魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter16「思わぬ出会い」
機動六課の初任務から5日が過ぎた新暦75年5月18日。
新人達フォワード隊は初任務の疲れを感じさせない動きを見せ、各教官のしごきを必死に乗り越えよと努力し続けている。例えばヴィータのグラーフアイゼンによる打撃をバリア系の防御魔法でひたすら受け続けるスバルや、なのはの無数の魔力弾による攻撃を自分の立たされている状況に合わせ、臨機応変に魔力弾を迎撃するティアナ。フェイトに指示されたオートスフィアによる攻撃を徐々にペースを上げながら避け続けるエリオとキャロ。皆それぞれ自分の能力を上げる為頑張っていた。
「で、はやて……何で俺はこんな格好をしなければいけないんだ?」
「しゃーないやろ?これからルドガーを連れていく場所じゃ私服の人間は目立つんやから」
ルドガーが不満を漏らしているこんな格好というのを言い現せば、白のワイシャツに普段から着用している黄色のネクタイを着け、茶色の上着とスーツパンツ………簡単に言えば男性用の陸士部隊の制服と言えばわかるだろう。
意外と窮屈なのかルドガーはネクタイを緩めようと首元に手を伸ばすが………
「こらっ!ダメやって言ったそばから!」
「ぐえっ!」
ネクタイを緩めている瞬間をはやてに丁度見られてしまい、おもいっきりキツく締め上げる。
息ができない中途切れ途切れにやめろと言うが
「さっきからずっと注意しとったのに繰り返すアホんだらにはこれぐらいしたほうが丁度ええ!ついでにそのたるんだ顔も引き締まって一石二鳥や!」
「はぁはぁはぁ………殺す気かよ!!」
はやての手を振り払い割と本気で怒鳴るルドガー。一呼んで『ドナルドガー』等と決して思ってはいけない。
「堅っ苦しいの苦手なんだよ……」
「しゃんとせんか!一応ルドガーは私のボディーガードなんよ?」
「?さっきから思ってたけど、なんだよそれ?ボディーガード?というかはやてを襲うような物好きはいないんじゃないか?むしろ襲ってきた相手の方が---」
「ああん?」
「なんでもありません」
口は災いの元………危うく天に召される原因を自ら作ろうとしていたルドガー。
助かってよかったと思わず安堵する。
「冗談はともかく……最近色々と外も何かと物騒なんよ。……特に管理局の魔導師は…な」
「ん?」
「あれ、言ってなかったかぁ?この頃高ランク魔導師が夜限定やけど襲撃にあってるって話し」
全くの初耳だ。
というより何故高ランク魔導師をわざわざ襲うのだろうか?高ランク魔導師…身近で言うならなのはやフェイト…隊長格の人間を指す称号だが、仮に腕試しで管理局の高ランク魔導師を襲っているとしても大したメリットはない。むしろデメリットだらけだ。彼女達の実力を知っているからこそ言えるが、あのレベルの相手とガチンコで戦えば返り討ちに合うリスクもある上、この話しが広まっているように魔導師を襲撃すればするほど、管理局を挑発する事になり警戒も厳しくなる。
ましてや管理局員なんて職種になれば尚の事。
「因みにこの事件は一般には公開はされてへん……理由は簡単や。襲撃魔に襲われて負傷した上にのされたなんて世論が知れば、バッシングが半端ないのは目に見えてるからなぁ」
「組織って言うのはメンツを大事にするからな……わからなくもないが」
「よくわかっとるな……で、偶然居合わせた一般局員がその襲撃魔を目撃したみたいなんや」
「?その言い方だと襲撃された局員の方は覚えてないのか?」
既に数件起きており、襲撃された人間の1人や2人襲撃魔の顔を見ているはずだ。
「うーん……その肝心な襲われた人達はどういう訳か昏睡状態なんやって。しかも体の至る所に魔法を受けた後遺症なのか謎の痣があるとかないとか」
「確かに物騒だな……それで犯人の特徴は?」
「何でも相当な恥ずかしがり屋さん見たいですよ?」
「リインか」
廊下を歩いていると後ろから来たリインがそのままルドガーとはやての話しに参加し始める。実はリインも2人に一緒に付いていくそうだ。
「襲撃魔さんは黒尽くしの服装で、趣味なのかわかりませんが、黒い鼻から下が露出した仮面、もしくは同じ特徴のバイザーを着けてるみたいですよー」
「仮面…かぁ……」
仮面という単語を聞くとやはり“あの男”の事を思い出してしまう。
