問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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破滅の抜け道 ⑥
そこにあるのは吹き荒れる暴風雨、炎を纏った大量の隕石、全てを破壊しつくさんとする稲妻、その全てが、世界を滅ぼさんとしている。
そんな場所にいれば、巻き込まれて死ぬのは確実なので、
「式神展開“防”結界陣!」
一輝は自分達を覆うように結界を張らせ、危機を逃れる。
「三人とも、無事?」
「はい、三人とも無事です。二人は気絶していますが・・・」
スレイブは音央と鳴央を支えている。破滅の気配にあてられ、気絶してしまったのだろう。
ちなみに、スレイブは今の今まで破滅サイドだったので耐性があり、一輝は中にいるものが強すぎたため、影響を受けていない。
「まあ、疲れてるんだろ。後は休んでてもらおう。」
一輝はギフトカードをかざし、二人を中に入れる。
「で、これからどうするのですか、マスター?」
「俺は、ヤシロちゃんを探して、救い出してくるつもりだ。」
「この破滅の中を、ですか?」
「ああ。俺のギフトなら、問題なく探せる。ここにあるのは、たいてい形がないからな。」
「なら、私はいても邪魔なだけでしょうね。」
「悪いけど、そうなるな。少しでも身軽なほうがいいし。」
一輝は本当にすまなさそうな顔で、スレイブを見る。
「構いませんよ。私は、マスターを信じて待つだけです。」
「ありがとう。必ず、このゲームをクリアするよ。」
「御武運を。」
スレイブは自分からギフトカードの中に入る。
「さて、いつも通り、行きますか。」
一輝は式神をしまい、水に乗って飛ぶ。
目の前にある竜巻を空気の膜をまとって突破し、降ってくる隕石は水で切り裂く。
くれぐれも、二つ目の勝利条件をクリアしてしまわないように、慎重にだ。
途中にいた化物たちは、ヤシロの言うとおりそこまで強くはなく、見向きもせずに切り伏せていく。
「さて・・・ヤシロちゃんはどこだ?」
一輝は視界が悪い中、必死に探し、途中で視覚をいじればいいことを思い出す。
「あせるな・・・冷静になれ、俺。」
そして、視覚をいじると、一瞬でヤシロを見つける。
そこまでの苦労(?)は何だったのだろうか。
「ここだけは、静かなんだ。」
「うん。ここは、台風の目みたいなものだからね。」
「なら、ゆっくりお話が出来るな。」
一輝はヤシロの横に座り、全身の力を抜く。
「戦える、じゃないんだ?」
「ああ。勝利条件に“ゲームマスターの打倒”は入ってないからね。むしろ、その逆だし。」
そう、今回のゲームの勝利条件は“少女を破滅から救い出す”こと。
ヤシロ本人と戦っては、意味がないのだ。
「で?ヤシロちゃんとしては、何から救って欲しいんだ?」
「それを言ったら意味がないよ。お兄さんが自分で考えないと。」
「なら、勝手に思いついたことを言ってくよ。」
一輝はヤシロの前に回り、目の高さを合わせると、
「ヤシロちゃんは自分にある破滅から救ってほしい。だからこのゲームなんだ。」
そう、自分の考えを語る。
「自我の強いヤシロちゃんやスレイブはその感情があるはずなんだ。だから俺は、スレイブを助けたし、君も助けようとしてる。半分は、勝手な自己満足だけどな。」
一輝は微笑みながら、ヤシロに告げる。
「そっか。これがお兄さんの力なんだ。」
「力?」
「うん、力。ちゃんと自分が救いたい人の心を理解する。それは、立派な力だよ。」
「今までにうまくいったのは、箱庭に来てからの四回だけだと思うけど。」
一輝のカウントは、鳴央、音央、スレイブ、そして、今成功したヤシロの四回だ。
「きっと、もといた世界でも気づかないうちにやってたんだと思うよ。」
「そうだったら、うれしいな。」
ヤシロは一輝のほうを見て、話を続ける。
「で?お兄さんはどうやって私を救ってくれるの?私は破滅という概念の具現化。この世界でもわかるように、様々な手段で破滅するよ?」
「そんなもん、決まってるだろ。」
