魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter11「非日常からの誘い」
つい先程厨房の仕事を終えたルドガーはシャーリーから修復を頼んでいた懐中時計の修理が終わったという連絡を端末を通して聞きデバイスルームへ向かっていた。
「どうしたエリオ?階段何かで座ったりして」
「ルドガーさん!」
「キュクル~」
エリオの隣にいたフリードがルドガーのもとへ飛び、肩に止まり彼はフリードを左手で撫でる。
「そういえばまだ訓練時間じゃないのか?」
訓練にたまに参加するルドガーもフォワード達の訓練時間はある程度は把握している。
生徒1人を持っている身ならわかるはずだ。
「まさか……サボりか?」
「ち、違いますよ!なのはさんとシャーリーさんが僕達に新しいデバイスを支給してくれるそうなんです」
「新しいデバイス?……ああ、あれか」
以前デバイスルームに懐中時計の修復をシャーリーに頼みに行った時に見せて貰った物を思い出す。
「もしかしてルドガーさんは僕達の新デバイスの事を知ってたんですか?」
「まぁな。俺が見た時はまだ未完成だったけどな」
あれからどのように完成したのかルドガーも少しだけ興味が出てきたようだ。
「ところでルドガーさんはどうしてこちらへ?」
「大分前にシャーリーに俺の私物の修理を頼んでいたんだ。どうやらデバイスと同時に修理を終わらせたみたいだな」
多忙なスケジュールにもかかわらずよく自分の頼み事にも手を回してくれたとシャーリーには本当に感謝の気持ちで一杯だ。今度何かお礼をしなければと考えているとエリオを呼ぶ声が耳に入る。
「エリオ君!フリード!」
「キャロ!」
エリオの名を呼んだのはキャロだった。その後ろにはスバルとティアナの姿もあった。シャワーを浴びて間もない為3人の頬はほんのり赤くなっている。
「エリオ、お待たせ~‥ってあれ?ルドガーさん?」
「よっ!3人共お疲れさま」
「はい!ありがとうございます!」
ルドガーに声を掛けられ元気よく返事をするスバル。尻尾でも付けて振っていたら飼い主の帰りを待っていた犬のように見えなくもない。
「ところでルドガーさんはどうしてこちらに?」
「えーっとなぁ…」
エリオに話した事と同じ事を尋ねてきたティアナにも話す。
「そうだったんですか……なら私達と一緒にデバイスルームに行きませんか?」
「ああ、元々俺もそのつもりだったしさ」
そう決まると5人と1匹はデバイスルームへと足を動かす。その道中スバルが茶化した表情でティアナに念話を送る。
「(きゃー!ティアが男の子の人を誘っちゃってるよー!きゃー大胆~!)」
「(ちょ、スバル!アンタ何言ってんのよ!)」
念話で話しているが思わず実際に口が開きそうになり慌て口を手で抑える。その行いでますますスバルの表情がイタズラめいたものへ変化する。
「(だってー訓練校でティアって全然男の子に興味なかったじゃん!けど今はルドガーさんと良く)」
「(あー!!もう何でアンタは直ぐそっち方面に持っていきたがるのよこのバカスバル!)」
念話を送りながら人を、チェリーズパイクをも殺せそうな目付きでスバルを睨むティアナ。
「ひぃ!!」
「ん?どうした、スバル?」
「えっーとそのティアが「何でもないですよー♪ねぇスバルぅ?」う、うん!」
「そ、そうか?」
特に疑問を持たせる事なくルドガーの注意をスバルから移す事に成功するティアナ。
この立ち回り流石だ。
「(アンタ……次どうでもいい事を話したら……わかってるわよね?)」
「(は、はい!ごめんなさ~い!!)」
念話の声とは想像すらつかない真逆の笑顔を見せるティアナにスバルはこれ以上今ティアナをからかったらどんな仕返しを受けるかわからないので、ここらで止める事にした。
何事も引き際が大事だ。スバルを黙らせたティアナは内心ルドガーについて考える。
(あの人は……ルドガーさんは私にとって唯の教官よ。それ以上でもそれ以下でもない……唯それだけよ……)
そう。今のティアナにとってのルドガーは唯の教官だ。自分と同じ武装を使うルドガーは、彼女が欲しくて欲しくてたまらないほどの銃技を彼は体現している。ティアナはその力が欲しい。
誰も傷付けさせない為に……そして兄の意志を継ぐ為にも……だがティアナはまだ気付かない。
いや気付けないのだ。
圧倒的な力を持つ者の心構えを……強者に何よりも必要なモノを……彼女はまだ気付けない。
