魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Chapter12「最強の継承者」
それは突然の事だった。隊長格の隊員はデバイスだけではなく自身にもリミッターがかけられているという事でフォワード達が驚いていた時だった。
正確にはシャーリーがデバイスの性能解説を初めようとした時で、何とも良いタイミングで『ALERT』という表示がモニターに表示され隊舎内に警報が鳴り響いている。
「何だこの警報は?」
「第一級警戒発令ですよルドガーさん!」
緊急マニュアルの知識がないルドガーは突然の警報に状況が把握できずにいたが、エリオに警報の意味を教えてもらいただ事ではない事を理解する。
「八神部隊長!」
いつの間にデバイスルームにある大型モニターには聖王教会に出張中のはやての姿が写しだされていた。なのはがはやてに事態の把握をする為現状説明を求める。
『教会騎士団の調査部で追っていたレリックらしき物が見つかった。…場所はエイレム山岳丘陵地区、対象は山岳リニアレールで移動中との事や……』
『移動中って……』
「まさか……!」
車の運転をしながらいつの間にか通信に参加していたフェイトとデバイスルームにいるなのはは、はやての現状説明で現場がどのような状態にあるか断片的ではあるが把握する。
それと同時に件のリニアレールのLIVE映像がモニターに写し出される。
リニアレールの外壁にはガジェットが次々と取付いており、機体の一部から触手とも思わせるような
コードを出しリニアレールを占拠しようとしていた。
「あの鉄屑が直接リニアをハックして制御を乗っ取ったんだな?」
『その通りやルドガー。リニアレール車両にいるガジェットは最低でも30体。大型や飛行型の未確認タイプも出ているかもしれへん』
現状を一通り説明し終え、息を整えた後厳しい表情でなのはに声をかける。
『いきなりハードな初出動やけど、なのはちゃん、フェイト。行けるか?』
『私はいつでも!』
「私も!」
即答する2人からルドガーは彼女達から決意を灯した瞳をその目で確認する。その2人を見てルドガーも自分の成すべき事を見定める。
「俺もだ」
『…いいんか?』
ルドガーの作戦参加の意志を知り、はやては遠慮がちにルドガーにもう一度意思表示を求めた。
提督直轄特殊エージェントなんていう階級が与えられたとはいえ、正規の管理局員ではないルドガーが民間協力だという事は変わらない。
「良いも悪いもない。俺はまだ、守る事ができるんだ」
『……わかった』
再三ルドガーの意思を確認した事ではやてはこれ以上確かる事は野暮だと感じ、ルドガーに作戦遂行の為動いてもらう事を決める。
『スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。みんなもオッケーか?』
今回の出動はフォワード達にとってデビュー戦。フォワード4人の連携が作戦成功の鍵を握っている。
「「「「はい!!」」」」
フォワード達もはやての自分達に寄せている期待を感じ、力強く返事をする。
その様子を見たルドガーははやては本当にいい部下に恵まれているなと感じ、場違いではあるが微笑む。
『よしっ!いいお返事や!シフトはAの3、グリフィス君は隊舎での指揮、リインは現場観戦。なのは隊長、フェイト隊長は現場指揮。ルドガーはフォワードのサポートを』
「了解だ、八神部隊長」
普段とはまた違う真面目な表情であえて部隊長と自分の事を呼ぶルドガーにはやては頼もしいさを感じて、少しだけ笑顔になる。だがそろもすぐ引き締まったモノに戻る。
『ほんなら、機動六課フォワード部隊並び特務エージェント、出動!!』
それが合図となりデバイスルームにいた前線メンバーとルドガーは一斉に動き出す。
「待ってくださいルドガーさん!」
「 ? 」
デバイスルームを後にしようとしたルドガーをシャーリーが呼び止めどうしたのかと尋ねる。
するとシャーリーはある物をルドガーに渡した。
