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Magical Girl Lyrical NANOHA- 復元する者 -

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第2話 目覚める魔法











動物病院にイタチもどきを預けた後。
四人は、何事もなく家路に付いた。
途中でアリサ達と別れ、なのはと二人で帰宅した。
玄関を潜り、互いに真っ直ぐ自分の部屋へと向かう。
鞄を置き、私服に着替え、夕飯になるまで部屋に籠る。
本棚から、一冊の本を取り、ベッドに横になりながら読み始める。

学校と違い、喧騒もない静寂の時。
ゆっくりと移ろう時間の流れに身をゆだね、読書に耽る。
本を読みながら、あのイタチもどきについて考える。
あの生き物から感じた“違和感”。
微かに感じた“魔力”の気配。
この世界にはあるはずのない“魔術(ルーン)”の源

神から与えられた『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』を持つ自分とは違う感じだった。
似ているが違う魔力の気配。
未だ、己の『マホウ』も『能力』も使用した事もないが、普通とは違う気配は、何となくだが分かる。
召喚せし者(マホウツカイ)』として、真なる覚醒には至っていないがそれぐらいは理解出来る。

とはいえ……。
自分の感覚に確信を持つことが出来ない。
だから、自分の内にいる存在に問い掛けてみた。
自我に目覚めてから、自分の中に住み着いている僕自身の『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』に……。


「(君はどう思う?“サクラ”)」

「(う~ん。まだ良く分からないんだよ)」


頭の中に響く少女の声。
自分の中にいる、まだ姿を見ぬ『マホウ』の少女に語りかける。


「(マスターの言う通り、あのイタチさんからは魔力の気配は感じるけど……私達(マホウツカイ)と同じかと言われれば、違うと思うんだよ。だから、マスターの感覚は正しいと思うよ?)」

「(そうか……)」

「(そもそも、この世界に『マホウツカイ』は唯一人……マスターだけなんだよ。他に『マホウツカイ』なんて存在しないはずだよ。この世界と私の存在した世界とは、違うんだから)」

「(となると……あの“力の気配”はこの世界に元から存在するもの?)」

「(直接見た訳じゃないから断言出来ないよ)」

「(ーーーーーー)」


自分の中で眠り続ける少女(サクラ)との会話。
普段、表層に出す事はしないが、たまに話し掛ける。
彼自身の我が儘で召喚していないため、寂しいだろうと思い、時々話し合う。


「(僕の中に居て、“あの声”はサクラは聞こえたか?)」

「(うん。変なノイズ混じりで折角、気持ち良く寝てたのに、起きちゃったんだよ)」


少し不機嫌そうな声が頭に響く。
彼女の不満に苦笑いを溢す。


「(なのはちゃんも聴こえていたみたいだったんだよ)」

「(あぁ、恐らく“魔力”を持つ人間だけに“あの声”は聞こえるようになってたんだろうけど……サクラの言葉が正しければ、『マホウツカイ』はこの世界に僕一人。どういう事だ?)」

「(分からないんだよ)」

「(だよな……)」


謎な事が多すぎる。
転生先には平和な世界を指定したのに。
これでは意味がない。


「(そういえば……何でマスターは私達の『能力』を選んだの?私の『魔術(ルーン)』って結構物騒だと思うんだよ)」

「(本当は、『復元する原初の世界(ダ・カーポ・ゼロ)』が使えれば良かったんだ。怪我した時とか、物壊した時とか便利だと思って)」

「(……それなら他の『能力』でも良かったと思ったりするんだよ」

「(丁度、思い付いた“力”のカタチを神様に言っただけなんだけどな)」

「(適当なんだよ~)」


呆れた口振りのサクラ。
そう言われても、いきなり転生させてやると言われれば、動揺もする。
特別に力を授けると言われたら尚更だ。


「(何はともあれ。関わらなければ大事には至らないだろう。もう関わる事は無いだろうし)」

「(そうなの?)」

「(最低限の事はした。後は動物病院側の仕事だ。飼い主が見付からなければ、保健所行きだけど)」

「(可哀想なんだよ~)」

「(生憎と僕は聖人君子じゃない。家族や友達以外なんてどうなろうと知ったことか)」


サクラにそう言い放ち、会話を終える。
誰に何て言われようが、考え方を変えるつもりはない。
善人に生まれ変わった訳じゃない。

救いたい者だけ救う。

何処までも傲慢に……利己的に生きていく。

前世から変わる事のない。

僕の生き方である。










第2話 [目覚める魔法]









