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神器持ちの魔法使い

作者:リリック
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始まり
  第02話 魔法使いだけど気にしない

「おっ、あれは」

昼食後、ライザーたちが仕事や勉強をするということで暇をもて余した秋人。
行く当てもなく敷地内をぶらぶらしていたその途中、人影を見つけた。

「フッ! ハッ! セイ!」

「熱心だな」

と、棍を一心不乱に振るう少女に声をかけた。

「ぇ……? 秋人さま!?」

棍を振るっていた小柄の少女、ミラは声の主が秋人だと気付くと驚きながら身なりを整えた。

「様付けしないでいいっていつも言ってんだろ」

「そのようなわけには……。ライザーさまやレイヴェルさま方の友人でいらっしゃるのですから」

「相変わらず固い、固すぎるよ」

苦笑を浮かべる秋人はミラの持つ棍に目をやる。

「よかったら俺も参加していい? 魔法使いの観点からアドバイスできるかもしてないし」

「……近距離戦を熟す魔法使いがどこにいるんですか」

「ここにいるじゃん」

ニコニコと自身を指さす秋人にミラはため息を吐いた。

「ですが大丈夫なんですか? ライザーさまの眷属内で一番弱いですけど、人間と悪魔という身体能力に差があります。それに秋人さまは魔法使い……」

「大丈夫だって。伊達にライザーの相手を務めてないんだから。ほら、構えて」

秋人に言われるがまま構えをとった。
しかし、その表情はいまだに心配の色を含んでいた。
悪魔と人間、棍使いと魔法使い、棍と素手。
どう考えても自分が有利だという考えが拭えない。

「そんじゃまずは軽ーくいくよ」

だが、次の瞬間、ミラのその考えが一瞬にして消えた。

「ハッ!」

「ッ!?」

一気に距離を詰められたかと思うと眼前に拳が迫っている。

「速いッ…それに重いッ!」

秋人のラッシュに防戦一方になるミラ。
秋人がいくら強化魔法を使っているからといってもこれほどのものを繰り出せるわけがない。
どう考えても日ごろから武を鍛えてる動きだった。

その後も防戦一方ながら隙あらばカウンターからの攻撃に転じようと棍を操るもうまくいかない。
ミラの中で占めていた心配が驚きに変わり、次第に焦りや苛立ちに変わっていった。

「ハァ……ハァ……ッ」

「あはは……ミラ、大丈夫か?」

「は、はい…なんとか……」

約十分後。
一撃入れようと途中から全力で打ち込むミラだったが、結局、有効打となるようなものは決まらなかった。

「お強いですね」

「まあね。魔法使いだからと言って近距離戦ができないわけじゃないさ。むしろ魔法使いだからこそ近距離戦ができないと。魔法だけに頼るのは危険だからな」

「そう、ですか?」

「もし何らかの方法で魔法を封じられたら? 反撃する術がないから即お陀仏。違う?」

「確かにそうですけど……」

「ま、俺のことは置いといて。ミラのことなんだけど、まず思ったのは真っ直ぐ過ぎる」

「真っ直ぐ、ですか?」

「型通りというか、フェイントや誘い…虚を突かないとさっきみたく当たらないうえにカウンターの餌食になってしまう」

先ほどの組手のことを思い出したのか悔しそうに顔を歪める。
けれどもすぐに真面目な表情で頷く。

「あとは筋力不足かな。速さ的確さはあるけど、もしも今後レーティングゲームに出るとなると厳しいと思う」

「です、よね」

「だから力不足を魔法で補うのはどう?」

「魔法……私苦手ですよ」

「大丈夫。さっき無意識でやってたみたいだし、今度はそれを意識してやればいい」

「やってたって……」

「武器に魔力を纏わせたんだ。魔法の括りとしては強化魔法」

秋人はそう言ってミラから棍を借りる。
握られた棍は強い魔力の光に包まれた。

「で、これを叩き付けると」

ドゴッ!

そんな音とともに地面には亀裂が入り、陥没した。

「!?」

「とまあこんな感じになる。応用として魔力に形を与えて矛や槍みたいにして打撃を斬撃へ。それだけでも攻撃パターンのレパートリーが増えた。で、練習方法は……―――」


◇―――――――――◆


言うだけ言って去ってしまった秋人さま。
秋人さまから教わったように棍に魔力を纏わせ、持続させる。

ッ、思っていたより、難しい。
秋人さまのようにムラをなくせない。

「あれ? ミラだ」

「お〜い! ミラ~!」

「イル、ネル」

秋人さまと入れ替わりにやって来た体操着にスパッツ姿の双子の姉妹。

「何やってんの?」

「秋人さまからアドバイスを頂いたのでそれを試してた」

「えーっ!? お兄さんいたの!?」

「さっきまでいたけど?」

「あーあ、それならもう少し早く来ればよかった!」

ガックシと肩を落とす二人。
二人は秋人さまを実の兄のように慕っている。
ライザーさまも同じかと思うけどそうではない。
年が離れすぎていることもありますが、それ以前にライザーさまは主で私たちは眷属という意識が強いためかと。

「まあまあ。秋人さまは夏休みでしばらくこっちにいるんだから今会えなくても後で会えるでしょ?」

「……それもそうだね」

そうなだめるとしぶしぶといった感じながらも納得させることができた。

「相変わらず秋人さまが大好きだね」

「もちろん!」

「お兄さんはお兄さんなんだから!」

ねー、と、ニコニコ顔を見合わせるイルとネル。

「ミラは鍛錬まだ続けるの?」

「そのつもりだよ」

「じゃあ私たちも参加していいかな? ここに来たのだってそのつもりだったし」

「もちろん。私も二人の意見とかもらいたいし」

その後、訓練は夕暮れまで続いた。 
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