トリコ ~ ネルグ街出身の美食屋! ~
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美食屋、ネルグ街に転生する!
――――――だれかが言った。全身の肉がすべて舌の上でとろける霜降り状態の獣がいると――――――
―――――プリップリで身のずっしりつまったオマール海老やタラバ蟹の身が一年中生る樹があると―――――
――――――琥珀色の上質で芳醇なブランデーがたえまなく湧き出る泉があると――――――
人々は見せられる!未知なる美味に――――――!!
世は【グルメ時代】――――――未開の味を探求する時代――――――!!
そんな時代にとある少年と少女が居た。
名前は『アキト』と『シャルロット』。大天使ヨミエルに転生させられた2人である・・・・・・・。
☆
☆
ここは【ネルグ街】。
IGO非加盟の国で、流通の禁止された食材が平然と出回る無法地帯。
「グルメ犯罪都市」と呼ばれるように治安が悪いうえ、街全体が貧しい。
そんなこの街にこの物語の主人公である彼はいた。
「そこまでだ、クソガキイイィ!!」
「うおっ!?」
「マッチ!?」
絶賛大ピンチ中だったが…。
☆
☆
時は遡ること十年前、大天使ヨミエルによって転生させられることになったアキトはここネルグ街の娼婦の息子に生まれた。
この街はただでさえ貧しいので本来なら子供など抱え込む必要がないのだが、母親は大切に愛情をこめて育ててくれた。彼女の作ってくれたオートミールはとてもおいしいといえたものではなかったが、彼にとってはこのうえない御馳走に感じたものだ。
しかし彼が6歳のとき、無理がたたったためか母親が過労で死んでしまう。この時彼がヨミエルからもらった能力はいまだに大した進歩は見せずに、また完全に能力がそだったとしても病気でも怪我でもない母親は治せなかっただろう。
そして彼は母親と共に過ごした娼館を、転生したすぐ後に母親が見つけた卵と去ることとなった。母親の同僚たる他の娼婦たち、また娼館のオーナーでさえも少年をひきとめたが、彼には探さなければならない人がいた。
『シャルロット』である。
彼と一緒に転生させられた彼女だが、少なくとも少年の目の届く範囲には彼女はいなかった。ネルグ街のいまだに自分が見ていない場所に転生させられた可能性もあるが少なくともこの街にはいないと彼は確信していた。彼女ほどの美貌ならこの娼館に寄こされる可能性が高いと確信していたからである。……まあ単純に彼女の両親がいい人だという可能性も考えられるが。
なのでこれを機に修業をして力をつけてシャルロットを探し出そうと考えたのだ。
とりあえず彼はこの街で修業を開始した。
―――――正拳を1日に10000本突いてみたり、
―――――ダッシュを1000本どしてみたり、
―――――記憶に残っている漫画の技を試してみたり、
とにかくがむしゃらに修業をして、なんとなく力がついてきたなあと思ったあとは次の段階へとすすめた。
実戦経験の獲得である。
このネルグ街が貧しいのはとある理由があり、一部の悪党が食糧を独占しているためであった。なので俺は覆面をかぶり、その悪党たちを闇打ち――――――闇打ちといっても正面から勝負を挑んだので闇打ちといっていいかわからないが。――――――し、戦利品として食糧を奪ったりした。
しかし覆面をしても噂が広がるのかだんだんと俺が覆面の正体だという噂が広がっていき、そのうちその悪党どもから襲われるようになる。
最初は俺を勧誘してきたが、ネルグ街の皆を苦しめているやつらの仲間になる気はもうとうなかったので断ったら襲ってきたので撃退したらさらに多くの悪党が襲ってきた。
こうして俺と悪党たちの激闘の日々が始まった。
悪党を襲撃し俺が食糧を奪い――――――
悪党が俺を襲撃し俺が帰り打ちにする――――――
そんな日々だった。まあ日々鍛錬を重ねて、奪った食糧で体力も上がっている俺を相手にするのはただのチンピラでは無理なわけで、そのうち俺には勝てないと悟ったのかどんどん悪党どもは数を減らしていった。またそんな俺の周りにはネルグ街のストリートチルドレンたちが近寄ってきた。
悪党どもを追い払える俺の戦闘能力を見込んで庇護を求めてきたのだ。
「兄貴、飯だぜ?ジョウたちが早く来いってよ!」
「わかった、今行くマッチ(…)」
まあ少しうっとうしかったが俺も子供は嫌いではなかったのでそれを受け入れた。今では弟分のマッチと一緒に面倒を見ている。
…そう、トリコ原作キャラ、グルメヤクザ副組長の『マッチ』のことである。
確かに彼もネルグ街出身だったなあと思っていたが、まさか俺の弟分になるとは。わからないもんだなあ…。
そんな俺には今一つの悩みがあった。
「なあ、兄貴。この卵いつまで持ってるんだ?」
「それが孵化するまでだ。」
そう、卵がいつまでたっても孵らないのだ。
ヨミエルからもらったこの『鏡心きょうしんの卵』。俺の心を反映した獣が生まれるらしいが、いまだに孵る様子がない。
「でもよ~、いつ孵るんだこれ?」
「さあねえ…」
でも俺の心には焦りはなかった。恐らく俺の実力がまだ足りないんだろうと思ったからだ。
「………これ食っちゃだめか?」
「いや食うなよ!?」
腹ペコキャラだったのかお前!?
