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第十七話 狂乱の宴
前書き
遅くなりました。
すいません。
出来れば7月中にでも投稿したかったのですが、大学の研究が忙しく2週間かかってしまいました。
それではどうぞ。
少女の声が開戦の合図だった。
ランサーは一気にその場を疾風のように飛び出す。
逆巻く突風。
朱槍を手に、蒼い弾丸となったランサーが疾走する。
迎え討つのは紅い弓兵の黒白の双剣。
アーチャーもランサーとほぼ同時にその場を踏み出していた。
神風となったランサーは高速の槍をアーチャーへと突き出す。
それをアーチャーはすんでに双剣で受け流した。
「チッ……!」
アーチャーの舌打ちが聞こえる。
ランサーの槍は、喉、肩、眉間、心臓を間暇なく貫こうとする。
残像さえ霞む高速と言わざるを得ない激烈な槍捌きは、一撃ごとにアーチャーの双剣を弾く。
「たわけ、弓兵風情が接近戦を挑んだな――――!」
ランサーの一撃は烈火のごとく激しい。
アーチャーは必殺の槍を、双剣を盾に変えて受け流し、間合いを詰めようとする。
「ふ――――!」
眉間に迫る槍の穂先を弾き、ランサーの間合いを潰そうと踏み込むアーチャー。
だが…
「――――」
「ぬっ―――!?」
ランサーの槍は一瞬で主人の手元へと戻り、アーチャーの双剣を弾く。
ただ、速いだけではない。
それ以上に巧いのだ。
ランサーの槍には緩急が無く、一撃一撃がとてつもなく重い。
アーチャーは守りに入るが、素人の私が見ても反撃の手段が見つからない。
「――――!」
一際高い剣戟が耳を打った。
ランサーの槍を弾いた双剣は、そのまま甲高い音を立てて、二振りとも崩れ去ったのだ。
武器を破壊するランサーの技。
一見何の変哲もない突きで、アーチャーの剣のいちばん弱い部分を突いたのだ。
「この間抜けが」
ランサーの罵倒する声が響く。
その一挙手一投足には躊躇がない。
ランサーはがっしりと地面に根を下ろすと、アーチャーの眼を見る。
これで勝負を決めるつもりだろうか。
「ふっ―――!」
一瞬だった。
一息の内に放たれたランサーの槍は視認すらも許さない。
一瞬だが三連の槍の軌道は何とか判断できた。
眉間、首、心臓。
槍は全て、急所を狙って放たれる。
「ア……!」
アーチャーと呼ぶ事すらも出来なかった。
速すぎる。
言葉を発する事も出来ないほどの速さでランサーは突きを発射していた。
だが…
「――――!?」
三つの刺突はアーチャーに届く事はなかった。
アーチャーの手には再びあの中華風の双剣が握られている。
「チィ、どんなトリック使いやがった」
ランサーが思わず毒づく。
一瞬でアーチャーの手に双剣が戻った事に対して、驚きと苛立ちが見て取れる。
「ハ、弓兵風情が剣士の真似事とはな」
その言葉と共に、ランサーが再び走り出した。
「ふっ――――!」
同時にアーチャーは構え、迎撃の態勢を取る。
「……!!」
私は何とか立ち上がって、その戦いを見守る事しか出来なかった。
どんどん速度を上げ、槍を奔らせる。
その度にアーチャーは双剣を使い、ランサーの槍をかわしていく。
懐に入らせはしないとするランサーと、双剣で間合いを詰めるアーチャー。
二人の奏でる鉄の打ち合う音は、絶え間なくリズム上げていく。
「―――――――」
一瞬の攻防が、長い時間に感じる。
見ている此方も息が詰まる。
ランサーの槍は、速度を落とすことなく一瞬でアーチャーの急所を捕らえようとする。
その度にアーチャーは双剣で防ぐが、衝撃で何度も武器を失った。
だけどそれも一瞬。
次の瞬間にはアーチャーの手の中に剣があり、ランサ-を迎撃する。
その度にランサーもわずかに後退し、相手の間合いを推し量らんとする。
瞬間に間合いが離れる。
二人の戦いが始まって、何分と経っていないが私には何時間という長い時間に感じられた。
仕切り直しをする為か、ランサーが間合いを大きく離す。
「妙な技を使いやがる。二刀使いの弓兵なぞ聞いた事がない」
「弓兵であろうと、必要とあれば剣を使うし、槍で刺すこともあるだろうさ」
「……狸が、減らず口を叩きやがる」
両者が軽口を叩き合う。
アーチャーは余裕がなかったのか、少々肩で息をしている。
ランサーはと言うと、心底楽しそうに槍を構えながら言葉を発する。
「……いいぜ、訊いてやるよ。テメェ、何処の英雄だ」
ランサーの発した言葉は尤もな質問だと思う。
アーチャーは弓使いでありながら戦闘のほとんどを双剣でこなしている。
私も彼の正体を知らない。
「それを君が訊くかランサー。君ほどの腕前なら数刻打ち合えば、私の正体など分かってしまうと思ったのだがね」
彼はニヤリと笑うとランサーに向けて軽口を返す。
この男、人を怒らす事に関しては天下一品なのではないか。
そう思うほどアーチャーは挑発が巧かった。
「……つくづくムカつく野郎だな、テメェ」
ランサーが眉を顰めて言葉を返す。
その表情から、苛立ちが見て取れる。
一触触発の空気が流れる中、周りの緊張感が再びピークに達する。
だが、不意にその緊張の張りつめた糸が切れた。
「そう言えば、気づいているかランサー」
ふと、アーチャーがそのような言葉を漏らした。
急にそんな事を言い出すから、見ていた此方も一瞬緊張が解けた。
「……ほう、こっちばかり相手にしていると思ったが、まさかテメェも感づいていたか」
ランサーは口元を歪め、アーチャーの問いに答える。
その口ぶりから、アーチャーもランサーも何かに気が付いているようだった。
「殺気の一つも無かったから放っておいたが、これ以上タダで手の内を晒す訳にもいくまい」
「確かに趣味が良いとは言えねぇ。何より隠れて見てるだけっていうのが気にいらねぇ」
何だろう……。
急に戦いが止まったかと思うと、アーチャーとランサーは何やら意味深な会話を始めている。
誰かが私達を覗き見している…?
