Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#13 漆黒の翼を追いかけて
暫くアニスとイオンとで、色々と話していると、この部屋にもう1人男が入ってきた。長身で、長髪、そして眼鏡をかけた容姿の男。
「やあ 目が覚めたんですか。大丈夫そうで良かったですね」
「あ…… 貴方は確か……」
アルは、その容姿には見覚えがあった。そう、あの時一緒にゴーレムと戦ってくれた人。……本当に、危なかった時、加勢してくれた人だ。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。申し遅れました、私はマルクト帝国軍第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です」
その男、ジェイドは軍式敬礼だろう所作で一礼をした。それを見たアルは、思わず立ち上がる。こちらも言うべき事があるから。
「あの時、オレを、……町を、助けてくれた人、ですよね? あの時は本当に、どうもありがとうございました。オレはアル……と言います。 名だけで性の方はまだ、わからいのですが……」
ジェイドもアルに記憶が無い事は、アクゼリュスにいた時に、聞いていてわかっていたようだ。
「まあ、ここでの立ち話もなんですから、ブリッジの方へ行きましょう。本来なら、客室に、とも思いましたが、貴方の事も早めに聞いて置きたい事がありますし、それに漆黒の翼が出たとつい先ほど報告がありましたので」
ジェイドの案内でブリッジへと向かう事になった。
(……漆黒の、翼? それが何なのかは知らないけれど、 ……軍の仕事があるなら、そちらを優先した方がいいんじゃないかな? まあ、特に断る理由は無いんだけれど)
アルは後に続いて、この戦艦のブリッジの方へ付いていった。
(あれ……? でも、無関係者がブリッジに入ってもいいのかな?)
「あはは、色々思う所があるみたいだけど〜、大丈夫だよ? 大佐、いつもこんな感じだし。深く考えたら、泥沼にはいっちゃうかもよー?」
「……え?」
アニスの話を訊いてアルは、振り向く。
「いやですねぇ。アニスには言われたくはありませんが」
「ぶー! そんな事ないですよー!」
「え、えーと……」
2人の話を訊いて、更に不安になったけれど……、とりあえず、悪い人たちじゃないと言うのはわかったから。この時だけは、安心できていた。
~戦艦タルタロス・ブリッジ~
タルタロスの艦内は、非常に広かった。アルは、3週間寝ていた割には、問題なく動くできたから、そこまで 苦痛ではなかった。……因みに、ちょっとアニスやイオンが驚いている様だったのは、気づいていない。
そして、ブリッジでは慌ただしく、軍の人達が動き回っている。
「それで、漆黒の翼はどうなってますか?」
ジェイドが、この軍艦を操縦してるであろう兵士に声を掛けていた。兵士は振り向くと。
「はっ! 連中を視認する事は出来ました。奴らは《ローテルロー橋》の方角へ逃走中です」
そう告げると、ジェイドは眼鏡をそっと上にあげた。
「なるほど……、キムラスカ王国へ逃げるつもりですか。頭が回るようです。それに、そうされてしまえば、少々厄介ですね。……できれば、その前に捕らえたいものです」
ジェイドはさらに、指示を出していた。威嚇射撃等の手段を踏まえての足止めだ。周辺に一般人がいない事の確認も指示を出していた。
横で見ていたアルは、……この時、強く思った。
確かに悪い人じゃないんだけれど、この人は軍人だ。そして、今正に戦闘中……と言っても差し支えない状況で『何やらとんでもないところに来てしまったようだ……』と、強く思っていた。
ブリッジに入る前から、この軍艦がかなり揺れていたため、その《漆黒の翼》とやらを追いかけているのは想像できた。そして、話を聞いてみると、その《漆黒の翼》は、この辺りでは有名な盗賊らしい。
……つい数週間前までは、家庭教師をしたり、少しの力仕事、そして休日には、のほほん、とサラと一緒に日向ぼっこしたり、更に、ガーランドさんと晩酌を一緒に……、っと言われてたけれど、レイさんに止められたり。つまり、《仄々とした生活》をしてた筈なのに。
あの日、あの時。鉱山でモンスターに、襲われてからなんか方向性が変わりつつある様だ。
アルは、ちょっと悲観的になっちゃったが、アクゼリュスを救うには、マルクトにもキムラスカにも所属していない、中立であるローレライ教団の導師イオンの力が必要だと言う事は、理解出来ている。
アニスとイオンの話を聞いたらわかる。幾ら記憶が無くても、それくらいならわかる。二国の戦争。例えその争いが続いたとしても。仲裁者が入ればその戦争は一時休戦になる可能性は高いのだ。そうなれば、国境に位置するアクゼリュスを救えるかもしれない、……いや、少なくとも住人の避難誘導はできるだろう。
それならば、今はできる事は何でもしよう、とアルは思っていた。何やらここのジェイド大佐は、自分を気に入ってるらしい。(アニス曰く、話を聞きたいと言うだけで、態々軍艦タルタロスにまで乗せる、なんて事は稀中の稀らしい。……正直、迷惑な気もするけれど)
でもそれは考えによっては僥倖であり、幸運だった。導師イオンと一緒と言う状況も、普通であれば中々有り得ない。……ジェイドがどうして、自分の事が気に入っているのかは、判らないが、この幸運を活かすようにしよう、と考えていた。
アルは 暫く考え、結論を出した後、ちらりと、視線を外へと向けた。丁度見えたのはタルタロスの進行上に辻馬車が1台走っているのが見えた。グングン近づいていって、もう数秒後には、接触するだろう。……大きさが違いすぎるから、ちょっと危なくないかなぁ……? と楽観的に思っていたのは、ほんの一瞬。
「わ、わぁ! ひ、轢かれるよっ!!」
だから、アルは思わず叫んでいた。道端でぺしゃんこになってしまうのなんて、見たくない。羽虫じゃないんだから。辻馬車だから、人も乗っているだろうし。
因みに、ジェイドや他の兵士達も判っている様であり、落ち着いていた。
「そこの辻馬車道を空けなさい。巻き込まれますよ!」
ジェイドのその忠告が拡声機を使い、周囲にその声が響き渡った。それを聞いた辻馬車はサイドに逸れた。……と言うより、訊く前からタルタロスが接近してきている事に気づいていた様だ。……大きな大きな戦艦だし、それなりの速度で運行しているから、地鳴りが凄い。……気づかない訳が無いだろう。だから、ジェイドに言われる前にもう回避行動を取っていたようだ。
そして、どうにか、道端の潰れた蛙、潰れた赤茄子な事にならなくて済んでいて良かった。
「ほっ………。」
アルは、思わず肩を落とした。だけど、ホッとしたのも束の間。続けざまに、声が響く。
「ジェイド大佐!! 敵は、ローテルロー橋を渡り終え爆薬を放出しています!」
そう、相手はかなりの過激集団。爆薬を使うなど朝飯前の様であり、それは肉眼でも十分視認出来る程、出していた。……確認する事が出来た。
「えええっ!!」
アルは、再び驚愕の事実。
(ばくだん? ばくだんって、あのばくだん!?)
