MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~
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010
ベット・オレイユの主要施設は全て地下にある。
これは二百年前までベット・オレイユの環境が人間が住むには過酷なものであったため、居住施設を地下に作った名残である。更に言えばベット・オレイユの人口の八割であるシメールは元々、過酷な環境に適応できるように遺伝子操作によって作られた労働用の獣人の子孫だった。
ハジメがファム達の指示に従ってベット・オレイユの地下にある軍の基地にリンドブルムを降ろしてからすでに三日。一と彼の護衛兼監視役のファム、ソルダ、フィーユの四人はその間、艦の中で待機するように言われていた。
「今日でもう三日か……。一体いつまでここにいたらいいんだろ?」
「それは……分かりません」
「ごめんなさい。ハジメさんの、イレブン・ブレット少将の情報に上層部も混乱しているみたいで……」
ブリッジで呼び出した椅子に座りながらハジメが呟くと、同じくハジメが呼び出した椅子に座ったソルダとフィーユが申し訳なさそうに謝る。
(まあ、言われてみれば「士官学校の訓練時にゴーレムの群れに襲われ、二百年前に実在した軍人とその機体に助けられた」というSFみたいな話なんて、そう簡単に信じられないだろうな。……もっとも僕にとってはこの世界自体がSFなんだけどね)
「……上層部からしたらハジメさんがイレブン・ブレット少将である事実なんて認めたくないんでしょうね」
ハジメが呼び出したソファーにだらしなく寝そべってファムが退屈そうに呟く。
「ファムさん? それは一体どういうことですか?」
「理由は三つあります」
ハジメが聞くとファムは右手に指を三本立てて説明する。
「まず一つ。個人で強力な機体や戦艦を自由に使える立場なんて認めたら、もし反乱なんて起こされた時どうするんだっていう点」
「なるほど」
確かにいくらサイクロプスとリンドブルムがハジメにしか動かせなくても、強力な機体と戦艦を自由に扱える個人がファムの言うように反乱なんて起こしたらと考えると、軍の人間は気が気ではないだろう。
「次に二つ。『イレブン・ブレット』という名前は二百年前のものですが、その名前が持つ影響力は今も宇宙中に通用します。この事実の味が上層部の人間にとって激マズだという点」
イレブン・ブレットの名前と伝説を知らない人間なんてこの宇宙にはまずいない。もしこれが現代に蘇って、伝説通りの武力を持っていることが知られたら最悪、イレブン・ブレットを中心とした軍に匹敵する一大勢力ができてもおかしくないとファムは考える。
「最後に三つ。……ぶっちゃけ、これが一番大きい理由だと思うんですけど、上層部はハジメさん、イレブン・ブレット少将が自分達に復讐をする気なんじゃないかって、疑っているんだと思います」
「復讐? 僕がベット・オレイユに? 何故?」
ハジメは最初ファムが何を言ったのか分からなかった。ベット・オレイユ軍の上層部が自分を「復讐するために来たのではないのか?」と疑っている理由など全く覚えがない。
「ええっと……。ハジメさんは記憶喪失だから覚えていないんでしょうけど、実は二百年前の巨神の来襲の時、イレブン・ブレット少将って半ば捨て駒のような形で出撃を命じられたんですよね。ゴーレムによる被害とかの責任を無理やり押し付けられて、単機で惑星サイズのゴーレムに特攻させられたんですよ? 上層部はハジメさんがその時のことを覚えていて今も恨んでいるんじゃないかって、怯えているんでしょうね」
ファムに言われて一は、ゲームのマスターギアの終盤辺りで、主人公が何やら理不尽な命令を与えられて出撃するシーンがあったのを思い出した。
惑星規模のゴーレムが迫ってきているというのに、責任を押し付け合って最後には主人公に全ての責任を負わせたベット・オレイユ軍の上層部達。だがそれでも文句の一つも言わず、母星を守るため単機で出撃をする主人公。
正直なところ自分が主人公、イレブン・ブレットだったら、絶対にそんな命令には従わないと思う。
「そうは言われても二百年も前のことだし、当時まだ生まれてもいなかった人達を恨んでも仕方がないじゃないですか?」
