真・恋姫†無双 白馬将軍の挑戦
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第1話 ハム、集られる
眼下に広がる一面桃の世界。桃花が咲き誇る桃園。
そこに向かい合う三人の乙女と一人の男がいた。
濡烏のような美しい黒髪の女性が、掌で包んでいた盃を空に向かって高々と掲げ、それに続くように、三人は盃を掲げる。
「我ら四人!」
姓は違えど、ここに姉妹の契りを結びしからは
心を同じくして助け合い、力なき人を救わん
同年、同月、同日に生まれることを得ずとも
願わくば同年、同月、同日に死せん事を
その美しい情景は歴史に桃園の誓いとして刻まれる。
そして、三人の乙女の主である一刀は自らの名を上げるため、公孫賛の下へ赴く事を決断する。
「じゃあ、まずは公孫賛に会うために城へ向かおう。」
一刀は三人に告げる。
桃園で結盟した俺たちは、公孫賛の本拠地へと向け出発した。
その途中で立ち寄った県境近くの街の中でしばらく情報収集を行った。……というのも。相手は今の俺たちよりも遥かに上の立場にいる。そこへ、友達だからってズカズカ行ったとしても、足元を見られるだけだ、と思ったからだ。
まず、相手が何をしようとしているのか。そして、それに対して俺たちは何をどう提供できるのか。それを見極めなければ、力を利用されるだけの、ただの便利屋で終わる可能性がある。相手の欲するものを効果的に提供する。そして結果を残して、自らの評判を高めていく。
それが俺たちの基本方針だ。
鈴々は面倒臭いって連発してたけど、まだまだマイナー勢力な俺たちにとっては、ここが切所。桃香の友達ではあるけれど、しっかりと利用させてもらおう。
『天の御使い』北郷一刀は不敵に笑った。
第1話 ハム、集られる
「ううう、五千人か……微妙だな。」
幽州涿郡の執務室で公孫賛は悩んでいた。約五千の賊が郡に侵入したという報告を受けたからだ。対処しようにも兵数が足りない。涿郡の集められる兵力では手にあまるが、他の太守の力を借りるにしたら少なすぎる。五千という敵数が応援を呼ぶか呼ばないかのラインだった。
「五千人までは太守の権限で対処せよ。これが太守における原則です。応援は呼べますが各地の太守に大きな借りを作ることにもなりかねませんし、刺史は有能とも言い難い。」
「そうだな。刺史に頼るにも時間を掛けすぎるか。」
田豫も私の言葉に同意する。刺史に知らせて各地の太守から兵を集めて……駄目だ。そんなことをやっている内に兵数をさらに増やしかねない。自力対処しかない。
「近年、辺境では万規模の異民族の襲撃があった事から、太守の権限で集められる兵力五千じゃ無理って事で刺史が各地の太守から兵を集めて対処するようになったんだけどな。田豫。うちの兵力は集めてどれくらいだ?」
「ざっと三千くらいですかね。募兵でなく、徴兵に近い形にすれば賊と同等の五千は集まるかと。」
徴兵に近い形にすると郷や県単位での有力者の意見を入れなければならない。そうなれば指揮権が乱れる。指揮権の確立してない軍なんて賊軍以下だ。
「まあ、辺境だしな。光武帝が漢を立て直した時と比べて随分と人口が減ってしまった。募兵で五千なんて兵力は集められない。」
「最前線ですからね。住みやすいとは言い難いですし。」
さて、どうするかな。幽州は対異民族の前線ではある。兵は精強ではある。しかし、敵もそれは同じだ。
光武帝の中興以来、銅馬や緑林、赤眉といった賊出身者の子孫が兵士を出していたが、三〇年前からそれもその仕組みも崩壊してしまい、土地を継げない次男や三男を臨時に雇い、戦が終わると解散させているのが現状だ。確かに軍事費負担は正規雇用より減ったけど、そいつらは職がないから金が無くなれば賊になってしまう。
