スーパーヒーロー戦記
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第78話 集結する仮面の戦士達。デストロン最期の日(前編)
前書き
ちょっと長くなりそうだったんで前後編に分ける事にしました。
高町なのはと兜甲児の二人が無事に仲間達と合流を果たし、ウルトラ警備隊本部を侵略同盟から解放し、強力な後ろ盾を得る事に成功した。
これにより、本格的な反撃が開始出来るようになったのだ。
しかし、その間にも戦いは行われていた。それを知る為にも、今は話を少しだけ遡らせる必要がある。
そう、それはなのはと甲児が仲間達の元を離れて行った後間も無くの事であった。
***
一面黄土色の地面で覆われた大地しか見えない場所。其処は本来モトクロスレーサー達が自身の腕前の向上を図る為の練習場として用いられている場所である。
だが、今其処にはレーサーの姿はなく、変わりに別行動中だったヒーロー達が各々厳しいトレーニングを行っていた。
南光太郎こと仮面ライダーBlackRXはシグナムとの一対一での戦いを行っていた。
互いに剣を使った戦法を用いる為にこの組み合わせで行われていたのだ。
剣の扱いであればシグナムの方が一日の長がある。光太郎にとっては絶好の相手とも言えた。
また、それはシグナムにも言えた事だ。これから先更に強い怪人や怪獣、果てはそれ以上の強敵と戦う機会がないとも限らない。その為にも今以上のパワーアップ、又はスキルアップに努めるべき時なのだ。
また、その横ではフェイトとはやてが同じように一対一での戦いを行っている光景が見えた。
はやては魔導師となってまだ日が浅い上に戦士としても未熟だ。しかし、敵はそんな事などお構いなしに攻めて来る。今は未熟な者でも戦わなければ勝てない状況なのだ。
こちらも苦しいが、徐々に挽回しつつある。此処がふんばり所とも言えた。
「よぉし、一旦休憩にしよう!」
四人の戦いを見守っていた立花籐兵衛の号令を受け、四人は息を切らせながら集まってきた。四人とも必死に戦っていたせいかすっかり汗だくになっており疲れが滲み出ているのが見え見えだった。
そんな四人を労うかの様に立花は用意して置いた栄養ドリンクを手渡す。
無論、立花製なので効き目は抜群だし、味も申し分ない。
それを飲みながら、四人は立花の話に耳を傾けていた。
「それで、どないやった立花のおっちゃん?」
「うぅむ、俺ぁあんま魔法とかの類には詳しくないんだが、要するに戦法の一種って事で考えて良いんだろう?」
その問いに魔法に精通している者達は揃って頷いた。元々魔法とは無縁の生活をしてきた立花に魔法の採点をしろ、と言うこと事態無謀に近いのだが。
しかし、戦い方のコーチならば彼が適任である。何せ多くのヒーロー達のコーチをしてきたのだから。
「お前達の戦いを見させて貰って分かった事だが、大分様んなってきたな」
「ホンマかぁ?」
太鼓判を押してくれた立花にはやての顔が嬉しそうに輝いた。
立花のコーチ能力は流石の一言であった。何せ、あのダブルライダーや数多くのヒーロー達を育成した名コーチなのだから。
そんな立花の下で四人は必死に特訓を行っていたのだ。
「しかし魔法ねぇ。俺も最初見た時にゃぁ我が目を疑う思いだったよ」
「俺もそうですよ。でも、今では心強い存在だと言えます」
「それもそうだな。さてと、特訓の後に一仕事して貰うとしようか」
立花のその言葉に光太郎を除く三人がとても嫌そうな顔をした。これも実は何時もの事だったりする。
***
立花の猛特訓でフラフラになりながらも、喫茶アミーゴへと戻って来た一同。しかし、その後にはアミーゴ恒例の午後の繁盛タイムが待っている。
一応アミーゴを拠点としている為に店の手伝いも日課に入っているのだ。
流石に食べさせて貰っている立場上店の手伝いをするのも四人の宿命だったりする。
