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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-27成長の速度

「むむ!これは、テンペの!異なる素材を用いてこの再現度とは。クリフト、やるの!」
「ありがとうございます。ブライ様が仰るなら、確かですね。安心しました」
「どこかで食べたと思ったら、それか。クリフトは凄いんだな」
「そ、そんな!ただ、教えて頂いた通りにしただけですから!本当なら、アリーナ様のお口に入れられるようなものでは!」
「そうだな。城にいれば止められて、食べることは出来なかっただろうな。旅に出て、良かった」
「アリーナ様……!ありがとう、ございます!」

 マーニャが、声を潜めてブライに問う。

「おい、ばあさん。気があるようには見えねえんだが、ありゃどういうこった」

 ミネアも続ける。

「逆に残酷なような気もしますね。人をよく見ていると思ってましたが、実は鈍感なんですか?」

 ブライが答える。

「王子じゃからの。権威に擦り寄って来る者の他にも、(ほの)かな想いを抱く者は、多くおるのじゃ。大概は、憧れは憧れとして、別に相手を見付けるからの。想いに気付いたとしても、いちいち切り捨てるようなことは、なさらぬのじゃ」
「つまり、わかってやっていると」
「想いに気付いておられるとして、より深く引っ掛けるような物言いになるのは、また別の話じゃな」
「鈍感じゃねえのに天然なのかよ。クリフトも災難だな」
「当人が喜んでおるからの。一概に、そうとも言えぬな。王族としては、周囲の好意を得るに、越したことは無いしの。それに、先のことはわからぬでな」
「つまり、ブライさんもわかっていて放っておいていると」
「そのうち刺され……は、しねえか。アリーナだからな」
「うむ。その点は、武術をお勧めしておいて良かったところじゃな」
「護身術どころの話じゃねえがな」

 クリフトが、マーニャとミネアの様子に目を留める。

「お口に合いませんでしたか?」
「いえ、とても美味しいです。私も料理はしますが、ここまで手の込んだものは、なかなか作りませんから。船旅で食事は不自由になるかと思いましたが、逆に楽しみになりそうです」
「そうだな。オレらだと、とりあえず食えりゃいいってなっちまうからな。旨いし見た目もいいし、ケチのつけようもねえ」
「ありがとうございます。国が違えば味も違いますから、お口に合うか心配でしたので。喜んで頂けて、良かったですわ。おふたりのお国の料理も、興味があります」
「おまかせしてばかりでも、悪いですから。明日は、私たちが作りましょう」
「これから行くから、着けば食えるが。慣らしとくのも、悪くはねえな」

 トルネコが、話に入る。

「それは、楽しみね。それなら、明日の夕食は、おふたりにお願いするとして。朝食と、お昼のお弁当は、あたしが準備しますわね。明後日の朝には着くでしょうから、今回は朝はあたしが担当ということでいいかしら。明後日は特に、簡単に済ませてしまいますけれど。」
「そうですね。毎回、手の込んだものを作ることもないですし、朝は時間をかけずに準備してもらえるなら助かりますから。よろしくお願いします」
「あたしは、そういうのは得意なのよ。家だと夫がやってくれるから、あまり機会はないのだけれど。まかせてくださいな。」

 少女が言う。

「わたしは、ひとりだと、ちゃんと作れないと思うから。みんなのお手伝いをしたいけど、いい?」
「そうね。ユウちゃんが手伝ってくれれば、作業がはかどるから。助かるわ。」
「そうですね。ユウ、お願いします」
「ふむ。わしは、どうするかの」
「船旅もこれで終わりってわけじゃねえからな。無理になんかしなくても、いいんじゃねえか」
「そうじゃの。他に仕事はあるしの、今回は任せるとするかの」
「俺は」
「手伝うってか教える羽目になんだろ。またにしろ。戦ってるほうが、よっぽど助かるしよ」
「そうか。わかった」

 トルネコが話を変える。

「ところで、夜の見張りのことですけれど。半分に別れて、順番に休むことにしようと思うのですけれどね。あたしとブライさんが舵を取るから別々で、攻撃魔法が使えるマーニャさんは、あたしと組んでいただいて。前衛のアリーナさんはブライさんと組んでいただいて、クリフトさんももう大丈夫なら、回復役としてそちらについていただいて。ミネアさんがこちらについていただけば、ちょうどいいと思うのだけれど、どうかしら。」
「ふむ。クリフト、どうじゃ」
「私なら、大丈夫です」
「サントハイムのみなさんは、ずっと一緒に旅をして、息も合うでしょうし、それがいいかもしれませんね。もっと慣れれば、組み替えてもいいでしょうが」
「そうだな。そうすっか」
「わかった。それでいい」