分史世界でのもう1人の自分……ヴィクトル。
彼は時歪の因子化してしまった右目に両目とも隠れる仮面をつけて時歪の因子化している事を隠していた。襲撃魔の場合はそんな事情ではなく単純に素顔を隠す為に用いているのだろう。
「一応私もリミッター付けて4ランクダウンでAランクまで魔力値は落ちてるんやけど、高ランク魔導師というのはかわらへんから、特に夜間は1人で出歩くのは上から自粛するよう言われてるんよ……ってな訳で…っとう!」
真面目な顔をしていたはずのはやては、少しの間を置きルドガーの右腕に抱き付きそのまま歩く。
女性らしい柔らかい膨らみの感触が右腕越しに伝わる。
小柄だと思っていたソレは見た目より大きいようで、一瞬この感触に内心狼狽するが、特に意識しないようにし、冷静に振る舞う。
「しっかり私を守ってな?最強のエージェントさん♪」
「歩きにくいんだけど……」
「ええやんか♪私は寧ろこっちの方が落ち着くわぁ♪」
「わぁーズルいですぅ、はやてちゃんばっかり!ならリインは左腕をちょうだいするでーす!」
「……はぁ………」
本来なら泣いて喜べるはずの状況にもかかわらず、大して喜びを感じる事ができない。
これが恋愛における雰囲気が大事だというところなのだろうと、恋愛経験のないルドガーは少しだけわかった気がした。
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午前の訓練を終えたフォワード達はなのは、フェイト、ヴィータの隊長格と一緒に昼休憩の為、訓練場から隊舎へと向かっていた。フォワード達の衣服の汚れ具合から相当な訓練を今日もこなしたのだろう。その道中で隊舎玄関前にてルドガーとはやてとリイン、シャーリーと偶然居合わせる。
ルドガー達の前にはグリーンのオープンカーが停車しており、どこかに出掛けるのだろう。
「皆お疲れさんや」
「「「「はい!」」」」
丁度車に乗り込もうとしていたはやてはなのは達に気が付いて声を掛ける。フォワード達も疲れいるのを感じさせない明るい声で返事をする。
「はやてとリインは外周り?」
「ルドガーさんもですよ、ヴィータちゃん!」
「ルドガーもかよ。ってか何で制服着てんだよオマエ?」
「ははは……」
「ちょうナカジマ三佐とお話ししてくるよ」
「あっ」
ナカジマという名を聞きスバルが反応する。これからはやて達が向かうのは陸士108部隊。
はやての古巣でもあり、スバルの父親でもあるゲンヤ・ナカジマが部隊長を努めている2人にとっては馴染み深い部隊でもある。
「スバル、お父さんやお姉ちゃんに何か伝言とかあるか?」
(へぇ……スバルには姉さんがいるんだな)
これから行く部隊のトップの人間がスバルの父親だとは聞いていたが、スバルに姉がいるという事を知り少なからずルドガーは興味を持つ。あのいつも元気一杯なスバルの姉がどんな人物か見てみたいという好奇心から来たものだろう。
「いえ!大丈夫です」
伝言も特にないとう事をスバルが伝えるとはやてとルドガーとリインは車に乗り込む。
当然運転手ははやてだ。
「じゃあ、はやてちゃん、リイン、ルドガー君。行ってらっしゃい」
「ナカジマ三佐とギンガに宜しく伝えてね」
「うん」
はやてと同じく旧知の仲であるなのはとフェイトが宜しく伝えるようにはやてに頼み、はやては車のアクセルにゆっくり力を加える。
「いってきま~すぅ!」
曹長という階級に似合わない可愛らしい声を上げるリインにルドガーも自然と笑う。
「なぁはやて?」
「うん?」
六課敷地内から出て暫くしてルドガーは前々から思っていた事を相談する。この世界に飛ばされてからその存在についてルドガーは知りたがっていたし、自身も使えたらいいなとも思っていた。そして今日、改めてソレの便利さを知りルドガーは割と本気で欲しいと思っている。
「車っていう乗り物のライセンスを俺も取りたいんだが……」
機械、車、バイク………それは『バリボー』に勝も劣らない男のロマン……。
男であるルドガーも惹かれるのは必然だった。
だがまだミッドチルダの市民権を持たないルドガーはライセンスは取得できないと聞かされ、
落ち込むのもまた男のロマンの醍醐味……。
………男のロマンに負傷はつきものである。
もしローエンが居たならルドガーにこう叫ぶよう伝授するだろう……。
ビバ!ロマン!
