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ハイスクールD×D ~我は蟲触の担い手なれば~

作者:RF
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『転生。 或いは、交差する赤と紅』
  EP.05

「では、さっそく試してみましょうか。 イッセー、腕を上にかざしてみせてちょうだい」
「え? ……腕、ですか?」

 黒の翼。 異形たる姿のままに、リアス先輩がそう促す。
 悪魔を教えると。 そう告げた彼女の表情は、いかにも真剣といった様子そのもので確かに俺を見据えていた。
 突然のこと、不思議というよりも奇妙な要求に俺は困惑を隠しきれない。
 何故ですかと、そう聞く俺にリアス先輩は言葉で急かす。

「やれば分かるわ。 いいから、早く」
「その……こう、ですか?」

 いったい、なんだというのだろうか?
 戸惑いながらも言われるままに、俺は片手を、左腕を天井に向けて伸ばす。
 それを見てリアス先輩は満足したように一度頷き、そして次の行動を要求する。

「目を閉じて、そしてイメージしなさい。 あなたの思う強さを、あなたが一番強いと感じる何かを」
「強い何か……って、そんなこと突然言われても」

 そもそも、彼女のいう強さとはいったい何を指して言うのだろうか?
 圧倒的たる破壊者か、絶対的たる支配者か。
 或いは、不屈たり得る心の在り方を言うのだろうか。
 悩む俺。 強さって、なんなのさ? ぐるぐる、ぐるぐる。
 空転する思考。 なんなのさ、強さって。 ぐるぐる、ぐるぐる。
 解答に至らない頭脳がいよいよ思考に熱をあげる。
 強さ、強さ、強さ……ダメ。 ダメだ、わからない。

「別に何でも構わないのよ。 そうね、なんなら架空のヒーローなんてどうかしら。
 イッセーも男の子なら、好きな漫画のひとつだってあるのでしょう?」

 悩み続ける俺を見かねたのか、リアス先輩から一つの助言が与えられる。
 漫画。 ヒーロー。 ……そうか、それなら。
 その言葉をきっかけに空回りしていた思考回路が収束し、一つの解答を導き出す。

「空孫、悟……かな?」

 空孫 悟。 人気漫画、ドラグ・ソボールの主人公。
 脳裏に描いたヴィジョンを、俺は思いのままにつぶやいた。
 こと戦闘力という分野において彼を上回る存在はそうはいまい。

「そう、空孫 悟ね。 じゃあ、次はその人物が最も強く見える姿を想像してみなさい」

 言われて俺は瞼を閉ざし、特徴的な必殺の構えをとる悟の姿を心に描く。
 イメージしたのは独特の叫びと共に、その手からドラゴン波を解き放つ彼の姿。
 作品を代表すると言っても過言ではないであろう必殺技のひとつである。
 うん、やっぱ悟って言えばコレだよな。

「……さて、イメージは決まったかしら?
 決まったのなら、ゆっくりと腕を下ろして……そう、そのまま立ち上がって」

 深呼吸。 胸に溜めた空気を吐き、穏やかな呼吸に合わせてゆっくりと腕を下ろす。
 その後に俺はソファの上から腰を上げ、その場にすっと立ち上がる。

「では、これが最後よイッセー。 今、あなたが想像したものを真似してちょうだい」
「……え?」

 ……今、なんと?
 聞き間違えでないのなら、ドラゴン波のモノマネをしてみせろと言ったように聞こえたのですけど……。
 いや。 いやいや。 いやいやいやいや。
 え?冗談ですよね? え?本気ですか?

「あの、それって悪魔流の冗談……だったりします?」
「いいえ、まさか。 この場でそんな冗談を言うほど悪趣味じゃないわよ、私は」

 そういうリアス先輩の瞳には、俺をからかって遊んでいるといった様子は見られない。
 なるほど。 ならば、この場でモノマネをしてみせるというのは必要なことなのだろう。
 けど。 けどね。 ですけどね―――。
 ―――俺、その手の遊びはもうとっくの昔に卒業しましたよっ!?
 沸々と湧き上がる羞恥、葛藤。 同じ学校に通う学友の見守る前でのドラゴン波……。
 いや、それはちょっと。 いや、かなり。 恥ずかしい。 恥ずかしいぞ。
 いやいやいやいや、恥ずかしすぎるでしょ!? さすがにそれはっ!?