「銃装着用ワイヤーアタッチメントです。リニアレールに乗り込む際はリイン曹長がルドガーさんをリニア上に魔法で降下させてくれますが、万が一ルドガーさんが渓谷に落ちた際はこれがルドガーさんの命綱になってくれますよ♪」
「降下?まさかと思うがヘリから飛び降りるのか?」
「そうですよ!けど安心してください。確かに大分高い高度から飛び降りる事になりますが、今言ったようにリイン曹長がルドガーさんをリニア上に運んでくれますから心配は無用です!」
「………」
リインを信用していない訳ではないがやはり飛び降りたら只ではすまない高さからバンジーするのは抵抗がある。だがぐずぐず言っている暇もない為、素直にアタッチメントを受け取り、六課のヘリポートまで走る。ヘリポートに着くと既にヘリのエンジンが動いておりいつでも発進できる状態でルドガーが乗り込むのを待っていた。半ば飛び込む形でヘリに乗り込む。それから1分もしない内にヘリはヘリポートから離陸し作戦区域まで飛翔開始。ヘリの中ではなのはとリインが現地での対処と役割を確認し合っていた。どんなに万全な状態で任務に望んでも何が起こるかはわからない。隊長という職務は常に如何なるイレギュラーに見舞われても迅速に対応しなくては、任務達成どころか部下の命を危険にさらしてしまうのだ。決して抜かりがあってはならない。
フォワードの4人はやはり初任務だけあって緊張しており、あのティアナでも座ってうつむいているのだ。
(まぁ緊張して当たり前かぁ)
これから赴く場所は戦場だ。訓練のようにミスを簡単にできはしない。それはバリアジャケットを装備したとしても危険に変わりはない。一歩間違えれば“死”が待っていると考えれば緊張するのは当然の事。逆に緊張しない方がおかしい。フォワード達を一瞥し、ルドガーはヘリのコックピットへと足を運ぶ。
「よぉルドガー。新人達はどんな感じだ?」
「わかってて聞いてるだろう?」
「はっはっ!違いねぇ」
ヘリの操縦士であるヴァイス・グランセニックと軽口を叩き合う。六課に来て以来ルドガーは彼とたまにつるむ事がある。女性の比率が多い六課では男である2人には互いに貴重な存在だ。
「新人達にとっちゃ今回の出動は大分ハードだからなぁ。とても忘れられない思い出になるのは間違いねぇな」
「いい経験になるといいんだけどな……とりあえずヴァイス、作戦行動区域までどれくらいで着くか教えてくれ」
「そうだな……早けりゃざっと、10分ちょいだな」
後10分。それがフォワード達に与えられた緊張を解す為の時間。フォワード達からすれはあまりに短い時間だ。時の大聖霊クロノスに4人の緊張を解す時間を延ばしてくれという冗談を考える自分はきっと新人達からすれば呑気な人間だと思われるだろう。
「新人達を頼むぞ、ルドガーさんよ?あのシグナム姐さんから認められた実力……見せてもらうぜ?」
「あまり期待しないでくれ。これでもプレッシャーに弱いんだよ俺は」
それだけをヴァイスに告げ、新人達の様子が気になり待機室に戻る事にしたルドガー。その時丁度全体通信でオペレーターの1人アルト・クラエッタが作戦行動区域にガジェットⅡ型の反応を探知したという報告が上がる。
「私が出るしかないよね。ヴァイス君!ハッチ開けて!私は空に出てフェイト隊長と合流して空を抑える!」
「了解です、なのはさん!」
上官の指示を受け、ヴァイスがヘリのハッチを開放。この高度だけあって内部には強めの風が入り込み、なのはの髪をなびいていた。
「ルドガー君、新人達の事をお願いね」
「任せてくれ。なのはとフェイトの2人は空を抑える事だけに集中してくれ」
そのルドガーの頼もしさに満ちた言葉でなのはもはやて同様笑顔になる。
「じゃ、ちょっと出てくるけど皆も頑張ってズバッとやっつけちゃおう!」
「「「はい!」」」
「はい……」
スバル、ティアナ、エリオが元気よく返事をする中、キャロだけは遅れて返事をする。
見ただけで元気もないのがわかる。
「大丈夫だよキャロ。そんなに緊張しなくても」
出撃しようとしていたなのはだったが、キャロの様子を見かねて元気付けようとする。
だがそれでもキャロの顔から不安は消えない。
「なのは。後は俺が引き受ける。君はもう出た方がいい」
