ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
~第一層~
襲い来る敵に地上型は居なくなり、主に今俺達の周囲を囲んでいるのは飛行型。俺が最初に接敵した怪鳥の類いだ。
SAO時代の戦闘能力を得たため、その巨大怪鳥といえども、もはや物の数に入らないほどの相手でしかない。
無限とも言えるその手勢にこちらはたったの4人。しかし、先程から階段を掛け上がる速さが落ちるどころか、上がっている事からもその歴然とした戦闘能力の差を表している。
「キェェェェェッ!!」
「……邪魔だ!」
右手の片手直剣を腰辺りで地面と平行に構える。その瞬間、体が自動的に動き右回りに回転しながら怪鳥を斜めに切り付けた。
単発斜め斬りソードスキル《スラント》
超の付く基本の技だが、先程からの攻防でリンは怪鳥の弱点を見抜いていた。
それは巨大ながら空を飛ぶため、やむなくそうならざるを得なかったのだろう体の構造だ。すなわち、骨密度の削減。
体を支え、着地に耐えうる最低限度の強度しか持たない怪鳥の骨は驚くほどに脆い。
斜め斬りが鳥の肋骨を砕き、そのまま内蔵を傷付け、内部を破壊する。振りきった剣からはどす黒い血が滴り、怪鳥が目の前で同色の血を撒き散らしながら倒れた。
「…………っ!!」
これは迂闊にも誰もが予測していなかった事だった。しかしそれは当たり前の事で、ここは『現実』。命あるものには血が流れ、斬ればそれが噴き出す。
いつになくリアルに肉を裂き、骨を砕く感触が剣を伝わってきてしまう。
前方で鮮血が弾けた。
戦闘で長大な刀を振り回し、文字通り血路を開いているのはレイと名乗った人物だ。
彼はリアルな命を奪う感触に俺達が動揺したと見るや動きを一変させ、派手に立ち回って他の3人から怪物達の注意を引き剥がした。俺達が再び立ち直り始めるまでにおよそ3分。鮮血の中を舞うようにして襲いかかる怪物達の息の根を止めていった。
それも眉1つ動かさずに、冷徹なまでの瞬殺だった。
(さっきのガスの件といい……)
ガスの成分とその効果こそ一般に知り得る情報なため、リンも知識としては知っていた。しかし、臭いからその名称を引き出し、対処を講じるという芸当は彼には出来ない。
だが、レイはそれをやってのけた。普通ならば臭いも成分もその効果も知り得ないはずの事を知っていた。加えてあの表情だ。厳しい訓練に耐え、実戦を経た兵士は命令1つで思考を殺戮マシーンに変えられるという。
リンは目の前でまたも数匹をまとめて葬った剣士の背に目をやりながらそんな事を考えていた。
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「おおう……」
螺旋階段頂上部の円盤は直径20m程もあろうかという巨大な物体だった。ようやく広い所で戦えると思ったが、さっきからひっきりなしに襲いかかって来ていた怪鳥共は何故か円盤より上には来ない。
眼下の巨鳥達は悔しそうに奇声を上げながら降下していった。
円盤の中央にある一段高くなった台座に上がると、緩かな上昇感と共に台座が頭上に微かに見える物体――恐らく《刻の塔》――に向かって高度を上げていった。正直眼下の世界の事は意識したくない。
もはや豆粒程の大きさも無いほど上空に居るだろう。1分程すると、目的地の全容が見えてきた。
そこは《塔》というより《城》、あるいは《宮殿》と言った方がいいのではないかと思うほど横に広い。しかし次の瞬間、《塔》と呼ばれる所以がはっきりした。横幅が広い建物の中央付近、そこにはきちんと《塔》らしき建造物が見てとれる。
「下の建物は何かな?」
「構造からして、1・2層が下のやつ、3層があのちっこいやつじゃないか?」
「……《魔女》が居るところだろう?随分と貧相だな?」
他3人も同様の感想らしく、しきりに首を捻っている。そうこうしている間に刻の塔をぐるりと一周した円盤は下層部分の入口らしき穴の前で停止した。RPGよろしくクエスト開始ログも出ず、ただ暗黒を抱く入口がぽっかりと口を開けているだけだ。
「……行くか」
罠は嵌まってからどうするか考える派のレイとレンが並んで歩き出し、石橋岩を落として渡る派のリンとゲツガが渋々といった形で続く。