そういうと一輝は立ち上がり、手を広げると、
「こんな破滅は、全部俺が操ってみせる。」
一輝の言葉とともに、嵐は止まり、津波は全て消え、雷と炎に包まれた隕石ははるか上空に上がり、お互いにぶつかって消滅する。
形無いものによって作られる破滅は、一輝にとってなんでもない。
自らの意思によって消せるものだ。
「お兄さんのギフトって、ここまで出来るものだったの?」
「ああ。この手の破滅なら朝飯前だし、形があるなら、破滅という概念を操ってやる。俺になら、オマエを破滅から救い出せる。」
一輝はヤシロに手を差し出し、
「だから、俺と一緒に来い。魔王という道から、破滅という未来から、完膚なきまでに救い出してやる。」
「うん!これからずっと、お兄さんについていく!」
ヤシロがそう宣言し、一輝の手をつかんで立ち上がると、“契約書類”から勝利宣言がなされ、元の森に戻る。
「終わりましたね。お疲れ様でした、マスター。」
と、同時に、スレイブがギフトカードの中から音央、鳴央とともに出てくる。
「おう。全部終わった。だからたぶん・・・」
一輝はポケットの中を探り、一枚の羊皮紙、白夜叉からの依頼書を取り出す。
それが光ると、羊皮紙が消え、代わりに二つのDフォンが現れる。
「はい、これが俺との隷属の証。スレイブは少し違うけど、まあいいだろ。」
「ありがとう、お兄さん。私の霊格がどんどん落ちてく感じがするよ!」
「ありがとうございます、マスター。私のほうは何も感じませんが・・・」
「まあ、魔王の霊格を保ったままってのはありえんから、耐えるしかないな。
スレイブがなんともないのは、剣と主との契約だから、かな?」
二人の登録がDフォンにされると、次は虚空から二着のメイド服が現れる。
「マスター、これは一体・・・」
「メイド服。隷属する人は着ることになってるっぽい。」
「いや、ですがこれは・・・ヤシロも私と同じ」
「この服可愛いね、お兄さん!サイズもぴったり!」
「既に着ている!?」
このメイド服は特別仕様で、今着ている服に合わせると勝手ピッタリになるように変わり今着ている服と入れ替わる、というもの。
ゆえに、この場で服を脱いだわけではない。
「さて、後はオマエだけだぞ。そこの二人も着てるし。」
「ううう・・・解りました。」
スレイブはそのまじめな性格ゆえ主に逆らうことは出来ず、自分の服に合わせる。
すると一瞬でメイド服に変わる、が・・・
「これは・・・予想以上に動きやすい。これならいいかもしれません、マスター。」
「うん、そうか。オマエがいいならいいんだけど・・・」
「?まさか、似合ってませんか?」
スレイブがちょっと悲しそうな顔で聞いてきて、一輝はあせる。
「いや、それはないぞ。すっごく似合ってる。なあ?」
「うん。スレイブちゃん、かなり似合ってるよ。」
「では、何が問題なのですか?」
「それは・・・」
「ええっと・・・」
一輝の目はスレイブの頭の上に、ヤシロの目はスレイブの後ろに向けられる。
その視線から理解したのか、頭と背中に手を伸ばすが・・・
「なぜ私のものだけこれが!?」
そこにあったのは猫耳と猫の尻尾。
思いっきり猫メイドだったのだ。
「まあ、そういうことだ。似合ってるからいいとは思うが。」
「いいわけがないでしょう、こんな恥ずかしい格好!」
スレイブはそういいながらメイド服を脱ごうとするが、あわてているためかうまく脱げず、全裸になることを忘れ、剣の姿になるが、
「おっ。鞘が付いてる。」
メイド服は脱げず、剣に鞘が付いた。
「なるほど。一番ぴったりな格好になるから、剣の時には鞘が付くんだ。」
「そして、メイドの間は猫耳と尻尾。スレイブ、一個命令な。」
「はぁ・・・何でしょう?」
スレイブは脱げなかったことに落ち込んでいるが、一輝が追い討ちをかける。
「それ、着用を義務付けます。」
「・・・ハイ。」
スレイブは、全てを諦めたような声で、そういうのだった。
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