DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-28秘境の村
少女が手伝ってトルネコが作った朝食を摂り、さらに航海を続け、経由地である南方の大陸に到達する。
険しい岩山に囲まれ、外界から閉ざされたように見える大陸を目にして、兄弟が感想を述べる。
「地図でわかっていたことだけど。本当に、大陸全体が岩山で囲まれているみたいだね」
「国があるって話も聞かねえからな。秘境ってとこか」
商人の特技、タカの目で周囲の様子を窺っていたトルネコが、声を上げる。
「あら?なにか、あるわね。こんなところに、村かしら。それとも、洞窟かなにかかしらね?」
「まさかこんなとこに、人が住んでんのか?」
疑うでは無く、単純な疑問として口にしたマーニャに、アリーナが答える。
「行ける場所に土地があれば、どこにでも人は居着くものだからな。いても、おかしくは無い」
「おお、なんか王子様みてえなこと言うな」
「みたいなものだからな」
マーニャの軽口に、これも軽く返したアリーナに、ブライが渋面を作り、ミネアが複雑な顔をする。
「王子。そこを否定しないでどうするのです」
「アリーナ。乗らなくていいですから」
「……アリーナは、王子様、よね?」
言葉通りに受け取って混乱する少女に、クリフトが解説する。
「ユウさん。今のは冗談ですわ。マーニャさんがわかっていながら敢えて間違って言ったものに、アリーナ様もそうとわかって敢えて、そのままお返しになったのです。この場合のマーニャさんは、親しみを込めておふざけになっただけですが、悪意のある言葉を冗談めかしてぶつけられた時に、怒ったり、単純に指摘したりしてはかえって無粋とされて、より嘲られてしまう場合があります。そこを上手く返す話術も、そういった時には必要になりますね」
「今のは、上手い返しとは言い難いがの」
クリフトの言葉に頷きつつ、アリーナをちくりと刺すブライ。
少女も頷き、クリフトに問いかける。
「そうなのね。わかった。わたしも、できるようになったほうがいい?」
少しの逡巡の後、クリフトが答えを返す。
「それは……。今のところは、良いのではないでしょうか」
「どうして?」
さらに問いを重ねる少女に、言葉を選ぶように告げるクリフト。
「……急にやろうとしても、難しいということもありますし。ユウさんであれば、言った側が、居た堪れなくなりそうな……。大人になったら出来るように、心に留めておく程度で宜しいかと」
「そうなの。わかった」
ミネアがクリフトに、感謝の視線を向ける。
「アリーナと兄さんの相乗効果で、どうなることかと思いましたが。クリフトさん、助かります」
「私も、慣れておりますから。お役に立てたなら、良かったですわ」
「そうですか……。クリフトさんも……」
「ええ……」
暫し、目で会話し、共感し合う苦労人ふたり。
トルネコが、話を戻す。
「お話は、終わったのね。上陸は、どうしましょうかしら?」
苦労人らしく、一瞬で現実に復帰したミネアが答える。
「洞窟を探検するような時間は、ありませんが。村なら、寄ってみたほうがいいかもしれませんね」
「そうじゃの。何か良い物や、情報があるやも知れぬし。細かく見る程の時間は無くとも、寄ってさえおけば、後でルーラで戻って来られるからの」
ご意見番ブライの賛同も得て、他の仲間からも異論は無く、方針が決定する。
「それなら、船を寄せてみますわね。村があるようなら、上陸しましょう。」
大陸を囲む岩山が唯一切れている川沿いに船を進め、村を発見する。
「本当に、村だな。こんな辺鄙な場所に住むとか、気が知れねえな」
「知られていない場所だからな。これでいて何か、利点があるのかも知れない」
「おお。本当に、王子様みてえじゃねえか」
「みたいなものだからな」
「それはもういいですから」
「村の中を流れる川を、船で移動するようになっているのですね。自然に溶け込んで暮らしておられるようで、風情がありますわ」
「ものは言い様だな。オレなんかにゃ、面倒くせえだけに思えるがな。川に橋をかけるって発想は、ねえのかよ」
「武器屋に防具屋も、ありますわね。珍しい素材を使った、珍しい商品があるかもしれないわ。のぞいてみましょう。」
