神器持ちの魔法使い
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始まり
第01話 人間である俺と悪魔な彼ら
「ま、待てッ」
「上級悪魔だろ? これくらい捌いて見ろよ」
「聖水の水流弾なんて聞いてないぞ!?」
「言ってないもん。それにこちとら普通の人間だぞ? お前の持つ能力でこれくらいの攻撃なんてすぐ回復するだろ。それに濃度低いんだし」
「ンなわけあるか!? それにお前のどこが普通―――だぁあ!?」
「無駄口叩けるみたいだな。……残り時間と水流弾の数、どっちを増やしてほしい?」
「どちらも死んでしまうわ!?」
水流弾を焼き尽くす悪魔―――ライザー・フェニックスはボロボロの状態で聖水の水流弾から、かれこれ一時間ほど悪態をつきながら逃げ回っていた。
が、数多の水流弾をすべて焼き尽くすことはできない。
水流弾が地面へ着弾とともに弾け、水飛沫がライザーを襲う。
が、防戦一方ではなくライザーは炎を放つ。
「―――おわっと!? あっぶな。もう少しで焼ける……あ、ちょっと前髪焦げてるし!? 余裕だね? 余裕なんだね? だったら―――」
人間―――来ヶ谷秋人は大気に浮遊する魔力をかき集め、新たな呪文を力強く詠うように紡ぐ。
秋人の周囲が魔法陣の光によって眩く照らされる。
「太陽神の名を借りて命ずる。貫くものよ! 我に従い、灼熱の稲妻となりて敵を討て!」
「おっ、おい、確かそれは古代魔法とか言ってなかったか……?」
額に冷や汗を浮かべ顔を引きつらせるライザー。
詠唱の妨害といった未然に防ぐ策を考えたが間に合わないと判断して全力で防御の態勢に入った。
「撃ち貫け! ブリュー―――」
「ここにいらしたのですね、お兄さま、秋人さま!」
「―――レイヴェル?」
突然第三者の声が響く。
それを聞くなり秋人の魔法が霧散し、魔法陣から光が失せた。
「……レイヴェル来ちゃったしこれで終わりかな」
「た、助かった……」
どっと息を吐きながら炎を散らし防御態勢を崩すライザー。
「昼食の準備ができたようなので呼びに来ましたの」
「そうか。レイヴェル、すまないが先に行っておいてくれないか? 俺はシャワーを浴びて向かう。秋人、お前はどうする」
「んー、レイヴェルと先に行ってる。汗かいてないし……あ、でも」
秋人は二人から少し離れると何かを呟く。
すると、秋人の体が深紅の炎に包まれた。
勢いよく燃える炎を見てもライザーとレイヴェルはあわてることなく、じっと見ていた。
ほんの一秒足らずで炎が消え、秋人は焼きあがるどころか、戦闘で汚れていたはずの衣服が清潔感漂うような状態になった。
「ふぅ、これでよしっと」
「浄化の炎ですか?」
「そ、さすがに土煙被ったまま飯なんていうのはないし。それじゃあ行こう、レイヴェル。ライザーもまた後で」
「ああ、すぐ行く」
ライザーと別れ、秋人とレイヴェルは広間へと向かった。
◇―――――――――◇
「秋人君、ライザーはどうだったかね」
数分後、さっぱりしたライザーが広間へと着き、全員で食事をとりだす。
間を見てライザーの父親が話しかけてきた。
「結構鈍ってたみたいですよ、フェニックス卿。ライザーはここしばらく机と向き合ってたんですよね?」
「何度も言ってるじゃないか、ロイドで良いと」
にこやかに話すロイド。
彼がそういうのも当たり前であり、フェニックス家と秋人は家族ぐるみの付き合いがある。
秋人の両親とフェニックス家現当主、ロイド・フェニックスは友人関係であった。
ロイドがフェニックス家当主を次ぐ以前、悪魔の仕事を行っている際に秋人の両親と出会い、意気投合。
その後も関係が途切れることはなく、かれこれニ十年近くになっていた。
「まあ、ライザーにも少しながら仕事を回し、特に最近は忙しかったからな。そうなってしまったのは仕方ないか」
「それにもうすぐお兄様の初の公式レーティングゲームですもの」
「……いや、確かに仕事に研究とで忙しかったが、それは言い訳だ」
父親と妹の言葉を切り捨て自らを振り替えるライザー。
「ハッハッハ、そうかそうか。ライザー、お前も言うようになったじゃないか。そう思わないかリーゼル?」
「ええ、そうですね。以前まではフェニックスの才に溺れ、悪い意味でプライド高かったもの」
「は、母上っ」
「うふふ、ごめんなさいね。でも、そのライザーが今のライザーに変われたのもきっと秋人君との出会いがあったからなんでしょうね」
「……確かに今の俺があるのはこいつのおかげです。俺を負かし、現実を教えてくれた秋人の、な」
「なんかきれいに言ってるが、図々しいうえにケンカを売られたからイラッときて殴っただ」
「だが、殴られて分かることもあるんだ」
「……そーかい」
「秋人さま、照れていますの?」
「うっさい」
レイヴェルに指摘され、顔を少し赤くしながらそっぽ向く秋人。
それを見てレイヴェルたちは笑みを浮かべた。
「ところで秋人君、あの件は考えてくれたかな?」
ロイドはいまだ笑みを浮かべながら尋ねた。
「……養子の件ですよね。金銭的な援助をしてもらってるだけでもありがたいのに、そこまでしてもらうのは気が引けるといいますか……」
「別に気にしなくていいんだぞ。秋人君とは家族同然なんだ。それに君の両親、春彦と夏妃からも頼まれて―――」
「あなた、秋人君が困ってますわよ」
「む、むう」
申し訳なさそうな表情をする秋人に気付き、リーゼルはヒートアップしそうなロイドを止めた。
ロイドは強引過ぎたと思ったのか気まずそうに唸る。
「秋人君、二人が亡くなった時から言ってますけど、どうしようもないときは絶対に頼りなさい。あなたがあなたらしく生きること、それが晴彦と夏妃の願いであり私たちの願いなのだから」
「はい」
「よろしい」
秋人の返答に満足そうに頷くリーゼル。
「あとあなた、縁組の話を持ち出すのはいいですけど、それを聞いてるとソワソワしだす子もいるのですから、ね」
そう言って秋人……の隣に座るレイヴェルをチラリと見る。
ロイドは「そうだった」と微笑ましい眼差しになり、ライザーは喉を鳴らしながらも笑いをこらえようとする。
三人の対象となるレイヴェルはというと赤くなった顔を悟られないようにと平然を保とうとしていた。
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