「ほら、早くなさいな。 なにも難しいことはないでしょう?」

 唐突に湧いた羞恥、困惑する俺をリアス先輩は再び急かす。
 声音はまさに真剣そのもので、ほんの一片の冗談もそこには感じられなかった。
 ……やる? やるの? 本当にやらなきゃなの? え、マジで?
 まさか、この歳になって人前でドラゴン波を披露するはめになるだなんて……。

「……どうしても、やらなきゃダメですか?」
「ええ、もちろん」
「……笑いませんか?」
「笑わないわ」
「……絶対に笑いませんよね?」
「笑わないわよ」
「…………絶ッッッッッ対に、笑ったりしませんよね? よね? しませんね?」
「いい加減しつこいわね。 いいから早く、さっさと済ませてしまいなさい」

 繰り返し確認、念押しする俺にいよいよリアス先輩が痺れを切らす。
 ここまできて“じゃあ、やめましょう”という選択肢は端からリアス先輩には無いようで。
 早くと、そう言われた俺には拒否をするという選択肢は選べなかった。
 ……こうなったら仕方がない。
 胸の奥にくすぶる羞恥を掻き消すように、俺は半ば強引にテンションを引き上げる。
 やってやる!! やってやるぞ!! 壮大な決意を掲げるように闘志の熱が胸に滾る。
 そうだ、逆に考えるんだイッセー!! 見せつけてやればいいと考えるんだ!!
 しょぼいモノマネなんかじゃない、最高にかっこいいドラゴン波を見せてやるぞっ!!

「ド・ラ・ゴ・ン―――波あぁぁぁぁッ!!」

 剥き出しの牙の如く開かれた左右の掌。
 上下逆に合わせたそれを俺は力強く前に突き出し、烈昂の気迫と共にその技の名を咆哮した。

 ―――瞬間、それは音も無く現れ―――

 ―――声に応じて、言葉に応じて―――

 ―――在るべき“カタチ”に顕現する―――

 感じた熱。 あまりにも突然の出来事に俺は両目を見開きその変貌を目撃した。
 変わる。 変わっていく。 光に包まれた俺の左腕が本来のそれとは別の姿に。
 燃えるような赤を伴い、強固なる鋼を伴い、新たな在るべき“カタチ”を得ていく。
 やがて光が消え去り、俺は現れたそれの姿を目の当たりにする。
 刃のように鋭く、炎のように荒々しい鋼鉄の左腕。
 赤い籠手。 気が付けば、そうとしか呼べない物が俺の手に装着されていた。

「な、な、な……なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!!」

 驚愕に叫ぶ俺。 なにコレ!? なんなのさ、コレ!?
 手の甲に宝玉をはめ込んだ、まるで特撮ヒーローが装備するような赤い籠手だ。
 唐突に起きた異変に俺は混乱し、取り乱す。 当然だ、なんだよコレは!?

「なんすかコレ!? なんなんすかコレって!?」
「はいはい、説明ならしてあげるわよ。 だから、落ち着いて聞いてちょうだい」

 リアス先輩にたしなめられて、俺は幾許かの呼吸の後に落ち着きを取り戻す。
 そして俺が落ち着いたのを確認してから、リアス先輩は現れた籠手について語りだした。

神器(セイクリッドギア)。 それが、あなたの手にある物の正体よ」
神器(セイクリッドギア)……」

 何か。 何かが頭に引っかかった。
 神器? 神器だって? その単語、どこかで聞いた気が……。

『―――恨むなら、その身に宿した神器(セイクリッドギア)か、或いは神でも恨んでちょうだいね』

 ……そうだ、彼女はそう言っていた。 
 どこを捜しても存在しない彼女の言葉は、たしかに神器と口にして……。
 ―――いや、待て。
 ―――おかしい、おかしいぞ。
 俺自身知らずにいた神器の存在を彼女はなぜ知ってたのだろうか?
 神器。 たった一言。 けれど、たしかに彼女が残した言葉。
 もともと腑に落ちなかった彼女の消失、そのことに対する疑惑が此処にきて再度浮上する。
 覚える戸惑い、感じる奇妙。
 そんな俺の胸中など知る由もなく、続いて木場が口を開いた。