「そうじゃの。良い物があったとして、調整に時間がかかるやも知れぬでな。買い物は、話を聞き回る前に、済ませておくが良かろうて」
村の中の船着き場に船を停め、一行は川沿いの秘境の村、リバーサイドに上陸する。
一軒の建物に併設されている武器屋、防具屋に入る。
トルネコが商品を一目見て、声を上げる。
「まあ!ドラゴンキラーにドラゴンメイル、ドラゴンシールドがあるのね!」
「見るからに、強そうではあるな。すげえもんなのか?」
「ええ!ただでさえ、強力な装備なんですけれど。ドラゴンキラーは、ドラゴンの硬い鱗も切り裂きやすいように、特殊な造りになっているから、ドラゴン系の魔物に特に効果があるし。そのドラゴンの鱗を使った防具は、炎や吹雪のダメージを軽減できますのよ!ユウちゃんが装備できるだろうし、ぜひともほしいところですわね!」
「剣に盾は、よさそうですね。鎧は、ユウにはどうでしょうか」
「そうねえ。とりあえず、ユウちゃん。試着してみない?意外と、動けるかもしれないし。」
「うん。いつかは、重い鎧も装備できるようにならないと、いけないし。ためしてみる」
防具屋の主人の補助で、ドラゴンメイルを身に付ける少女を眺めやり、ブライがぼやく。
「ユウちゃんが、あれを着るのかの。あまり、可愛くないのう」
「ブライさん。お気持ちは、とってもよくわかりますけれど。ユウちゃんの安全には、代えられませんわ。」
「いつまでも、毛皮のコートでは心許ないですからね。金の髪飾りのような、ちょうど良いものがあればよかったのですが」
「まあ、うまく動けるとも、限りませんし。正直なところ、まだ少し早いかとも、思いますのよ。」
ドラゴンメイルを身に纏い、ドラゴンシールドとドラゴンキラーを構えた少女が、身体を動かし、剣を振る。
「ううむ。やはり、どうにも厳めしいのう。ユウちゃんならばどんな格好でも、愛らしいことには変わりないとはいえ」
「あの毛皮のコートは、デザインもお洒落で、よくお似合いでしたものね。仕方の無いこととはいえ、残念ですわ」
「これはこれで、凛々しくはあるのじゃがの。やはり、あの可愛らしさと比ぶればのう」
ブライがまたぼやき、クリフトも同意する。
「似合う似合わねえは置いといて。嬢ちゃんには、でけえんじゃねえかと思ったが。着れば、着れるもんなんだな」
「ある程度、調整はできますからね。それでも、ぎりぎりではあるでしょうし、買うなら、もっと細かく合わせないといけませんけれど。ユウちゃん、どうかしら?」
少女の動きを見ていたアリーナが、返答に迷う少女よりも先に、呟く。
「少し、動きが鈍いようだな」
アリーナの指摘を受け、少女も答える。
「……うん。動けなくは、ないけど。少し、動きにくいみたい」
「あら、そう。やっぱり、まだ早かったかしらね。」
「……頑張れば、動ける」
少し考えて再び答えた少女に、アリーナも言葉を重ねる。
「身体が追い付いていないのに、無理をすることは無い。今朝の鍛練と同じで、無駄に負担をかけるだけだ。焦らなくても、もう少し成長すれば、無理なく使えるようになるだろう」
ブライから聞いていた今朝の出来事を思い返し、トルネコがアリーナに同意する。
「そうですわね。それなら今回は、鎧はやめておきましょう。鎧を脱いで、剣と盾だけで、試してみましょうか。」
鎧を外し、改めて剣と盾を構え、再び剣を振る。
鎧の重さから解放された少女は、今度は鋭い動きを見せる。
「ユウちゃん。今度は、どう?」
「うん。いいみたい」
「アリーナさんから見ても、大丈夫かしら?」
「そうだな。武器を替える前と、遜色無く動けているようだ」
「そうですの。少し変わった形の武器だから、どうかと思ったけれど。ふたりがそう言うなら、大丈夫ですわね。」
「これを買うなら、鋼の剣は、売るの?」
「そうねえ。ふつうなら、下取りに出して資金にするところだけれど。大事な、剣なのよね?」
また、少し考える少女。
「……そうだけど。大事なのは、物じゃ、ないから。旅に必要なことなら、大丈夫。ミネアに買ってもらった物は、ほかにも、あるから。これは、売る。」
「そうねえ。魔法の効果があるものとか、金の髪飾りみたいにおしゃれなものなら、とっておく意味もあるけれど。鋼の剣は、本当にふつうの武器だものね。ユウちゃんがそれでいいなら、ゆくゆくはそうしましょうか。」