まあそんな感じで俺は、悪党を襲撃して食糧を奪い、卵の様子を見て修業して、襲撃してくる悪党を帰り打ちにして、卵の様子を見て修業するという日々を送っていた。
そんなある日、いつものように襲撃してきた悪党を撃退していた時のことだった。
「そこまでだクソガキイィイ!!」
「マッチ!?」
「兄貴!!」
マッチが悪党に人質に取られてしまう。
待ってろっていったのに!
「マッチ。てめえ、なんでここに!」
「すまねえ、俺もなにか力になれないかと思って…」
「マッチ…」
マッチは申し訳なく思っていたのだ。いつも体を張って傷だらけになりながらも自分たちを護ってくれた長兄。そんな彼の助けになれないことが…。
「ぐはははは、涙ぐましい兄弟愛だねぇ。まあそのおかげで俺たちは助かったが」
俺は汚い笑い声をあげる悪党、『ゴルゾー』を睨みつける。
「てめえ、人質とるなんざきたねえぞ、ゴルゾー」
このゴルゾーという男。アキトをつけ狙う悪党どもの頭目であり、アキトに被せられた損害を無視できずに今回自らが出てきたのだ。もっともアキトとの戦いで不利を悟ったためか、このように人質をとるという真似をしたところからみるに、人格、実力ともに小物といってもよかったが。
ゴルゾーは俺の言葉にさらに笑い声を上げる。
「ぐははははは。そんなもんやられたほうが悪いのよ!――――――さあ、手を頭の後ろに回して膝をつきなクソガキ。こいつがどうなってもいいならな!」
「ぐっ!?」
「やめろ!?」
ゴルゾーはマッチの首にナイフをうっすらと差し込み、マッチの首からは一筋の血が流れた。
俺はひとまずゴルゾーのいうとおりに膝をつく。
「やれ!」
ゴルゾーがそう命令すると、その部下たちが一斉に俺に殴りかかる。
ドゴ!
「ぐっ」
ドガ!
「ぐああ!?」
「兄貴いいいいい!?!」
「ぐははははは」
ゴルゾーたちの俺へのリンチは続いた。
――――その頃アキトの家で、
ぴききき
一つの命が誕生しようとしていた。
☆
☆
「ぐっ・・・あ・・・」
「兄貴い・・・・・」
体中がいてえぇ…。動かすだけでずきんずきんいうし、視界は自分が流した血のよってふさがれている。
「くくく、いいざまだなクソガキ。いままで好き勝手やりやがって。てめえのせいで部下も大分俺から離れて行った。この日をどれだけ待ったことか。」
ゴルゾーは俺に顔を近づけていった。
・・・・・・・はんっ!
「あんたの人望がなかっただけじゃねえのか?――――――それと近寄んじゃねえよ。口がくせえんだよおっさん!」
ブッチイ!!
「いいどきょうだああ、クソガキイィイィイ!!」
ゴルゾーは激昂してナイフを俺にむかってふりかぶった。。
ここまでか・・・・・・・。
ここで俺は死んじまうのか・・・・・・。
ああ最後に一目、君に会いたかったよ、
『シャルロット』・・・・・・。
俺は覚悟を決めて目を瞑った。しかし、
ドかン!!
「ぐあ!?」
なにかを吹き飛ばす音と叫び声が聞こえた。
うっすらと目を開けるとそこには、
「がるるるる……」
白く輝く獣がいた・・・・・・。
マッチサイド
「なんだあれ・・・」
俺の名前はマッチ。アキトの兄貴の弟分をやっている。兄貴はいつも俺たちストリートチルドレンをなんだかんだで体をはって護ってくれている自慢の兄貴だ!
でもそんな兄貴の力になりたくて兄貴の後をついてきたのはいいが、ゴルゾーのやつに人質に取られてしまう。
ゴルゾーは兄貴が抵抗しなくなったのをいいことに部下のやつらに命じて兄貴をリンチし始めた。
俺がついてきたせいでっ!!
兄貴の足手まといになるのが耐えられずに自分で自分の命を断とうとしたがその時、ゴルゾーが兄貴にとどめをさそうというのか俺を抱えながら兄貴に近づいた。
「くくく、いいざまだなクソガキ。いままで好き勝手やりやがって。てめえのせいで部下も大分俺から離れて行った。この日をどれだけ待ったことか。」
!?人質とってきながらなにいってやがるんだこの下種が!!
だけど下手なことをいえなかった。下手なことをいって刺激したら兄貴が殺されるかと思ったからだ。
しかし、兄貴はそんなことはかまわずにゴルゾーを罵倒する。
「あんたの人望がなかっただけじゃねえのか?――――――それと近寄んじゃねえよ。口がくせえんだよおっさん!」
兄貴そんなこといったら!?
