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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第八話

「はあ……はあ……」


俊司達と分かれた後、こいしはひたすら廊下を走り続けていた。

途中すれ違う兵士達は、こいしに気づくことなくすれ違っていく。無意識のせいでこいしが見えていないのだろう。


(はやく……急がないと……)


こいしが目指しているのは、地霊殿のある一室。こいしがよく訪れるばしょでもあって、自身がよく知る人物がいる部屋。


(まってて……おねえちゃん!)


こいしは、姉のことを思いながらひたすら走り続けた。










俊司達が地下で戦闘を始めたころ、地上では相変わらず戦闘が続いていた。


「あははっ、あんたらそれでも兵士なのかしら!?」

「確かに、いくらなんでも弱すぎじゃないですか!!」


花畑の中では、相変わらず兵士達が縦横無尽に飛んでいる。これで死人が出ないのが奇跡みたいだ。

高密度な弾幕。飛び交う花のツル。それらが絶妙な攻撃ハーモ二―で、兵士達を圧倒している。そのせいで、戦意を喪失して逃げてしまうものから、何がなんだかわからず立ちすくむものまででている。

壊滅も時間の問題だった。


「おいなにやってる!! 攻撃を続け……うわあああ!!」

「背後がお留守よ兵士さん? さ~て、次は誰かしら?」

「……さすがにやりすぎじゃないでしょうかね。彼女は」


久々に暴れているためテンションがあがりきってしまったのか、幽香は楽しそうに笑っている。さすがに我を忘れているわけではないと思うが、回りからしてみれば、異常に見えた。

さすがの状況に、映姫も苦笑いをしていた。後ろにいた少女にいたっては、恐怖で顔がゆがんでいる。


「ひっ……」

「……大丈夫。あなたに手を出したりしません。まあ、信じてってくださいと言っても無理かもしれませんが……」

「……」


状況は飲み込めていないようだったが、少女はとりあえず涙をこらえたようだった。


「総員退避!!館内に集合!!」

「!?」


地霊殿から突如退避命令が響き渡ってきた。反応した兵士は、目の前の怪物から逃れようと、我先に花畑から出ようとする。


「まちなさ……?」


追いかけようとした幽香の肩を映姫かがつかむ。そのままなにも言うことなく、首を横に振った。

それを見た幽香は、「仕方ないわね」と一言つぶやいた後、花畑を消滅させた。


「一度戻りましょう。この子のこともあります」

「わかったわ」


二人は少女を連れて、住宅地の中に入っていった。









数分後、地霊殿を見渡せる場所で待機していたパルスィとキスメの前に、少女をつれた幽香と映姫が現れた。


「あら、もういいの?」

「はい。まあ、相手の動向をうかがうというのもありますが……まずこの子を保護しようと思いまして」


といって映姫は少女に視線を向ける。少女はそれと同時にびくっと体を震わせた。


「ここから見てたわ。やっぱりその子だったのね」

「あなた兵士だって言ってたわよね? ぜんぜん違うじゃない」

「あのときは大勢の兵士がいたもの。私だって、追い込まれてる状況できちんとした判断はとれないわよ。でも、ちらっとその子を見た記憶はあったのだけど……まさかって思ってたらこのざまね」