「神器っていうのは特定の人に宿る、規格外の異能を宿した道具の総称なんだ。
 例えば……そうだね、人類史に名を残す偉人の多くが神器の力を持っていたと言われてるんだ」
「現在でも世界的に活躍する人なんかがいるでしょう?
 あの方々の多くも……まぁ、自覚の有無はともかくとして、その身に神器を宿しているのですよ」

 木場の解説を補足するように、姫島先輩が言葉を続ける。
 なるほど。 詳しいことはさっぱりだが、この赤い籠手って実は凄いものなのか……。
 右手の指。 人差し指がコツコツと鋼鉄の表面を叩き、金属の音を軽く鳴らす。
 興味津々といった様子で赤い籠手を見つめる俺、それを見てリアス先輩はさらに言葉を続ける。

「とはいえ、大半の神器は人間社会規模でしか機能しないものばかり」

 ―――けれど。
 リアス先輩はそう言って、言葉を一度そこで切る。
 そして、一呼吸の間をおいて言葉の続きを口にする。

「けれど、中には悪魔や堕天使を脅かすほどに危険な神器も存在するのよ。
 あの女にあなたが襲われたのも、その神器がそういった類のものかと警戒されたせいでしょうね」
「あの女……?」
「ええ、この女よ。 あなたにも見覚えがあるでしょう?」

 リアス先輩が一枚の写真を取り出し、俺はそこに写った少女を目にする。
 ―――どくん。 嫌な緊張。 ざわざわと胸が騒ぐ。
 思わず伸ばした右手、ひったくるように俺は写真を奪い取った。

「夕麻ちゃん……!?」

 写真に写った彼女の姿に俺は声を震わせる。
 あんなにも必死に捜して、それでも見つけられなかった彼女の姿が間違いなくそこにはあった。

「どうして……。 どうして、彼女の写真をリアス先輩が……?」
「この女は最近、学園の近辺で目撃された堕天使よ。
 状況から察するに、おそらくとある目的を達するためにあなたに接触したのでしょうね」
「堕天使……? いや、そんなことより目的って?」
「決まっているでしょう? そう、あなたを抹殺するためよ」

 ―――ッ!!
 背筋を走る戦慄。 彼女の目的、俺の抹殺。
 突如として告げられたその言葉に、思わず青ざめ息を呑み込む。
 そうだ、俺は彼女に殺された。 覚えてる、覚えているぞ。
 あの日の出来事、デートの最後。 翼を持った異形に変じた彼女の姿。
 腹部を貫く光、焼き付く痛覚。 失われるもの、血液、体温、生命そのもの。
 ―――けれど、生きている。
 ―――俺はまだ、こうしてここに。
 不可解が俺を苛む。 死んだはず、でも生きてる。 生きている、でも死んだ。

「……なんで、俺。 死んで……殺されたはずなのに」
「ええ、確かに。 あなたは間違いなく死んでいたわ。
 だからこそ、こうして私が拾ってあげたの。 救ってあげたのよ、あなたの命を」

 断言される、間違いなく死んでいたと。
 けれど同時に救ったと、リアス先輩は―――目の前に立つ悪魔の少女はそう言った。

「救うって、いったいどうやって……」
「これを、あなたは持っていたわよね? あの日、あなたが殺された日に」

 そう言ってリアス先輩が取り出したのは一枚のチラシだった。
 “あなたの願い、叶えます!!”
 そこにはそんなありふれた謳い文句と共に、奇妙な魔方陣の描かれていた。
 ……そういえば、たしかに俺はあのチラシを見た覚えがある。
 デートの待ち合わせ中、チラシ配りのお姉さんから受け取って、そのままポケットの中に入れたもの。
 それと全く同じチラシが今、俺の目の前、リアス先輩の手の中に。

「これは私たちが配っているチラシで、いわゆる召喚術の魔方陣なのよ」
「召喚術……って、なんでそんな、チラシなんかで」
「それが、最近は自分で魔方陣を用意してまで悪魔を招く人間もいなくて。
 仕方ないから、こうして悪魔を召喚しそうな人間に魔方陣を配っているのよ」

