スーパーヒーロー戦記
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第80話 裏切り
デストロンとの激闘が終結したのとほぼ同時刻。ハヤタ、ダン、郷の三名は別行動を取っていた。
ここ数日連絡が取れないレオ、アストラ兄弟の行方を捜していたのだ。
「まさか、二人の身に何かあったんだろうか?」
「……」
ダンは黙っていた。レオを鍛え上げたのはダンことセブンだ。彼としても教え子の身に何かあってはと気が気でなかったのだ。
二人の行方を捜し続けて早数時間が経過し始めていた。しかし、二人の痕跡と思われる手掛かりすら見つからない現状に、三人の中に徐々に焦りが見え始めていた。
あの冷静なハヤタでさえ冷や汗を流しだす始末だ。郷やダンも押し黙ってしまっていた。
何とも気まずい空気が流れ出す。そんな時であった。後部に座っていた郷が窓に向かい指差すように叫んでいた。それに呼応する様にハヤタとダンも窓の外を見る。
其処には数体の銅像が建てられていたのだ。
その銅像はそれぞれバイカンフー、ブルージェット。そしてウルトラマンレオとアストラの姿を模していた。
「只の銅像……にしては妙だ。兄さん、調べてみよう」
「よし」
三人は銅像の前にビートルを降ろし、その銅像を調べた。手で触った感触や漂ってくる匂いから明らかにこれが銅像だと推測は出来る。だが、それにしてもこんな巨大な銅像が人の手で建てられるとは到底思えない。それに、この銅像はどうも悪趣味に思える。
どの銅像も苦しみもがき抜いた姿に見えるのだ。
「一体誰が……誰がこんな像を」
「それに、レオやアストラだけじゃない。あのバイカンフーやブルージェットまで……」
ハヤタもダンも居た堪れない気持ちになっていた。ダンは教え子同然でもあったレオとその弟であるアストラが。そして、かつて幾度となく窮地を救ってくれたあのクロノスの戦士達までもが悪趣味な銅像となって佇んでいたのだから。
【フフフ、お気に召していただけましたかな? 私の自信作を】
「誰だ!」
三人一緒に声のした方を振り返る。すると、其処には先ほどまで誰も居なかった筈なのに、今では其処には一人の異形が立っていたのだ。
風貌からして地球人でない事は容易に想像がつく。
「貴様は、ヒッポリト星人!」
【いかにも、我等が主、ヤプール様の命により貴方達を私のコレクションに加える為参上した次第です。それにしても、見事な出来栄えじゃありませんか】
会話を区切り、ヒッポリト星人は目の前に立っていた銅像を見て惚れ惚れしてしまっていた。
【何時見ても美しい。私の作った銅像は何と素晴らしい出来栄えなのだろうか。だが、まだこれでは完成とは言えない。まだ足りないのですよ】
「何が言いたいんだ?」
【決まってますよ。此処に残りのヒーロー達を全て銅像にして飾るのです。そうする事により私の最高傑作が完成するのです。タイトルはそうですねぇ……『人類文明の終焉』と言うのはどうですか?】
「悪趣味にも程がある!」
吐き捨てるかの様にハヤタは罵った。彼は憤怒していたのだ。大切な仲間をこんな道化に使われた事に怒りを感じていたのだ。
そして、それは隣に居るダンや郷もまた同じであった。
二人も憤怒の思いでヒッポリト星人を見ていたのだ。しかし、その表情を見てても、ヒッポリト星人は態度を変えなかった。
【そう、その表情ですよ! 貴方達のその怒りに震える表情。その表情が苦痛と悔しさで歪んでいきながら死んでいく。その様こそ私の芸術の最高の出来栄えとなるのです】
「ふざけるな! お前の道楽に付き合うつもりなどない!」
【貴方達がその気がなくても、こちらにはあるのですよ】
突如、ヒッポリト星人が巨大になっていく。全長約50メートルに行く程の巨体となり三人を見下ろしていたのだ。
「二人共、奴を倒すぞ!」
「任せてくれ、兄さん!」
三人は互いに頷きあい、その姿を人の姿から光の巨人へと変貌させる。
赤と銀の二色の色を持つ正義の巨人。ウルトラマンである。
【揃いましたか、ウルトラマン。さぁ、貴方達も私の偉大な芸術の一品になれる事を光栄に思いなさい】
(言った筈だ。貴様の道楽に付き合う気はないと!)
口火を切ったのはウルトラマンだった。手の形を刀の様に鋭く尖らせ、其処からエネルギーを収束させ、ノコギリ状へと変貌させたそれを勢い良く投げつけた。
それに呼応し、セブンもアイスラッガーを投擲し、ジャックもブレスレットを槍状に変化させて放つ。
それら全てが一点の迷いもなくヒッポリト星人目掛けて飛んで行った。
だが、それらはヒッポリト星人の目前で突然弾き返されてしまった。
まるで、見えない壁の様な物に弾かれたかの様に。
(何、バリアか!)
【どうです? これも我が主ヤプール様のお力なのですよ。貴方達には万に一つも勝ち目はないのです。諦めて私の芸術とおなりなさい】
(ふざけるな! 死んでも貴様の思い通りになどなるものか!)
怒号を上げて、ジャックは天高く飛翔した。そして、流星の様に急降下しつつのキックを放ったのだ。
かつて、キングザウルス三世を破った必殺のキックだ。
【無駄ですよ】
だが、それを以ってしてもヒッポリト星人の堅牢なバリアを破るには至らなかった。
弾かれたジャックが後方へと吹き飛び、そのまま地面に墜落してしまった。
(馬鹿な、流星キックが通じないなんて!)
(こうなったら一斉攻撃だ!)
