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転生者が歩む新たな人生

作者:冬夏春秋
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第38話 修学旅行-1日目- その3

 さて、恐らく現状をまったく認識していない神楽坂にわからせるにはどうすべきなんだろうか。

「まず確認したいんだが、神楽坂は今回の一連の件どう聞いているんだ?」

「そりゃぁ、あれよ。ネギが学園長に頼まれて東と西の友好のための親書を届けるのと木乃香が西の組織に狙われているって………」

「そうか。うーん、1つずつ説明するが、今神楽坂が言った「東と西の友好」なんだが、そもそもなんでそんなことが必要なのかわかるか?」

「必要って………。そりゃぁ、東と西が仲が悪いからでしょ」

「そうなんだが。オレが聞きたいのは「何故」西と東が仲が悪いかを知っているかだ。」

「えっ? 知らないけど。でも仲が悪いのを良くするのは良いことでしょ」

 まぁ、バカレッドではこの程度か。いや、ネギも恐らくこの程度の考えしかないか。

「はぁ。桜咲はわかるか?」

 ずっとオレのことを睨んでいる桜咲にも話題を振ってみる。

「それはお嬢様が西から東に預けられたからではないでしょうか?」

 本気か? 見た感じ本気そうだな………。本当に木乃香のことしか見えてないんだな。というか、詠春殿はどういう教育してんだか。こんな認識じゃぁ、効果的な護衛はできんだろうに。

「不正解。西と東の仲の悪さはそれこそ日本に東、つまり魔法使いの組織が作られた頃に遡るし、ここまでひどくなったのは先代のせいだ」

「なんだと! お嬢様のお母様のせいだと言うのか!」

 今にも手に持った刀を抜こうかと激高する桜咲。

「ちょ、ちょっと待ってよ、刹那さん。どういうことよ! 暁!」

「うーん、どう言えばいいのか。神楽坂はネギの父親のことは聞いてるか?」

「ネギの父親って………。アンタの父親でしょうが。英雄とか言われてるんだって? ネギは父親みたいになりたいって言ってたけど」

 まぁ、そうだろうな。だがまぁ、聞いてるなら話は早いか。

「簡単に言うとネギの父親と近衛の父親が最初に英雄って言われたのは戦争を勝利に導いたからだ。で、その際先代の長は近衛の父親を支援するために日本の呪術組織から強制的に集めて援軍に出している。それでその援軍は父親達が英雄と呼ばれるようになった戦いでほぼ全滅している。味方の攻撃に巻き込まれるカタチでな。そしてそれに対し、東からは一切の弁明や謝罪もない。だから西と東が神楽坂の言う仲が悪いというのはある意味当たり前なの」

「な………」
「そんな………」

 どうやら2人とも初めて聞いたらしい。絶句してるな。

「でもそんなことは昔のことでしょ。なら手を取り合って仲良くした方が絶対良いわよ」

 気を取り直したのか神楽坂がそう言ってくる。

「そんなこと? 神楽坂本気で言ってるのか? じゃぁ聞くが、神楽坂の保護者の高畑先生が、「強いんだから中東の戦争を収めて来てよ」と言って、強制的にアメリカかどこかの国の命令で戦争に行かされたあげく、「いつの間にか死んでたよ」とだけ言われて、納得いかず調査したら、命令した国の攻撃に巻き込まれて死んでたなんていう結果が出て、その国と仲良くしたいと思う?」

「それは………」

「しかも東の長が親書を持たせたのは9歳のガキ。勘違いしてるかも知れんけど、ネギは東の人間じゃなくてウェールズの人間だからな。なあ。神楽坂でもわかるだろ。こじれにこじれた西と東の関係に、別の組織の正式な魔法使いでもない魔法使い見習いのこじれる原因となった9歳のガキが、親書を持って来たらどう思うかを」