 ため息混じりにリアス先輩がそう言う。
 悪魔にもいろいろ事情があるらしい。

「……まぁ、それはそれとして。
 堕天使に襲われて瀕死の重傷を負ったあなたは、これを使って私を呼んだ……ってわけ。
 もっとも、普段なら眷属の朱乃たちの中から誰かが呼ばれていたはずなんだけど。
 この私を呼び出すだなんて、よほど願いが強かったのでしょうね」

 死の間際。 血の色。 鮮やかな紅。
 たしかに俺は思い浮かべた、手を染め上げた色彩に連想したのだ。
 紅い髪の少女―――リアス・グレモリーを。

「そうして召喚された私はあなたを見て、すぐに事情を察したわ。
 あなたが神器所有者で堕天使に襲われたのだと。 ……問題はここからよ」

 ピッ、と。 鼻先に右手、人差し指を突き付けられる。
 問題。 問題とはなんだろうか?
 しかし考える暇もなく、リアス先輩は即座に答えを開示する。

「イッセー……あなたは死ぬ寸前だった。
 堕天使の光、あれは悪魔にとってはもちろんだけど、人間にとっても十分に脅威足りえるわ。
 はっきり言えば、ほぼ即死。 私が呼ばれたときにはもう既に、あなたも大体そんな感じだったのよ」

 まあ、それはそうだろう。
 あれで死なないとくれば、それはもう人間じゃない何かだ。

「そこで私はとある方法であなたを救うことを選んだのよ―――悪魔としてね」

 解けた右手、柔らかな感触が頬を伝う。
 ふと気付けば、リアス先輩の手のひらが俺の頬をそっと撫でていた。
 慈しむように手で触れて、俺の目を見てリアス先輩は言った。

「イッセー。 あなたは私の……リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。
 いわゆる転生……私のかわいい下僕として、ね」

 頬に触れる手。
 リアス先輩の右手から不可思議な熱が伝わる―――瞬間。
 ―――バッ!! 翻る音と共に、何かが俺の背から広がった。
 奇妙な感覚。 腕が突如に増えたみたいな、足が突如に増えたみたいな。
 背後を覗く。 そこにあったのは先輩たちが持つものと同じ、コウモリを思わせる一対の翼だった。
 ……え? マジで? 俺が……悪魔?

「驚いたかしら、でも、これで分かったでしょう?
 じゃあ、改めて紹介するわね。 ―――祐斗」

 リアス先輩に名を呼ばれ、木場が俺に笑顔を向ける。

「木場祐斗。 兵藤くんと同じ二年生……ってことは分かってるよね。
 えーと、それで……僕も、悪魔です。 よろしく」

 木場に続いて小猫ちゃんが頭を下げる。

「……塔城小猫、一年生です。 ……同じく悪魔、よろしくお願いします」

 さらに続けて、姫島先輩が頭を下げる。
 礼儀正しい所作で、深く、丁寧に。

「姫島朱乃、三年生ですわ。
 いちおう研究部の副部長を兼任しております。 ちなみに、これでも悪魔です」

 うふふ、と。 笑みを浮かべながら姫島先輩はそう言った。

「それで、ボクの自己紹介は必要かな?
 これでも、いちおう彼とは友人のつもりなんだけど」
「しておきなさいな、伊織」
「……分かったよ、君がそう言うのなら」

 リアス先輩に促され、桐原先輩が頭を下げる。

「桐原伊織、三年、悪魔だ。 末永く……よろしく頼むよ、新人の悪魔くん」
「……さて、最後は私の番ね。
 覚えておきなさい、イッセー。 これが、あなたのご主人様よ」

 リアス先輩はそう宣言し、紅い髪を揺らしながら立派な胸を堂々と張る。

「私があなたたちの主であり、グレモリー家のリアス・グレモリーよ。
 実家の爵位は公爵。 よろしくね、イッセー」

 ……どうやら俺の人生は、未知のエリアに突入したようだ。
 悪魔。 悪魔ね。 魔法使い(ドウテイ30)になることを危惧していた俺が、まさかの悪魔とは……。
 いったいこれから、俺の人生はどうなってしまうのだろうか?


 
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