しかし、立花の課す特訓の内容はハッキリ言って結構ハードだったりする。あのシグナムでさえそれを終えた後には足がふらつく程なのだから。
流石に光太郎はそれ程でもないだろうが、成長期であるフェイトとはやてには結構堪える内容だったりする。
「さてと、それじゃ何時もの様に光太郎は俺の補助をしてくれ。それで他の三人は接客とレジを頼むよ」
「分かりました」
「ふぇ~い」
元気良く答える光太郎とは対照的に三人共かなりへこんでたりする。猛特訓の後で今度は店の手伝いが待っているのだから当然と言えば当然なのだろうが。
「三人共大丈夫かい?」
「だ、大丈夫や……せやけど、慣れてても毎回猛特訓後の店の手伝いっちゅうのは堪えるわぁ」
正直な意見であった。そんな感じで毎日この日課で行われているのである。
「立花さん、店の支度は俺が全部やりますから、彼女達は少し休ませてあげませんか?」
「うぅむ、しょうがないなぁ。だが光太郎は大丈夫か?」
「俺の事なら心配しなくても大丈夫ですよ。まだまだ平気ですからね」
「そうかい、それじゃ三人はお言葉に甘えると良い」
「あ、有り難う御座います」
光太郎の計らいにより店の準備までの数時間の間休憩が出来ると言う事により、三人の顔に笑みが浮かび上がった。しかし、数時間後にはまた大量の客を捌く仕事が待っている事に変わりはないのだが。
そんな訳でアミーゴの入り口前にまでやって来た。後は入り口の鍵を開き、中に入り午後の店の準備をして、それが終わり時間が来たら午後のランチタイムに突入するのだが。
等と言う会話をしながら一同はアミーゴの入り口前に訪れた。
其処にやってきた一同の目に映ったのは入り口の他に異質な物であった。
入り口の前に何かが横たわっている。それは人であった。
全身傷だらけの人が横たわっているのだ。
「行き倒れか?」
疑念を抱きながらも、一同は倒れていたその人に近づく。近くに寄った事でそれが誰なのかはっきりと分かった。
それはアルフとユーノの二人だったのだ。二人共傷だらけとなり倒れていた。
幸い生きてはいる物のかなり危ない状態なのは間違いなかった。
「アルフ! それにユーノも……」
「二人共酷い傷だ」
「とにかく、早く手当てする必要があるな。早く店の中に連れて来てくれ」
立花の指示を受け、皆が倒れたアルフとユーノをアミーゴ内へと連れて入った。
何故二人が此処まで深い傷を負ってしまったのか。その訳を知る為にも、今は二人の意識の回復が必要となる。
***
「そ、それはどう言う意味なのですか? 首領」
場所は変わり、此処はデストロンの本部。その本部内にて、大幹部であるヨロイ元帥が青ざめた顔をしながら首領の言葉を聞いていた。
【何度も言わせるなヨロイ元帥! 今すぐに残りの仮面ライダーBLACKRXとヒーロー達を葬れ! 他のどの組織にも遅れをとるな! 良いか、これに貴様の身命を賭して行うのだ!】
首領の下した命令、それはアミーゴ近辺に居る別行動中のヒーロー達の掃討であった。
しかも、その命令にヨロイ元帥の命を賭けろと言うのだ。それは即ち、この命令が失敗した場合、その先に待っているのはヨロイ元帥の死が待っている、と言うのだ。
「しゅ、首領! その命令はあんまりと言う物です! 私は今までこのデェェストロンの為に尽くしてきました。その私にその様な命令を下すなどと!」
【異論は認めん! 貴様は折角あの憎きダブルライダー、そして仮面ライダーV3を仕留めたと言うのに、遅々として世界征服が進んでない現状だ。お陰で我等デストロンの名が地に伏してしまった。この責任を貴様の命で償ってみせぃ!】
「わ、分かりました」
【吉報を待っているぞ】
その一言を最後に首領との通信は途切れてしまった。もう猶予はない。一刻も早く残りの仮面ライダーとヒーロー達を葬らなければならない。そうしなければ待っているのは自分自身の死だけなのだから。
「ヨロイ元帥様、編成はいかがいたしますか?」