外からの明かりが途絶えた瞬間、両脇の壁に設置されている蝋燭に火が灯り、通路を照らす。すると、20m程先に広場のような空間があるのを見つけた。
4人は前後の2人づつ壁際に散開すると、そっとその中を覗き込んだ。最初に目に付いたのは床の市松模様。10k㎡はありそうな巨大な空間いっぱいにそれが広がっている。
見れば真っ直ぐ正面の最奥に扉らしきものが見えた。
「何も見当たらないが……」
「行くしかないな……」
覚悟を決めて頭を戦闘モードに切り替える。一気に扉に向かって駆け出すが、このまま行けるはずが無いことは全員が自ずと悟っていた。
「なるほど、この市松模様、チェス盤か……!」
一瞬にして進路に立ちふさがったのは白と赤の石で出来た人型戦士達。剣を持っている軽装の戦士が一番多く、馬に乗っている騎士や本と杖を持っている神父のような石像。固そうなタワーシールドを構えた重装の石像もあった。
何より目を引くのが赤と白それぞれ1体づつ、計4体の王様女王様然とした石像だった。
これ等と床の模様から導き出されるのはチェス。
ただし、ルール無用の物量攻撃だ。チェスの駒は最大32だが、王と女王以外は無限に居る。訳わからん。
「また大勢だね~」
「嬉しそうだな、レン」
「え、リンにーちゃんの方こそ口元つり上がってるよ?」
「む……」
どうやらこうゆう状況が好きそうな2人に挟まれ、ゲツガは微妙な表情で他の同行者に目を向けた。
―――恐らくは、この状況でテンションが上がらない、という自分の常識を確認するために。しかし、そこに有ったのは……
「よぉし、多分あの王様、女王様倒せば扉が開くんだろ。周りの奴を適当にぶっ壊しながら進もうぜ」
「「オッケー!!」」
先の2人同様、アドレナリン全開のレイの笑みであった。
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―鎮魂歌・七つの大罪―
周囲にワイヤーが走り、それに触れた石像は抵抗無くバラバラになる。半径10m程の敵をまとめて葬るが、何秒も経たない内にその空間は埋まってしまった。
戦闘が始まってからおよそ10分。無限に湧き出る石像に阻まれ、一向に進む事が出来ない。
「ま、関係ないけどね」
後方ではレンに後ろから襲い掛かろうとする石像を食い止めるレイ、リン、ゲツガの姿がある。不幸な事に3人の武器は石像に対して文字通り刃が立たず、かなり苦戦を強いられている様子だ。
レンのユニークスキルである《アレ》を使えばこんな敵はものの数に入らない。しかし、今使うと完全に後ろの3人を巻き込んでしまう。ぶっちゃけこの状況においては他人は足手まとい以外の何者でもなかった。
迷いは一瞬、
―前奏曲・憤怒―
ワイヤーを横薙ぎに払い、前方に空間を作る。敏捷値をフルに使ってその空間に飛び込み再度、鎮魂歌・七つの大罪で周りを掃除する。
これで3人との直線距離は《アレ》の射程圏外だ。
「消えろ」
―【Incarneit system starting】―
刹那、レンの小柄な影の色が濃くなり、そして彼を中心に円形状に影が広がっていく。半径20m程に広がったそれはザザッ、と波打ったかと思うと、影の上の物を吸い込み始めた。
石像達は抗う事もできず、無力な様を見せながら消えていく。
―魔女狩り峻厳―
「よし、終ーわった♪」
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「何だ、アレ……」
身の毛がよだつような―――という方法ならまだ感心する余地はあるが、今のは違った。上手くは言えないが、あえて言葉にするなら……『こう成れ』という意志を凝縮した『望み』を力とした技だろうか。
事実、この影からは何となくだが『消えろ』という意志が伝わって来るような気がした。
前方ではレンがゆっくりと王と女王に近づいて行って、その影に沈めていた。
―ガチン……
扉の錠が外れた音が聴こえ、そちらを向くと、奥の扉がゆっくりと開いていくところだった。
レンはこちらを向くと、無邪気に手を振りながら小走りで帰ってくる。
その瞳の中に何かを見た、気がした―――
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