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「これが私達の新デバイス……」
スバルとティアナは自分達の新デバイス『マッハキャリバー』と『クロスミラージュ』をそれぞれ宙に浮いている姿を目新しそうに眺めている。
「そうでーす♪設計主任は私、シャリオ・フィニーノ!そして全面協力してくれたのはなんと!なのはさん、フェイトさん、レイジングハートさんにリイン曹長ですよ」
その反面エリオとキャロは自分達のデバイスに外見上ほとんど変化がない為、2人ほど驚いた表情をしてはいなかった。
「僕達のデバイスは特に変化はないみたいですね……」
「うん。そうなのかな……」
「それがそうでもないらしいぞ?」
そのエリオの言葉を否定したのはルドガーだった。そしてルドガーのセリフを待っていたかと言わんばかりにリインとシャーリーがストラーダとケリュケイオンの解説を始める。
「変化がないのは外見だけですよ」
宙を飛びルドガーの頭に座りながら解説を続ける。
「2人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですから、感触に慣れて貰う意味で基礎フレームと最低限の機能だけで渡してたです」
「あ、あれで最低限!?」
「本当に!?」
使用していた本当達からすれば今のリインの解説は驚く以外する事がない。
「2人が最低限の機能しか使っていない事に気付かなかったのは、2機を作った人間の腕が良かったんだろうな」
「そ、そんな…ルドガーさんに褒めて頂けるなんて最高です!」
シャーリーはルドガーに褒められ顔を赤くする。それを見ていたリインはこれははやてに報告しなければと、聖王教会に出ているはやてに帰ってきたら伝える気満々だった。
「皆が扱う事になるこの4機は六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術の粋を結集して制作した最新型デバイスです。それぞれ4人に合わせて作られた文句なしの最高の機体ですよ!」
4機をリインはそれぞれの持ち主の下へと送る。
「だからただの道具や武器とは思わず大切に……だけど性能の限界まで思いっきり全開で使ってあげてほしいです」
「この子達もきっとそう望んでいるはずだから」
リインとシャーリーの話しを聞いているとこの2人が4機のデバイスとフォワード達を大切にしているのが痛いほどルドガーは感じていた。ルドガーも以前戦い方をユリウスに習っている時に同じような事を言われた事を思い出していた。
「ルドガーさんからも何か一言どうぞ!」
「ですぅ!」
「ええ!?」
突然話しを振られ思わず後退ってしまう。断わろうとしたが既にフォワード達がルドガーに目を向けていたので断わるに断われない。ならばやる事は一つだ。
「そうだな……リインの言う通りこの4機は唯のデバイスじゃない。コイツらはお前達4人の半身だ」
「半身…ですか?」
ティアナが半身という言葉を口にし確認を取る。それにルドガーは相づちをうつ。
「けどな…コイツらをお前達が唯の武器や道具だと思えばコイツらは唯の道具や武器になる……その事を忘れないでくれよ?」
「「「「はい!」」」」
この屈託のない返事が出るならきっと4人は自分の進みべき道を誤りはしないと、ルドガーは確信する。そして4人をその道を往くだけの力を着けるように導くのが自分達の役目だと再認識する。
「流石ルドガーさんですね~教官らしくなってきましたね!」
「そんな特別凄い事は言ってないだろう?」
「でも何というか貫禄みたいな物が滲み出ていたような……それはそうとルドガーさんにこれを渡さないといけませんでしたね」
シャーリーはデスク前に行き引き出しから包みを持って再び戻ってきて、包みを開けて中身を包み事ルドガーに渡す。
「俺の時計……ちゃんと治ったのか?」
包みの中にあったのはシャーリーに修復を頼んでいたあのルドガーの金色の懐中時計だった。
破損していた頃の面影はなく完全に破壊される以前の姿に戻っていた。
「はい!材質もミッドにもある物でしたので、修復にはそんなに手間はかかりませんでした」
「ありがとうシャーリー。手間をかけたよ」
「いえいえ♪」
「ルドガーさん、その時計がシャーリーさんに修理を頼んでいた物なんですか?」
「ああ、そうだよティアナ。俺の…大切な物なんだよ」
「うわぁ!綺麗な金色だぁ!ちょっと触ってもいいですか!?」
「スバル……アンタ本当遠慮ないわよね」
「エヘヘへ…」
