真・恋姫†無双 白馬将軍の挑戦
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第2話 ハム、扱いに困る
桃香は、たどたどしくも自分の仲間を紹介していく。
「うんとね、関雲長、張翼徳、それに管輅ちゃんのいう天の御遣い、北郷一刀さんだよ!」
「管輅?管輅ってあの若くして易経を修めた天文学者の?」
「えっ?天文学者?」
最近悪い意味で名を聞く管輅かと思っていたら違うようだ。
「えっ?ああ、違うのか。じゃあ誰だ?」
「ええっと、易経って何だっけ?」
そういえば桃香の奴は授業を抜け出して遊んでたか寝てたかのどっちかだったな。六十四卦やるときの音が睡眠に誘うだのなんだの言っていたし。
「易経ってのは、天象と人事が影響し、君主の行動が天に影響して災異が起こるとする天人相関説にもとづいて易の象数から未来に起こる災異を予測するものだ。『四書五経』の一つで、書経、詩経、礼記、春秋に並ぶ、官吏になるための必読書だぞ。漢王朝でも有数の大儒である盧植先生に何を習いに来たんだ。まったく。」
「あはは、つい眠くなっちゃって。」
「まあ、管輅といえばそれくらいしかしらないな……ああ、そういえば桃香の母方が耿氏だったな。耿から簡に変えたそうだけど、また変えたんだっけ?」
たしか幽州へ移民した際に変えていたな。耿氏は異民族皆殺しとかしまくったせいで、異民族全般に一族の仇と狙われたから姓を変えることも多い。
「たぶん変えてない。」
「う~ん、じゃあ分からないな。」
桃香の悪い癖だ。自分が知っていることは相手も知っていることだと思ってしまっているので、話が通じないことが多々ある。
「流星と共に天の御遣いが五台山の麓にやってくるって……白蓮ちゃんは聞いたことない?」
「う~ん、聞いたことはあるというか、皇帝の行動がちょっとあれだから災害が起きまくるだろうってことで管輅が天から人でも連れてくるしかないって、匙を投げたって噂になってる。そのせいで、最近やたらと天の御遣いを名乗るやつが多くてな。今、討伐にいく賊も天の御遣いを名乗っている。今じゃ盗賊や反乱軍の類が名乗っていて、天の御遣いだらけだが……そいつもその類か?」
善政をすると麒麟だの龍だのが天から落ちてきたり、水が澄んだりするなんて噂を流していて、最近では飽きられたから新しい吉兆を作っているかと思ったが。あー、桃香は先生の授業を聞いてないから、単なる占い師として管輅を見ているのか。やっとつながった。
「そんなこと無いよ!一刀さんは本物だよ!」
「いやでもな……本物っぽくないな。」
『天の御遣い』ほどよい晴天とほどよい雨をもたらし、災害などが起きないようにする人ならもうちょっと儀式用の服装をしているんじゃと思い、偽物なんじゃないかと口に出すと、劉備は烈火のごとく怒り出した。
「あー!白蓮ちゃん、私のこと疑ってる!」
「いや、疑っている訳じゃないって。桃香の言うことを信じているよ。でもさ。本物かどうかは見た目じゃわからないんじゃないか?証拠もないし。」
「わかるよ!私には見えてるもん。ご主人様の背後に光り輝く後光が!」
「ははは……」
後光?と困っているとその天の御遣いが、挨拶する。
「まぁ、後光があるかないかは別として、一応桃香たちと行動をともにしているんだ。よろしく、公孫賛さん。で、」
「そうか、桃香が真名を許したならば、一角の人物なのだろう。本来なら親睦を深めたいところなのだが、今はそれほど余裕が無くてな。」
と、まあ真偽はさておき、桃香の戦力を確認しなくちゃならない。
「本当の兵士は、いったい何人ぐらい連れてきてくれているんだ?」
「あ……あぅ」
「桃香の考えていることはわかる。だけど私に対してそういう小細工はして欲しくないな。友が嘘偽りを述べ、地位を求める姿はあまり心地の良い物じゃない。」
「あぅ……ばれてたんだ」
「これでも太守をやってるんだ。それぐらい見抜く目を持っていないと、生き残っていけないさ」
「友としての真義を蔑ろにするやつに人が付いてくることはない。気をつけろよ桃香。それにこの国で、兵数を偽れば死刑が当然だ。私に友を処刑するなどさせないでくれ。」
「……下手な小細工をするより、誠心誠意、人に当たった方がいいってこと?」
黙っている桃香に変わって天の御遣いはならどうしたらよかったのか?と問う。
「いや、少し違う。嘘偽りのない心を見える相手を見抜けってことさ。」
お節介かもしれないが忠告しておこう。この国は義理と恩を無視する者は遠からず破滅するのだから。
「で、話はそれたが、本当の兵はどれだけいるんだ?」
「え、えーっと……そのあのね。実は一人もいないの。」
「へっ?」
第2話 ハム、戸惑う
一行でまとめると
私たちは今回の戦いに何も用意してないけどたぶん仲間は有能だから指揮官にしてね!