案の定ゴルゾーはぶち切れたようでナイフを兄貴に突きたてようとふりかぶる。
兄貴は覚悟を決めたように目を瞑る。
「兄貴いいいい!?」
誰か、
誰か兄貴を助けてくれ。
俺はどうなってもいいから。
助けてくれよ!
その時だ。
その衝撃がやってきたのは。
ドカン!!
「ぐあ!」
その衝撃と共に俺は地面へと吹き飛ばされた。
「うああ!」
っ!いって~…。いったいなにが起こったんだ?
俺はさっきまで自分たちが居た場所に視線をやる。するとそこにいたのは、
白く輝く獣だった。なんだあれは・・・・・・・。
俺はただただ、その獣に見とれるのだった。
アキトサイド
その獣は白かった。
風にたなびくそのタテガミは絹のように柔らかで、その牙や爪は恐らく切り裂けられぬものなどまるでないように感じられた。体は白銀に輝いており、神々しさを感じられる。
そしてその瞳。その琥珀色の瞳はまるで『皇帝』のような威圧感を周囲に放っていた。
どうやらその獣がゴルゾーを吹き飛ばしたらしい。
「お、お前は…?」
すると獣は俺に近づき、
ペロ
「うわっぷ!?」
俺の顔を舐めた。
ペロペロ
「ちょ、おま!?」
獣は俺の顔をなめ始めた。まるで自分が誰かを(…)主張するかのように…。
・・・・・・・・・・・まさかっ!
俺はその獣を見る。
大きさは前世の大型犬ほどもあるが、この世界の動物の常識からいまだに子供なのだと考えられる。まさかお前は、
「お前は、あの卵なのか・・・?」
「ガウッ!」
どうやら予想どうりだったらしい。俺はしばし助っ人の正体に茫然としていたが、
「あぶない兄貴!」
マッチの声で我に返った。見るとそこには、
「ふざけるな、獣風情がああああああ!!!」
ゴルゾーがナイフを構えながらこちらに突撃してきた。
白いライオン?はとっさに俺をかばおうとしたが、
「がる?」
「大丈夫だ」
俺がそれを抑える。あいつには俺の家族を人質にとった落とし前をつけなくちゃならねえからな。
俺は構えをとる。左手を前にし、右手を腰に添える。
左足を前にだし、姿勢は前傾姿勢。
感情に蓋をして構えながらも体をリラックスさせる。
意識するのはリラックス状態から相手えものを刈り取るまでの時間の短縮。それこそがその技の破壊力につながる。
「兄貴!!」
目指すは【神速】の拳!
「死ねやクソガキがあああああ!!!」
「【ハンティング・ブロウ】!!」
俺の拳がゴルゾーを貫いた。
「ごぶあああああ!?!?」
ドッパーーーーーン!!
衝撃インパクトの後に音が続く。それはアキトの拳が音速を超えた速さだということを示していた。
ドゴォォン!!
「ゴルゾーさん!?」
ゴルゾーの部下が吹き飛ばされた自分たちのボスに近づくが、
「ぐ・・・ああ・・・」
口から大量の血を流し、ボロボロになっていた。
それもそうだろう。プロの美食屋や凄腕のグルメヤクザたちならどうかは知らないが、ゴルゾーはネルグ街のチンピラをまとめているだけの小悪党にすぎない。
それなりに腕っ節は立つが、一般人の域はでていないのだ。
アキトの音速の拳を食らい、内臓までボロボロになっていた。
しかし、
「ぐああああっ!?」
「兄貴!?」
「がう!?」
ダメージを負ったのはゴルゾーだけではなかった。
ただでさえリンチでボロボロになった体に、まだ体が出来上がっていない少年の体で音速を超える拳を放ったのだ。
耐えきれるわけがなかった。
そして、
「てめえ、よくもゴルゾーさんをっ!!」
「「「!?」」」
ゴルゾーの部下たちがアキト達にむかって自分が持っていたライフルを構える。
(やべえっ!?)
俺はとっさに獣とマッチを庇う。
「兄貴!?」
「がうう!?」
俺はやってくるであろう衝撃にそなえた。
「よくやった。ここからはまかせろ、小僧」
ドドドドドド!
「が、ぐあ!」
ザシュ!
「な、ぎゃあ!!」
パン、パンパンパン!
「な、うああ!!」
「な、なんだ!」
「がるるる!!」
突如声が聞こえたかと思うと、銃声や肉を切る音。そして男たちの悲鳴が後ろから聞こえてきた。
俺は急いで後ろを振り返るとそこにいたのは、血まみれで倒れている先程まで俺たちを狙っていたゴルゾーの手下たちとサングラスを掛けた黒スーツの男たち。そして、
――――――――――大丈夫か?小僧。
太陽のように大柄な男がそこにいた。
それが俺たちとグルメヤクザ組長、【リュウ】との出会いだった………。
後書き
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