「それは………」

「目を逸らしちゃダメだよ。ネギが親書を持って来ると言うのはそういうことなの。しかもそのそもそもの原因である今の長は、そう言った現実を無視して動いてるのが現状」

「そんなことはない! 詠春様は決してそんなことはしない! 騙されてはいけません、アスナさん」

 騙すも何も本当のことしか言っていないんだが。

「ええっ。刹那さん?」

 いきなり大声をあげた桜咲に驚いて声を出す神楽坂。

「騙すも何も、オレは本当のことしか言っていない。嘘だと思うなら自分で調べればいいさ。ちなみに近衛のこともそうだ」

「木乃香のこと?」
「お嬢様がどうした!」

「簡単なことだ。近衛は魔法に関係させないために麻帆良に移されたんだよな」

「ああ、そうだ」

「そもそもそこからしておかしいんだよ」

「どういうことよ?」

「神楽坂は知らなくても当然だが、近衛家というのは遙か平安の頃から日本という国家を呪術的に裏から支えてきた家柄なんだよ。ちなみに平安京が造られたのは何年かわかるか? 神楽坂」

「な、ななひゃくじゅうねんよ」

「残念、それは平城京だ。正解は794年だ。もうちょっとしっかり勉強しろよ。っと話しがずれた。つまり近衛家の人間である限り魔法に関わるというのは、平たく言えば家業なんだよ。それを魔法に関わらせないなんてそこから間違っているんだよ」

「そんな………。魔法使いの家に産まれたら魔法使いにならないといけないっていうの? そんなのおかしいわよ!」

「違う。間違っているぞ、神楽坂。オレは魔法使い、厳密に言えば呪術師になるが、呪術師に近衛がならないといけないとは言っていない」

「む。どういうことよ」

「だから言ったろ。近衛家に産まれたからには魔法に関わらないといけないと言っただけで、呪術師にならないといけないとは言っていない。つまりあくまでも選択権は近衛にあり、魔法を知った上で関わる関わらない、呪術師になるならないを選択するべきなんだよ。それが近衛の家に産まれて、東洋一の魔力を持っている近衛の言わば義務と権利なんだよ。それを今の長は………」

「詠春様がどうだというんだ」

「はっきり言って近衛の件についてはひどすぎる。魔法に関わらせないと言って、対立姿勢を取っている東の魔法の中心都市に送る。しかも、近衛の魔力の封印や次期長候補から外せば良いものをそれもしない。しないなら護衛や従者をつければいいものをそれもしない。中学に上がりやっと送ったと思えば、幼なじみで気心は知れているが訳ありの近くで護衛もしないなんちゃって護衛。しかも秘匿意識が薄い見習い魔法使いが来たらそれと同居させようとして、それに対して抗議もしない。あとは祖父としての立場を利用して見合いを強行するなんてこともあったよなぁ」

「な、なんちゃって護衛………」

 ツボにはまったのか肩を振るわせ笑いを抑える神楽坂。

「まあ、だらだら話してしまったがこれが関西呪術協会傘下の中部魔術協会の魔術師としての見解だ。だから魔術師としては一切今回の件には関わらん。なので、ネギに関しては一切関わらないからな。だがまぁ、麻帆良の魔法先生として、魔法に関わることから一般の生徒を助けよう。もちろん近衛も含めてな。(もっとも従者としての木乃香はマスターとして必ず守るがな)」

「うーん。難しいことはわかんないけど、暁も木乃香を助けてくれると言うことで良いのよね」

「あぁ。一般の生徒である限りはな。ちなみに神楽坂は一般の生徒には入ってないからな、勘違いするなよ」

「どういうことよ!」

「神楽坂はネギの従者(パートナー)なんだろ。なら一般の生徒じゃないし、そもそもなんかあったらマスターであるネギにどうにかしてもらえ。それが嫌なら従者契約を破棄しろ。まだ間に合うかも知れん(ぶっちゃけ、フェイトと遭遇するまでがリミットか)」