「まあ今はそれをどうこう言ってるところじゃないですよ」

「おや。あんたらも戻ってたのかい?」


そういって五人のまえに現れたのは、幽香達の反対側で行動していた勇儀とヤマメだった。


「ええ。一度戻ろうって閻魔様が提案したのよ」

「こっちも同じ判断さ。で……その子は?」

「例のターゲットです」

「へぇ、兵士って言ってたから体格のいい野郎だって思ってたけど、女の子かい」

「みんな同じ反応ね」


そう言って幽香は苦笑いをした。


「さて、あなた……お名前は?」

「へっ……あっ……」


少女は気が動転してしまっているのか、オドオドしてしまって何がなんだかわからないようだった。予想通りの展開に、映姫は思わずため息をついてしまう。

そんな中、少女を細目でいていた幽香が、ゆっくりと口を開いた。


「五月雨清香……」

「?」

「えっ……あ……はい」


幽香が言った名前に反応した少女は、小声ながらも返事をした。


「……やっぱり」

「知り合い……ですか?」

「まあ十年位前のね」


そういって幽香は少女に近づいた。


「私のこと覚えてる?」

「えっ……」


少女は返事をせずにうつむいてしまった。

少女の反応を見た幽香は、怒ることなく笑みを浮かべると、そっと右手を差し出す。

すると、彼女の右手の手のひらから、小さな向日葵がゆっくりと咲き始めた。


「はじめて会ったときも、こうやって見せてあげたわよね?」

「……あっ」


右手に向日葵をのせたままこっちを見てくる幽香。そんな彼女を見て、清香という少女は何かを思い出したようだった。


「向日葵の……花のお姉ちゃん!」

「それで覚えてたの……まあいいわ」


幽香は軽く笑みを浮かべると、小さな向日葵をそっと清香に手渡した。


「怯えてはないみたいだねぇ」

「あんた私に対してどんなイメージを持ってるのよ……」

「そりゃあ……ねえ?」

「はあ……まあいいわ。さっきも言ったけど、ことの始まりは十年位前の話よ」


そう言って、幽香は過去の話を始めた。












十年ほど前、太陽の畑ではいつもどおりの風景が広がっていた。

花の妖怪風見幽香は、この日もいつもどおりの花に囲まれた生活を送っていた。


「おはよう。今日も元気そうで何よりね」


向日葵のいい香りと景色に囲まれ、幽香はとてもご満悦のようだ。

そんな中、ある向日葵の茎に、白くにごったようなあとがついていた。しかも、その向日葵だけこころなしか元気がないように見える。


「……病気かしら」


幽香はそっと茎を触ると、そのにごったあとの部分に何かを伝えていく。すると、あとはきれさっぱりなくなり、元気がないように見えていた向日葵も、元気を取り戻していた。


「これでいいわ……?」


ふと聞き耳をたてると、何か付近で声がしていた。人数からして二人。男の声だった。


「……」


何かを感じた幽香は、ゆっくりとその声がするほうに歩いていった。









「おとなしくついて来い!!」

「…っ!!」


向日葵畑に囲まれた道を、男二人が少女を引っ張りながら歩いていた。

少女は泣きながらも必死に抵抗しているようだが、大人の男相手にか勝てるわけがない。なすすべもなくずるずると引っ張られていった。


「けどさあ、こいつほんとに金になんの?」

「さあな。うわさじゃあ、こいつは人の病を治す能力があるらしいぜ?」

「病を治すかぁ。俺ら一般人にはまったくわからんからなぁ」

「というわけだ。お譲ちゃんには悪いが金になってもらうさ!」


そう言って男は悪人のような笑い声を上げていた。

すぐそばの向日葵畑で、誰かがこっちを見ていたにもかかわらず。


「お金のために人攫い? 最近の人間はどこまで落ちぶれたのかしら……」

「誰だ!?」


そういって男達の前に現れたのは、チェックの服を着た花の妖怪だった。


「お前は……」

「何大声でしゃべってるんだか? 丸聞こえだったわよ?」

「おいやべえよ……こいつ花の妖怪『風見幽香』だろ?」

「だからなんだってんだ? 俺達に残された道は、こいつを始末するだろうが!」


そういうと、男はいきなり幽香に殴りかかった。

不意をついた攻撃だが、幽香はまったく動じない。それどころか、軽く相手をにらんでいた。


「!?」


男の拳が幽香の顔の目の前まで飛んできた瞬間、幽香は音を立てずに男の目の前から消え去った。拳はそのまま空を切っていく。

何が起きたかわからずきょとんとする男だったが、我に帰ると急にあたりをきょろきょろし始めた。だが、花の妖怪の姿なんて見えやしない。

すると、男は安心したのかふぅとため息をついた。


「なんだ、やっぱり凶暴な妖怪なんてうそじゃねえか。俺の拳ひとつで逃げるなんて、妖怪なのになんて雑魚なんだろうな?」

「……」

「だいだい花の何がいいってんだ?こんななんの変哲もない花の一つや二つでキレたるするようかいだろ?頭おかしいっての」

「そうかもしれないわね」

「え?」


急に背後から女性の声が男の耳に飛び込んでくる。背筋に何かを感じた男は、ゆっくりと振り返ってみる。







その3秒後、男は顔をつかまれ持ち上げられた。
 
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