………そしてまたは……。
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「ガイアスさんも叫びましょう!さぁ!ティーチーミーバリ---」
「言わせないよ!?」
「……ティーチーミー……バリボー?」
「ちょ、ガイアス!?」
未だにバリボーの意味がわからずもとにかくガイアスに言わせないようにしたジュード。
頑張ろう……ジュード。
同じ傷を他の人間に負わせないように……例えそれが男である事を否定する選択だったとしても……。
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陸士108部隊の隊舎に到着したはやてとルドガーは部隊員に部隊長室へと案内される。
部隊長室に向かう最中に廊下ですれ違う人間がはやてを見て敬礼をするのを見て彼女が管理局内ではそれなりの地位についている事を改めて思いしらされた。
たまにルドガーの事も詮索する声も聞こえるが大方はやての部下だと思われているのだろうか?
「ナカジマ部隊長。八神二佐とその部下の方をお連れしました」
部隊長室前の扉のインターホンへ部隊員がルドガー達を連れて来た事を報告する。
やはり部下だと思われていたようだ……。
予想通りの自分のイメージを知り内心笑っていたルドガーだったが………
『わかった。入れ』
「なっ!?」
インターホンから聞こえてきた声に驚愕する。
「っ!!」
「ちょ、ルドガー!?」
はやてより先に部隊長室に入る……いや駆け込む。無理もない。
何せインターホンから聞こえてきた声は………
「はっはっぁ……っ兄さんっ!!」
彼の兄ユリウス・ウィル・クルスニクの声と瓜二つだったのだから。
……しかし。
「あ?兄さん?お前さん……どちら様だ?」
中にいたその声の持ち主だろう人物はユリウスとは似ても似つかない、年齢も大分離れた中年の全くの別人だった。
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「そうか……俺の声はそんなにお前さんのユリウスとかいう兄貴の声に似てたのか」
「す、すいません……」
部隊長室の応接室用のソファーに座り108部隊部隊長であるゲンヤ・ナカジマ三佐に羞恥の表情を浮かべながら頭を軽く下げる。
「いやぁ、誰だって間違いはあるさ。何なら俺の事も兄貴と呼んでも構わないぞ?」
「い、いえ、そんな……」
「ぷっはっはっはっはっ!」
「…………」
ルドガーが恥ずかしがっていたのには、ゲンヤの事を兄と間違えた事以外にも理由がある。このやり取り以前から聞こえるはやての笑い声が原因でルドガーは更に恥ずかしいさが倍増しているのだ。
「おい………」
「くっくっあはっ!……ご、ごめんっ……!あ、あまりに、くっ……さっきのルドガーが……ツボに……ぶっ……!」
「うっ……」
自分で思い返してもさっきの行動は笑えてくる。いや、笑いを通り越して痛さすら覚えてしまう。
「そう笑ってやるなよ八神よぉ。何もこいつも……そういやお前さん名前は何て言うんだ?」
「あっ、ルドガー・ウィル・クルスニクです」
まだ自己紹介していない事を思い出してゲンヤに慌て自分の名を名乗る。その表情を気に入ったのかゲンヤも軽く笑って自己紹介を返す。
「もう八神から聞いて知っていると思うが、俺はこの108部隊の部隊長をやってるゲンヤ・ナカジマだ。……お前の兄さんだ、ルドガー」
「い"っ!?」
今ゲンヤが発した声の波長があまりにもユリウスと似ていた為、別人だと思っていても驚いてしまう。
「ナ、ナカジマ三佐だって冗談やってるやないですかぁ」
「ははは、悪いな。この坊主に兄さんって呼ばれたら年甲斐もなく嬉しく思っちまってよ……すまんなクルスニクの坊主」
「いえ……」
別に悪い感じはしていない。むしろもう二度と聞く事ができないと思っていた兄の声を聞けたような気がして心の底から温かい思いを感じて嬉しいようだった。
「具合を聞かれ、ありのままの感想を応える。
まぁ冗談はここまでだ。新部隊、なかなか調子が良いみたいじゃねぇか八神」
「そうですね、今のところは」
笑いから立ち治ったはやては部隊の稼働具合を聞かれ、ありのままの感想を応える。