 当然のように話が纏まりかけ、少女が口を挟む。

「わたしは?」
「ユウちゃんは、子供なんだから。夜はちゃんと寝ないと、大きくなれないわよ。」
「そうですよ。ただでさえ、子供らしい生活ではないんですから。夜くらいは、寝ないと駄目です」
「でも。どうせ、朝は鍛練で、起きるから」
「その時間とも、かなりずれるだろ。いいから、寝てろ」
「ユウさん、これは大事なことですわ。成長期に、無理をしてはいけません」

 口々に少女を(いさ)める、仲間たち。
 それを受け、思い出したようにブライが言う。

「それで言えば、王子もまだまだ、成長期ではありますな」
「全く寝ないという訳では無いだろう。俺なら、大丈夫だ。ユウは、休め」
「ふむ。この程度の無理も利かぬようでは、国王は務まりませぬからな。体力もおかしな程ありますし、王子は問題無いでしょう。ユウちゃんは、しっかりと寝るべきじゃの」
「ユウの鍛練の時間に合うのは、どっちだ?出来れば、そちらがいいが」
「それでは、あたしたちが先で、みなさんがあとにしましょう。」
「すまないな」
「早く起きるより、遅くまで起きてるほうが性に合うからな。オレもそれがいいわ」
「では、私たちは早く休まなくてはいけませんね」
「うむ。風呂も、沸かしてもらっておるでの。早く入って、早く休むとするかの」
「熱めにしといたから、ぬるいってこたあねえだろうが。熱すぎたら、ばあさんがなんとかしてくれ」
「うむ」
「では、そういうことで。ユウも、いいですね?」
「……わかった。起きてるときは、いっぱい働くからね」

 話は纏まり、少女も戸惑いながらも受け入れる。

「それじゃあ、ユウちゃん。一緒にお片付けしましょうか。」
「うん」
「作っていただいたのですから、片付けなら私が」
「あたしは、クリフトさんをお手伝いしただけですから。でもそうね、ブライさんたちには早く休んでいただきたいし、船も動かしておきたいし。ミネアさんとユウちゃんに、お願いしようかしら。」
「その分担なら、オレが見張りだな。回収しなくてよけりゃ、遠くから吹っ飛ばせば終わるしな」
「そうだね。もしものときは、呼んでくれれば途中でも行くけど。よろしく、兄さん」
「おう」


 トルネコは錨を上げて舵を取り、マーニャはトルネコを手伝ったのち見張りにつき、ミネアと少女は食器の片付けを行い、サントハイムの面々は順次入浴して休む準備に入る。

 片付けを終えた少女も入浴を済ませ、前半の見張り組に声をかける。

「トヘロスは、いちおうかけ直したけど。みんなは、お風呂はどうするの?」
「そうねえ。入るなら寝る前がいいけれど、冷めちゃうわねえ。」
「沸かし直しゃいいんだろ。湯冷めしてもつまらねえし、あとにしようぜ」
「あらあら。催促しちゃったみたいで、わるいわねえ。」
「今さら遠慮すんなよ。オレも入るしな、あとで酒でも振る舞ってくれりゃあ、言うことないがな」
「そうね。航海の間は、人手がいるから難しいけれど。考えておくわね。」
「お、言ってみるもんだな。ってわけで、嬢ちゃんはもういいから、休みな」
「うん。でも、トヘロスは、朝まではもたないから。なにかあったら、起こしてね」
「寝てるガキに頼るほど、落ちぶれちゃねえが。ま、よっぽどなんかあったらな」
「では、ユウ。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」


 当番の三人を甲板に残し、船は夜の海を、静かに進む。



 翌朝、少女が起き出すと、見張りはサントハイム組に入れ替わっていた。

「おはよう、みんな」
「ユウさん。おはようございます。本当に、お早いですね。よく、眠れましたか?」
「大丈夫。いつも、これくらいなの。トヘロスは、切れてたと思うけど。みんなは、大丈夫だった?」
「おお、ユウちゃん。今日も、早いの。王子が、張り切ってお倒しになったでな。わしらも、補助には慣れておるでの。問題無いの」
「おはよう、ユウ!鍛練を始めるんだな!」
「うん。でも、アリーナは疲れてるでしょう?」
「体が温まって、調子が良いくらいだ。ユウの準備が済んだら、始めよう。と言っても、船の上だからな。あまり派手な真似は出来ないか」
「うん。試合形式だと、動きが大きくなると思うから。合わせるだけね」
「ああ、そうしよう」