家族で夕飯を食べ終え、お風呂や学校の準備を済ませ、ベッドに入り、眠りにつく。
今日も1日、何事もなく平穏無事……とは言い難いが平和に過ごせた。
願わくば、この平穏が永遠であることを望み、心地よい微睡みに落ちる。
穏やかな顔でベッドに横になり眠る葛葉。
だが、この心地よい眠りも、再び予想外の出来事により、打ち破られた。
頭に響くノイズ混じりの声。


「(ーーーー誰かーーーーー!)」

「う……ん?」

「(むぅ~……またなんだよ、マスター……)」


眠りから覚め、瞼を開ける。
頭の中では、怪訝そうなサクラの声。


「……ん……発信源、分かるか?サクラ」

「(う~ん……多分、動物病院だと思うんだよ)」

「やっぱり……」


気だるい体をベッドから起こす。
目を擦りながら、カーテンを開け、窓を開けた。
動物病院のある方向に目を向ける。
特に変わった様子はない。


「(どうするの、マスター?言ってみる?)」

「甚だ不本意だが……行くよ。夜中ずっと煩わしい電波を流されるのは辛い」

「(そうなんだよ!ゆっくりお休み出来ないんだよ!)」

「君は毎日、寝てるだろう……」


脱力しながら、クローゼットの前に立ち、私服に着替える。
両親や兄達にばれないよう、静かに家を出る。

軽く走り、動物病院へと向かう。
しばらく走ると目的の動物病院に到着。
注意深く、周囲を見渡して見るが、特に異常はない。
発信源と思われるイタチもどきは病院の中。

さて………どうしようか?


「(入っちゃおうよ!)」

「簡単に言うなよ。下手すれば不法侵入ーーーー」

「ーーーー葛葉?」


周囲に誰もいないと思い、声を出しながら、サクラと話していると不思議そうな声音で名を呼ぶ者。
注意しながら、恐る恐る後ろを振り返る。
そこに立っていたのは、何やら戸惑った表情を浮かべる双子の妹(なのは)

何で、ここに?


「どうしたんだ、こんな所で……」

「そういう、葛葉は?」

「あの、イタチもどきが気になってな」

「私もだよ」


成る程。
兄妹揃って何をしているのやら。
本当の所は、自分と同じ声に導かれ、此処に来たというところだろう。


「でも、病院はもう閉まってるみたいだ。明日また出直そう」

「うん……そうだね」


流石に、不法侵入は出来ない。
葛葉は踵を返し、帰ろうと歩き出す。
なのはも葛葉の言葉に従い、後ろについて歩き出す。

しかし……。
二人が病院に背を向け、歩き出した瞬間。

病院の敷地内から、大きな爆発音が轟いた。
砕けたコンクリートが宙を舞い、砂埃が視界を隠す。


「っーーー!」

「キャーーーー!」


突然の出来事に悲鳴を上げる。
轟音に身をすくませる。


「くっ……何だ!?ガス管でも爆発したか!!」

「(違うんだよ、マスター!?病院の中から“魔力”の反応がするんだよ!しかも、『召喚せし者《マホウツカイ》』クラスの魔力が!!)」

「はぁ!?」


サクラの報告を聞き、動揺する。
有り得ない。
この世界で自分クラスの魔力反応等、あるはずがない。


「っーーーーーー…あ、あの子!」

「あ……待て、なのは!おい!」


砂埃が徐々に晴れていくと、その破壊の爪痕が露となる。
病院の周りを覆っていた外壁が内側から崩れていた。
その壊れた外壁から、走り飛び出してきた小さな影。
昼間に自分達が拾って病院に預けたイタチもどき。
でも、今重要なのは、そんな小動物よりも己の家族。
イタチもどきに向かって駆け出したなのはの後を追う葛葉。


