ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
~第二層~
前書き
説明回と繋ぎです。
扉の奥はまたしても薄暗い通路だった。
しばらく進んでいくと、壁に突き当たり、左脇に階段が現れた。大胆にもそのまま進もうとするレイとレンの肩ををリンがガシッ、と音がしそうな勢いで掴み引き戻す。
「なんだよ」
「あのな、お前らがSAOでどんだけ強かったか知らないけどな、もう少し慎重になってくれ、頼むから」
「……そうだな。悪い」
「ごめんなさい……」
そう。これは正に『遊びではない』世界、紛れもない『現実』なのだ。それに、さっきの戦いで分かった事が1つある。
それも早急に話し合わなければならなかった。お互いの安全のためだ。
「ちょっといいか。立ち止まったついでに話しておこうぜ、お互い何が出来るか、とかさ」
「うん、それは僕も思ってた。さっきは中々危なかったしね」
俺の提案にレンが賛同し、それに次いでレイもリンも頷いて向き直った。立ち話もあれなので腰を降ろすと、まず自分が口を開く。
「じゃあ、俺から行くか。能力構成はSTR一極。武器は両手剣だが、ちょっと工夫して弓とかもできる。後、リアルでは武術をやってる。……で、茅場の言う俺の異能は《殺陣》――斬合いの意味の方な――と《錬金術》って俺は呼んでる。《殺陣》は自分のステータスを一時的に入れ替える事が出来る。《錬金術》は簡単に言えば武器生成だ。何が出来るか分からないのがタマに傷だが……」
「ふうん。いや、使い方によっちゃあ、中々便利な能力だな」
「そう、なのか?」
片頬を吊り上げてにやりとするレイに半信半疑で訊ねると、「まだ秘密」とはぐらかされた。
「じゃあ、次。俺がいくか。能力構成はバランスで筋力が若干高めだな。武器は大太刀で、ユニークスキルは《両刀》。こいつは中々利かん坊でソロプレイ状態じゃないと使えないってんのがあるんだが、今は関係ないな。ちなみに設定されてるソードスキルは1種類のみ、さらに《両刀》発動時間は最大10分だ。後、実家はちょっと特殊でな、剣技に関してはソードスキル以外もできる」
『特殊』……か、あまり詮索しない方が良さそうだな。
「次は僕ね!えっと、能力構成はAGI一極で武器はワイヤー。ちょっと色々あって《心意》っていう……ええと、スキル?が使えてさっきみたいな空間侵食とか空間切断みたいなのがあるよ。……そのぐらいかな?」
……とんでもないヤツが居たもんだな。年下だと思って気を使わない方がいいか。
「最後は俺だな。能力構成はバランスの敏捷値寄り、何だかんだで《二刀流》を使える。二刀流、あったよな?」
念のため、という感じで訊ねるリンに全員が頷く。
「後はまあ、《二刀流》状態だと両手に剣を握っていてもスキルが発動できるっていうのを利用して片手剣のスキルを繋げていく《剣技連携》とかできるな」
「おお、なるほど。そんな使い方があったのか」
その後、あれやこれやお互いの邪魔をせず、助け合えるように戦法を考えている内に4人の精神的距離は若干だが、縮まったような気がした。
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「そろそろ行こうか」
話がまとまったところで立ち上がり、俺は階段に向き直った。今度はいきなり踏み出すような真似はしない。
背から大太刀を抜くと壁や足元をつつきながら慎重に昇っていく。幸いにしていきなり床が抜けたり、毒矢が射出されたりはしない。
さっきの会話で改めて認識した事だが、この世界は紛れもない『現実』である。身体能力こそ『レイ』だが、外身は間違いなく『水城螢』なのだ。
それに気がついた時俺は無意識に自分の左腕に触れ、その感触を確かめた。そしてまた新たな事に気がついた。すなわち、仮想世界ではあまり使えなかった『水城螢』自身が持っているスキルを使えることに。これは大きなアドバンテージになる。
研ぎ澄まされた彼の感覚器は鉄の扉の向こうの音や臭いを感じとり、温度、湿度、大気の流れ、それに含まれる成分までもかぎ分ける。彼が一度警戒を始めれば、害意ある存在は隠れては居られない。
例えば4人の足音、罠を確認する物音、呼吸音以外の音を発する、『何か』。硬質だが軽い物体が発する摩擦音を感じとり、その音源に向かって大太刀を振り上げる。
叩き落とされたのは、人型の何かだった。全身に黒衣を纏い、それが何であるかは判別出来なかったが、彼はソレが発した音から大体の予想はつけていた。
大太刀の刃を返すと、右手で矢を引き絞るように引いていき、左手で刃を撫でる。
それこそ正に矢を放たんとする構えに至った時、大太刀が一瞬強烈なライトエフェクトを撒き散らしたと思うと、空気を切り裂いてその人型の何かの頭部に突き刺さり、粉砕した。
出が最速の大太刀突き技基本ソードスキル《穿》
単発重攻撃《崩天突》と酷似した構えだが威力、射程においては数段劣る。
しかし、片手武器の基本ソードスキルに並ぶ発動の速さを持ち、かつ両手武器のため威力もそれなりにはある。
