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MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~

作者:小狗丸
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009

 リンドブルムに戻ってから三時間後。ベッドで仮眠をとったソルダの通信機に、救助部隊が到着してベット・オレイユに向けて出発できるようになった、というコロネル大佐からの通信がきた。

 通信を聞いたハジメ達がブリッジに集まると、確かにファム達の母艦の他に二隻の戦艦の姿があった。新たにきた二隻の戦艦はリンドブルムの前方に、ファム達の母艦は後方に位置している。

「イレブン少将。コロネル大佐から出発してほしいとの通信が」

「分かりました。……リンドブルム、発進」

 ソルダに頷いて見せてハジメが命令すると、リンドブルムが発進して、前後にある戦艦もリンドブルムを誘導するように発進しだす。

「リンドブルム、前後の戦艦の誘導に従って飛んでくれ。それと何か異常があったら教えて」

 ハジメが虚空に話すと空中に「了解した」というメッセージが書かれた画面が空中に現れ、ファムが呆れたような顔で呟く。

「なんというか凄いですね。この艦もイレブン少将も」

「そうですか? ……ああ、そうだ。ファムさん、ティーグル少尉、ラパン少尉。できれば今は僕のことを一と呼んでくれませんか」

 いくら自分のプレイヤーネームでこの体の名前だとしても、「イレブン・ブレット」と呼ばれることに慣れていないハジメは、自分の名前で呼んでもらうようにファム達に頼む。

「はい。分かりました、ハジメさん♪」

「了解しました。では私のこともソルダとお呼びください、ハジメ殿」

「私もフィーユでいいですよ、ハジメさん」

「ありがとうございます。ファムさん、ソルダさん、フィーユさん。それじゃあ、そろそろリンドブルムの探索に行きましょう」

 ファム達に礼を言うとハジメは当初の予定通りにリンドブルムの探索を行うことにした。

「……といってもこの艦、見る所なんて限られているんですけどね」

 探索を始めてすぐに言ったファムの言葉通り、リンドブルムの内部はハジメが呼ぶと家具が現れる空部屋ばかりで、見る所といえば格納庫とその近くにある倉庫ぐらいなものだった。

「それもそうですね。だったら格納庫はすでに見たし、倉庫の方を見てみますか?」

 ハジメが発言に反対する者はおらず、とりあえず一達はいくつもある倉庫の中で、一番小さい倉庫を覗いてみる。倉庫の中には何かが入っていると思われる箱が山のように積み上げられている。

「何だこの箱は…………勲章?」

 ハジメが近くにあった箱を開けてみると、箱の中には何やら見覚えがある十数個の勲章がしまわれていた。

(これって……、ゲームのマスターギアの条件達成で貰った勲章なのかな?)

 ゲームのマスターギアでは特定のゴーレムを倒したり、決められた条件で戦闘に勝利したりすると「勲章」というシンボルが与えられる。勲章はゲームには直接関係ない単なるプレイヤーのステータスに過ぎないのだが、地球にいた頃のハジメは友人に自慢するために苦労して勲章を全種コンプリートしたのだった。

「ハジメさん、どうしたんですか? 箱に一体何……がっ!?」

 ハジメが思わず勲章を揃えるために苦労した日々を思い出していると、後ろで勲章の一つを見たファム達が目を丸くして驚く。

「それってもしかして『アーレス勲章』ですか? 単機でゴールドクラスのゴーレムを撃破したパイロットにのみ与えられるという幻の勲章の? 他にも噂にしか聞いたことがない激レアな勲章がいっぱいあるんですケド……!?」

「この艦で見つかったのであれば、間違いなく本物の勲章なのだろうが……初めて見た」

「私も……。今から二百年前にハジメさん……イレブン・ブレット少将が授与された勲章だなんて、国宝的な価値がありますよ」

 勲章を凝視しながら口々に言うファム、ソルダ、フィーユの三人。どうやらハジメにとっては単なる記念品に過ぎない勲章は彼女達には価値がある「お宝」らしい。しかしそんな彼女達の反応に気づかないハジメは、他にも何かないかと倉庫の中を漁ろうとしていた。

【ブラックプラネット×99】

 倉庫を漁って最初に見つかったのは、黒曜石みたいな無数の小さな石だった。

 実はこの石、光を蓄積する性質があり、暗いところに持っていくと蓄積した光を放って十二種の色に輝く宝石なのである。ゲームではただ売って資金に変えるだけの換金アイテムなのだが、この世界では「幻の宝石」とされているらしく、一つでもオークションに出したら後ろにゼロが八つか九つはつく値段になるらしい。

 それだったらとハジメがファム達にブラックプラネット一つずつプレゼントしたら、体が石のように固まった三人にお礼を言われた。

【フラワーアンドロメダ×99」

 次に見つかったのは、鮮やかな赤が印象的な花が入っているケースの山。

 この花もブラックプラネットと同じ換金アイテム(ただし値段は安い)なのだが今では絶滅した品種のようで、この花の成分を分析したら様々な難病を治すワクチンが作れると説明された。

