、一歩ずつ。ゆったりとボス鬼に歩み寄る。

 そのため、其は気付かなかった。

 大きな鬼が指し示した物体。全員の鬼が注目するそれ。黒を纏った人間が竜巻に突入するサマを。

 
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