「そんな事決まっている。我等デェェストロンの持てる兵力全てを投入して残りの仮面ラァァイダーとヒーロー達を葬るのだ。無論、奴も投入してだ」
「し、しかし……アレの調整はまだ不十分です! 今の使用には大変危険ですが!」
「構わん! どの道このままでは私の命が危ういのだ! 使える物は何でも投入しろ! 試作中の怪人でも未完成の奴でも構わん! とにかく全てをつぎ込むのだ! 良いな?」
「ぎ、ギー!」
ヨロイ元帥は焦っていた。この戦いに敗北は許されないからだ。全てを投入してでもこの戦いで仮面ライダーとヒーロー達を葬らなければならないのだ。
そして、その為にはどうしてもあれの力が必要不可欠となる。
***
目を覚ますと、其処は以前世話になったアミーゴの一室であった。
体には包帯などが巻かれており、既に手当てが終了した後でもあった。
「お、気がついたか! 皆、来てくれ」
「意識が戻ったんですか?」
別室で待機していた残りのメンバーが雪崩れ込むようにして部屋へと集まってきた。
二人は何がなんだか分からない顔をしていた。何せ気がついたらアミーゴ店内に居て、しかも手当てまでして貰った後なのだから。
「アルフ、それにユーノ。二人共無事で良かった」
「あはは、あんまり無事じゃないけどね」
久しぶりの再会に喜ぶ。だが、その喜びもシグナムを見た途端に二人の顔から消え去ってしまった。
「お前は! あの守護騎士!」
「アルフ?」
「何であんたが此処に居るんだい! 人をこんな体にした癖に」
意味深な発言であった。二人にこれだけの手傷を負わせたのがかの守護騎士達だと言うのだから。
「アルフ、教えて。二人を傷つけたのはシグナム達なの?」
「あぁ……皆と逸れた後、私とユーノだけで皆を探してた時に、こいつの仲間達が突然襲い掛かってきて」
どうやら離れ離れになった際にシグナムを除く残りの守護騎士達の襲撃を受けてしまったようだ。以前はこちらが不意打ちをしたが為に優位に勝てただろうが、今度はその逆、しかも戦力もまともに揃わない状態での戦いだったが為に完璧に敗北を喫してしまったようだ。
「二人共聞いて。今の守護騎士達は前に戦った時とは違うの」
「それはどう言う意味なの? フェイト」
「僕から説明するよ」
フェイトに代わり光太郎が歩み寄った。無論、光太郎を初めて見るアルフとユーノは彼に警戒しているのは言うまでもない。
「あんたは?」
「僕は南光太郎。そして、仮面ライダーBLACKRX!」
「仮面ライダー……あんたも仮面ライダーだってのかい?」
驚きの連続であった。だが、今は驚くよりも情報が欲しい。
「それで、今のあいつらが違うってのはどう言う意味なんですか?」
「今の守護騎士達は、ゴルゴムの次期創世王であるシャドームーンの呪縛を受けている。シグナムさんも、かつてはそうだったんだ」
ゴルゴムと言う組織の名を聞くのは初めてだった。しかし、光太郎が嘘を言っているとも思えない。
そして、目の前に居るシグナムが正常になっていると言う事は、他の騎士達も元に戻す方法があると言う証拠に他ならない。
「騎士達の呪縛を解く方法。それは俺のキングストーンを使う事です」
「キングストーン?」
「俺の体内にあるゴルゴム次期創世王の証みたいな物です」
「って、それじゃあんたもゴルゴムの?」
アルフが驚愕の思いを顔で表現したが、それに対し光太郎は首を左右に振って否定した。
「いえ、俺はこの力を人類の平和と未来の為に使うつもりです。そして、この力を使い守護騎士の皆を助け出す。そして……」
拳を握り締める光太郎の脳裏に浮かぶ人物。
信彦。
ゴルゴムの次期創世王ことシャドームーンとなってしまった今でも、光太郎は彼を救いたいと言う思いがあった。助けたい。信彦は世界にたった一人の親友でもあり兄弟なのだ。
その表情を見たアルフもユーノも、彼の言い分が嘘偽りない事を察する。
「……分かったよ。あんたのその顔に嘘はないみたいだしね」
「有り難う」