「しかし、今日はどうした?古巣の様子を見に、わざわざ来るほど暇な身でもねぇだろうに」
「へへっ、愛弟子から師匠へのちょっとしたお願いです」
その時丁度部隊長室の来客を知らせるブザーがなり、ゲンヤが入るよう話し、中へ少し前に別れたリインと陸士隊の制服を着た薄い青の長髪のいかにも女性らしい体つきの女性がお茶を持って現れる。
「ギンガ!」
「八神二佐!お久しぶりです」
ギンガと呼ばれた女性ははやてを慕っているようで、心から笑顔を見せる。
その笑顔を見たルドガーは、目の前にギンガという少女がスバルと似ている事に気付く。
「はやて。もしかして彼女が……」
「ご名答や。スバルのお姉ちゃんのギンガ・ナカジマだよ」
「始めまして。スバルの姉のギンガ・ナカジマです。クルスニクさん」
「ん?俺の事を知って?」
「はい。いつもスバルからのメールでクルスニクさんの事を聞かされていますから」
どんな事を聞かされているのだろうか?あのスバルの事だ。俺に抱いているイメージをそのまま話したのだろう。ルドガーが悪と戦う為変身して戦う人物だというふうに言っていても不思議ではない。
「俺の事はルドガーでいいよ。でさ、ギンガ」
「はい?」
「スバルの奴は何て俺の事を言ってた?」
やはり気になる為ついつい聞いてしまった。
「うーんそうですねぇ……乙女の秘密です♪」
「「何だそれ?」」
同性同士であるルドガーとゲンヤは乙女の秘密だとスバルのルドガーの印象をはぐらかされ顔を見合わせたた後、声を揃えてハモってしまった。
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お茶を置き終え、また後で話しをしようと言ってギンガはリインと一緒に部隊長室から退室した。
出されたお茶を口にし、はやては立ち上がりレリックの映像を出して今日108部隊に訪れた理由を話し始める。ルドガーも形だけは一応はやての部下の為、はやての後ろに立つ。
「お願いしたいんは、密輸物のルート捜査なんです」
「お前んトコで扱ってる、ロストロギアか?」
「それが通る可能性の高いルートが、いくつかあるんです」
六課といえど、そう簡単に他隊の管轄にレリックが絡んでいたとしても立ち入る事はできない。おまけに管理局の『陸』と『海』は長年、折り合いが悪い事で有名だ。
最も……陸が足並みを揃えないとは言わないが、陸の事実上トップであるレジアス・ゲイズ中将が大の海嫌いという私情に近いモノが両者の溝を深めているのは過言ではない。
そう言った事情で本局から来た機動六課はやりずらい事もあるはずだ。
「詳しくはリインがデータを持って来てるので、後でお渡ししますが」
ここで初めてリインにも一応役目がある事を知ったルドガー。
本人が知ったら噛み付かれかねい事だがルドガーはまだ気付かない。
「……まぁ、ウチの捜査部を使ってもらうのは構わねぇし、密輸捜査はウチの本業ちゃ本業だ……。頼まれねぇ事もねぇんだが」
「…お願いします」
首だけを動かしゲンヤに頼む。ゲンヤは少しの間を置き、真面目な顔で口を開く。
「八神よ……他の機動部隊や本局捜査部じゃなくてわざわざウチに来るのは……何か理由があるのか?」
「密輸ルートの捜査自体は彼らにも依頼しているんですが、地上の事はやっぱり地上部隊が一番よく知ってますから」
「まっ、筋は通ってるな………お前さんもそう思うだろ?」
「まぁ…普通だと思いますよ」
話しを突然向けられ、応えに一瞬つまるが一応表面上だけ見て判断した観点で“普通”だと言うルドガー。ルドガーの意見を聞いたゲンヤはお茶をすすり茶碗をテーブルに置く。
「いいだろう。引き受けた」
「ありがとうございます!」
わざわざ身内であるルドガーにまで意見を聞いたので、ゲンヤがはやての頼みを引き受けないのではないかとルドガーは思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。
「そうさ主任はカルタスでギンガはその副官だ。2人共知った顔だし、ギンガならお前も使いやすいだろ」