この賊はその類の連中だろう。国家の募兵がなく、収入がないから賊をする。国家事業の屯田も定員が限られるので受け皿としては機能していない。
「私が率いるのだ。賊軍など倍いようが相手にならん。」
そんなことを考えていると星が勇ましい声で宣言する。
「ああ、頼りにしているよ。星の力は知っている。」
星はそんなことを言うが、問題なのは倒した後だ。逃げられて各地に分散して賊をやられると郡の治安が悪くなり、今年の税収にも響く。勝つことができても郡に被害が出るなら敗北に等しい。
「兵数の差があるのであれば弓騎兵にて崩し、あとは歩兵にて蹂躙、包囲するのがよろしいかと。」
敵はさすがに騎兵殺しの戦術はとれないだろうし、悪くない。
「悪くない策だ。それで行こう。私が弓騎馬隊を率いて前陣を崩し、左翼部隊と合流、そのまま指揮をとる。星は崩れた所を歩兵を率いて敵を潰せ。私が敵軍を突破した後、背後に回る。田豫は右翼で追い立てろ。」
「了解した。」
趙雲は同意し、田豫は質問する。
「三方包囲ですか。ある程度の敵軍を逃がし、それをまた追撃ということでよろしいですか?降伏の勧告の方はいかがいたしましょうか?」
「ああ、四方を包囲すれば死兵となるからなるべく損害は少なく抑えたい。異民族の侵攻に備えてな。降伏勧告は一撃を入れてからする。」
「分かりました。こちらには寄せ集めで構いませんが弩兵を多くしていただきたい。牽制くらいはできないと。あくまでも右翼はお飾り扱いで。私は武官ではないのであまり期待されても困ります。」
軍議は終わった。おそらくは勝てるだろうと思うが文官の田豫を武官として運用しないといけないのはなさけない。どうにか有能な武官を得られないものか……とは思うが、太守の私ですら、そこらの土地持ち農家と同程度の待遇だ。命を賭けるのに見合う待遇は難しい。星は刹那的に生きてるような人間のせいか給金の安さは気にしてないが、有能な人間はそれ相応の金の待遇を用意しなければ集まらない。
官吏の腐敗も、労力に見合わぬ給金の低さにある。田豫の給金は月あたり800銭(8万円相当)。武官の上級指揮官もそれの倍が精々だ。良い武官を集めようにも労力に見合わないしな。有能な人材なら義勇軍でも率いていた方が待遇がいい。文官はまだ裕福な出身者が多いが武官は特に問題だ。
今では近衛隊ですら従来の給金の6分の1になっているらしい。臨時雇用の軍に、待遇の悪い常備軍。軍の統率のとれない国が乱れるのも必然だろう。
『文尊武卑』
武官を軽視する風潮が強まり続ければ軍そのものが腐敗する。官吏の腐敗に軍の腐敗。そして農民に対する重税。どうにかしなければこの国に未来はないな。
そんな事を考えていると部下の一人が報告に来る。
「どうした?」
「公孫賛様。劉備と名乗る義勇軍の長が公孫賛殿への面会を求めています。なんでも学友という事ですが、お心当たりはございますでしょうか?」
「劉備……桃香か?ああ、髪の色はどうだ?」
「桃色の髪をした女性でした。」
「ならば桃香だ。いや、私の知り合いだ。通してやれ。ただし軍は入れるなよ。」
「はっ!」
奇しくも公孫賛が望むような有能で金銭的な欲のない武官がこの時来る。
◆◆◆
「公孫涿郡太守がお会いになるそうです。」
劉備達はその一言に安堵し、一刀は、いきなり執務室に呼ばれた事から自分の策がうまくいきそうな事にほくそ笑む。
城の前で待たされていたがようやく面会が許可された。やはり兵士を連れてきたのが効いたようだ。俺の策は簡単だ。公孫賛は5000の賊に対して3000の兵士しか持たない。さらに兵士は農家の次男や三男が主で賊とろくに変わらないような弱小な軍のようだ。