「おい!隠れている奴、いい加減出てきやがれ!!こちとらさっきからテメェの事に気付いてんだ。コソコソ隠れてねぇで姿見せやがれ!!」
アーチャーとの会話を続けていたかと思うと、急にランサーが大声で叫んだ。
フィールド全体に響くのではないかと思うぐらいの、怒声だ。
声は辺りに反射し、木霊して私達の耳へと届く。
声の反射が徐々に小さくなり、聞こえなくなる。
と、その瞬間だった。
「……ひっ――――!?」
と、一瞬だが生ぬるい空気が首筋を撫でた様な気がした。
その微妙な感触は、悪寒となって全身を奔る。
不快感と言うよりも恐怖に近い。
「呵々々々、よもやまたしても気付かれるか……。なるほど、やはり此度の戦は雑魚が少ないようだ」
思わず声のした方へと顔を向ける。
私から見て丁度右手側。
そこに其れはいた。
赤い。
其れは人の形をした殺意の塊だった。
人ならざるモノ。
そのサーヴァントは品定めでもするかのように私達を見ている。
この世界に来てから初めて味わう明確な殺意。
私の体は、再び硬直し動けなくなってしまった。
「……ふむ、先程から感じていた視線の正体、それは貴様だったか」
「如何にもアーチャー。この程度の気配遮断で気付かないようならば、消して来いと命令されていたが……それは無用のようだな」
「ふざけてんじゃねぇぞ暗殺者風情が。コソコソ隠れるだけ隠れて隙を見て消すだぁ?ぶっ殺されてぇのかてめぇ…」
「―――――――――――――!!」
あまりにも物騒な会話。
相手を消すとか、殺すとか。
そんな言葉を当たり前のように使う3人の会話。
私は、そんな彼らに圧倒されながら、崩れ落ちそうになる体を必死で耐える。
「見つけた……」
突然私の耳に恨みの籠ったような声が届いた。
声のした方へ視線を移す。
ランサーのマスターである少女が眼を細め、歯を喰いしばりながら男を睨んでいる。
「やっと見つけたよ……アサシン…!」
アサシン……。
今、少女はそう言った。
暗殺者のサーヴァントであるアサシン。
彼女はその正体を知っていた。
何かの恨みがあるのか、少女の眼光は鋭いまま。
「皆を殺した仇……此処で取ってみせる」
私はその言葉に、思わず息をのみ、後ずさりをしてしまった。
殺された……?
アサシンに……サーヴァントに殺された?
聞き間違えじゃない。
彼女は確かにそう言った。
何故?
サーヴァントで、プレイヤーを殺す?
そんな事をして何の得になるのか分からない…。
「嬢ちゃん…落ち着きな。あんまりそんな顔するもんじゃないぜ」
ランサーが少女に声をかける。
なだめようとするランサーの声。
だけど少女は、睨む目をアサシンに写したまま呟く。
「……ランサー」
怨嗟の声でその一言を言う。
「―――――――――――――殺して」
「―――――――――――――――――――!!」
足が震え始めた。
体中にいやな感覚が奔る。
立っていられない。
私は体を重力にまかせてその場に崩れ落ちた。
「ククク……本来ならばアーチャーのみを相手するはずだったのだがな……。ランサーを殺すなという指示も無い」
アサシンはそう言うと、ゆっくりと腰を落とし構えた。
「ふっ……私をご指名だったか――――――ならば、相手取ってやろう。どうせ最後には相手にしなくてはならんのだからな」
アーチャーも双剣を自然な形で構え、迎撃の態勢を取る。
「…随分と舐めた事言いやがるな暗殺者。この俺を殺すとはいい度胸だ……逆に殺されても文句言うんじゃねぇぞ」
ランサーは殺気を隠そうともせず、朱槍を構える。
三者三様の独特な空気が辺りを包む。
今にも弾け飛びそうなくらい張りつめた空気の中、私は気を失いそうになる。
剣、槍、拳。
三人の獲物が今か今かと、主が動くのを待っている。
そして次の瞬間、緊張の糸がプツンと切れ、空気が弾けた。
三人の戦士達の狂乱の宴が此処に始まる。
後書き
次回は、三つ巴の戦いに加え、アスナとサチの女の戦い。
どうなる事やら。
感想お待ちしています。
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