ごめん桃香。いくらなんでも無理がある。それを指揮官にするとか太守の権限を越えてる。
と公孫賛がどうしようと迷っていると趙雲がいかに派手に介入しようかと考え終わり、さあ、声を掛けようとした瞬間
「ふぐっ!」
趙雲の足が踏まれた。
「……なんだ。田豫。」
趙雲が恨めしい顔で田豫をにらむが、田豫はしれっとした顔で趙雲を小声で諭す。
「覇気や武人特有の気とやらを持っているとか言ってちょっかいだそうとしていたでしょ。」
「……人を見る目を養えというのに見抜けないのか~と言おうとしていただけだ。」
「もっと駄目じゃないですか。」
「いや、だがな。あの関羽という者の武は実にたいした物だぞ。私の武人としての勘がそういっている。」
「なら伍長に命じて突撃させればいいでしょ。個人の武勇だけでは意味がありません。武官に求められるのは武勇ではなく、武名。」
「……同じではないか。武勇があれば武名が上がる。」
「全然違いますよ。武勇は人を従えられないが武名は人を従えられる。武勇が優れている者が軍隊を指揮するのに秀でているのであれば、軍隊は武術大会でも開いてそれで決めていますよ。」
いいですか?と田豫は述べる。
「この国では高祖から五を基準に軍制が作られていることはご存じでしょう。5人の兵従えるから伍長、10人で什長、25人で隊率、50人で属長、100人で伯長、500で屯長、1000からは軍侯、2500で師団長となります。12500の限界兵力を従える存在が将軍です。」
「……そんなことはわかってる。」
「いや、この話には続きがあります。基本的に与えられる地位は連れてきた兵数で決まるんですよ。劉備殿が本当に100人連れてくれば、部下の関羽とかいう人にその100を与えて、信頼できる劉備殿に500の兵を率いる屯長を任せられたんですよ。趙雲殿と同格です。でも兵が無しだと伍長が精々です。」
「都尉とやらになれる有望株なのだろう?」
「趙雲殿。その職を知っていて言っていますか?」
「知らん。」
趙雲は堂々と宣言し、田豫はため息をつく。
「簡単に説明すると太守は各地の県を回り、その政治を監査すること。そして有能な人材を挙げるのが仕事です。太守が軍事にかまけて本来の仕事ができないと、その郡の統治が乱れるでしょう?」
「確かに、郡都に引きこもっている太守なんて見たことがないな。」
居たら困るんですけどね。と前置きをしながら田豫が続ける。
「それを防ぐために軍事面の仕事を一任される都尉という職ができました。率いる兵力は師団長から将軍の間くらい。そして任地は最前線。漢でも軍事面では有数の実力者となるわけです。」
「ならば簡単だ。あれほどの武人を連れているのだ。劉備殿もすばらしい指揮官なのだろう。」
「いや、だからこそ、相応の地位に就けたら指揮系統がめちゃくちゃになるじゃないですか。今は戦争の準備で兵を集めて、連れてきた兵に応じて地位を与えて整備しているのに、その指揮官に、実績がないけどお前より優秀な友達がきたから兵士寄こせとでも言うつもりですか?もし貴女がそんなこと言われたらどう感じますかね。軍の士気が下がって負けますよ。」
「……ではあれほどの武人を使わぬのか?」
「しょうがないでしょう。時期が悪すぎます。兵士も連れてこないで兵士預けろって言えませんから。武に長けるなら公孫賛殿の護衛として近くにおいておけばいいと思うんですが、あちらの張飛という方……馬を持っていない以前に身長的に馬に乗れません。」