「待てってなのは!危ないだろうが!」

「だけど、この子が!」


イタチもどきにを腕に抱えるなのはを怒鳴り付ける。
内心は突然の事に怖がっているだろう妹を心配する葛葉。


「分かったよ……そいつも連れて、此所を離れーー」

「き、来てくれた……」

「は?」

「ふえぇぇぇ!?」


なのはを立たせ、場を離れようとしたその時。
彼女の腕に抱かれているイタチもどきが人語を話し出した。
驚きのあまり、目を見開く葛葉となのは。


「く、葛葉……この子が……」

「……喋ったな……」

「(マスター、最近の動物は話せるの?)」

「(んな訳あるか!)」


心の中でサクラにツッコミを入れる。
普通の動物が人語を解する筈がない。
つまり、只の小動物ではないということ。
冷静を装い、イタチもどきに問いかける。


「お前は“何”だ?何故、僕らを呼んだ」

「あの、実はーーーー」


葛葉の問いにイタチもどきが答えようとする。
その次の瞬間。


「(マスター!危ないんだよ!)」

「なっーーーーーー!?」


サクラの声に反応し、殺気を感じる方向を向く。
振り向いた方向に視線の先には居たのは、得体のしれないモノ。
“それ”は葛葉やなのはの姿を確認すると、一直線に突進してきた。
咄嗟に、葛葉はなのはを自分の反対方向に突き飛ばす。


「なのは!逃げろ!」

「え!?葛葉!?」


左右に別れる二人。
その間を巨大な何かが通り過ぎた。
砂埃が視界を覆い隠す。


「くっ……何だよ、“あれ”は?」

「(マスター!あれからなんだよ。強大な魔力反応がするのは」


サクラの言葉を聞き、正体を見極めようと目を凝らす。
視界が晴れた先には、自分達に突っ込んできたモノ。
靄のようなモノが高密度に集まった雲状の生物。
不気味に光る瞳が此方を見詰める。
どうやら、目をつけられた様だ。


「ヤバイな……」


強烈なプレッシャーを浴び、冷や汗が出る。
どう考えても普通の”存在“ではないモノから逃げる為、思考する。
相手は此方を注視しているのは行幸だ。
なのはに向いていないのが、唯一の救い。
となれば……。


「サクラ……力を借りる時が来たみたいだ」

「(うん!準備いつでも出来てるよ)」

「ありがとう……じゃあ、行こうか。『魔術兵(ゲート・オー)ーーーー」


自身に宿る『マホウ』を召喚するための言霊を紡ぎ出す。
だが、反対方向からも詠唱が響いてきた。


「『風は空に』……『星は天に・・・・』」

「なのはか?」


耳に届いてきたのは、妹の声。
自分が唱える言霊とは違う言霊……詠唱が聞こえてくる。


「(マスター、なのはちゃんから魔力が……)」

「マジか……」


サクラの言葉を聞き、葛葉が唖然とする。
その間も詠唱は続く。


「『輝く光はこの腕に』……『不屈の心はこの胸にーー!』」


目をつむり、謳い上げる。


「『この手に魔法をーーー!』『セーットアーップーーーーーー!』」


イタチもどきに教えられるままに詠唱を紡ぎ終え、なのはの周囲が光輝く。
妹を覆う桜色の魔力光。
その輝きに目を細める葛葉。


「(凄いんだよ、なのはちゃん!マスターには及ばないけど強大な魔力なんだよ!)」

「っ……なのは!?」


サクラがなのはから放たれる魔力に驚く。
桜色の魔力光に包まれ、妹の姿が見えず、心配そうな声音で叫ぶ。
すると、桜光は収まっていき、人の姿が浮かび上がる。
そこに立つのは、機械的な杖?を携え、白を基調にした見たこともない服に身を包んだなのはの姿。
恐る恐る自分の服装や手に持つ杖を見て、驚いている。


『グォォォォォ!!』

「ちっーーーーーー不味い!」


急に現れた脅威になり得る存在(なのは)に気付いたのか。
此方に意識を向けていた雲状の怪物が、なのはに襲いかかる。
それに気付き、なのはは靴から小さな羽を広げ、空に舞い上がる。