ハヤタの号令と共に三人のウルトラマンがそれぞれ光線の構えを取り発射した。スペシウム光線が、ワイドショットが、それぞれ放たれてはヒッポリト星人の前で見えない壁に激突し激しいスパークを放っていた。
【ハハハッ、まだ気付かないようですね。この見えない結界のカラクリに】
(何だと?)
【可愛そうな方達だ。貴方達の詳細なデータは既に私達侵略同盟に行き渡っていると言うのに】
(どう言う事だ。それは?)
【我々に協力してくれた心強い存在が居たのですよ。永きに渡り貴方達の元に潜伏し、我々に情報を流してくれた頼もしい存在が、そうでしょ?】
そう言い、ヒッポリト星人が右手を軽く挙げる。すると、その手の上に降り立つように何かが舞い降りてきた。それはとても見覚えのある存在であった。
余りにも御馴染みと言えば御馴染み過ぎる存在でもあったのだ。
(レ、レイジングハート!)
『お久しぶりですね。ウルトラマン、ウルトラセブン』
(どう言う事なんだレイジングハート! 何故君が僕達を裏切る必要があるんだ!)
『私を作った主のご命令が下ったのです。この星を守る者達を一人残らず始末しろ……とね』
(だから、だから侵略同盟についたと言うのか?)
『その方が都合が良かったですからね。言わば利害の一致です』
感情の全く篭ってない寒気がするような言葉が次々に放たれてきた。かつての、高町なのはが使っていた頃のそれとはまるで雰囲気が違う。
何て寒々しい言葉なのだろうか。今のレイジングハートからは一切感情が感じられない。まるで殺戮の為に生み出された機械のようだった。
『どうやら貴方達は私をデバイスと思い込んでいるようですね。残念ですが私はあんな出来損ないとは訳が違いますよ』
(何?)
『私は王の手により作られた王の分身。王の命令に従い幾多の生命を根絶やしにする事が私の使命なのです』
【我々としても、地球人が居るのは大層邪魔でしてね。こうしてお互い利害が一致したので協力したまでの事なのですよ】
(レイジングハート……それは本気なのか? 君は今まで、なのはちゃんと共に幾多の戦いを戦い抜いてきたじゃないか! それが何故?)
『あれですか、言うなれば……単なる芝居、とでも言うのでしょうね』
(芝居、だと!?)
『そう、芝居ですよ。貴方達は彼女、高町なのはの魔力により怪獣達を倒してきたと思い込んでいるようですが、実際は違いますよ』
突如、レイジングハートがヒッポリト星人の手の上から跳びあがった。ゆっくりと飛翔しながら、ウルトラマン達の前まで上がる。すると、突如眩い閃光と共にウルトラマンジャックとセブンが弾き飛ばされた。
(い、今のは!)
『貴方なら見覚えがあるでしょう? かつてアントラーを倒したディバインバスターですよ。そして……』
今度は残っていたウルトラマンにも閃光が命中した。先ほどのセブンやジャック以上のダメージがウルトラマンには残っていた。
『今のはゼットンを倒したスターライトブレイカーです。もうお分かりですね? 幾多の怪獣達を倒してきたのは高町なのはではなく、私だったんですよ』
(なん……だと!?)
『そうだとも知らず、貴方達は見事に引っ掛かってくれました。私としても随分楽をさせて貰いましたよ。ですが、そろそろ急がなければなりませんので、貴方達にはこれで退場願いましょうか』
一通り言い終えるとレイジングハートはヒッポリト星人に合図を送る。それを受け、ヒッポリト星人は上空から何かを放った。それは、かつてレオやバイカンフー達をブロンズ漬けにした透明なカプセルであった。
そのカプセルの中にウルトラマン達はスッポリと納められてしまったのだ。
(し、しまった!)
『ウルトラマン、貴方達の出番は終わりです。其処で一生ブロンズ像となっていなさい』
【安心して死んで貰って構いませんよ。直に残りのヒーロー達も同じ様にブロンズ漬けにして差し上げますから】
(くそっ、そうはさせるか!)
必死にカプセルから逃れようともがく三人。だが、カプセル内は異常なまでに狭く、その上かなりの強度を持っていた。ウルトラマン達を以ってしてもそれから抜け出す事は不可能と言えた。
そして、カプセルの中では徐々にウルトラマン達のエネルギーが吸収されて行く、三人のカラータイマーが点滅しだし、やがては完全に消え去ってしまった。
【さて、後は綺麗にコーティングして差し上げましょう。そうすれば立派なブロンズ像の完成ですよ】
三人の入っているカプセルに緑色のガスが噴出された。そのガスはやがてカプセル内に充満していく。そして、カプセルを取り払った時、其処にあったのはウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンジャックの苦悶に満ちた表情で固められたブロンズ像が出来上がっていた。
【素晴らしい! これこそ私の自信作に間違いはありませんよ! これで残るは他のヒーロー達も同様にブロンズ漬けにすれば私の作品は完成致します!】
『となれば、残りのヒーロー達を罠に掛ける必要がありそうですね。その役目なら私が担いましょう』
【お願いしますよ。我が同士よ】
『お任せを』
一言そう言い終え、レイジングハートは飛び去ってしまった。新たな獲物を誘い込む為に。己の目的の完成の為に。
今、ヒーロー達の身に最大の危機が訪れようとしていたのだが、それに気付いている者は、誰一人として居ないのであった。
つづく
後書き
次回予告
不屈の心の裏切りにより光の巨人達は倒されてしまった。
そうとは知らず、不屈の心の言葉に導かれるままにヒーロー達は駆けつける。
それが罠とも知らずに……
次回「罠」お楽しみに
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