「ええっ。でもネギをほっとけないし………。ねぇ、どうしてもだめなの?」

「ダメだな。あきらめろ」

「そう。まぁいいわ。こっちはこっちでどうにかするから、行こう、刹那さん」

 そう言って桜咲の手を取り引っ張って行く神楽坂。





  ☆  ★  ☆  





 さて、神楽坂達との会話も済んで、3-Aの生徒達も眠り静かな1日目の夜。交代で行う巡回も終わり、あてがわれた部屋で休んでいるとにわかに一部が騒がしくなる。

 廊下に蒔いたサーチャーで確認すると木乃香のいる5班の部屋で神楽坂と桜咲が騒いでいるようだ。

 と思っていたら、神楽坂と桜咲が慌てて出て来て、旅館から走り出て行く。

 どうやら、木乃香が攫われたらしい。

「そこんとこどうなん?」

「そやなぁ。なんか眼鏡をかけた仲居さんがお札さんをウチにつけて、眠ったウチを攫ったみたいや」

 そう、木乃香から返事があった。





 さて、どういうことかと言うと簡単なことで、あらかじめ瀬流彦先生と模蕪先生に話して、5班にいる木乃香は分身符(わけみのふ)で作った分身と入れ替えておいたのだ。

 なお、本体の木乃香は気付かれないように魔法によって眠らされ、オレの部屋で眠っおり、万が一何かあって、分身と記憶が統合されても「夢だった」と言い切ることに瀬流彦先生達と打ち合わせが済んでいる。

 実際は、うとうとしていたようだが、木乃香は眠っていない。
 分身の懐に木乃香が作ったサーチャーを入れておき、何かあった時に情報収集ができるようにしておいたのだ。
 なお、中学生とはいえ女性の寝る部屋にサーチャーを忍ばせておくのは木乃香達に強硬に反対されたのでこのようなカタチになったのだ。



 で、サーチャーによる木乃香からの視点と神楽坂達の後方からの視点をデバイスから投影して2人で見ているとそれなりにネギ・神楽坂・桜咲の3人が健闘している。
 木乃香の分身体を攫った符術師以外に二刀流の眼鏡神鳴流剣士も出張って来ているので、よくやっていると思う。

「せっちゃんがんばれー」

 とか、お気楽に木乃香が応援しているのは聞かなかったことにしよう。



 ただ、よくわからないのは【捕縛】の風の魔法を使ったネギが木乃香を盾にされてわざとハズしたことだ。
 攻撃用の呪文でもないのにどうしてなんだろう?

 しかも何故か【武装解除】の呪文は符術師ごと木乃香を裸にしているし。

 ちなみに裸にされた時点で木乃香は分身を解除した。
 現場に残ったのは役目を果たした分身符の残骸だけだ。


 隣の木乃香からちょっと黒いオーラが出てて恐い。


 サーチャーで見ていると符に変わった木乃香に驚き3人はあわあわしている。

 しかもその間に敵に逃げられている。

 その後どうやら桜咲が符の残骸から符の効力を推測し、敵の符術師も分身符に気付いてなかったことにも気付いたようで、オレが分身符を使ったことに辿り着いたようだ。ネギと神楽坂を置いて、飛ぶように走って旅館に戻って来る。



 瀬流彦先生、模蕪先生を呼んでオレの部屋の前で3人を待ち受ける。
 念のため木乃香には布団に入り、寝た振りをしていてもらう。

 桜咲がまず着いたので、騒がないよう部屋の中の木乃香を見せる。その後ネギと神楽坂が着いたので、模蕪先生に部屋の前で見張ってもらい、瀬流彦先生の部屋でオレを交えて3人に説明。

 ぎゃぁぎゃぁうるさかったが、瀬流彦先生が落ち着いて一つ一つ説明し、納得させた。

 オレ? 面倒なので丸投げしましたよ。

 ネギらに説明しなかったのは元々狙われている木乃香の護衛の頭数に入れてなかったから。
 しかも予定では分身を攫わせることにより、敵対勢力の拠点と目的や規模がわかるはずだったのに、不可抗力とはいえ、ネギの魔法のせいで分身符を使った作戦がばれてしまい、一から作戦の練り直しとなってしまった。

 瀬流彦先生に冷静に指摘されネギは落ち込み、カモが励ましている。
 が、旅館内で何故カモが放し飼いになっているかと追加で説教されている。

 なお、当然学園長にはネギのせいで作戦が失敗したと目の前で瀬流彦先生が連絡している。

「もういいから君らは部屋に帰って寝なさい」

 そう締め括って今日の説教は終わった。



 なお、木乃香は眠ったままで5班の部屋に戻し、次の日「桜咲と神楽坂に助けられた夢を見た」と話すことになる………。  
 

 
後書き
とりあえず1日目終了ー 
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