これも108部隊が六課に取って連携が取りやすい理由の1つだ。六課も身内で固められているし、協力部隊になった108部隊ははやてを知る人物ばかりだ。使いやすいこの上ない。はやてはこれを詠んでゲンヤに協力を願ったのではないかとすら思えてくる。そうだとするとはやてはルドガーが思っている以上にタヌキなのだろう。
「はい。ウチの方は、テスタロッサ・ハラオウン執務官が捜査主任になりますから、ギンガもやりやすいじゃないかと」
ルドガーはここまで身内に恵まれた組織を見た事がない為、何か裏があるのではと考えてしまうが、愛弟子であるはやてをゲンヤが陥れる理由はない見当たらない事から純粋にはやてへの好意からのモノだと判断する。
「スバルに続いてギンガまでお借りする形になってしもうて、ちょっと心苦しくはあるんですが……」
「何、スバルは自分で選んだ事だし、ギンガもハラオウンのお嬢と一緒に仕事は嬉しいだろうよ」
「ギンガとフェイトは個人的にも仲がいいのか?」
もしかしたら仕事上で関わって親しくなったのかもしれないが、ルドガーはゲンヤの口調でスバルがなのはに憧れているようにギンガもフェイトに憧れを抱いているではと思った。
「4年前に大規模の空港火災があってな、その時にギンガは危ないところをフェイトちゃんに助けられんたよ。そこからギンガはフェイトちゃんに憧れてるんだよ」
「そうだったのか……」
「ちなみにスバルはその時になのはちゃんに助けられて、ギンガと同じようになのはちゃんに憧れたんや」
自分がユリウスに憧れていたように、スバルとギンガもなのはとフェイトに助けられた時に、今の自分の道を選ばさせる程の強烈な意志を持たせる事になったのだろう。
そして2人はその憧れの人物の側で仕事ができるのだ。
こんなに嬉しい事はない。その後は管理局の階級は実際はただの飾りで、一般士官からすら小娘扱いを受けているという内情やゲンヤ自身も自分より階級が上のはやてを小娘扱いしいたと彼自身が謝ったり、はやてがゲンヤは今でもナカジマ三佐は尊敬できる師匠だと彼への尊敬の念がわかるような会話が出たり、六課との協同捜査の打ち合わせを別室で行っなたりと全てが順調に進んでいた。
「ところでクルスニクの坊主」
「何ですかゲンヤさん?」
打ち合わせが終わった後、ルドガーとはやてはナカジマ親子と共に和食専門店で夕飯を食べていた。
リーゼ・マクシアやエレンピオスに一応チキン南蛮巻きや豆腐の味噌汁といった料理はあったが和食とは呼ばれてはいなかった。
この世界でははやてとなのはの出身世界がこの和食の発祥らしいが、なかなか味わい深い料理で、ルドガーも暇な時に是非作ってみようと考えているとゲンヤから話しかけらる。
「ウチのスバルの奴はどんな感じか聞かせてくれねぇか?」
「スバルの事ですか?」
「ああ、そうだ。お前さんは六課で高町嬢ちゃんやテスタロッサのお嬢と同じ教官をやってるんだってな?」
「私も聞きたいなぁ。あの子以外の人から見たあの子の姿とか」
話したいのは山々だが、正直ルドガーはそこまでスバルの訓練を見た事がない。
基本はティアナの面倒と、たまにフォワード4人をまとめて相手をする時(ちなみにルドガーの圧勝)以外はスバルの訓練を持った事がない。エリオとキャロもそうだ。しかし最近、骸殻に変身したルドガーが槍を使う事を知った隊長達が彼にもエリオの面倒を見てもらうかを実は考えているらしいがルドガーはティアナの訓練で手一杯だと辞退している。
「そうですねぇ……アイツは少し…いや、大分猪突猛進な部分が性格と戦いにあって、隙だらけな部分が仇となって俺との模擬戦中は大抵そこを突かれて終わりますね……」
「はっはっ!全くアイツらしいなぁ」
「あの子ったら……」
スバルの戦闘スタイルが昔からそうなのだと2人の反応でわかった。どうやらこね2人もスバルに手を焼かされたようだった。
「けど考えてやっているのか、ナチュラルでやっているのかわかりませんが、俺の不意を突くような事をやってくるんですよスバルは。全く……こっちは魔法が使えない人間だという事を忘れてるんじゃないかと時々疑ってしまいます」
笑って最後は締めくくるつもりでいた。が、それまでスバルの事を考えていた影響か大らかな表情をしていたギンガてゲンヤの顔が驚きのモノに変わり、ルドガーとはやては目をパチクリしてどうしたのだろうかと考えていた。
「ルドガーさんって魔法が使えないんですか!?」
