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ドン=ジョヴァンニ

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第一幕その四


第一幕その四

「何処までも追って来る人なのに」
「来るなら来い」
 ジョヴァンニは受けて立つといった感じだった。
「私はここにいるのだからな・・・・・・むっ!?」
「今度はどうしたんですか?」
「女が来た」
 今度はこんなことを言うのだった。
「女がな」
「そうですか?」
「私にはわかるのだ」
 ジョヴァンニは目を光らせて言った。
「この私にはな」
「また美しい方には目がないからですね」
「その通りだ。美女がいればたちまちのうちにわかる」
 彼は断言さえした。
「私にはな。さて」
「さて?」
「これはまたかなりの美人だな」
 彼はさらに言う。
「イギリス生まれかも知れないな」
「イギリスですか」
「そうだ、イギリスだ」
 どういうわけかわからないが彼はそこまでわかるらしい。鋭い目をしながらそのうえで言葉を続けるのだった。言葉も鋭いものになっている。
「イギリス女だな」
「ふむ。イギリスですか」
 レポレロはジョヴァンニのその言葉を聞いて述べた。
「イギリスといいますと」
「さて、どんな女か」
 レポレロが何かに気付いたのは見ていたがジョヴァンニはここでまた言うのだった。
「さて、隠れて見てみよう」
「隠れるんですか?」
「まずは誰か確かめる」
 彼の考えはこうだった。
「誰かな。その為にだ」
「わかりました。それじゃあ」
 レポレロもそれに従い物影に隠れた。やがて道に赤い服を着た小柄な美女が現われた。
 上で束ねた縮れ気味の茶色の髪に彫の深い顔をしている。目ははっきりとしていて実に整っている。鼻は高めで口元は引き締まっている。その美女が出て来たのである。
「あの悪党はこの街に戻ってきているというけれど」
「悪党ねえ」
 レポレロはその美女の声を聞いて呟いた。
「うちの旦那も悪党だけれど」
「結構なことだ」
 ジョヴァンニにとっては褒め言葉である。
「私は神も信じないしな。悪ならば悪でいい」
「やれやれ。そのうち地獄に落ちますよ」
 レポレロはジョヴァンニのその言葉を聞いて肩を竦めさせた。
「本当に何時か」
「落ちればそれでいい」
 彼はそれすらも受け止めようというのだった。
「それならば地獄で美女を探し悪魔共と宴を開こう」
「本当ですか?」
 そんなことを言う主に呆れるレポレロだった。その間にも美女は何かを言い続けている。
「誰が告げてくれるのでしょう。あの悪党の居場所を」
 どうやら誰かを探しているらしい。
「恥ずかしいとはいえ私が愛して私を裏切ったあの人を」
 こんなことも言う。
「若しあの悪党を再び見つけたらそして二度と私の元に戻って来ないのならば」
 未練を込めての言葉だった。
「その時こそは。心臓を引き裂いてやるわ」
「ふむ」
 ジョヴァンニは美女のそうした嘆きの言葉を聞いて述べた。
「どうやらあれだな」
「あれっていいますと?」
「恋人に捨てられたらしい。これはいい」
「いいんですか」
「狙い目だ」
 ジョヴァンニは言いながら楽しそうに笑った。
「可哀想な女だ」
「そうやって一八〇〇人でしたね」
 レポレロはジョヴァンニのその言葉を聞いて呆れたように言った。
 
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