銀色の魔法少女
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十七話 フェイト・テスタロッサの驚愕
side フェイト
私は一人、ベッドで体を丸めていた。
少し前のことだ。アルフがどこかに消えてしまった。
母さんやレイに聞いても知らないらしい。
普段はレイもここに居るのだが、今は母さんの手伝いで時の庭に残っている。
だから、今は私一人。
そのはずだった。
コンコン、っと誰かが窓ガラスを叩く音がする。
気のせいかと思い動かないでいると、またコンコンっと音がする。
私は不思議に思い、音がする方に向かう。
「…………どうして?」
窓の向こうには、幾度も私の邪魔をした魔導師がいた。
「やあ」
彼は軽快に片手を上げる。
「ちょっと二人でお話したくて来たんだけど、ここ開けてもらってもいい?」
その言葉遣いに私は激しく違和感を覚える。
確か彼はこんな風に話す人じゃなかったはずだけど。
「…………わかりました」
とりあえず私は窓の鍵を開ける。
彼に戦う意思がないことは律儀に窓を叩くことから確認した。
私を捕まえるだけなら、窓なんて気にしないで突撃してくればいい。
「わー、ありがとー」
彼は靴を脱ぎ、部屋に入る。
「それで、話というのは?」
「ははちょっと待ってね、その前にお茶菓子出しちゃうから」
彼は手に持っていたケーキの箱をテーブルの上に置く。
慣れた手つきで私と彼の分のケーキを並べ、温かいミルクココアを入れる。
「えっと、あなたはアレルギーとかないよね?」
「特に、ないです」
「うん、なら大丈夫だね」
そう話す彼からはいつもの気迫が感じられない。
まるで中身だけを取り替えたように、別人に思えた。
「えっと、そうだね、どこから話そうかな……」
「あの、最初に一つ聞きたいことが」
「? 何でもとは言えないけど、できる限り答えるよ」
「その、今日のあなたはいつものあなたじゃないみたい、だけど……」
慣れない相手との会話は、どうしてもぎこちなくなる。
「ああ、そう言えばそうだった! ちょっと急いでたからいつもの口調をすっかり忘れてた、…………まあ、いいや、バレちゃったものは仕方ないし、今はこのままで」
どうやら、今までのは演技だったらしい。
それにしては自然体過ぎたような気がするけど。
「ねえ、君は今どれだけジュエルシードを集めたの?」
「!?」
ジュエルシードの話を切り出され、私はバルディッシュを展開、彼の首筋へ刃を向ける。
「やっぱり、それが目的だったのですか?」
「いんや、これっぽちも」
少しでも私が力を入れれば首が飛ぶこの状況で、彼は平然とケーキを口に運ぶ。
その行為に毒気を抜かれて、バルディッシュをしまう。
「残るジュエルシードの数がどうしても把握する必要が出てきたからさ、その確認とお願いに」
「お願い、ですか?」
「うん、君にとって悪くない話」
わからない、この人が何を考えているのかさっぱりわからない。
少し前まで全力で戦っていた相手なのに、今は私に協力して欲しいという。
「あなたは、一体何が目的なのですか?」
私はその疑問を口にする。
「ん? 結構単純だよ、私は平和に暮らしたいの」
「……本当にそれだけですか?」
「うん、それだけ」
顔を隠しているので表情は見えない。
けれど、彼が嘘を言っているようには思えなかった。
「私が持っているジュエルシードは、四つです」
私はそれを信じて、持っている個数を話す。
「四つ、となると残りは三つか、うん、なんとかなりそうだ」
「何が、ですか?」
「えっとね、ここからがさっきのお願いになるわけだけど、ねえ、君って広域攻撃魔法って使える?」
「ええ、できますが……」
「それを海に打ち込んで欲しいんだけど」
それを聞いて、私はこの人が何をしたいのか理解した。
「……それでジュエルシードを強制的に発動させるわけですね」
「うん、そういうこと、多分それやった後は疲れちゃうだろうから、封印は私とアルフが手伝よ」
「!? アルフが、どこにいるか知っているの!?」
「うん、今ちょっと療養中」
よかった、と私は胸をなでおろす。
「でも、療養って一体何があったの?」
「いや、それは、その…………」
急に彼が口ごもる。何か言えないことでもあるのだろうか。
「ごめん! 今は言えない、今ちょっとイロイロと下準備の真っ最中だから」
そう言って両手を合わせ、頭を下げる彼。
…………何度も思うが、本当に別人ではないだろうか。
「わかりました、では今は聞きません」
「助かるよ~、あ、報酬はそのジュエルシード全部でいい?」
「! 全部、もらっていいのですか?」
「うん、私には必要ないし……、まあ本当は私の持っていたやつもあげた方が信用されると思うけど、あいにくちょっと前に管理局に渡しちゃったからさ」
はははと笑う彼だけど、私は納得いかない。
「わかりました、一応あなたを信用しましょう、ですが」
「ん? 何か聞きたいことあるの?」
「あなたは、本当に男性なのですか? さっきからまるで女性のような話し方をしていますけど」
そう言うと、彼は首をかしげてこう言った。
「え? 私は最初から女の子だけど?」
この後、しばらく私が放心状態になったことは言うまでもない。
ページ上へ戻る