 少女は身体をほぐし、広い甲板の上を、仲間たちの邪魔にならないように、ぐるぐると走る。

 いつも走っている距離より遥かに短いが、十分に体が温まったところで、走るのをやめる。

「もう、いいのか?」
「うん。あんまり走ると、邪魔になるから。今日は、これくらいにする」
「そうか。では、始めようか」
「うん」

 ふたりは、少女がホフマンとしていたような、相手の隙を突くような試合形式では無い、型を確認するための手合わせを始める。
 ホフマンのときとは違い、相手の技量が上のため、少女は最初から全力の速度で打ち込む。
 アリーナは余裕で受け流し、打ち返す。
 少女も、危なげ無く対応する。

 流れるような応酬を続けるふたりに、クリフトがうっとりと見惚れる。

「素敵ですわ……!アリーナ様と、これほど打ち合える方は、初めて見ます」
「ふむ。我らがサントハイムの魔法兵も、決して弱くは無いが。少しばかり、魔法に頼り過ぎる嫌いがあるからの。皆が戻った暁には、いま一度、武の方面にも力を入れるよう、進言するとするかの」

 ふたりの練度の高さとクリフトの感想に、故国の現状を思い出し、呟くブライ。
 クリフトも、同意する。

「兵団長様も、皆が武を軽視する傾向にあることを、嘆いておいででした。お歳とともに魔力は緩やかにでも更に伸び、逆に武においては衰えていく一方の自分が言っても、説得力が無いようだと。元から武芸とは関係の無い、魔法の権威たるブライ様のお言葉なら、届くかも知れませんね」

 ブライが思案気に顎をさすりつつ、応じる。

「あれらも、高い魔法の能力で選抜された、優秀な者たちじゃからの。才能だけでなく、努力も無くば成し得ぬことじゃから、誇りを持つのは良いが。鼻にかけるようでは、話にならぬ。魔術師では無く魔法兵である意味を考えれば、どうあるべきかなどわかりそうなものじゃが。王子が相手では、いかに力の差を見せつけられようとも、所詮魔法が使えぬからであると、他人事でいられるからの。魔法の才にも優れるユウちゃんが、これほど出来るのを目にすれば、それも変わるやも知れぬな」
「確かに、まだ幼いユウさんが、これほど頑張っておられるのを見ては、他人事のような顔はしていられませんね。でも、王宮は、綺麗なだけの場所ではありませんから。ユウさんをお連れするのは、少し心配です」

 顔を曇らせるクリフトに、ブライが事も無げに請け合う。

「なに。王子とわしと、クリフトの不興を買ってまで、おかしな手出しをしようとする者などおるまいよ。しようとも思わぬように誘導することも、実際にしようとしたときのことも、幾らでもやりようはあるでな」

 ブライの言葉に、(なか)ば納得し、半ばは怪訝な顔になるクリフト。

「アリーナ様とブライ様はともかく、私……ですか?私には、そのような権威も何もありませんが」
「このような場合に役立つのは、権威だけとは限らぬのじゃ。まあ、わからねば良い。ユウちゃんが来てくれるとも、限らぬしの。ただでさえ重い運命なのじゃ、重荷ならばこれ以上は必要無い。とは言え、隠しておけば守れるとも、限らぬしの。どうするが最善かは、ユウちゃんの希望も含めて、よく考える必要があるの。いずれにしても、先のことじゃ」
「そうですね。まずは、目の前のことですね」


 ブライとクリフトが話し込む間にも、アリーナと少女は手合わせを続ける。
 アリーナの洗練された動きにつられて、少女の動きも、鋭さを増していく。

 動く速さと精度はそのままに、アリーナが余裕で言葉を発する。

「だいぶ、慣れてきたな!少し、速くするぞ!」
「うん」

 少女は動きに集中しながらも、瞬時に言葉を返す。

 宣言通り、アリーナが打ち込む速度を増していき、少女も合わせて速くなる。

 更に集中し、自身の限界を超えて動き続ける少女の姿に、アリーナが再び声をかける。

「ユウ!そろそろ、終わるぞ!」

 動きに集中する少女は、返事をしない。

 聞こえていないと見たアリーナは、それまでの動きの調和を、わずかに乱す。
 少女がぴくりと反応し、打ち込む速度が、わずかに鈍る。
 すかさず、打ち込まれた剣の刃を、アリーナが両掌で挟み込んで受け止め、そのまま力を込めて保持する。