アルの頭の中が凄く混乱していたのだ。それは、顕著に現れていた。吹き飛んでしまう可能性だってある、かもしれないから。……爆弾だから。
「あの程度であれば、この戦艦は大丈夫ですから 落ち着いて下さい、 ……しかしまあ 橋を落として逃げるつもりですか」
ジェイドがそう言ったと同時に、それは来たのだった。
「大佐、フォンスロットの起動が確認できました! 敵は、第五音素による譜術を発動している様です」
ブリッジに響き渡る。爆弾の次は第五音素。
(え、えっと……確か第五って……。火の音素だったよね……? うん、間違いない……。それで、 爆弾に火が当たったら……)
アルは、必死に現状を理解しようと頭を回転させた。正直、理解したくなかったかもしれない。だって、爆弾に火と言う組み合せがどう言う事か、どうなるか解ったから。
「ッッ!!……ば、爆発する!?」
だから、またまた叫んでしまった。ブリッジにいるのは、本当に心臓に悪い。ジェイドは、アルの叫びを訊いて、にこやかに笑っていた。
「はい。その通りです。第五音素は、イフリート。火の音素です。本当によく勉強していたみたいですね。……まあ、それはともかく タルタロスを緊急停止! そして、同時に譜術障壁起動!」
ジェイドも当然、彼が記憶傷害だと言う事は知っているし、勉強をして知識を得た、と言うのは、アニスとイオン達の会話から知っているのだ。そう言ったのだ。
……こんな騒ぎの中で、冷静にそう考えられてたのは流石だ、と思える。
ジェイドの命令ですぐさま船員謙兵士達は行動と作業を開始した。譜術障壁の起動、そして緊急停止機構の準備を同時に。
「了解! タルタロス緊急停止! 譜術障壁起動!! 敵の譜術、確認! 橋が爆発します!」
そして、その言葉通り、橋で大爆発が起きていた。大爆発による炎上。……黒煙も空に立ち上り、あの大きな橋は、無残にも崩れ落ちてしまった。もう、あちら側には、この橋を使っては行けないだろう。大陸を繋ぐ為の其々の支柱、海底に埋め込んでいる橋の支柱だけを残し、殆どが沈んでいる。
……あんな大爆発が起きたというのにジェイドは淡白にこなしていた。次の指示をしていたから。
「はぁ……… これが軍人、ですか……如何なる時にも冷静に。……凄いですね……」
アルは、ジェイドを見て、現状を直ぐに把握し指示を出すその手腕。そして冷静に見極めて最善を、いや、最適な行動を取る。……その他色々見て、思わず声に出していた。自分は、取り乱してしまう事しか出来ないから。
そんなアルを見たアニスはアルの脇腹を肘でつつくと。
「アル~? 大佐はねー、ちょーっと他の人と違うからさ?あんま 褒めても意味無いと思うよー!」
そうアニスが、少し意地悪そうな顔をしながら笑いそう言う。さっきも似たような事を言っていたけど……。
「え……と、そうなんだ……」
アルがアニスに訊いている最中。
「いやぁ アニスには言われたくありませんねー」
「ふふふ……。」
ジェイドがすかさず反論しており、そしてその言葉に、イオンも笑っていた。どうやら、それも嘘じゃなさそうだ。アニスも、それなりに色んな意味で凄い人だと言う事。
「えー なんでー! イオン様も笑い過ぎですよぉ!」
言われたり、笑われたりしてアニスはムキになりながら、言うけれど、何度いってもただ、笑い声がするだけだった。
「あ、ははは………」
アルもついつい、つられて苦笑いをしてしまっていた。
《ジェイド》と《アニス》
この2人は、直ぐには掴みにくい性格の様だ。そして、アニスの方は何だか裏表が激しそうだ。
それが、この時のアルの正直な感想だった。
「いやしかし。また 逃がしてしまいましたね……。 おまけに陸路でキムラスカへ行くのは難しくなりました……。 まあ、とりあえず ひとまず撤退しましょう」
そう言うと、これからの行く場所を説明してくれた。
どうやら次は《エンゲーブ》と言う村に行くらしい。
(エンゲーブ、か。……どんなところだろう……?)
アルは、そう……自分の故郷である、《アクゼリュス》しか知らない。だから 少し楽しみでもあった。だけど、やっぱり家族の皆と、一緒に行きたかったと言う思いも、心の何処かで思っていた。
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