魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter15「骸殻」
リニアレール任務から帰還したフォワード隊とルドガーは疲れがある中、それぞれの職務に戻り通常運行………という訳にもいかないようだ。
そもそも、その原因を作ったのがルドガーだ。
突然の緊急出動で状況が状況だったとはいえ、この世界では異質な精霊の力でもある『骸殻』を
六課メンバーの前で使用した為、骸殻の事について説明をしなければならなくなった。
ルドガーは今部隊長室にいる……笑顔なフェイトとなのはに両腕を組まれ拘束されて。
六課帰投後、はやてからの『ルドガー・ウィル・クルスニクを部隊長室に連行せよ!』という命令の元、強制連行。
後ろから付いて行っていたフォワード隊の1人ティアナ・ランスターは、道中で完全に六課隊員達への晒し者になり死んだ魚の目をした自身の師を見て深く同情していたようだった。
「何もあんな強制連行する必要はなかったろ?」
なのとフェイトから解放され、悠々な態度を取り自分のデスクに座るはやてへ愚痴が出る。
散々な扱いを受けたのだから、愚痴の一つは出さずにはいられない。
「アカンわ。ああでもせーへんかったら、事をうやむやにして逃げとったやろ?」
「信用ないな俺……流石に話さない訳にもいかないのはわかってるぞ?」
「あないな変身できる事を隠しとった人の言える事やないやろうが。それなら早う話してもらおか……信用されたいんやったらな♪」
「……………」
後ろからフォワード達の苦笑する声が聞こえる。笑顔で話すはやてに、人から信用を得る事がどれほど大変な事なのかを改めて実感する。
(アルヴィン……アルヴィンの苦労がよくわかるよ……)
かつての嘘だらけの自分と決別しようと必死だったアルヴィンの気持ちがルドガーはわかった気がしていた。
「……はぁ……」
うなだれ困った表情を一瞬だけ浮かべ、ルドガーははやて達が聞きたい事を話す事にした。
「……俺が変身したあの姿は、俺の家系……クルスニクの一族だけに受け継がれている力なんだ。この時計と一緒にな」
「時計だと?」
はやての隣にいるシグナムが、取り出した金色の懐中時計を見て声を漏らす。因みに補足だが、副隊長格とシャーリーもこの話しに参加している。
「クルスニクの一族…正確には『力』を受け継ぐ者だけだが、彩色はそれぞれだけどこの形状の懐中時計を持って能力者は生まれてくるそうだ」
「時計を!?じゃあルドガーさんも生まれた時にその懐中時計を持ってたんですか!?」
「ああ……まぁ生まれた時の事なんて覚えてはないけどな……」
ついでに言えば命を削って自分を生んでくれた母親の顔も知らない……とは話をややこしくするだろうから話す訳にはいかない。そして『オリジンの審判』関係の事は完全なるタブーその物。
間違っても口に出してはならない。
「そしてこの力を知る人間や精霊はこの力の事をこう呼んでいる………『骸殻』……ってな」
「骸殻……それがあの力の名前なんやな?」
「そうだ」
リニアレールでハーフ骸殻に変身し、ガジェットをたった1人で殲滅するルドガーの映像をはやてが呼び出し全員がそれを見ている。身の丈と同じサイズの槍を奮いガジェットを一方的に狩る姿は圧倒的……いや、蹂躙しているとも言えなくもない。
「骸殻には力のレベルがあってな、『クォーター』、『ハーフ』、『スリークォーター』、『フル』の4段階という感じに分けられているんだ」
「ルドガー君が変身したあの姿はどれに該当するのかな?」
「ハーフだな。あと身に纏う装甲が増えていくとより強い力が出せるようになる」
「アレで半分……」
リニアレールでルドガーが変身した骸殻がハーフだと知りティアナが目を見開いている。骸殻のレベルで強さを判別したのだろう。ハーフは確かに骸殻のレベルでは中間の値の強さだ。ハーフであれだけの力を奮えるのなら、その更に上をいくスリークォーターとフルはどれだけの強さを有するかなど、ティアナだけでなく隊長格の人間でも予想はつかないはずた。
「私の目測だけど、あのハーフ状態の骸殻に変身してるルドガーの力はリミッターを付けている私より少し上を行くと思うんだ……ミドルレンジ、アウトレンジ……どれを取っても圧倒的すぎるよ」
「アタシもフェイトと同じだ。剣や銃に私と同じハンマーまで使うクセに、槍まで使えるとかどんだけオールラウンダーなんだよ、オメエはよー」
「ははは……」
「それだけではない。クルスニクは見ただけで他人の技や能力を自分の物にする能力にも長けている」
「そうでしたね。ルドガーさんは物マネが大得意だったですよ」
「骸殻という能力も含めてもだが、クルスニクという男の底はしれんな……フッ、それでこそ私が見込むだけの男だ」
「またそれかよオマエは」
ルドガーの力量を賛美されているのかその逆を言っているのかわからないヴィータと、ルドガーの能力が高いという事を再評価し、今にも飛び掛かってきそうな様子で話すシグナム達にどういう反応をすればわからない。
ただ言える事は、待機状態のレヴァンティンを握りしめたまま、そんなクールで熱い眼差しを自分に向けないでくれ……としかルドガーは強く願う。
「……あの任務中にどうして最初から骸殻の力を使わなかったんですか?」
「え?」
とても静かで小さく、震える感情を押し殺したような声がルドガーの耳に入り、その声を発した者を見る。
