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戦国異伝

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第百三十一話 二人の律儀者その四

「後はな」
「ではその時に」
「我等が動く時はその時になる」
 厳しい顔で言う、来たるべき時が近いことを確信して。
 それで打つ手を用意していた、彼にしては織田が勝ち朝倉が面子を守る形でその織田に降ることが理想だった。
 長政は首も捻って述べた。
「しかしどうもな」
「義景殿ですか」
「あの方ですか」
「義景殿が頭を下げられれば」
 それでだというのだ。
「そもそも戦ははじまらなかったのだがな」
「上手くいきませぬな、そこは」
「困ったことです」
「本来なら避けられた戦なのですが」
「残念なことです」
「全くだ、宗滴殿も困っておられるだろう」
 宗滴の名も出た、だがだった。
 ここで家臣の一人が長政にその宗滴のことを話した。
「ただ、宗滴殿ですが」
「むっ、どうした」
「今はお身体が宜しくないらしく」
 それでだというのだ。
「床に臥せっておられるとのことです」
「何と、そうなのか」
「はい、今この時にです」
 織田家の大軍が攻め寄せて来るこの時にだというのだ。
「そうなられています」
「お命は大丈夫か」
「そこまで悪くないとのことですが」
 やはり宗滴の齢が気になる、八十を超えるともう何時どうなるかわかったものではないからだ。彼もそうした歳なのだ。
 それでだ、長政もそのことを問うたのだ。
「お命さえ問題ないならな」
「よいのですな」
「うむ、それならな」
 長政は少し安堵した顔で言葉を漏らした。
「よい」
「さすれば」
「しかし。宗滴殿がおられぬと」
 朝倉家の柱であるその彼がいないならというのだ。
「朝倉家は織田家に対することは出来ぬ」
「兵でも大きく開いていますし」
「それでは、ですな」
「金ヶ崎で決まる」
 やはりそれでだというのだ。
「あの城が陥ちればな」
「それで、ですな」
「戦は決まりですな」
「金ヶ崎を超えれば一乗谷まで一直線じゃ、そこで文を送る」
 早馬を使いそうしてというのだ。
「もっともこれは義兄上も読んでおられるだろうがな」
「ですな、織田殿ならば」
「その程度は読んで下さいます」
 浅井家の者達も信長の鋭さはわかってきていた、織田家が天下のかなりの部分を制してから数年の間彼等も信長と共によくいたからだ。
 それで彼等もこう言うのだ。
「おそらく金ヶ崎で殿が文を送ると思われていますな」
「その様に」
「そのことは間違いない」
 確実というのだ。
「さすれば」
「はい、早馬の用意もしてですな」
「そのうえで」
「我等は待とう、近江の西の道を通られることもな」
 またこの話になる。
「わしは何も言わぬ」
「では」
「お助けすることも出来ぬがな」
 これもしないのだった、朝倉家との縁を考えるとこれは無理だった。 
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