理解して貰い一安心であった。しかし、遂に侵略同盟の動きが活発化しだしたと言うのは揺ぎ無い事実となってしまった。
一刻の猶予もない。このままでは本当に世界は侵略同盟の物となってしまう。
「アルフ、ユーノ。また皆で力を合わせて戦おう!」
「勿論、フェイトがそう言うんなら私は何所まででもついて行くよ」
「僕もです。侵略同盟の好きにはさせませんよ」
二人の了解を得られた事でとりあえずはひと段落と言った所だった。
そんな最中、突如近辺で激しい振動と爆発が起こった。自然に起こった事態じゃない。明らかに人工的な何かだ。そして、そんな事を起こすのはたった一つしかない。
「まさか、ゴルゴム! それともデストロンか?」
一抹の不安を抱く光太郎。この手の事態を引き起こすのは奴等位な者だ。
「あいつら、好き勝手ばっかりしてぇ……ぐっ!」
起き上がろうとするが、アルフもユーノも今は怪我人の状態だ。とても戦闘に耐えられる状態ではない。
「無理しちゃ駄目だ。此処は俺達に任せてくれ」
「じょ、冗談じゃないっての! やられっぱなしで終われないよ!」
「しかし……」
「光太郎、此処までこの二人が言うんだ。こうなっちゃテコでも動かん奴等だぞ」
答えに渋る光太郎を諭すかの様に立花のおやっさんが告げる。この二人との付き合いは意外と立花は長いのだ。それ故に二人がどんな人間なのかは理解出来てるつもりなのだ。
そんなおやっさんの言葉を受け、光太郎もまた察した。この二人に何を言っても無駄だと言う事を。
「分かった、でも余り無理はしないように。良いね?」
二人は頷いた。それを見て光太郎もまた了解の頷きを見せる。
そうしてアミーゴの外へと飛び出した六人を出迎えたのは全く予想していない者達であった。
「なっ!」
光太郎は思わず声を挙げてしまった。其処に居たのはデストロンの怪人でもなければゴルゴムの怪人でもない。
其処に居たのはかつて、はやてにとって家族同然でもあった守護騎士達であった。
「シグナム。烈火の将と呼ばれた貴様が我等が主であるシャドームーン様を裏切るとはな。守護騎士の名折れとは貴様の事だな」
「ザフィーラ……」
盾の守護獣の容赦のない突き刺すような言葉が放たれた。かつての優しさは微塵も感じられない。今の彼等から感じ取れるのは刃物にも似た殺気であった。
「目を覚ませ貴様等! 私達の本当の主は八神はやての筈だ!」
「貴様こそ何を寝惚けているんだ? 我等守護騎士は元々ゴルゴムに作られた存在。即ち、我等の主は次期創世王であるシャドームーン様の筈だ!」
話ても聞く耳持たずとはこの事であった。
「ザフィーラ、ヴィータ。裏切り者に構ってる暇はないわ。私達の目的はブラックサンを倒し、キングストーンを手に入れる事の筈でしょ?」
「すまなかったなシャマル。確かにお前の言う通りだな」
「ま、そう言う訳だ。観念しやがれブラックサン!」
三人の守護騎士達の殺気が光太郎へと注がれる。
「狙いは俺か……」
「その通りだ死に損ない! 貴様は一度我等が主に殺されたのだ。大人しく貴様のキングストーンを渡せ!」
「断る! 例え死んでも俺は悪には屈しない!」
光太郎は構えた。出来る事なら三人とは戦いたくない。だが、此処で自分が倒れる訳にもいかない。苦しいが戦わねばならないのだ。
「光太郎、貴様一人に辛い思いはさせんぞ!」
「光太郎兄ちゃん! 今度こそ皆を元に戻そうや」
その光太郎に続きシグナム、はやての二人も集う。更に今回は他に頼もしい仲間も居る。数的には今回はこちらが勝っている状態だ。
だが、今回の相手は前の時とは違い一切の容赦をしなくなったベルカ時代の騎士達。言ってしまえば戦いと殺人に精通した強敵達だ。一切の油断が許されない。
そんな矢先の時、また別の方向から爆発が起こった。
「見つけたぞ南光太郎! いや、仮面ライダーBLACKRX!」
「デストロン怪人!?」
爆発のあった方向に居たのはデストロンの怪人達であった。それもその総数は今までの比じゃない。