「そうだね……キャロ。離れてても皆とは通信で繋がってるからキャロは1人じゃないからね。ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる優しくて強い力なんだからね?」
そして今度こそなのはは飛び降りる。
残されたメンバーはリインが中心で戦術の最終確認を行っている。
「任務は2つ。ガジェットは1機残らず殲滅させ、そしてレリックを安全に確保すること」
ガジェットがリニアレールを占拠している現状が表示されているエアディスプレイを指差しながらフォワード達に的確な指示を与える。
「スターズ分隊とライトニング分隊、2人ずつのコンビでガジェットを破壊しながら車両前後から中央に向かうです」
「なら俺は先行してフォワード達が降下中狙い撃ちされないよう降下ポイント近くにいるガジェットを破壊しにいく」
「それは心強いですけど、大丈夫ですかルドガーさん?」
「大丈夫だよ俺は。なのは達が親身になって鍛え上げている新人達なんだ。一応教官なんだし、晴舞台ぐらい作らせてくれ」
「わかったです。降下する際はリインがルドガーさんの降下を魔法で手伝いますから安心してくださいです」
「頼りにしてるよ、リイン」
指でリインの頭を撫で、リインがやめてください恥ずかしいですぅと言いながらも嬉しいがってる姿を見てフォワード達から少しだが笑った。
だがその中にやはりキャロは入っていない。
「怖いのか、キャロ?」
「え?」
「正直に話してくれ。誰も本当の事を言って攻める奴はいないよ。な?」
「えっ?あっ、はい!ね?ティア?」
「あっ、うん」
「僕も!」
「キュク~!」
「ほら、なっ?」
ルドガーの目配りでスバル、ティアナ、エリオもキャロを勇気付ける。
そして仲間の自分を想う気持ちを感じ自らの心情を吐露する。
「……怖いです。戦うのも自分の力も……」
「…………」
「なのはさんは私の力は皆を守る事ができるモノだと言ってくれました……でも、やっぱり自分の力が怖いんです……」
「……そうか」
キャロの恐れている理由を知り、ルドガーはそっとキャロの頭に乗せ優しく撫でる。
キャロの戦う事が怖いという気持ちも自分の力が怖い気持ちはルドガーには痛い程わかり、他人事とは決して思えない。
だから……
「それでいいんだよ」
「……え?」
ルドガーの言葉でそれまで俯いていたキャロは顔を上げる。
「その怖いと思う気持ちを肯定するんだ」
だから……ルドガーはキャロに恐怖を感じるその心を認めるように告げる。
「戦う事を怖いと思うのは誰だってある事だ。なのは隊長やフェイト隊長、無論俺もな」
「…………」
「自分の力の本質を…その恐ろしさを知っているならキャロは大丈夫だ」
一歩さがり全員を見る。
「お前達4人にはリインがいる。なのはがいる。フェイトがいる。はやてがいる。皆がいる」
4人はそれぞれお互いを見る。自分達の仲間を。
「生きているモノは1人では決して生きていけないし、戦う事もできはしない。もし1人で戦い続ければ、いつか孤独に呑み込まれる……だから皆……お互いに助け合って戦ってくれ」
「「「「………」」」」
普段と特に変わらない口調で話すルドガーだが新人達は彼の言った『1人で戦い続ければ、いつか孤独に呑み込まれる』という言葉を聞き、何故か恐ろしさを感じていた。だがそこで一緒にいる仲間達を想うと不思議と恐怖心が払拭されていき、何か熱いモノが胸の中で燃え始めているのに気付いた。
4人は今仲間が大切だという本当の意味を断片的にだが知る。だが今はそれでいい。
その意味を完全に知るには自分達で知るしかない。
「リイン、降下サポート宜しく」
「はいです」
リインは騎士甲冑姿になり、ルドガーに向け魔法を行使する。直後ルドガーの足元に白いベルカ式魔方陣が浮かび上がり、足元から頭上へ浸透する。
「これでオッケーですよルドガーさん」
「ああ」
ハッチ前までルドガーは向かい、下を見る。
既にルドガーの視界には今から着地しなければならないリニアレールが入っている。そしてここに立って改めて思うが、意外と高い。風に至っては若干肌に痛さすら感じる。