その襲撃者がその場に現れてから倒されるまでにおよそ3秒強。恐ろしく鮮やかな手際だった。
「ちっ……ゲツガ、前に来てくれ」
「どうした、何だコイツ?」
「……所謂、《骸骨剣士》だな。この骨、本物だ」
俺が答える前にソレを検分していたリンが若干気味悪そうに答えた。
「ああ、そうだろうな。……上からどんどん来やがる。こんな狭いスペースじゃまともに剣も振れない。レンのワイヤーもスピード半減だ」
さっきの作戦会議の折に、レンのワイヤーに興味を持ったレイに切れ味を見せるために壁を切り刻もうとしたが、ここの壁は《心意》をもってしても浅い傷が付く程度だった。4人の中でもっとも殺傷力に秀でるレンという手札が封じられているこの状況を打破する手立ては―――、
「俺とゲツガの徒手空拳で骸骨剣士をやるしかない。……ゲツガ、骨砕けるよな?」
「いや、まあ……。やれない事は無いだろうが」
しかし、あくまでスポーツであった技で――化物とはいえ――『殺し』をするのはややきついかもしれなかった。
「来るぞ!」
リンとレンが渋々下がるのを傍目に見ながら貫手を放つ。
回転を加えられた『捻り貫手』と呼ばれるその技は人体に穴を穿つ為の紛れもない『殺傷技』だ。
骸骨剣士のあばらを粉砕し、その動きを止める。
「はあぁぁぁぁっ!!」
対するゲツガは動作の小さい手刀を骸骨剣士の鎖骨に叩き込み、体を入れ替えながらあばらに掌底を叩き込んだ。
(空手……?いや、何だあれは……?)
構えを直す時の見たこともない不思議な歩法はどこか太極拳の匂いがする。そこから直した構えは恐らくムエタイの構え、確か名前はタン・ガード・ムエイ。肩をすくめ、首を守るものだ。
襲いかかって来た骸骨剣士の錆び付いた剣を側面に手刀を叩き込む事で逸らし、膝蹴りからの前蹴りのコンボで後ろにいる骸骨をまとめて吹き飛ばす。
丁度ゲツガも虎口拳のような攻撃で敵を沈め、若干の余裕が出来た。
「なあ、ゲツガ。お前の武術って、具体的には何?」
「ん?ああ、基本はムエタイをベースに色々混ぜて総合格闘技にしたものかな?」
「なーる……」
対人戦闘に優れたムエタイならば人型である骸骨にもある程度は有効だろう。
(なら、大丈夫か)
今までのフォローするような動きを止め、俺は初めて構えを取った。
(何体居るか不明。こっちの体力は有限。ならば……)
後ろのリンとレンにそれとなく合図を送り向から了解の意を受けると、丁度向かってきた骸骨の腕を取り、勢いそのまま後ろに放った。
床に叩きつけられた骸骨は起き上がる前にリンとレンに始末される。
彼の取った作戦は、前衛のゲツガと俺が敵の大部分を引き受ける。しかし今までのように全部は引き受けず、少数の敵を見逃しリンとレンに倒させるというものだ。
2人の実力からして、剣やワイヤーが満足に扱えなくても少数の敵だったら対処は難しくないはずだ。階段の脇に骨の残骸が積み上がり、やがて骸骨剣士の大群も潮を引いていった。
(……ったく、意地悪ぃな。ここの主は)
塔に入った瞬間から感じる粘ついた視線。気のせいでは無いことはもはや明らかだ。
しかし、その視線がこの《刻の塔》の主である《魔女》で妨害をするならば、何故もっと真面目に妨害しないのか……?
次第に蝋燭以外の明かりで照らされつつある階段を昇りながら、そんな事を考えた。
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第二層・《黒羽の間》
「……って書いてあるな」
「「「………………」」」
絶句である。無理もない。さっきのチェス版の間(仮)には看板は無く、いきなり襲われた。今回は親切にも階層名と広間の名が書いてあり、さらには中央部まで進むと説明書きまで書いてあった(先程から絶句している理由の1つに、それらが『日本語』で書かれているのもある)。
曰く、正面の扉を開けるには4つの鍵が必要。鍵はそれぞれ守護獣がいる。倒して手に入れろ。
あ、ちなみに守護獣は1人1体相手をするようにby魔女様
この広間には5つの扉がある。正面に最も大きな扉、多分これが次の階層に行く扉だ。残りは左右に2つずつで、その先は暗くなっていて見通せない。
「舐めてるな、この魔女ってやつ……」
「何歳かな?」
「訊いてみろよ、レン」
「……怖いもの知らずのレイにーちゃんが訊いてくれるよ」
「やだよ」
緊張感ゼロの会話をしながらじゃんけんでそれぞれが向かう扉を決める。結果、
リンVS守護獣第一翼《大鴉》
ゲツガVS守護獣第二翼《鷲獅子》
レンVS守護獣第三翼《黒龍》
レイVS守護獣第四翼《梟》
ちなみに守護獣達の総称は『黒き翼を持つもの』と言うらしい。
4人の異端者達はそれぞれの扉の前に立ち、互いに頷き合う。
それは必ず生きて帰ってくるという誓い。体の向きを変え、歩き出す。
4人の異端者を迎え撃つのは『因果』司る守護神獣。
彼らもまた、『異世界』からの訪問者である…………。
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