問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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拉致
二一〇五三八〇外門・“ノーネーム”本拠。
一輝は本拠の入り口の広間で列を作っている子供達の前に立ち、今日も元気な子供達に圧倒されていた。
朝ごはんの話になると、
「はい、美味しかったです!」
「今日はご飯と目玉焼きとミカンでした!!」
「昼食が待ち遠しいです!!!」
と、とっても元気に言うのだ。
その声は聞いていて自然と口元がほころぶが、同時に苦笑してしまう。
ミカンは一輝の倉庫からの提供だ。
《いや~、この子達はいつでも元気だよな・・・賑やかで、昔のことを考えなくてすむけど。》
吹っ切ったといっても、静かになると無意識に考えてしまうものだ。
《さて、今日は皆を手伝うことにするか。》
一輝がそんなことを考えている間に、レティシアの話は終わったようだ。
子供達は一斉に走り出し、その場には一輝、レティシア、ペスト、ヤシロ、スレイブ、リリの六人が残る。
「毎日、よくあんなに元気に働けるわね。」
「それが彼らのコミュニティにおける役割だからな。それに、今回は収穫祭に参加できるという楽しみがあるし、一輝がデザートの果実を人数分出してくれるようになってからは皆、本当に元気に働くようになった。」
「あれは、皆が素直な子だってのが大きいよ。まあ、果物についてはたまる一方で困ってたから、正直俺も助かってる。」
一輝は中学に入って一週間が経った頃、ある妖怪が一輝のクラスに妖怪が来て「強者はいねえかー!」と言って暴れ、一輝によってあっさり取り押さえられたのだが、クラスメイトの前で殺すのがためらわれ、反省のために倉庫の中の畑の世話を任せ(命令し)たのだが、その妖怪が畑仕事にドハマリしてしまい、反省したら開放するつもりが、本人が拒否。
それ以来ずっと畑で果実を育て、気が付けば一種類の果物だけで一年暮らせる量が毎年たまる。
もちろん、そんな量を食べきれるはずもなく、知り合いに配っても減る気配がない。
なら捨てればいいかと言うと、もったいないので無理。
倉庫の中の一つに、中の物の時が進まない、と言うものがあるためそこにためていたのだ。
余談だが、その妖怪はちょくちょく倉庫から出てきて、子供達と一緒に畑仕事をしている。
「ところで、朝から姿を見ないけど、黒ウサギはどこに行ったのよ?昨日までは本拠にいたでしょ?」
比較的早起きな黒ウサギの姿を見ないことで、ペストがレティシアにたずねる。
「ああ、そのことについては・・・一輝に聞いてくれ。」
「ん?何で俺?」
「当事者が説明するのが普通だと思うよ、お兄さん。」
「確かに、マスターはあれを手伝ったのですから、聞かれたなら答えるべきでしょう。」
「あれ?」
スレイブの濁した内容について、ペストは一輝に目で尋ねる。
「あれってのは、拉致のことだよ。」
「拉致!?一体誰がそんなことを・・・」
さすがのペストも、拉致と言う言葉には驚いたようだ。
「やったのは白夜叉だよ。んで、俺も協力したんだ。」
一輝はそういうと、そのときの状況について説明を開始する。
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一輝はそのとき、ある生命と契約をしていた。
「我、汝を我が式神とし、わが手足とする。汝、この契約を受け入れ、我に従属せよ。」
一輝が契約の言霊を唱え終わると、その生命達は一輝が掲げる霊験あらたかな紙にそれぞれが入り、式神となる。
今回契約をしたのは五体の、同じ種類の生命である。
「よし、契約完了。使えるときは限られるけど、その時に役立てばいいか。」
ここで、式神の契約について簡単に記しておく。
式神の入手法は二種類だ。
①自分が所属する神社などの神域で、その土地から与えられる。
②妖怪や魔物などの普通ではない存在と一方的な契約をし、式神とする。
①のやり方は、無条件で望む量の式神をもらえるが、ある程度高位の存在には太刀打ちできない。
②のやり方は、相手がこの契約に承諾する可能性が限りなく少ないが、そのものの霊格を上げ、高位の存在にも対抗できるようにする。