「ルドガーさん!」
「ん?」
飛び降りようとした途端呼び止められ、一旦その動作を止め声の聞こえた方を見る。
「ありがとうございました、ルドガーさん!私、やってみます!」
「……ああ」
その言葉が誰のモノだったかは問うまでもない。
ルドガーはハッチの方に振り替える事をせずバク転でハッチから飛び降りる。
重量に引かれるまま、もの凄い速度でリニアレールに向け降下する。
降下中に降下ポイント周辺にいるガジェットが自分達の武装の射程内にルドガーが入ると一斉に攻撃を開始し、閃光がルドガーに次々に襲いかかった。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
腰元から双剣カストールを出撃させ、それら全て斬り捌き一発も擦る事なくリニアレールへ見事着地。
しかしその直後……
「……!」
着地した前方にいた複数のガジェットの攻撃によりルドガーの居た場所は爆煙に包まれる。
「「「「ルドガーさん!」」」」
ヘリにいるフォワード達はその光景に至るまでの状況を一部始終見ていたので悲鳴に近い声でルドガーの名を叫ぶ。だがそれから直ぐ変化が起こる。爆煙の中から氷塊が地面に沿ってガジェット目がけて直進、前方にいたガジェットの半数を破壊する。生き残ったガジェットは爆煙の中に再び攻撃を開始。
だがガジェット達は気付かない……自分達が無駄弾を撃ち続けているという事実に………気付いた時には既に遅い。
地にいると判断していた目標は爆煙の上から現れ、ガジェットが攻撃を行う前にガジェット達の懐に降り立ち、二振りの剣で目の前にいたガジェットを破壊する。中心にいたガジェットが破壊され他のガジェットも目標が自分達の陣の中にいる事に気付き、一斉に中心を見てその一つ目のような不気味なカメラを光らせる。ガジェットに意思があるならこれで終わると思っていただろう。その時目標はいつの間にか双剣からハンマーへと持ちかえていた。
そしてそれをリニアレールの屋根に突き立てる。
「デストリュクス!」
終わった……確かに終わった。
……ガジェット達がルドガーに破壊されるという結果を残し確かに終わった。
降下ポイント近くの全てのガジェットを殲滅したルドガーが今立っている地面の周りは、リニアレールの屋根が穴を開けずに隆起している。穴を開けずに敵のみを破壊する事ができたのはルドガーの巧みな槌捌きがあってこそだろう。
初期目標を完遂したルドガーはヘリで待機しているフォワード達に通信を入れる。
「……こちらヴィクトル。初期目標完遂……安全地帯確保。フォワード隊、降下用意を開始してくれ」
後書き
・ヴィクトル(称号)
最強の骸殻能力者に与えられる称号。
ヴィクトルはヴィクトルを倒した者に受け継がれる。
正史世界ではビズリーがそれにあたり、後にフル骸殻に覚醒したルドガーの前にビズリーは敗れ、
ルドガーがヴィクトルを継承した。
・ヴィクトル(分史ルドガー)
性別:男性/年齢:30歳/身長:170cm/武器:双剣・ハンマー・双銃/戦闘タイプ:銃剣槌士
故人。世界NO.F4IDB(通称ヴィクトル分史)の住人で、エルの父親であり、
分史世界における″10年後のルドガー”でもある。
8年前、生まれて間もないエルを守る為、同じ分史世界のユリウスとビズリー、更にジュード達を殺害する。その際ビズリーを倒した事でヴィクトルを継承するが、深手を負ってしまう。
最強の骸殻能力者を継承したことで時歪の因子化も進行し、クルスニク一族の宿命といずれ消える偽りの自分自身への悲しみと憤りを仮面で隠し、残された少ない時間でエルを利用した正史ルドガーへの生まれ変わりを画策するも失敗に終わり、エルをルドガーに託し分史世界と共に消滅した。
尚彼の髪の色が黒なのは、クルスニク一族と決別の意味と父ビズリーと同じ髪の色を拒否し、髪を黒く染めたからである(またエルに、ルドガーと異なるイメージを与える目的もあった)。
解説をこれまで投稿した話に書き加えるので、一度本編を読まれた方も、もう一度読んでみてください。
ページ上へ戻る