「わかった。ほら--」
スバルに渡す為、左手のひらに包み事載せている懐中時計を右手で掴んだその時だった。
ルドガーが触れた一瞬ではあるが懐中時計が輝きを放った。
「っ!?」
「キュク!?」
「えっ!?今光った!?」
目の前でその懐中時計の変化を間近で見ていたスバルは驚きの声を上げる。
幸いアングルの関係でそれを見たのはルドガー以外でスバルとフリードだけだった。
「どうしたスバル?」
「えっ?今ルドガーさん見ませんでした?」
「何がだよ?」
「その時計…今光りましたよね?」
「いや?別に光らなかったが?」
何食わぬ顔で懐中時計が輝きを見せた事を隠した事でスバルは確かに光ったんだけどと言っているが、最終的にはティアナに何寝ぼけてるのよと言われ、見間違いだと判断したようだった。
(今の輝き……やっぱり時計に……)
何よりその証拠についさっきまでなかった感覚が身体にできた事をルドガーは感じていた。
この懐かしくて否定してもどうしようもなく欲してしまう感覚……ルドガーは再び自分が『力』を手にした事をはっきりと感じていた。
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ミッドチルダ北部ベルカ聖王教会大聖堂。今回聖王教会にはやては六課後見人の1人である
『カリム・グラシア』と会う為この地を訪れていた。
「カリム、久しぶりや」
管理局員である事を隠す為に見に付けていたフード付きマントを脱ぎ目の前にいる金色の長髪で淑やかな雰囲気を纏っている女性に挨拶をし、女性もそれに応じる。
「ええはやて。お久しぶりね」
「ごめんなぁ、すっかりご無沙汰してもうて」
「気にしないで。部隊の方は順調みたいね」
「これもカリムのお陰様や」
2人はカリムの執務室の中にあるテーブルの前に座り、カリムの側近のシスターでもあるシャッハが用意してくれた紅茶と茶菓子を口にしながら、お互いの調子を確かめている。
「で、今日はただお茶飲み会をする為に私を呼んだ訳やないんやろ?」
「そっちの方だけだったら私的にも嬉しかったんだけどね…」
そう残念そうに話すと、直ぐカリムは表情を真剣なモノへと変え、エアディスプレイを呼び出し触って操作する。そして室内のカーテンが一斉に自動的に閉じられ、宙に幾つかのエアディスプレイが展開された。
そこに移し出されていたのは……
「これって……新型のガジェット?」
フォワードの訓練で擬似的にも再現されているガジェットドローンと特徴的な箇所が確認できる物体がエアディスプレイに表示されている。飛行する為に特化したようなタイプと球体のようなタイプ。カリムが画像をピックアップしてわかったが、球体の方は他の2タイプよりも大きい。
「Ⅲ型…でええの?割と大型やね」
ちなみにガジェットはタイプ事に分類されている。訓練でも再現されているタイプがⅠ型、飛行型のタイプはⅡ型、そして今カリム達の話しで注視されていたⅢ型……現存で確認されているのはこの3タイプだ。
「戦闘性能が不明だから、本局にはまだ正式報告はしていないわ。監査役のクロノ提督にはさわりだけお伝えはしたけど……」
「これは!」
はやてはエアディスプレイに表示されている1つの、明らかに普通な物が入っていなさそうな箱に視線が行き、思わず声を上げてしまう。
「それが今日の本題。一昨日付けでミッドに運びこまれた不審貨物……」
「レリック…やね?」
「その可能性が高いわ。新型2機が発見され始めたのは昨日からだし……」
「ガジェットに発見されるのも時間の問題…ってところやな」
近日中必ずガジェットが何らかの動きを見せ、それに六課前線部隊が出動する事になるのはほぼ確実とはやては確信した。考え込むカリムを見たはやてはエアディスプレイを操作してカーテンを開け、再び日の光が室内を照らす。
「まぁ何があっても大丈夫。カリムがお力添えしてくれたおかげもあって部隊は何時でも動かせる。隊長達は勿論、要となる新人フォワード達も実戦に出せるレベルに成長しとる。それに…ウチには最強の『エージェント』がおることやしね」
「最強のエージェント?……それってもしかして…」
管理局と聖王教会では聞き慣れないエージェントという単語に一瞬首を傾げるカリムだったが、何かを思い出しあるデータを表示する。
「前にはやてが言っていたルドガー・ウィル・クルスニクさんの事かしら?」
「そうや」