つまり、総力戦に出て来たと言うのだろう。
「ヨロイ元帥様! ゴルゴムの騎士達が来ていますが?」
「構うな! 我等の目的は仮面ライダーBLACKRXと残りのヒーロー達を片付ける事だけだ。例の騎士達は放っておけ!」
此処に来て最悪の事態に遭遇してしまった。前門にはゴルゴムの騎士達。そして後門にはデストロンの総戦力が居る。
「はやて、光太郎さん、デストロンは私達三人で相手します!」
「分かった!」
六人はそれぞれ人数を分けてこれの対処に当たる事となった。どちらも一筋縄ではいかない相手だ。だが、負ける訳にはいかない。
自分達を信じて後を任せたなのはや甲児の為にも、此処で踏ん張らなければならないのだ。
「ふん、我等の戦力がこれだけだと思ったか? 貴様等に見せてやる! 我がヨロイ元帥の誇る最強の刺客を!」
自信有り気にヨロイ元帥が手を振り上げる。それに呼応するかの様に、怪人達の群れから一人、静かにヨロイ元帥の隣にそれは現れた。
現れたそれを見た途端、フェイト達三人は正しくド肝を抜かれた様な目をした。
「呼んだか? ヨロイ元帥」
「遅いぞ! 俺が呼んだのならすぐに来い!」
苛立ち混じりにヨロイ元帥が叫ぶ。その隣に居た者。赤い仮面に緑の瞳をした、白いマフラーを首に巻いた存在だった。
「か、風見志郎……さん!」
「何だ女? 何故俺の名を知っている?」
自分の名を呼ばれた事に疑問を持っているかの様に首を傾げる。どうやら彼はフェイトの事を完全に忘れ去ってしまったようだ。それだけじゃない。
彼にとってデストロンは仇同然の相手だ。その相手と行動を共にする事など決して有り得ない。
「風見さん! 一体どうしたんですか?」
「無駄だ! 風見志郎、いや仮面ライダーV3は今や我等デストロンの主力となったのだ! さぁ、仮面ライダーV3よ、其処に居る死に損ないを片付けろ!」
「任せろ」
何の迷いもなくV3は拳を握り締めて構えた。今の彼はデストロンの兵力であり敵でしかない。戦わねばならない相手なのだ。
「目を覚まして風見さん! デストロンは貴方の仇の筈でしょ!」
「敵と話す事はない。お前は俺の敵。だから俺はお前を倒す。それだけだ!」
一切の躊躇なくV3の拳が放たれた。間一髪でそれをフェイトはかわした。
だが、頬を掠めたその一撃からは寒気が感じられた。其処へ更に連続して攻撃が繰り出される。
その全てに凄まじいまでの殺気が込められている。
「フェイト!」
「アルフ!」
苦戦するフェイトにアルフとユーノの二人が加わる。二人にとっても心が痛い相手であった。共に戦った風見志郎が、仮面ライダーV3が敵となってしまったのだから。
「何人でも相手になってやる! さっさとかかって来い!」
「そうかい、あんたがそう言うんだったら容赦しないよ!」
アルフにとってはフェイトを守る事が第一だ。その障害となるのなら例えかつての仲間でも容赦はしないのが彼女なのである。
そのアルフが仮面ライダーV3と激しい乱打戦を開始し始めた。
互いに堅く握り締めた拳と拳がぶつかりあう。だが、勝負は既に見えている状態だった。
アルフは先の守護騎士達との戦いで負傷し、消耗しきっている。それに加えて仮面ライダーV3はほぼ完全の状態だ。パワーで差が出始めてしまっていた。
「どうした? そんな拳じゃ虫一匹殺す事すら出来ないぞ!」
「ぐっ!」
「お前如きに時間を掛けるつもりはない! さっさとくたばれ!」
勝負を掛けようとV3は空高く飛翔した。ジャンプした勢いで風力エネルギーを全身に受け、最大パワーで必殺の一撃を放つつもりなのだろう。生身でそれを受けてしまえば一溜まりもない。
「させるか!」
決め技を放つよりも前に、ユーノがV3を光るバインドの糸で絡め取る。全身を絡み取られたV3が地面へと激突する。
「ちっ、余計な事をしやがって!」
苛立ちを声に出しながら、V3は立ち上がると、苦もなくその糸を引きちぎってしまった。
