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ドン=ジョヴァンニ

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第二幕その十一


第二幕その十一

「先程道で若くて美しくて華やかな娘に出会った」
「またですか」
「その娘を追い掛けて手を取ったのだが」
「それでどうなったんですか?」
「私から逃げようとする。しかし声をかけたら」
「はい、声をかけたら」
 何だかんだで主の話を聞くレポレロだった。もう顔を向けてもいた。
「どうなったですか?」
「私と御前を取り違えたのだ」
 楽しそうにレポレロに対して話すのだった。
「御前とな。どうだ」
「何でまたあたしと」
 レポレロはそれを聞いて首を傾げさせた。それがどうしてかわかりかねたのだ。
「旦那を間違えたんでしょう」
「まあ話はまだ続く」
 ジョヴァンニは笑ったまま彼に対してさらに話すのであった。
「それからその娘はな」
「ええ」
「私の手を取ってだ」
 実際に手を取られる動作もしてみせるジョヴァンニであった。
「私に対して言ってきた。私の愛しいレポレロとな」
「!?まさか」
 ここで眉を顰めさせるレポレロだった。
「それは」
「それだ。貴方は私の愛しい人とな」
 また話すのだった。
「御前も隅に置けないものだ」
「ええ、確かにいますけれど」
 レポレロはその眉を顰めさせたまま主に言葉を返したのだった。
「あたしにも。女房以外にもね」
「何時の間にそんな相手がいたんだ?確か御前の奥方はもっと歳を取っていた筈だな」
「そうですよ。あたしと同じ歳ですよ」
 彼にもちゃんと女房がいるようである。
「それはね」
「そして恋人もか」
「そうですよ、いますよ」
 居直っ返答であった。
「けれどそれがどうしたんですか」
「大したものだ。わしの従者だけはある」
 ジョヴァンニはここではそのレポレロを褒めていた。
「しかし人の気配を感じてここに来たからな」
「何もなかったんですね」
「何かあればよかったのだがな」
「御冗談を」
 今のレポレロの言葉は本気であった。
「あれは洒落になりませんよ」
「いやいや、結構なことだそれも」
 だがジョヴァンニは大笑いしてこう言葉を返すのだった。
「それもな。それはそれで面白いではないか」
「その笑いもだ」
 しかしここで、であった。
「この夜の明けぬうちに終わるだろう」
「むっ!?」
 ジョヴァンニは今聞こえた言葉にふと動きを止めた。そしてレポレロに対して問うのであった。
「今喋ったか?」
「いいえ」 
 レポレロは首を横に振ってそれを否定した。
「あたしは何も」
「では何者の声だ?今のは」
「まさか」
 ここでレポレロは血相を変えて言うのであった。
「旦那をよく知っている他の世界の霊とかじゃないんですか?」
「馬鹿を言え」
 ジョヴァンニはそれは怒りの声で否定した、
「そんなことがあるものか」
「大胆不敵な悪党よ」
「そこにいるのか」
 また声がした。それはジョヴァンニの背中からであった。すぐにそちらを振り向き問うのであった。
「何者だ、一体」
「死者に安らぎを」
 また声がした。ジョヴァンニはもうその剣に手をかけている。
「何処にいるのだ」
「ほら、やっぱりそうじゃないですか」
 ここが墓地ということもあり。レポレロは震える声で言うのであった。
 
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