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ローエングリン

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23部分:第三幕その八


第三幕その八

「そなたが死んだと思っていたあの弟君がだ」
「ゴッドフリートが・・・・・・」
「これを」
 ローエングリンは今度は角笛と剣、そして指輪をエルザに差し出した。彼が抱くようにして持っている剣とはまた別のものであった。
「この三つを帰って来る弟君に渡してくれ。角笛は危急の時に助けを与えてくれ、剣は激しい戦いにおいて勝利を約束してくれる。そして指輪は」
「指輪は?」
「これを見て私を思い出してくれ」
 こうエルザに言うのだった。
「これで。私のことを」
「貴方のことを」
「そう、帰るのです」
 今度はあの女が出て来た。暗雲を身にまとい。
「忌まわしきあの十字架の神の僕よ」
「くっ、伯爵夫人!」
「神を否定するというのか!」
「黙りなさい、本来の神々をその心の中に幽閉した者達よ」
 こう言ってドイツの者達を制する。
「今告げましょう。その白鳥こそ公子」
「何っ!?」
「まさか」
「そう、そのまさかなのです」
 オルトルートは陰惨な笑みと共に彼等に告げる。王の玉座の後ろにある気高い場所に立ち。そこから一同に対して告げるのだ。
「この私が魔力により姿を変えたのですから」
「魔性の女め・・・・・・」
「やはり黒魔術は貴様が」
「これはヴォータンが持っている術の一つ」
 いとおしげに、それでいて寂しげでかつ悲しげな言葉だった。
「それすらも知らないとは」
「それがどうしたというのだ」
「だが公子は」
「その通りだ」
 ローエングリンは厳かな声でここでまた言った。
「見るのだ、異教の神々の僕よ」
 白鳥がその河畔に泊まった。ローエングリンはその白鳥に近付くと剣を抜いた。そしてその黄金の鎖を断ち切ると白鳥は忽ちのうちに白い光に包まれて。そこに現われたのは白銀の鎧に身を包んだ麗しい少年だった。少年が川辺に立っていた。
「公子・・・・・・!」
「またしても奇蹟が」
「ゴッドフリート・・・・・・!」
 エルザも彼の姿を見て叫ぶ。それこそ彼のただ一人の弟、姿を消していたゴッドフリート=フォン=ブラバントだったのだ。
「彼こそ貴方達の主」
 ローエングリンはブラバントの者達の方を見て告げた。
「どうか彼を慕い御護り下さい」
「如何にも」
「この奇蹟に」
「ゴッドフリート様の為に」
 皆王の前に無言で進み片膝をついたゴッドフリートを見つつ述べる。こうしてまた一つ奇蹟が起こったのであった。
 だがそれでも。オルトルートはいた。彼女は勝ち誇った顔でローエングリン達を見下ろし続けこう告げたのである。
「最早砂漠の神の僕はいない。これで私を阻む者はいないのだ」
「くっ、まだ!」
「ブラバントを乱すというのか異教の女!」
「言った筈。己の神々を幽閉した恩知らずな者達よ」
 またドイツの者達を見据えて今度は怒りの言葉を出した。
「今こそここに。それを思い出させよう!」
「おのれ!」
「そこになおれ!今我等が」
「いえ、皆さん」
 だがここでローエングリンが一同に対して告げるのだった。
「ここは私にお任せ下さい」
「貴方に」
「そうです。偉大なる我等が神よ」
 跪き祈りつつ告げた言葉だった。
「今。貴方の御力を」
「!?」
「何と!」
 雷が落ちた。それがオルトルートを撃ち彼女を倒してしまったのだ。オルトルートは叫び声をあげる間もなく倒れてしまった。こうしてかつての神々を信じる女もまた滅んでしまった。
「これで何もかもが終わった」
 ローエングリンはこう言い残すと小舟に向かう。小舟は今は一羽の鳩が舞いつつ曳いていた。
 
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