問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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コミュニティの現状
《魔王か・・・なんて・・・面白そうなんだ。》
一輝は鳴央の言った魔王という言葉にものすごい興味を示していた。それこそ、コミュニティの現状以上に。
いいのかそれで・・・
それを一輝は表情に出しながら声には出さず表情には出して、鳴央に質問した。
「とりあえず、黒ウサギたちのコミュニティの現状を説明してもらっても?」
「はい。ではコミュニティというのがどういったものなのかから始めさせていただきます。コミュニティとは読んで字のごとく、複数名で作られる組織の総称です。」
「動物や幻獣で言う群れのようなもの?」
「はい。そして、コミュニティはコミュニティとして活動するにあたって、箱庭に“名”と“旗印”を申告する必要があります。旗印はコミュニティの縄張りを主張する大切なもので、あの天幕の中に入ると商店や建造物になにかしらの紋が入っていますし、コミュニティに所属している人は、自分のコミュニティの旗印が刻まれた小物を持っていることが多いです。」
「その旗印が身分証明のようなものになるから?」
一輝は空になった自分と鳴央のカップに紅茶を注ぎながらそうたずねる。
「あ・・・ありがとうございます。はい。一部のお店では入る際にコミュニティの名前を尋ねるか旗印を見せるように言ってきますから。」
《なるほど・・・身分が確かじゃないと、取引をしても損をする可能性が高いからか。そして、“ギフトゲーム”の仕組みは・・・》
一輝は旗印と名の重要さを理解しながら、同時に箱庭の、“ギフトゲーム”の仕組みについても考え、一つの、最悪の推測を立てていた。
「ここからが、黒ウサギさんのコミュニティに関することです。実際、数年前までは黒ウサギたちのコミュニティは東区画最大手のコミュニティでした。」
「へえ、入らない方が良いって言ってたから、最底辺なのかと思ったんだけど・・・」
「あくまでも、数年前は、です。そのころのコミュニティのリーダーはギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持っていた人で・・・あ、いえ。今のリーダーが悪いというわけではないのですが・・・彼は比べ物にならないくらいに優秀で、東区画最強のコミュニティだったそうです。」
「なんだか、ものすごい歴史を持ってるコミュニティなんだな。」
「はい。」
「じゃあ、何で入らないほうがいいの?昔に比べて今がかなり劣っていたとしても、それだけの歴史があればいろんなところにパイプも有りそうだし、十分有意義な生活が送れると思うんだけど。」
「確かに、劣っているだけなら十分に有意義な生活が送れるでしょう。しかし、彼らはぜったいに敵に回してはいけないものに目を付けられてしまったんです。」
《あっ、ここで話が戻るのか。》
「もしかしてそれが、最初に言ってた・・・」
「はい。魔王です。彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災です。」
「そんな比喩を受けるようなやつらなのか・・・」
「残念なことに、一切比喩ではありません。」
「・・・マジで?」
「マジです。」
《それはさすがに・・・驚きだな。まさか、天災と称される生物がいるとは・・・》
さすがの一輝でも、驚いたようだ。
《ぜひ捕獲して、観察したい!!》
ぜんぜん驚いていなかった。ってか、んなこと出来るか。
「ちょっと気になったんだけど・・・それは倒したり、無効化したりしたらものすごく感謝されたりするような存在?」
本気で観察する気だ。
「はい。また、倒せば条件次第で隷属させることも可能です。」
捕獲可能だった。マジか・・・
《へえ?それは・・・そっちを目指して倒さないとな。》
一輝はへんな決心をした。
「魔王とは“主催者権限”というものを持つ修羅神仏が大体です。」
「“主催者権限”とは?」
「簡単に言ってしまえば、相手を強制的にギフトゲームに参加させる権限です。」
「そんな危険なものを渡さなければ良いんじゃ・・・」
珍しく、一輝がまともな意見をまともな理由から出した。
明日は嵐かな?
「そうなのですが、元々“主催者権限”は罪を犯したものを裁くための試練、信仰心を裏づけするための試練、新しい進化を迎えるための試練、などといったことが目的で渡される権限ですから。」
「そのことを考えれば、渡さないってのは難しいわけか。」
「その通りです。なので、魔王でなくても“主催者権限”を持つものはたくさんいますし、先ほど言ったようなことが出来るものになら、修羅神仏でなくとも主催者権限を渡されることはあります。」
《ふむ・・・となると・・・》
「魔王とそうじゃない者との線引きは?」
「全ての“主催者権限”には[~に対して使う場合、このゲームが正当であることを保障します]のようなことが書いてありますので、それに当てはまるものに対して行う限り、魔王の烙印は受けません。」
「なるほど。」
「魔王というものを理解していただけたようなので、話を戻しますが、彼らは魔王のゲームに強制参加をさせられ、地位、名誉、仲間、そして名に旗印までコミュニティとして活動していくために必要な全てを奪われてしまい、今は名無しのその他大勢、[ノーネーム]と呼ばれています。」
「ノーネームってのはいくつもあるのか?」
「はい。」
「となると、名と旗印が無いってのは不便だな。名前もどこのノーネームなのかわからないし・・・新しく作ることは出来なかったの?」
「可能でした。」
「じゃあ・・・」
作ればよかったじゃん、と続けようとした一輝の言葉をさえぎり、鳴央は言った。
「しかし、彼らのうち残された人たちは、仲間たちが帰ってくる場所を守るために改名を選びませんでした。」
《仲間の帰ってくる場所を守るために、ね・・・帰ってくる保証も無いのに・・・よくやるよ・・・》
それは、一輝がかつて選ぼうとして、それでも選べなかった道である。
そして、だからこそ一輝の中に一つの決意が生まれようとしていた。
「彼らがあなたたちを召喚したのはコミュニティを再建し、コミュニティの名と旗を取り戻すために強力なプレイヤーが必要だったからでしょう。」
「茨の道だな。」
「はい。ですから・・・もう一度言いますが、有意義な生活を送りたいのなら彼らのコミュニティには入らないほうがいいです。」
一輝がしばし悩んでいると、鳴央が声をかけてきた。
「そこで、もしよろしければ私たちのところに来ませんか?」
「私たちって・・・鳴央のコミュニティ?」
「申請はしていませんが・・・そのようなものです。」
申請していない、というところに一輝は違和感を持ったが、それは後回しにした。
「何か、入るにあたっての条件みたいなものってある?」
「条件とは?」
「例えば、黒ウサギたちのところだと、魔王と戦わなくてはいけない、みたいな感じの。」
鳴央は言っていいのかどうかを悩み、それでも言っておくことにした。
「はい。あります。」
《やっぱりか。》
「それはどんな?」
一輝はその内容を、お互いの空のカップにもう一度紅茶を入れながら尋ねた。
「ありがとうございます。条件としては、神隠しにあっていただきます。」
「神隠しって、人が急に消える?」
「はい。正確には、記録からも、人の記憶からもだんだんと消えていき、最終的には完全に忘れ去られます。」
「・・・・・・。マジ?」
「マジです。」
《そこまでとは・・・予想してなかったな。》
「ええっと・・・かなり驚いてはいるんだけど、いったんおいといて、他には?」
「とくにありません。」
《なるほど・・・後、判断に必要なのは一つだけだな。》
「じゃあ次の質問いい?」
「はい。どうぞ。」
「では、遠慮無く。」
そこで一回言葉を切り、深呼吸すると一輝は・・・
「君の目的と言うか、人を神隠しにあわせる理由って・・・何?」
最初のほうから気になっていた、目的について鳴央に聞いた。
後書き
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。
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