ならば将の質で補うしかないだろう。
公孫賛といえば、いつの間にか滅亡している弱小勢力。三国志のゲームでも雑魚で親族くらいしかまともな将がいないが、その親族すらいないらしい。関羽や張飛という三国志を代表する名将の力は借りたいと思うはずだ。関羽や張飛は指揮の経験こそないが、あの三国志の英雄だ。指揮能力が低いはずがない。
そして、戦いで目立ち、名声を上げる。
その為の偽兵だ。
持っていたボールペンを好事家に売りさばき、そこらにいた人を集め、一日だけ付いてくるだけでという条件で雇った。その数は100人。戦いに赴く兵を雇うなら10人にも満たないような兵しかあつまらなかっただろうが、付いてくるだけならとこれだけの数が集まった。
全軍が3000の公孫賛軍でその兵数は少なくないはずだ。そしてそれを引き連れているのは友人である桃香。忙しいと門前払いはされないだろうと考え、それが的中した。
自分の考えた作戦がこうも当たってくれると、すごくうれしくはあるんだけど今の段階で喜んでも仕方ない。……桃香、仕上げは頼むぞ~!!
扉を開け、執務室に入ると公孫賛と劉備が再開の喜びを露わにした。
「桃香!ひっさしぶりだなー!」
「白蓮ちゃん、きゃー久しぶりだね~♪」
「盧植先生の所を卒業して以来だからもう3年ぶりかー。元気そうで何よりだ。」
「白蓮ちゃんこそ、元気そうだね♪それにいつの間にか太守様になっちゃってすごいよー♪」
桃香が一直線に公孫賛の元へ走り出し、桃香が公孫賛の片手を取り、両手で包み込むように握りこむ。
「いやあ、まだまだ。私はこの位置で止まってなんかいられないからな。通過点みたいなもんだ」
「さっすが秀才の白蓮ちゃん。言うことがおっきいなー」
「武人として大望は持たないとな。……それより桃香の方はどうしてたんだ?全然連絡が取れなかったから心配してたんだぞ?」
「んとね、あちこちでいろんな人を助けてた!」
「ほおほお。それで?」
公孫賛は桃香の話を聞き、やはり桃香は昔から変わらないな~、といった表情を浮かべ話の続きを促す。
「それでって?それだけだよ?」
「……!?はあーーーーーーーっ!?」
「ひゃんっ!?」
一瞬にして、公孫賛の表情は変わった。まったく予想だにしていなかったのだろう。思考が三秒ほど停止し、そして、事に気づき突如として大声をあげた。その声に桃香が変な悲鳴を漏らすほどに。
「ちょっとまて桃香!あんた、盧植先生から将来を嘱望されていたぐらいなのに、そんなことばっかやってたのかっ!?」
「う、うん……」
「どうして!?桃香ぐらい能力があったなら、都尉ぐらい余裕でなれたろうに!」
「そうかもしれないけど……でもね、白蓮ちゃん。私……どこかの県に所属して、その周辺の人たちしか助けることが出来ないっていうの、嫌だったの」
桃香は公孫賛に真剣に話す。その目は熱く語っている。私は、困っている人を助けたい。できれば、全ての人を。だから私は、この道を歩んできたのだと公孫賛の目を見据え真剣に話す。
「だからって、お前一人ががんばっても、そんなの多寡が知れてるだろうに……」
「そんなことないよ?私にはすっごい仲間たちがいるんだもん♪」
「仲間?桃香が言っているのはこの三人のこと?」
公孫賛は今まで気にはなっていたのだろう。チラチラと俺たちを何度も横目で見ていた。そして、やっと聞けたと言わんばかりに桃香へと説明を求めた。
ここからが俺の出番だ。
後書き
誤字修正
・田豫の給金を800銭の所が300銭になっていたので修正
・「さっすが秀才の白蓮ちゃん。言うことがおっきいなー」のが2つあったので修正
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