「ティアナ?」
「…そんな凄い力を持っているんなら模擬戦や私達の訓練でも使ったても問題なかったんじゃないんですか?」
様子がいつも違う……。
ルドガーはティアナの声色やその揺れる瞳の見て彼女が必死に冷静さを保とうとしていたのがわかった。
(……凄い力…か………)
ティアナの言葉はもっともだ。他人から見た骸殻は確かにそう見えるだろう……。
だがルドガーは自分に骸殻がある事を決して誇った事はない。ユリウスだってそうだ。
ルドガーは知っている……。
例えどんなに強い力を持っていたとしても、大切なモノを守り抜く事は必ずできるとは限らないという事を……どんなに手を伸ばしても届かない『願い』があるという事を……。
「そう便利な力でもないんだよ骸殻は」
「というと?」
フォワードの隣にいるシャーリーが骸殻はそれほど便利ではないという事に疑問を持ち説明を求める。
「骸殻には使える限度が決まっていてな。個人にもよるが強い骸殻を使えば使う程その使用限度枠は狭まる……だからここ一番っていう状況でしかあまり使えないし、第一時計が無くては骸殻能力者といえど、変身はできない…ってな訳で時計が壊れていた時はハーフどころかクォーターにだって変身できなかったよ」
「…そうだったんですか……」
使用限度があるという事を話すとティアナも納得したのかそれ以上ルドガーに質問を投げ掛ける事はなくなった。
「そんな事情があったんか……でも骸殻っていう能力を持っていたって話してもバチは当たらんかったと思うなぁ」
「使えないモノの話しをしても仕方ないだろ?」
「それもそうやけど………まぁ何にしても骸殻の事について話してくれた事には感謝するわ……ありがとうな」
「……ああ」
礼を言ったはやてではあるが、この時からルドガーが本当の事を話していない事に何となく気付いていた。だがルドガーは『本当』の事は言っている。今はやて達に話した骸殻に関する話で『嘘』は何1つ付いてない。そう……嘘は何1つ………。
「よし!皆が知りたがってた事もその張本人から聞いた事やし、もうこのお話は終わりや!皆も気がすんだやろ?」
ルドガー以外の人間の意思を確認し、全員が了承の意を伝える。
その返答を聞いた事でルドガーは内心安堵する。流石にこれ以上追及されたらボロが出るのも時間の問題だったからだろう。しかしその安堵感はルドガーの胸に新しい痛みを覚えさせる……。この痛みが何なのかはわかっている。だが……
「ルドガー」
部隊長室から人が出ていく中フェイトが耳打ちをする。
「本当にキャロを助けてくれてありがとう。だから……もう1つの“お話し”は感謝の気持ちを含めてって意味で、なかった事にしてあげるね」
いたずらめいた笑顔を最後にルドガーに見せフェイトは今度こそ部隊長室を後にする。
……ああ、そうだ……。こんなにも彼女は…六課の人間は優しい。自分はその優しさを知っているからそれに甘えている……いや、悪く言えば『真実』を隠す為の隠れ蓑に利用している。
この胸の痛みはそこから来ている。
『私を騙したのね!』
今でも彼女のあの時の激情を顕にした姿が言葉と共に鮮明に思い出せる……。
自分はあと何回嘘をつき続けるのだろうか?彼女達に自分は本当の事を話せる時が来るのだろうか?
……彼女達は真実を知って尚、こんな血塗れて、死にぞこなった俺を受け入れてくれるのだろうか………。
「ルドガー?」
「……何でもないよ、はやて」
はやての頭を撫で、彼女は照れくさそうな仕草を見せる……。
彼女の頭を撫でるのが今では癖になっている。
そして撫でる度に『相棒』と『兄』と『彼女』との思い出が甦ってくる………。
はやてと同じように撫でられて照れくさそうにする相棒……。
幼く泣いている自分を大きな手で撫でてくれた兄……。
そして……一度も撫でる事ができないまま、自分の目の前で守りたい者を守る為、自ら自分の手を払い奈落の底へと消えた彼女……。
だからルドガーは再び選択する。自分の命の使い方を……。
わかってもらわなくても構わない。何も伝わらなくてもいい。
だけどそれでも、どうか君達を守らせてくれ……。
ルドガーが真に願うのはただそれだけだ………。
後書き
・エル・メル・マータ
性別:女性/年齢:8歳/身長:130cm
父親を救うため、カナンの地をめざしていた少女。
気持ちを素直に出せず、あまのじゃくのような発言をすることがある。
クルスニク一族でも稀少な能力″クルスニクの鍵"の力を持っており、父親やビズリーに利用された。
実は10年後の分史世界でのルドガーの娘であり、時空を超える鍵の力で正史世界へと辿り着き、
10年前の自分の父親と出会い、カナンの地へと共に行く事を約束し「アイボー」となった。
旅の中で、エルは大切な人間を次々に失っていき次第に笑顔を失っていく。
特に父親に利用されていた事、その父親の死、自分がニセモノのルドガーの娘だという事実は、幼いエルには耐え難いものだった。
ビズリーにルドガーが、カナンの地に渡る為の橋に利用されると思った彼女は、ルドガーを守るために彼の元から去る。だが、ルドガーは大切な兄の命を犠牲にしてまで助けに来てくれた。
その姿を見たことで、こらえていた想いが瞳からあふれ落ちる。
しかし、別れの時はそこまで迫っていた……。
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