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ドン=ジョヴァンニ

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第一幕その二


第一幕その二

「こんなことだから。旦那はねえ」
「覚悟はいいな」
「それはこちらの言葉だ」
 この間にも騎士長と男は対峙していた。
「それならばだ」
「死ね!」
 激しい斬り合いがはじまった。一進一退であったがやがて騎士長の剣をかわした男が己の剣を突き出した。これで勝負は決まった。
「うぐう・・・・・・」
「お父様!」
 アンナは慌てて父を抱え込む。そうしてすぐに彼を連れて消えていくのだった。そこに男を呪詛する言葉を残して。
「この悪党!もう何があろうとも許しません!」
「勝手にするがいい」
 男はあくまで強気でかつ平然としていた。
「私に善悪という概念が通用するものか」
「ちょっと旦那」
 ここであの彼が血相を変えて物陰から出て来た。そしてそのうえで男の名前も呼ぶのだった。
「ドン=ジョヴァンニ様」
「何だレポレロ」
 ドン=ジョヴァンニと呼ばれた男も彼の名前を呼んだ。
「そこにいたのか」
「いましたよ。けれど旦那」
 レポレロは血相を変えたまま彼に対して言うのだった。
「また大変なことになっちゃいましたね」
「そうか?」
 だがそう言われても当のジョヴァンニは平然としたものだった。
「私はそうは思わないが」
「このセヴィーリアに来てはじめての刃傷沙汰でしたし」
「よくあることだ」
 彼にしては、なのだった。
「しかもあの御婦人は」
「詰まらん女だ」
 アンナに関してはこう言い捨てるのだった。
「私を拒むとはな」
「はあ」
「まあいい。それでだ」
 ジョヴァンニはここまで話してそのうえでレポレロに対して言ってきた。
「行くぞ」
「ここをですか」
「そうだ。あの女人を呼んだ」
 既にジョヴァンニの顔は警戒するものになっていた。
「今のうちにこの場を去るぞ」
「そうですね。危機からは身をかわすべきです」 
 レポレロは彼の人生訓をここで述べたのだった。
「まあ道案内はお任せ下さい」
「そうだな。この街は御前の生まれ故郷だったな」
「そういうことで」
 主に対して恭しく頭を垂れながら話すレポレロだった。
「それに旦那のお屋敷もあるじゃないですか」
「そういえば私もここで産まれたのだったな」
 自分のことはあまり覚えてはいないようだった。
「あちこちを旅していて何処が故郷かあまり考えたこともなかったが」
「私はちゃんと覚えてましたよ」
 レポレロはそうなのだった。
「もうね。ちゃんとね」
「それはそれでいいことだ。それではだ」
「はい、こちらです」
 早速道を指し示すレポレロだった。
「早く逃げましょう」
「うむ、そうしよう」
 こうして二人は庭を後にする。それと入れ替わりにアンナがやって来た。見れば白に豊かなレースの襟を持っていて所々に金の装飾を着けている服を着た端整な若者も一緒だった。
 髪は薄茶色で後ろに撫で付けている。気品のある顔で細い。目は穏やかな光を放っていてまるでギリシア彫刻を思わせる面持ちだが全体的に彫がありゲルマンのそれを思わせる。そうした彼がその手に剣を持ってアンナと共にやって来たのであった。
「さて、ドンナ=アンナ」
「はい」
「御父上はここで殺されたのですね」
「そうです。ドン=オッターヴィオ」
 アンナはここで彼の名を呼んだ。
「あの破廉恥な男によって」
「貴女を手篭めにしようとしただけでなく御父上まで殺すとは」
 ドン=オッターヴィオはもう怒りを隠せなかった。その手に持っている剣も今にも抜きそうである。どうやら中々激情家であるらしい。
 
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