 因みにハジメが花が入ったケースの一つでお手玉をすると凄い顔をしたファムに止められた。

【鉄屑×99】

 最後に出てきたのは、金属系ゴーレムを倒した時に入手するゴーレムの身体の欠片だった。

 これはマスターギアのパーツ作製にも使えないし、売ってもただ同然の値段にしかならないゴミアイテムで、よくこんなに集めたなと自分でも感心したハジメが捨てようとすると、滝のような冷や汗を流したファム達に止められた。

 ゲームではゴミでしかないこの鉄屑は、この世界ではアンダーギアの武装や精密機械を作るのに欠かせないレアメタルのようで、技術者から見たらこの鉄屑は宝石と同等の価値があるのだとか。

「……さて、この倉庫の中は全て見たし、次の倉庫に行きましょうか?」

「ま、まだ見るんですか!?」

 次の倉庫に向かおうとするハジメにファムが悲鳴のような声をあげる。彼女の表情は驚きすぎて疲労の色が濃くなっており、後ろにいるソルダとフィーユも似たような表情をしていた。

 ……その後、ハジメ達はリンドブルムにある倉庫を見て回ったのだが、倉庫で何かが出てくる度にファム達が驚きの叫びとコメントをあげるのは省略させてもらう。



「ようやくベット・オレイユにつきましたね」

『………………』

 次の日。戦艦に誘導されてハジメ達を乗せたリンドブルムは、ようやくベット・オレイユが目で確認できる宙域にたどり着いた。しかしそれを喜んでいるのはハジメだけで、リンドブルムのブリッジは異様なほど静かだった。

「……あれ? ファムさん、ソルダさん、フィーユさん。顔色が悪いですけど疲れているんですか?」

 ブリッジの雰囲気に疑問を感じたハジメがファム達の方を振り返ると、彼女達はこれ以上ないくらいに疲れきった表情をしていた。……言うまでもなく昨日のリンドブルムの内部探索で心臓に悪いものを延々と見せられ続けた結果である。

「い、いえ……。私は大丈夫です。お気になさらないでください」

「わ、私も平気です……」

「ふふふ……。疲れているんですか、ですって? ええ、お陰様でこれ以上ないくらい精神的に疲れていますとも……。もし軍に復帰したら、軍規より先に(私にとって都合がいい)一般常識を叩き込んであげますから覚悟してくださいね?」

 ふらふらになりながらも答えるソルダとフィーユの横で、全身に黒い霧みたいなものを纏わせながら何かを小声で呟くファム。

 何やらファムの様子がおかしいが特に問題ではないだろうと考えたハジメがもう一度ベット・オレイユを見るとそこである違和感を覚えた。

(ベット・オレイユが緑色?)

 ゲームのベット・オレイユは黄土色の惑星だったが、今ブリッジから見えるベット・オレイユは緑色に輝いていた。緑色に混じって黄土色の部分もあるが、それでも緑色の比率の方が多い。

「これは一体……?」

「ハジメ殿? どうかしました……」

 ピピピッ!

 ソルダがベット・オレイユを眺めて首を傾げているハジメに話しかけようとすると、彼女の通信機から呼び出し音が鳴り響いた。

「……コロネル大佐。……了解しました。ハジメ殿、いえ、イレブン少将にもそう伝えます。それでは」

 通信の相手はコロネル大佐だったらしく、敬礼をしながら通信を切ったソルダは、今聞いたコロネル大佐の言葉をハジメに伝える。

「ハジメ殿。戦艦が今から大気圏突入をするので、リンドブルムにも大気圏突入をして後に続いてほしいとのことです」

「ああ、分かりました」

 ハジメがリンドブルムに命じると、リンドブルムは誘導の戦艦の後に続いて大気圏に突入していく。突入する際にブリッジの中がしばらく揺れて外が大気の摩擦熱で赤く光るが、すぐに大気圏を抜けるとハジメは外の景色を見て目を丸くした。

「ベット・オレイユに……森がある!?」

 上空から見下ろした先にあったのは、緑豊かなベット・オレイユの大地だった。ハジメが知っているゲームのベット・オレイユは荒野ばかりの荒れ果てた惑星で、森などの植物が生い茂る場所なんで皆無のはずなのである。

「ハジメさん? ……もしかして記憶が戻ったんですか?」

「え? ええ、まあ、ほんのちょっとだけ……。それよりフィーユさん。この森はなんですか? ベット・オレイユは確か荒れ果てた星だったはずじゃ……」

 ハジメがフィーユに誤魔化すように聞くと、フィーユは少し誇らしげな笑みを浮かべて答える。

「はい。確かに二百年前のベット・オレイユは不毛な土地しかない星で、巨神の来襲によって壊滅的な被害を受けました。でも巨神の来襲以来ゴーレムの出現数が減って、その間にベット・オレイユの住民はナノマシンによる土壌の改善や遺伝子操作で成長速度を早くした植物の開発を行い、二百年でベット・オレイユをここまで緑豊かな星にしたんです」

「そうなんですか。……あのベット・オレイユが」

 フィーユから説明を受けたハジメは、二百年で復興して緑豊かな星となったベット・オレイユを興味深そうに見下ろした。 
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