「はい。私達はハジメさんが、そんな小さなことを気にする器が小さい人ではないことを知っているのですが、ハジメさんと顔を会わせて話す度胸もないチキンな上層部にはハジメさんの器の大きさが分からないんですよ」
「そうですか……」
「あ、あの、ハジメ殿」
ファムに説明されてハジメが、まだしばらくここに閉じ込められることになりそうだな、とため息をつくとソルダがためらいがちに声をかけてきた。
「退屈なようでしたら映画でも見てみませんか? 自分、映画のデータを持っていますので」
「映画?」
「ええ。いかがでしょうか?」
「そうですね。丁度退屈していたし、見てみましょうか」
ハジメはそう言うとリンドブルムに話しかけてブリッジにモニターを出現させた。
「あっ! 見てくださいハジメ殿! リンドブルムがゴーレムの群れに突撃していくシーン。ここはこの映画の見せ場なんですよ」
「はあ、そうなんですか……」
興奮ぎみに話すソルダに一が困惑ぎみに答える。
ハジメ達今、ブリッジでソルダがデータを持ってきた映画を見ていた。
映画のタイトルは「ワンマンアーミー」。過去のイレブン・ブレットの活躍を映画化したものだ。
映画はイレブン・ブレットが軍に入隊して軍人となる「立志編」、軍で活躍して大佐となるまでの「飛躍編」、大佐となって巨神の来襲を退けるために最後の戦場に向かう「決戦編」の三部作となっている。ちなみに今ハジメ達が見ているのは飛躍編のクライマックス辺りで、ハジメは正直居心地が悪かった。
(映画に出ているのは赤の他人の役者で、モデルとなったのはゲームの僕だっていうのに……なんか変な気分だな)
「この映画、世代が変わる度にリメイク版が出るんですよね。それだけ人気があるってことなんですけど……」
「だがその人気もこれまでだぜ」
「え?」
ファムの言葉に聞き覚えのない男の声が答える。ハジメ達が声がした方を見るとそこには、人間の耳の辺りに犬の耳を生やした軍服姿の男が立っていた。
「貴方は?」
「俺様を知らないとは哀れな奴だな。いいか? 俺様はいずれイレブン・ブレットを超える英雄となる男。ベット・オレイユ宇宙軍のエース、シヤン・エイスト大尉だ。お前か? イレブン・ブレットの名前をかたる偽者野郎ってのは?」
「なっ!? シヤン大尉! 貴官はなんてことを!」
ソルダが血相を変えて怒鳴るがシヤン・エイストと名乗った男は悪びれる様子もなく話す。
「ふん。偽者を偽者って言って何が悪いんだ? 言っとくが俺様はお前がイレブン・ブレットだとは認めていないんだぜ? ……ホラよ、左手の手袋の代わりだ」
エイストはそう言うとハジメに小さい板状の情報端末を投げて渡す。
「確かに渡したぜ。それじゃあ首を洗ってまっていな」
言いたいことを言ってエイストがブリッジから出ていくと、ファムが大きくため息をついた。ソルダとフィーユも疲れたような表情をしている。
「はぁ……。相変わらずですね、あのバカ犬大尉は。それでハジメさん、それちょっと見せてもらえませんか?」
ファムはハジメから情報端末を受けとると、そこに入力された情報を呼び出して目を通す。
「ファムさん? 一体どうしたんですか?」
「ふむふむ……。これは軍本部からの指令書ですね。ハジメさんには明日、サイクロプスに乗って先程のバカ犬大尉……シヤン大尉と模擬戦をほしいそうですよ」
「僕がさっきのシヤン大尉……でしたっけ? あの人と戦う? 何故ですか?」
「明日の模擬戦でハジメさんがミスリルの塊であるサイクロプスを動かせなかったり、シヤン大尉に負けたりしたら、ハジメさんはイレブン・ブレット少将の名前をかたる偽者ってことにする。……上層部の最後の悪あがきってところでしょうね」
「そうですか……。それでシヤン大尉って強いんですか?」
ハジメが聞くとファムは苦い顔となって頷く。
「性格は思いっきり問題がある変人ですけど、アンダーギアの腕だけは軍でトップクラスですね。……あんなのが軍のエースだなんてベット・オレイユもお先真っ暗ですねぇ」
あからさまに首を横にふって言うファムにソルダもフィーユも苦笑するだけで何も言おうとしなかった。どうやらシヤン・エイストに対する認識は二人とも同じようだった。
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