アルフもそうだが、ユーノもまた大きくパワーダウンしている。まだ怪我が治りきっていないせいだ。
「良いぞ良いぞ! これはまたとない好機だ! 全てのデストロン怪人よ! V3と共に奴等を血祭りに挙げろ! 我等の世界征服を邪魔する馬鹿共をこの世界から抹消してしまえ!」
ヨロイ元帥の命令を受け、デストロンの全怪人達もまた戦闘態勢を取り出した。
仮面ライダーV3とデストロン怪人達に取り囲まれてしまった三人。最悪の展開となってしまった。
***
光太郎、はやて、シグナムの三人はゴルゴムの配下となった守護騎士達を目の前にしていた。
かつては家族同然でもあった騎士達が、今やキングストーンを狙うシャドームーンの手先となってしまったのだ。
「変!身!」
覚悟を決め、光太郎は変身する。自らの姿を太陽の王子、仮面ライダーBLACKRXへと変える。
「それが生まれ変わったてめぇの姿なんだな?」
「その通りだよヴィータちゃん。ゴルゴムから君達と信彦を救い出す為に俺は地獄の淵から蘇って生まれ変わったんだ!」
光太郎の覚悟が伺える言葉であった。だが、それを聞いても三人は顔色一つ変える事はなかった。
「哀れな世紀王ね。あのまま力尽きて死んでいれば苦しむ事もなかったでしょうに」
「其処まで苦しみたいのならば望み通りにさせてやろうではないか!」
ザフィーラの言葉と同時に三人が襲い掛かってきた。最初に攻撃の口火を切ったのはザフィーラの鉄拳だった。
彼の拳は光太郎の腕をへし折らんばかりの威力を誇っていた。
(何て拳だ! 腕が引き千切れてしまいそうだ!)
仮面で顔色は分からないが、光太郎の顔が苦痛に歪む。改造人間である光太郎が歪むほどの威力を誇っている拳。それが何度も叩きつけられて来たのだ。
其処へ更にヴィータのアイゼンが叩き込まれる。
「させん!」
その前にシグナムが割って入りヴィータのアイゼンを受け止めて立ち塞がった。
「シグナム。てめぇ……」
「目を覚ませヴィータ! 我等の本当の主を見誤るな!」
「見誤ってるのはてめぇだろうが! 私達の主はシャドームーン只一人だ! それをあんななり損ないの世紀王なんかの元に行っちまいやがって!」
ヴィータの何気ない一言。それがシグナムの怒りに火を点ける事となってしまった。
例え同じ守護騎士だったとしても自分が主と崇めている八神はやてを侮辱するのは自分の、更には己の生き様すらも侮辱されてるのとほぼ同義語と言えたのだ。
「許さん! 我が主を侮辱するその言葉。例え同じ騎士と言えども許す訳には行かん!」
「だったらどうするってんだよ?」
「こうするまでだ!」
持っていたレヴァンティンを力一杯振り回す。それによりヴィータのアイゼンが大きく弧を描き後方へと跳ね飛ばされた。
完全に無防備となった其処へすかさずシグナムは駆けた。両手で柄を握り締めて脇に刀身を収める構えを見せる。逆袈裟掛けに切り払う為の構えだ。
「シグナムさん、まさか……」
「待つんやシグナム! 救う方法はあるんや。焦ったらあかん!」
「主、例え共に寝食を過ごした間柄の騎士だとしても、現主である貴方を侮辱する者を許す訳には参らないのです!」
シグナムの振るう一撃に迷いはなかった。完全にヴィータを殺すつもりでその刃を振るった。
「づっ!」
脇腹を抑えつつヴィータはよろけた。シグナムの放ったとどめの一撃はヴィータの脇を掠めたのだ。
抑えるヴィータの手にはうっすらと血が浮き出ているのが見える。
「くっ、浅かったか……」
舌打ちを付き、再度構え直す。
「どうしたヴィータ。かつての仲間に同情したのか?」
「戦えないのなら下がりなさい。弱者など私達ゴルゴムには必要ないのだから」
「貴様等……」
かつてのシャマルとザフィーラからは想像もつかない言葉が投げつけられた。まるで仲間を道具扱いしているかの様な発言なのだ。
それがシグナムにはとても信じられなかった。今のこいつらが、かつて死線を共に潜り抜けてきた守護騎士達だと言うのだろうか?
