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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第七話

(……今……抵抗していた?)


お空を凝視していた俊司は、一瞬の変化を見逃すことはなかった。顔を引きつらせたような表情は確実に何かに抵抗している。

抵抗しているとなると、チップにの制御に抵抗していることはわかる。だが、タイプAの強化版であるタイプBが、そう簡単に対象を抵抗させるようなことはしないはずだ。

そうこうしていると、なかなか攻撃を行わないお空にいらいらしたのか、一人の兵士が右腕につけたキーボードをたたき始めた。


(! このままじゃ……危険だ!)

「すいません皆さん! ここは俺達に任せて、もう一度牢屋の中に戻ってもらってもいいですか!?」

「はあ!? 何言ってんだ小僧!! ここでプルプル震えながら隠れてろってのか!?」

「違います! 人数が多すぎる……彼女の攻撃なら、これだけ人数がいると互いの首を絞めるようなものです!」

「じゃあお前らが隠れてろ!」


さすが旧都においやられた妖怪たち。血の気が高いのか俊司の言うことはなにも聞こうとしない。幸いにも、さとり達のペットは争うようなことを考えず、スッと牢屋の中に戻っていく。

そんなことをしている間も、兵士はコンピューターによる制御をすすめていた。お空も徐々に制御されているようだったが、表情に変化はないものの少し抵抗しているようだ。まるで誰かに攻撃を当てないように制御しようとして……