「あ、ああ。スバルから聞いてないか?俺は魔導師じゃないんだけど……もしかして、知らなかったか?」
「はい!」
(スバルの奴肝心な事を伝えてなかったな……)
脳裏に能天気な顔でルドガーが作ったトマトソースパスタ・山を頬張るスバルの顔が思い浮かぶ。
事前情報さえあればこんな反応を2人がする事もなかったろうが、今更遅い。ギンガはまるで超希少動物を偶然見かけたような眼差しをルドガーに向けていた。
一から全部自分の事を話すのは正直面倒極まりない。
「本当かよ……どんな手品使ってんだよ?」
「あはは……まぁルドガーの世界の独自の戦闘方法だとでも思って下さい。話すとちょ、長くなりますんで」
ルドガーの気を察したはやてが愛想笑いで軽く説明する。
だがやはり気になるのかギンガはルドガーに好奇の視線を放っており、こういうところは妹と似てるなとルドガーとはやてはナカジマ姉妹の類似点を発見したようだった。
「スバルったら良いなぁ。今度私も訓練風景見に行ってもいいですかルドガーさん!?お父さんもいいでしょ?」
「そりゃまぁ…クルスニクの坊主やテスタロッサお嬢の都合が悪くねぇんなら……いいんじゃねぇのか?」
(ゲンヤさん……俺に話を振らないでくれ……)
少しは自分から注意が離れたら思っていたのに、ゲンヤの一言で逆戻り。万策尽きたと思っていたルドガーだったが、その時丁度はやての通信端末が鳴り内心喜んでいた。
「フェイトちゃん?どうしたん?」
連絡を入れたのはフェイトのようだった。
内容は聞こえないが大方ガジェットに関する事だろう。
これで緊急会議でもやる事になったら……
「何かあったのか?」
「ルドガー帰るで!対策会議をする事になったよ」
何という僥倖だろうか。
空気を詠んでくれてありがとうといるかわからない神への感謝の言葉が自然と出てしまう。
「何か進展ですか?」
「事件の犯人の手掛かりがちょっとな」
はやてとルドガーは自分の椅子から立ち上がり、ギンガも尊敬する上官が帰るという事で同時に立つ。
「という訳ですみませんナカジマ三佐。私達はこれで失礼させてもらいます」
「おう」
席を外す事になった事を謝罪し、伝票を取ろうとするが、はやてが取る前にゲンヤが伝票を取ってしまう。
「そんな……!」
「さっさっと行ってやんな。部下が待ってるんだろ?」
ゲンヤの言葉を聞いても納得できないのか、まだ何か言いたそうはやて。
ゲンヤの顔を立たせる為ルドガーははやてを諭す事にする。
「ここはゲンヤさんの言う通りにしよう。年下っていう立場は目上の人間の顔を立たせなきゃな」
「そう言うこった。感謝したいなら、早く事件の進展でも何でも犯人の手掛かりを掴んでこい」
「はい!」
尊敬する上官からの激励にはやての顔も明るくなる。
この元気があればはやてなら本当に犯人を捕まえてしまうかもしれない。
最後に一礼しその場を後にする。
「クルスニクの坊主」
「 ? 」
はやてが見せの暖簾をくぐったあと、ゲンヤがルドガーを呼び止める。振り返って見たゲンヤの面持ちは1人の男としてのモノだった。
「八神を頼むぜ。アイツは何処か生き急いでいるような行動を俺の下にいる時からやっている……お前さんならアイツを支えてやれるはずだ」
「……はい」
まるで本当の自分の娘のようにはやての事をゲンヤは心配している。
誰から見ても今のはやては危なっかしのか、それともこのゲンヤのようにはやての事を心から心配している人間にしかわからないのか……。
「ルドガー、ナカジマ三佐と何話してたん?」
「別になんでもないよ。それより早く六課に戻るぞ。部隊長無しで進められるようなモンじゃないだろ?」
「そうやね。ほな行こか」
はやての背中を見て思う……彼女はきっと未だ癒えぬ傷を負ったまま生きようと必死にもがいている。それも自分の為ではなく……。
彼女に限らず人は皆、誰もが傷付くのが少ない方を選ぶ。
だがそれは状況によって大きく変わる。もし大切な何かを守る為に自分が傷付くの事で守りたいモノを守れるなら彼女は迷わずソレを選ぶだろう。
かつてのミラやルドガーのように………。
「だよな、ミラ?」
後書き
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