「うっせぇ、ちょっと掠っただけだ! まだやれる」
「ならばやれ。裏切り者に情けなど掛けるな!」
「言われなくてもそのつもりだってんだよ!」
売り言葉に買い言葉を交え、ヴィータはアイゼンを構え直した。
「さっきは油断したけど今のでてめぇの太刀筋は読めた。もう当たらねぇよ!」
「そうか……ならば!」
再度刃を振るった。今度も迷いはない。一撃必殺の思いでそれを振るった。
金属音が響いた。肉の切れる音は一切しない。見ればシグナムの放った一撃はヴィータのアイゼンであっさりと受け止められてしまっていたのだ。
しかも、それだけでなく、今度は逆にアイゼンがシグナムのレヴァンティンを大きく振り払う。そして、無防備となったシグナムの脇腹目掛けてアイゼンの猛撃が飛び込んできた。
「ぐっ、はぁっっ!!」
シグナムの口から吐血と共にこの声が聞こえてきた。アイゼンの無情な一撃は彼女の脇に深くめり込み肉に食い込んでいく感触がそれを通じてヴィータの手に伝わってきていた。
「トドメを刺すだぁ? 切り付ける寸前で力を緩めてる時点でてめぇにはそれがないんだよ」
「な、にぃ……」
「気付かなかったのか? さっきの一撃だってお前は躊躇した。裏切り者がお涙頂戴のドラマ演出でもしてたのか? 生憎だけどなぁ、あたし等は裏切り者相手でも容赦しねぇ!」
怒号を上げ、アイゼンを大きく振り回す。それと共にシグナムも遠心力の中へと誘われ、そして地面に叩きつけられた。
全身に激しい痛みと衝撃が走った。肉の組織が寸断され、骨が砕ける音が聞こえる。
恐らくあばら辺りが折れたと思われる。痛みに呼応し、更に口から血を吐き出してしまう。
「シグナム!」
「き、来ては駄目です!」
シグナムの静止を無視して彼女の元へはやては駆け寄ってきた。はやての目から見ても分かる位にシグナムは傷ついていた。アイゼンのたった一撃でこれだったのだ。これが本来の彼女達の力なのであろう。
はやての視線がヴィータを捉えた。そのヴィータと言えば、血糊のついたアイゼンを肩で担ぎながら二人の元へと歩み寄ってきている。
「何だ、なり損ないの世紀王。邪魔だから退けよ! でねぇとてめぇもぶっ潰すぞ!」
「もう、止めるんやヴィータ! こないな事するなんておかしいよ!」
「おかしい? 何がおかしいんだ。あたし等はあたし等の主の命令をこなしているだけだぜ?」
はやての発言にヴィータはまるで動じていない。完全に別人と成り果ててしまっていた。あの優しくて意地っ張りだったヴィータとはまるで違う。
今、目の前に居るのは只の殺戮マシーンでしかないのだ。冷酷な殺し屋でしかないのだ。
「思い出して、私達一緒に暮らしとったやん! 楽しく過ごしてたやん! あれも全部忘れたって言うんかぁ?」
「知らねぇ。勝手に妄想にふけってろよ! この死に損ない」
無情の一言と共にヴィータはまるで火の粉を払い除けるかの様にアイゼンを振るってきた。全く力を込めていない一撃でも、それを受けたはやてはまるで木の葉の様に舞い上がり、そして数メートル先の地面に叩きつけられてしまった。
「う……づっ!」
「だから言っただろ? 退かないとぶっ潰すって」
「無駄な事はお止しなさいヴィータ。そんななり損ないの世紀王を相手にしていたって時間の無駄よ」
「へいへい、ったく口うるさい奴だなぁお前は」
不満そうに頷きながらも、再び倒れているシグナムへと向う。今度こそ彼女の息の根を止める為だ。
「止めるんだヴィータちゃん!」
それを止めようとRXは駆け寄ろうとした。だが、それを背後からザフィーラに押さえつけられてしまった。後方からのヘッドロックだ。
「何所へ行く気だブラックサン?」
「ザ、ザフィーラさん!」
「貴様の相手は俺だ。間違えるな!」
「目を覚ませザフィーラさん! 貴方の主ははやてちゃんだった筈だ! 忘れたのか?」