 剣を引こうとして止められ、しばしそのまま動きを止めていた少女が、我に返る。

「……アリーナ。もう、おしまい?」
「ああ。ついてこられるからといって、急に速くし過ぎたな。すまない」
「ううん。アリーナに合わせてたら、いつもよりうまく動けた。最後は、ほとんどなにも考えてなかったけど」
「ユウは、技術の高さと反応の速さに、身体能力が追いついていないんだな。身体の成長を追い抜くほどの技術を身に付けた者は見たことが無かったから、気が回らなかった。無理に動けば、負担がかかる。いずれは、身体も追いつくだろうが。それまでは、気を付けよう」
「そうなのね。でも今までは、こんな動きはしようとしても、できなかったから。もともと、できてたわけじゃないと思う。やっぱり、アリーナはすごいね」
「ユウよりは年が上だし、旅に出たのも早いからな。ユウの身体が追いつくまでは、無理に速くする必要は無いな。本来は、遅くても十分に効果のあるものだ。成長に合わせて、焦らずにやっていこう」
「うん」

 手合わせを終えたふたりに、ブライとクリフトが近寄って来る。

「王子。あれほど、加減を忘れぬよう申しましたのに。とは言え、想定しておった内容とは違いましたな。次からは、お気を付けになりますよう」
「ああ、わかっている」
「おふたりとも、素晴らしかったですわ!でも、ユウさんには負担だったのですね。お身体は、大丈夫ですか?」
「うん。アリーナが、止めてくれたから。どこも痛くないし、大丈夫だと思う」
「後で影響が出てくることもありますわ。念のため、少し回復しておきましょう」

 クリフトが、少女にホイミをかける。
 少女の身体全体が淡い光に包まれ、見えない損傷を回復する。

「ありがとう、クリフト。ホイミは、こういう使い方もあるのね」
「肉体の損傷と体力の消耗を、一括して生命力の損耗と捉えて、必要に応じて回復力を振り分けるのが、ホイミ系の魔法ですから。慣れないと難しいかも知れませんが、回復力を身体全体に薄く広げて振り分けると、こうなります。私はまだ使えませんが、上級のベホマであれば、振り分けるまでも無く全快させることが出来る反面、回復のし過ぎは訓練の効果を失わせるとも言われています。痛みは無いということですから、ホイミでも余剰になりそうな回復力は、体力の回復に回しました。恐らく、これくらいが適当かと」
「そうなのね。どちらかを治すやり方しか、知らなかった。今度から、寝る前に練習してみる」
「それなら、私がお力になれそうですね。わからないことがありましたら、何でも聞いてくださいね」
「うん」
「クリフトがついておれば、大丈夫じゃとは思うが。あまり、(こん)を詰めぬようにの」
「はい。ユウさんに無理をさせるようなことは、致しません」


 そうこうしているうちにトルネコが起き出してきて、四人に声をかける。

「みなさん、おはようございます。お変わりは、なかったかしら。そろそろ、食事の支度をしようと思うのですけれど。お取り込み中かしら?」
「おはようございます、トルネコさん。丁度、区切りが良いところでしたわ」
「おはよう、トルネコ。お手伝いするね」
「夜間は、特に変わったことは無かったの。強いて言えばユウちゃんのことじゃが、まあ、後で良かろう」
「まあ、そうですの。それなら、あとでお話をうかがいますわね。ユウちゃん、行きましょうか。みなさん、もう少しここを、お願いしますわ。」
「ああ。このまま一日戦っても、問題無いくらいだ。気にせず行ってくれ」
「まあまあ。頼もしいですわね。では、またあとで。」

 トルネコは少女を連れて中に戻り、サントハイム組は見張りを続ける。 
 

 
後書き
 先を行く仲間たちに導かれ、力を付けていく少女。
 船旅の途上、立ち寄った村で得る、情報の断片。

 次回、『5-28秘境の村』。
 8/28(水)午前5:00更新。 
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