「機動六課設立から間もない頃に高町一尉とその部下4名が六課敷地内にて意識を失っていたクルスニク氏を保護。本人の証言を基に本局のデータベースから彼の出身世界リーゼ・マクシア並びにエレンピオスを検索したところ該当する記録はなし……その後六課部隊長が身元引き受け人となりクルスニク氏は六課の厨房のスタッフとなると共に、元の世界での戦闘経験を生かし民間協力者として六課前線部隊の自由戦力となり新人達に戦闘訓練を施している……って言うのがここにある書かれてる事だけど?」
「大むね合っとるよ。あと付け加えるなら、料理が物凄く上手いという事と、昨日正式に決まった階級かな?」
「階級?」
「クロノ君がわざわざ連絡入れてくれて付けた階級なんやけど、正式名『提督直轄特務エージェント』っていうモノなんよ」
それは昨日の事だった。はやてはクロノからルドガーに階級を付ける事を急遽聞かされた。万が一地上本部から査察が入ればルドガーの存在は六課にとって指を指されてもおかしくはない。その予防策としてクロノがルドガーに与えた階級というのが提督直轄特殊エージェントという階級だった。提督という立場の人間がルドガーの存在を認めているとなると地上本部といえどおおっぴらに文句は言えない。
「ルドガー本人はそないな階級いらへんって言うてたけど、とりあえずその辺の事情を説明して納得はしてもらうたわ。まっ大層な階級が付きはしたけど名前だけやし、やる事は変わらないんやけど」
「確か彼、魔法が使えないのよね?」
「そうや。せやけど魔法無しでリミッター付きのシグナムに黒星付けたんやで?単純な戦闘力と戦闘センスは間違いなく管理局でルドガーに適う相手はおらへんよ」
「そこまで凄いのね、彼……教会に勧誘したいところだけど、もし彼にその気がないなら無理強いはできないわね」
シグナムが怯んでいるところにルドガーが双銃を向けて勝利を収めている場面を見てカリムは感嘆の声を漏らしていた。
「どうやらカリムもルドガーの事気に入ったみたいやな」
「そうね……まぁはやて程じゃないと思うわよ?」
「 へ?」
さっきまで真面目な表情を見せていたカリムが、意味りげな一言を口にすると同時にとても良い笑顔をしたお姉さんの顔になった。そして彼女は鳩が豆鉄砲を食らった表情をしているはやてに爆弾を投下する。
「好きなんでしょ?クルスニクさんの事?」
「ぶっ!!?」
思わぬカリムの発言ではやてはこらえきれなかったのか盛大に吹いてしまった。
近くにあったナプキンで口周りを拭きカリムを睨む。
「な、な、突然何言いだすんよカリム!?真面目な話をするんやなかったんか!?」
思いっきり狼狽しながらカリムに叫ぶはやて。カリムにはそれが面白かったのか珍しく口を抑え、顔を伏せてまで笑っている。
「ご、ごめんなさい……わ、私こんな時…ふっふっ…どんな顔をすればいいかわからなくて……くっくっ……!!」
「…今の私やったらカリムに本気で説教できそうや」
カリムが笑っているのを見て狼狽していたはやてはすっかり元に戻り無表情でカリムにそう言っていた。この時はやてはカリムと出会ってから初めて彼女に殺意が沸いたそうだ。
そんな時に笑いをこらえているカリムの前にエアディスプレイが表示される。
通信者はシスターシャッハだった。
『騎士カリム。緊急…あの、どうかなさいました?』
「くっくっ…え?あっ、シャッハ。い、いいえ別にな、何でもないわ」
『はぁ……』
何とか持ちなおしたカリムはシャッハに連絡をかけてきた内容を尋ねる。
『実はつい先程、レリックについて調査していた調査部から緊急連絡が--』
だがシャッハの言葉は最後まで続かなかった。
『ALERT』とという表示がエアディスプレイに表示されて、室内に警報が鳴り響く。
「これは……!」
「…どうやら楽しいティータイムは終わりみたいやね」
平穏から非日常に変化した事を感じながらはやては、現状を把握する為六課に通信を入れる。
(ここからはおちゃらけは一切無し……本気で行くで!!)
後書き
・金色の懐中時計
骸殻能力者が必ず生まれ持っている物。
これが無くては能力者といえど変身する事はできない。
能力者によってその色彩は異なる。
ルドガーの懐中時計はある事情からユリウスが持っていたが、後に持ち主であるルドガーの下に戻る。
カナンの地でのビズリーとの決戦で、ビズリーに踏み潰され破壊されたが、機動六課技術スタッフ
シャリオ・フィニーノの手で修復される。
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