「あーー……」
「公孫賛殿の親衛隊は弓騎兵ですからね。馬に乗って弓を使えないとなれない。今回は騎馬の機動力が必要不可欠ですから彼女たちがいかに武に優れようとなんの役に立ちません。属長当たりで個人で募集に応じた兵を割り振るしかないですね。趙雲殿の所へ、歩兵の個人応募の兵を送って指揮してもらってもいいなら50人くらいの指揮を任せても良いと思います。せめて、軍隊の指揮経験があるとか言ってくれたら、嘘でもそれなりの兵力を任せられたんですけどね。」
「んっ?田豫は劉備殿が指揮すること自体反対ではないのか?」
「まさか。都尉になれるだけの武才を持つ人物に借りを作れるのはすごくおいしいんです。将来的にも、劉備殿は公孫賛殿になにかあれば恩があるので絶対に助けなければならない恩ができるので。それほど、この国では恩というのは重い。ただ、自分に何ができるか?っていうのを示して貰わなきゃ特別扱いもできないんです。だから、他の人と違う長所とかを示してほしいんですけど、それがないので。」
「では聞くが、劉備殿はどうすればよかったのだ?」
「私は地方を回り、人助けの旅をする際に何度か里の人たちの指揮を任されました。百人規模の指揮経験があり、このたびの戦いでも役に立つ自信があります……という感じですかね。それなら名目もたちます。主簿の自分が戦場にでるくらい逼迫している状態ですから使えるなら使いたいですよ。次にあったら使いましょう。」
「そういえば、天の御遣いというのはいいのか?」
「天人の武と言われている曹仁殿なんてのもいますが、基本的に天を冠する人はいくらでもいますね。王佐の才なんて言われる人が在野に居る時点で皇帝馬鹿にしてますから今更です。まあ、これから天の御遣いなんていって兵を持てば問題でしょうけどね。趙雲さんから見てはどうなんですか?」
「武人ではなさそうだ。」
趙雲はそう断言する。
「では、あの人を少数の兵を率いる立場は危険ですね。もし死んでしまったら劉備殿と仲がこじれるでしょう。」
「んっ?田豫の部隊なら比較的安全では?」
「……僕にあれを押しつけるんですか?冗談じゃないです。上司の友人。さらに上司の言うことを聞かない人を面倒みろと?絶対に指揮に文句つけられますよ。軍の良いところは上の命令が絶対と言うことです。僕がこの年齢で指揮を執れるのも軍という空間だからですよ。それを崩すようなまねをしたくないです。」
「だが、このままだと、そうなるな。公孫賛殿が泣きそうな顔で見てるぞ。」
田豫が公孫賛を見るとどうにかしてくれと目で訴え、趙雲はにやにやとしていた。
「しょうがないですね。嫌われ役でもしましょうか。友達の頼みを断ることはしにくいでしょうし。」
田豫はため息をつきながら困っている公孫賛に声をかけた。
後書き
補足
天人相関説
悪い皇帝だと災害が起こる。逆に善良な皇帝だと災害が起きないので災害が起こる=悪い皇帝 災害が起きない=善良な皇帝 という図式ができあがる。
人々が求めるのは善良な皇帝。つまり、天の御遣いの治世に求めるのは災害が起きない治世。
勝手にそういう解釈でやってます。
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