どちらにも一長一短がある。
「さて、意外とあっさり終わって時間が空いたが・・・何をしよう?」
一輝がやれることがなくなり、その場に座ると、黒ウサギが走ってくる。
「一輝さん!今ものすごい光がこちらから見えたのですが、何かありましたか!?」
契約の光は、割と思いっきり輝く。
「ん?大したことじゃないよ。俺が戦力の式神を増やしてただけ。」
「ほう、どんな式神が増えたのか、興味があるのう。」
一輝の後ろから白夜叉もやってきて声をかける。
その後ろには女性店員もいた。
「おはよう、白夜叉。わざわざノーネームに来るなんて、なにかあった?」
「いや、二つほど用事があってな。一輝と黒ウサギにだから、勝手にいくでないよ、黒ウサギ。」
何かいやな予感でもしたのか、こそこそと逃げ出そうとしていた黒ウサギは、白夜叉に呼び止められ戻ってくる。
「まずは一輝にじゃが、私からの依頼について、追加で欲しいものはないか?」
「追加ってことは、ヤシロちゃんとスレイブの隷属以外で?」
「ああ。私からの依頼、と言う形であった以上、何か別のものを贈らねばならぬからな。」
一輝は本気で悩む。
強い刀が二振り手に入り、これと言って欲しいものが思いつかないのだ。
散々悩み、結果、一つ思いつくが、
「ジンの要求って、通るの?」
「旗を手に入れれば、十分に権利を与えられるよ。」
問題なかったためボツだ。
「・・・・・・・なら、今回の件でもらえるだけ、これを作って欲しい。」
一輝はそういってお札の元である霊験あらたかな紙を白夜叉に見せる。
「ふむ。これは見本として預かってもよいか?」
「ああ。まだ割りとあるし。」
「では、作らせるが・・・おそらく、ほぼ無限の量になるぞ。」
「・・・いいよ。他に思いつかないし、無限にあったら助かるっちゃ助かるし。」
一輝は、一瞬固まった後に、そう返す。
「では、次は黒ウサギのほうの案件じゃが、」
「なんでしょう?」
白夜叉は少しばかり黙る。
その状態から、重要なことだと考えた黒ウサギは真剣な表情になる。
一輝は、かすかに噴出しそうになっているのを見つけたため、半分面白がっているな、と考え、式神を五枚手に持つ。
白夜叉は顔を上げると、黒兎の目を見て、こういった。
「天平の旗本にスカウトに行くから、黒ウサギも付いてくるのだ!」
黒ウサギは全速力で逃げ出した。
「一輝!」
「おう!新入りのお披露目だ!」
一輝は先ほど作った五枚の式神のうち、一枚を掲げ、言霊を唱える。
「式神展開。“食”!捕まえろ!!」
式神、ブラック★ラビットイーターが現れた!
ブラック★ラビットイーターは触手で黒ウサギを捕らえた!
「にょわー!なぜここにラビットイーターが!?」
黒ウサギが全部燃やしたはずなのですよー!!と、振り回されながら叫ぶ黒ウサギ。
「残念だったな!その中に残った種を育ててもらい、ブラック★ラビットイーターは俺の式神となった!」
「何をしているのですか貴方は!?“擬似神格・金剛杵”!」
黒ウサギは稲妻によって焼き倒そうとするが、
「なぜですかー!」
それは触手十本を犠牲に逸らされる。
今、式神となったブラックラビットイーターはその霊格を上げている。
完全には防げなくても、逸らすことくらいは出来るのだ。
「追加で、式神展開。“食”!」
一輝は残りの四体も召喚し、ブラックラビットイーター五体で黒ウサギを弄る。
全身を触手で撫で回され、真っ赤になったあたりで止めさせて黒ウサギを白夜叉に預ける。
「では、行ってらっしゃい!」
「うむ、行ってくる!」
こうして、黒ウサギは誘拐されていったのだった。
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「とまあ、こんな感じで黒ウサギは連れて行かれたよ。」
「なにやってるのよ、アンタは・・・」
ペストは思いっきりあきれていた。
「さて、じゃあ俺は子供達を手伝ってくるよ。力仕事は危ないからね。」
一輝はペストのあきれの視線を背に、子供達の手伝いに向かった。
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