「おいおい……飛べんのかよ」

「(なのはちゃん、格好いいんだよ!)」


空に舞い上がった妹を見る。
サクラが呑気な事を口走っているが、そんな場合ではない。
なのはは何とか、雲状の怪物の攻撃を回避しているようだが、動きがやはりぎこちない。
このままでは、部が悪い。
介入するタイミングを図っていると、怪物はなのはからイタチもどきにに対象を変える。



「全く……邪魔な小動物だ!」

「(あっ!マスター!?)」


立ち尽くしていたイタチもどきに向かって駆ける。
ギリギリのところで抱き抱え、転がる。
後ろでは強烈な爆発音。
先程、イタチもどきのいた場所の周囲にクレーターが生まれる。


「ぼうっとすんな!?死にたいのか!」

「す、すみません」


葛葉が凄まじい剣幕で怒鳴り付け、イタチもどきが謝る。
切迫した状況であるのにシュールな光景だ。


「(マスター!来るんだよ)」

「っ!?」


サクラの言葉に反応し、視線をクレーターに向ける。
怪物が此方を睨み、駆けてくる。


「葛葉!?逃げてーーーーー!」


空中にいたなのはが葛葉に叫びながら、急いで降下してくる。
だが、怪物は既に兄の近くまで迫っていた。
もう、間に合わない。


「葛葉ーーーーーー!!」


目の前でこれから起こる最悪を思い浮かべる。
兄の名を力の限りの声で呼ぶ。
それを嘲笑う様に、怪物は葛葉に向かって突進していく。
その脆弱な体を吹き飛ばそうと迫る。

しかし……。









「ーーー『魔術兵装(ゲート・オープン)』ーーー」









葛葉の口から静かに告げられた言葉。
その言霊が呟かれた瞬間。
葛葉の周囲を眩い光が覆い、そして……。


「グォォォォォーーーーー!?」

「え?」


なのはの目が驚きに見開かれる。
光が徐々に消えていくその刹那。
新たな光が、なのはや怪物の視界を照らした。

なのはと同じ桜色の魔力光。
葛葉を包み込む光の中から放たれた一条の閃光。
綺麗に輝く桜光が、怪物を捉え、その雲状の体を貫いていく。
空中に吹き飛ばされ、貫き、引き裂かれた雲状の体は三つに分かたれ、別々の個体になった。
怪物はそれぞれに別の建物に降り立ち、唸りながら閃光の元を睨み付けている。
光は既に収まり、閃光の余波で生じた砂埃で葛葉の姿が見えない。


「危ないとこだったよ~」

「ギリギリだったな~」


砂埃の向こう側から聞こえる少年と少女の暢気な声。
間延びした声音が響く。
砂煙が徐々に晴れ、人影が浮かび上がる。

煙が晴れる前に二つの人影が現れた。
一人は黒髪の少年、葛葉。
もう一人は長いプラチナブロンドを靡かせ、花形の綺麗な髪飾りを着けた不思議な衣装を纏った少女。
年の頃はなのは達と同じくらい。
腕にイタチもどきを抱えながら歩み出てきた。


「さて、お前が何かは知らないがーーーー」


二人揃って、建物の上に降り立った怪物を睨む。


「僕の家族に手を出した以上ーーー許されると思うなよ?」



異形の怪物に向かい、宣言する。
サクラを……『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』を召喚した以上、只では済まさない。
敗ける事などあり得ない。


「来いよ、異形の怪物達……。僕らが相手だ」

「やっつけるんだよ!」


覚醒を果たした『召喚せし者(マホウツカイ)』とそのパートナーたる精霊の少女。
相対するは、正体の分からない異形の怪物。
然れど、葛葉は恐れることなく。


「さぁ……神話の再現を見せてやろう」


不敵な笑みを浮かべ、一歩……怪物達に向かって踏み出す。


神を喰らう拳と森羅万象を巻き戻す『マホウツカイ』と。

世界を滅ぼす桜光の聖剣と鞘を身に秘めた『マホウ』の少女が。

初めて歴史に姿を表した瞬間であった。









 
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