「すぐ、売らないの?」
「ドラゴンキラーは、ふつうの剣と違って、腕に嵌めて使う武器だから。実際に戦ってみて、すぐに慣れるかわからないし。しばらくはとっておいて、様子を見ましょう。それで、やっぱりとっておきたくなったら、そうすればいいものね。」
「うん。わかった」
「それじゃ、剣と盾はきちんと調整してもらうとして。あとは……魔法の法衣があるわね。魔法の力で、下手な鎧よりも守備力があるし、攻撃魔法のダメージを軽減できる、なかなかいいものですのよ。ミネアさんやクリフトさんに、よさそうね。おふたりとも、どうかしら?」
トルネコに声をかけられ、クリフトとミネアが応じる。
「身軽になるのに、守備力は高くなるのですか?それは、助かりますわ」
「これから戦うことになるかもしれない敵は、強力な魔法を使いますから。魔法の備えができるのは、いいですね」
「それなら、これも買いましょう。おふたりとも、試着してみてくださいな。」
「しかし、トルネコさん。ドラゴンキラーとドラゴンシールドに加えて、これも、となると」
一行の予算を考え、躊躇うミネアに、トルネコが請け合う。
「大丈夫ですわ。少し、あたしの懐から持ち出すことには、なりますけれど。戦利品の中から、少しずつ返していただきますし、戦力が充実すれば、戦って稼ぐにも効率がよくなりますから。これは、投資ですわ。なにより、命には代えられませんもの。」
一瞬で考えを巡らし、同じ結論に達して、ミネアが頷く。
「……そうですね。すみません、トルネコさん」
「いいんですのよ。言ったでしょう、投資だって。あたしにも、利益になることなんですから。」
「ありがとうございます、トルネコさん。その甲斐があったと思って頂けるよう、私も頑張りますわ」
「まあまあ。頼もしいですわね。さ、早く着てみてくださいな。ミントスほどではないですけれど、少しはデザインも選べるようですし。」
「はい」
促され、クリフトとミネアは魔法の法衣の試着に向かう。
ふたりを見送り、今度はアリーナとマーニャに、水を向けるトルネコ。
「アリーナさんと、マーニャさんにも、なにかあればと思ったけれど。おふたりに合いそうなものは、ないわねえ。」
「防具なら、攻撃を躱してしまえば関係無いからな。俺なら、大丈夫だ」
「オレもアリーナほどじゃねえが、そうそう当たらねえし。前衛の面子が揃って、そもそも前にも出ねえからな。問題ねえ」
「そうは言っても、万一ということもありますからね。新しい場所に行ったら、気にしておくことにしましょう。」
「そうだな。いい武器も、あるかも知れないからな!鉄の爪ほどのものは、そうは無いだろうが」
「まあまあ。アリーナさんは、防具よりも武器に、ご興味がおありですのね。」
「ああ!武器なら、威力を実感できて楽しいからな!防具は、まあいいだろう。それなりで」
防具に関しては気の無い様子のアリーナに、ブライが苦言を呈する。
「王子。少しは、身形や身の守りも、気にしてくだされ。見ておるほうが、寿命が縮まりますわい」
「だから、それなりには気にしているだろう。それより、武器だ。ここには無くても、トルネコなら、なにか知っているんじゃないか?」
元武器商人としての記憶を辿り、答えるトルネコ。
「武術家向けの武器で、鉄の爪のほかに有名なところだと、炎の爪ですかしら。あとは、基本は女性用ですけれど、キラーピアスというのも、ありますわね。」
「炎の爪か!いかにも、強そうだな!キラーピアスは、女性しか装備できないのか?」
「アクセサリーとして身に付けられるから、女性の護身用として、人気の品なんですけれど。武器として使うだけなら、男性でも、使えないことはないのじゃないかしら。爪とは違って、一撃の威力よりも、素早く取り回せる扱いやすさが特徴のものですから。アリーナさんなら、手数が増えることで、かえって与えるダメージを増やせるかもしれませんわね。炎の爪はふつうに出回るようなものじゃないし、あれば買ってみても、いいですわね。」
「そうか!使えるのか!楽しみだな!」
試着と支払いを済ませ、購入した装備品の調整にかかる時間を、一行は手分けして情報の収集にあたる。
「あたしゃ、見てしまったんだよ!
