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ローエングリン

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22部分:第三幕その七


第三幕その七

「私が何故ここに来たのか」
「何故ですか」
「それは」
「遥かな遠い国、そうここで一人の乙女が苦しみ悲しんでいる姿を城の聖堂で見たのです」
「それこそまさに」
「公女・・・・・・」
「私達は聖杯にどのようにしてこの国に辿り着くべきか尋ねたその時に小舟を曳いて来る白鳥の姿も見えました。それこそが聖杯の神託だったのです」
 それであったと。今語ったのである。
「聖杯の」
「そう。その神託は白鳥が一年の間その務めを果たせばその時に彼を覆っている忌まわしい魔術の呪いは消えるとのことでした。そして救いの騎士に選ばれた私は白鳥に導かれモンサルヴァートを後にしました。私は白鳥の小舟に導かれここに来たのです」
「奇蹟だ、まさに」
「そう、奇蹟だ」
「私は、私は・・・・・・」
 ローエングリンの名乗りを聞き終えた人々は深い感動に包まれていた。だがその中でエルザだけは絶望に覆われ青い顔で崩れようとしていた。ローエングリンが彼女を抱き締めて支える。
「公女よ、最早もう」
「最早・・・・・・」
「そうだ。私達の幸福も愛も全てが消え去ってしまったのだ」
 責めはなかった。その代わりに悲しみのある言葉だった。
「清い心もまた。もう私は」
「行かれるのですか・・・・・・」
「私は名乗ってしまった」
 また悲しみと共の言葉だった。
「それではもう」
「何と言う悲しみ」
「姫のお側を離れられるとは」
 皆これには悲しまずにはいられなかった。その為エルザと同じ様に打ちひしがれてしまっていた。
「どうかここに」
「神よ、御心を」
「どうか、私に罪を償わせて」
 涙を流しながらローエングリンの衣を掴むエルザだった。
「ですから。このブラバントに」
「だがもう」
 しかしローエングリンの声は悲しいままだった。
「私は戻らなくてはならない」
「そんな・・・・・・私の愚かさの為に」
 打ちひしがれるしかないエルザだった。ローエングリンはその彼女を優しく抱き締めながら王に顔を向けてまたあることを告げるのだった。
「そして陛下」
「何だ」
「私が共に行くことのできなくなった戦いですが」
 そのマジャールとの戦いについてだった。
「その戦いについて神の御守護をお伝えしましょう」
「戦いにのか」
「そうです。この戦いは勝ちます」
 彼は言った。
「我がドイツの勝利です。ドイツの国土は決して蛮族達に踏み躙られません」
「わかった。その御守護しかと受けたぞ」
「有り難き御言葉」
「見ろ、白鳥だ」
 そしてここで河畔を見た者達が言った。
「あの白鳥が来た」
「あの小舟を曳いているぞ」
「それでは」
「そうか。いよいよか」
 ローエングリンは彼等の言葉を聞いて彼自身も河畔に顔を向けた。そうしてその顔をさらに沈痛なものにさせてから言うのだった。
「もうこれで。このブラバントから」
「もう貴方は」
「ここからいなくなってしまう」
 ドイツの者達はそれを心から悲しまざるを得なかった。
「何という悲しみか」
「できればどうか」
「エルザ、一年だったのだ」
 彼はまたエルザに顔を戻して告げた。
「一年でそなたは彼が戻って来たのだ」
「彼!?」
「そう、彼だ」
 エルザの言葉に応えて述べた。
 
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