「おいおい。お前らほんとにこの人数で対抗するつもりか?」


なんとか説得しようとしていると、ある男が話を始めた。男の頭には萃香ほど長くはないが、二本の大きい角が生えている。どうやら鬼のようだ。


「そ……相馬さん」

「俺はそこの少年の言うとおりだと思うけどな? あいつがもしひよっこ少年なら、こんなところにいると思うか?」

「……」

「だったらもっとストレートに言ってやってもいいんだぜ?」


そう言って相馬という鬼は拳をポキポキと鳴らす。

それを見ていた妖怪達は、よっぽど悪い思い出があるのだろうか、何も言い返すことなく牢屋に戻っていった。


「いや~わるいね。こいつらまるで筋肉馬鹿みたいだろ?」

「いえ、おかげで助かりました」

「別にいいんだよ。おっと、悪いけど俺は協力させてもらうぜ? いいだろ、萃香?」

「ああ、かまわないさ。相馬」


突然の問いかけにも、萃香は何も動じず答えた。


「知り合いですか?」

「まあね。私や勇儀にとっては腐れ縁みたいなもんさ。大丈夫! こいつの実力は私のお墨付きだよ。私ら四天王にはりあえるんだからね」

「へぇ……」

「むしろお前も四天王って数えてもいいんじゃないかってくらいだよ。ところで、なんであんたがここにいるのさ」

「昼寝して目が覚めたらここにいた」


そう言って相馬は笑っていた。


「まあ、あんたらしいっちゃあんたらしいけどさ……」

「いや~それほどでも」

「今のどう考えてもほめてなかったような……」

「ところで少年、皆を牢屋に戻したのはいいが、これでは攻撃で破壊されてしまうぞ?」

「はい。大丈夫です」


そう言って俊司は一枚のカードを取り出すと、無言で効果を発動させた。


変換『魔術師の拳銃』


発動と同時に、二発の弾丸を地面に撃ち込む。すると、すべての牢屋の前に半透明の何かが現れた。


「なるほど、バリアか」

「はい。今のスペルカードで俺の素性がばれてないといいけども……」


俊司は一応革命軍の反応を見てみるが、兵士達は何も変な行動をしていない。素性がばれていないのか、あえて隠しているのか……

しかし、今まで見てきた兵士のことを考えると、驚きや恐怖を隠しきれるほど有能な兵士はさほどいない。今は安心してもいいだろう。


「ばれちゃあまずいのか?」

「まあ、いろいろありまして」

「そうか。じゃあ君の事はあとでおいおい聞くとして……そろそろきそうだな」


お空の制御棒の先端からは、膨大なエネルギーを持った球体が出来上がっていた。しかし、お空はまだ抵抗を続けているようだ。

そんな彼女をみながら、こいしはある答えにたどり着いていた。


「……ねぇ、私別行動してもいいかな?」

「えっ……でも……」

「大丈夫」


こいしはそう言ってまっすぐ俊司を見つめた。


「……なにか策が?」

「うん」

「……わかった。こっちは時間を稼ぐから、その間に」

「ありがと」


そう言うと、こいしは姿を消した。


「さて、じゃあ俺達は……!?」


突然、何かが膨張していく音がが部屋の中を駆け巡る。何か危機感のようなものが俊司の頭をぎった。


「みんなよけろ!!」

「!」


俊司の一言で全員がその場を離れる。

その数秒後、さっきまで彼らのいた場所に巨大なエネルギー弾が打ち込まれた。


「……これが……核のエネルギー」


お空の制御棒から発生していたエネルギーは、すでになくなっていた。言うまでもなく、俊司達めがけて発射したのだろう。

だが、それだけではなかった。


「なんだこいつ、急に言うことを聞くようになったぞ?」

「なっ!?」


兵士の言ったとおり、お空はなんのためらいもなく次々と攻撃を始めた。


「おいおい、急に始まったねぇ」

「うぅ……こんな攻撃あたったらひとたまりもないですよぉ」

「つべこべ言ってないで避けな!」


お空の攻撃はなんのためらいもなく俊司達に放たれる。

予期せぬ急展開に戸惑いつつも、なんとか攻撃をさける俊司達。


(いきなりすぎる……こいしちゃんがいなくなってから急に攻撃を……こいしちゃんが……いなくなって……から……!!)


こいしがあることをしようとしてこの部屋からいなくなった瞬間、お空は抵抗することをやめて攻撃を開始した。

お空はさとりとは主従関係で、本人もさとりのことをよく慕っているし、同じさとりのペットである火焔猫燐とは親友だ。それに、さとりの妹であるこいしにも面識はあるはずだし、仲はいいはず。

彼女は地霊殿でおきた異変以降は、間欠泉地下センターで仕事をしている。しかし、依頼主である神奈子達のことはうっすらとしか覚えていなかったのに、さとりたちのことはまったくといって忘れていなかった。彼女にとってはそれほど思い入れがあるのだろう。

それがもし、さっきの状況に置き換えたなら……彼女の不可解な行動に説明がつく。






お空は俊司達を攻撃したくないから抵抗したのではなく、こいしを傷つけたくなかったから抵抗していたのだ。






(つまりこいしちゃんはこれに気づいて……だとすると考えてる策って……)

「おい少年! どうする!?」

「あ……俺と萃香さんと相馬さんでお空さんを止めます! その間に小町さんとメディスンさんで兵士を!」

「おう!」

「了解!任せときな!!」


小町は兵士を止めるために一気に距離をつめる。目標は、お空を操っているだろう、右腕にキーボードを取り付けた兵士。

能力によって一瞬で兵士の前に立った小町は、模造の鎌を使って攻撃をしようとする。


(気絶くらいならこれで……!?)


一瞬で近寄った小町に兵士も気づいてるようだった。だが、驚いた表情はしていない。







なぜか兵士は小町をみて笑っていた。






(なっ……笑って……!?)


鎌を振り下ろそうとした瞬間、兵士との間に何者かが割り込んだ。

手のつめを立てると、そいつは小町を攻撃しようとする。危険を感じた小町は、攻撃を中断するとすぐに距離をとった。


「ちっ……」

「われわれがいつ操っている妖怪が1人だと言った?」

「……」


小町と兵士との間に入ったのは、黒を基調としたゴスロリの服を着た猫耳の妖怪。







さとりのペットの一人火焔猫燐だった。







(くそっ……よりによってこいつか……)

「……」


お燐は何も言わずに小町を見てる。


「小町さん……あの人は?」

「火焔猫燐……さとりさんのペットだよ」

「つまり……操られてるんですか?」

「……だろうね」


小町はあたりを見渡してみる。周りには大勢の兵士がこちらに銃口を向けてにらんでいる。だが、小町が探しているのはただの兵士ではない。


(誰もいない……一人だけなのか?)


キーボードを取り付けた兵士はお燐の後ろにいる兵士だけだ。小町がさがしていたのは、お燐をあやつる別の兵士だった。

だが、操っている兵士はほかにいそうにない。それに、後ろにいた兵士はお燐をみながらキーボードをたたいていた。


(あいつ二人も操ってるのか……?)


状況を考えてもそうとしか考えられない。しかし、まずお燐と周りの兵士を対処しないといけない。

小町はメディスンにアイコンタクトをとると、再び戦闘体制に入った。
 
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