「何度も言わせるな。我等の主は只一人。ゴルゴム帝国次期創世王シャドームーン様だけだ!」
そう言い、ヘッドロックを解く。自由になったRXが振り返った時、其処には既に堅く握り締めた拳を放っているザフィーラの姿が映っていた。
「ぐはぁっ!」
堅い拳がRXの胴体に突き刺さる。体がくの字に曲がり、衝撃が全身を駆け巡る。
「苦しいか? ならば大人しくキングストーンを差し出せ。そうすれば苦しまないように殺してやる」
「誰が……渡すものか!」
「ならば苦しみ抜いた後に殺してやろう!」
それから続けざまにザフィーラの連撃が繰り出された。拳、蹴り、膝、肘、あらゆる攻撃が襲い掛かってくる。それに対し、RXは全くの防戦一方になってしまっていた。
反撃が出来ないのだ。彼等に対して攻撃も反撃も出来なかったのだ。
「向こうももうすぐ終わるな。それじゃ、こっちもとっとと終わらせるとすっか」
ザフィーラの方を見ていたヴィータがシグナムの方を見る。シグナムと言えば、レヴァンティンを杖代わりにしてようやく立ち上がろうとしている所だった。
何とも無様で痛々しい姿だった。
「哀れだなぁ。かつては烈火の騎士とまで言われたお前が、其処まで落ちぶれるとはなぁ」
「落ちぶれるか……光栄だな」
「はぁ?」
「主の為であれば、私は幾らでも汚れられるし、幾らでも落ちていける! 主の為なら、この命を投げ出す事もいとわん!」
「あっそう」
興味なさげな感じの言葉を放ち、アイゼンを高く振り上げる。その目線には既にシグナムを騎士としては見ていない。唯、道の真ん中に落ちていた大きなゴミとしてしか見ていない目であった。
「じゃ、今すぐに死ね」
無情、余りにも無情な言葉が放たれ、その無情な一撃が今、シグナムへ向けて振り下ろされる。
「駄目や!」
それをはやてが阻止した。背後からヴィータを掴み、とどめの一撃を阻止したのだ。
「んだよ。離せよこの野郎!」
「もう止めてやヴィータ! こんなの、こんなの見てられへんよ!」
「一々うっせぇ奴だなぁ! だったらまずてめぇから死ねぇ!」
背後から掴んでいたはやてを強引に振り払う。その際にはやてはバランスを崩し地面に倒れこんでしまった。そんなはやてに向かい、ヴィータの無情なまでの一撃が繰り出されていた。
その一撃ははやての脳天を目指していた。一撃で彼女の頭を砕き、絶命させる為の一撃だ。
はやては見えていた。ヴィータの放ったアイゼンが自分を狙っていると言う事に。だが、動けなかった。まるで体全身が金縛りにでもあったかの様に。はやては迫り来るアイゼンを凝視していたのだ。
突如、目の前が暗くなった。かと思うと、今度は肉を潰した様な音と骨が砕けたような音が響いた。
「え?」
「ぐああぁぁ………がはぁっ!」
はやての前にシグナムが立ち塞がった。自分の背を盾代わりにしてはやてを抱き締める形でアイゼンから彼女を庇ったのだ。そして、はやての頭を潰すつもりで放たれたアイゼンはシグナムの背中に突き刺さっていたのだ。
肉を潰し、引き裂き、骨を砕く一撃がシグナムに致命的な一撃を与えたのだ。
「シグナム、シグナム!」
はやてが叫んだ。だが、それにシグナムは答えない。ただ、シグナムであったその体は力なくはやてにもたれかかる形でのしかかってきた。
その重さに耐え切れず、はやては地面に倒れこんでしまった。その後ろでは、獲物を仕留め終えたヴィータが邪悪な笑みを浮かべているのが見えた。
「馬鹿な裏切り者だぜ。そんな奴助けたって意味ないってのによぉ」
「あああ……シグナム……シグナムゥゥゥ!」
大粒の涙を流し、はやては叫んだ。だが、主はやての必死な叫びにも関わらず、烈火の騎士はその言葉に答える事はなかった。
後書き
(後編につづく)
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