この川を上ったところに大きな像が建っているんだけど、その像が歩くところを!」
「ぞうが……歩く……?」
(ぞう……象……像?象なら、歩くよね。驚いてるから、像?像が、歩くの?)
「うちの人ったら、疲れた疲れたばかり言って、ちっとも話を聞いてくれなくて!」
「あらまあ。ご主人も、お仕事でお疲れなんでしょうけれど。まったく聞いてもらえないのでは、寂しいですわね。」
「そうなのよ!そりゃあ像が歩くだなんて、あたしだって自分で見てなけりゃ、信じられなかったろうけど。でも、だからってねえ。」
(やっぱり、像かな)
「そうですわよねえ。夫婦の会話は、大事ですものね。」
「そうよね!そう思うわよね!まったく、うちの人ったら!」
「いらっしゃい!空飛ぶ乗り物は、いらんかな?」
「空飛ぶ、乗り物?んなもんがあるなら、そりゃ、欲しいがな」
「おい、兄さん。簡単に言うなよ。あるとしても安くはないだろうし、そもそもそんなものがあるとは、聞いたこともない」
「別に買うっつったわけじゃねえだろ。馬鹿高えもんやら偽物やら、売りつけられるような間抜けじゃねえよ。で、ものはなんだ?高えのか?」
「と、言いたいところだが、実はまだ、完成してないんだ。」
「なんだ。やっぱ、詐欺の類いか」
「詐欺じゃない!あとは、空気より軽いガスがあれば、飛べるはずなんだ!」
「実際、無えんだろ?なら、詐欺も同然じゃねえか」
「く、くそー!空気より、軽いガスさえ、あれば!間違いなく、空を飛べるはずなのに!」
「無えもん当てにするほど、無駄なことも無えな」
「まったく当てがないわけじゃない!古い書物によると、空飛ぶ乗り物の源は、硬い壺に入っていたとか……。」
「なんだ。思い付きだけってわけでも、ねえのか」
「……と、村のシスターが言っていた!」
「自分で調べたんじゃねえのかよ」
「その壺の、手掛かりはないのですか?」
「……一説によれば、地獄の帝王が、奪って行ったとか。」
「地獄の帝王、ねえ。どこにいるかも、実際いるかもわからねえし。どうしようもねえな」
「そう言わないで!旅をするなら、見つけることも、あるかもしれないだろう!見つけたら、持ってきてくれよ!頼むから!」
「んな、都合のいい話があるかよ」
「保証はなくとも、万一でも手に入れば、役には立つでしょうから。気にしておきましょう」
「おお!ありがとう!期待してるよ!」
「この島には、魔物たちのお城があるそうです。しかし、それを確かめに行った人は、誰ひとり戻ってきません……。」
「魔物のお城、ですか。もしも本当に、そんなものがあるなら」
「うむ。彼奴も、居るやも知れぬな」
「ああ!行ってみるべきだろうな!」
「王子。殴り込みに行くという訳には、参りませんぞ。行くならば、まずは潜入して、情報を引き出すことを考えねば」
「わかっている!だが、引き出したあとは、倒すことになるだろう!」
「まあ、そういうことになりましょうが。呉々も、早まった真似をなさるではありませんぞ」
「何にしても、キングレオのことが終わってからになるのでしょうね。皆さんに、ご相談しましょう」
情報を集めた一行は、調整の済んだ装備品を受け取り、再び船に乗り込んで、キングレオのある大陸を目指す。
「歩く像に魔物の城、それに空飛ぶ乗り物。色々と、気になる情報がありましたね」
「どれも、与太話みてえなもんだがな」
「こういった噂話に真実が紛れておることも、往々にしてあるものじゃ。馬鹿にしたものでは無いぞよ」
「とは言え、今の時点で、優先して調べる必要は感じませんから。目先の目的があるうちは、そちらからこなしていくべきでしょうね」
「うん。いまは、キングレオに行った、戦士さん。ライアン、さん、を、探さないとね。」
「そうですね。お強そうな方ではありましたが、やはりおひとりでは危険ですから」
「では、予定通り。キングレオを目指して、まいりましょう!」
後書き
真偽も定かで無い情報の数々を心に留め、旅を続ける一行。
目的の大陸で、最初に見付けた、もの。
次回、『5-29漂流少女』。
8/31(土)午前5:00更新。
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