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ドン=ジョヴァンニ

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第一幕その一


第一幕その一

                     ドン=ジョヴァンニ
                    第一幕  色事師の活躍
 夜の庭園。暗闇のせいで自慢の草木も花々も何も見えなくなっているこの場所で赤い服に青いズボンの何処かユーモラスな男がせわしく歩き回っていた。
「やれやれ」
 彼はまずは大きく息を吐き出した。暗闇の中に浮かんでいるその顔は端整といよりおかなり愛嬌のある顔である。目鼻立ちは笑っているようで茶色の髪も収まりが悪い。茶色の髪は心なしか薄くなりだしており額が広い。黒い目はあちこちを見回している。少なくともあまり高貴にも見えなければ威厳があるようにも見えない。そんな彼があれこれと夜の庭を歩き回りそのうえで何かとぶつくさ呟いているのだった。
「夜も昼もへとへとになって歩き回ってあんなとんでもない御主人様の為に動いて」
 こんなことを呟いていた。
「あっしも貴族だったなら。これ以上あんな滅茶苦茶なお方にお仕えするなんて」
 どうやら仕えている主への不平らしい。
「いつも美女を追いかけてものにされる。それに対してあっしは見張り役」
 今度は己の身を嘆いている。
「こんなことなら貴族になりたいもんだ。あんな人にお仕えする位なら・・・・・・んっ?」
 ここで左手に誰かが来たのを感じた。それで咄嗟に身を隠した。
 やがてその左手から女の声が聞こえてきた。かなり怒っているらしくきんきんとさえしている声になっていた。
「お待ちなさい!」
「誰に待てというのだ!」
「貴方にです!」
 やがて二人出て来た。一人は白いマントに黒を基調としており襟や袖、それにボタンのところに黄金をあしらっている豪奢な上着を着ている。ズボンは黒であり靴も同じだ。白い帽子が闇の中にも映えお洒落な白い羽根までそこに飾っている。
 暗闇の中に見える顔立ちは目は細く引き締まった顔立ちをしている。黒い髪と目が見える。髭はなく奇麗に剃っているのがわかる。その彼が一人の女に追われていた。
「絶対に逃がしません」
「わしを逃がさんというのか」
「そうです」
 追っている女は青いドレスを着ている。絹の豪華なものである。髪は茶色く上でまとめている。目は青く実に澄んでいる。ふくよかさもある顔は非常に整い本来は穏やかなものであることが窺える。だがその穏やかな美貌は今は怒りによって完全に消え失せてしまっていた。
「貴方をです」
「あれは」
 先程隠れた男はその有様を見て言うのだった。
「あの女の人はあれか。旦那が狙っていたあの人だな」
 言いながらあることを思い出しもした。
「確かドンナ=アンナさんだったな」
「誰か来て下さい!」
 そのドンナ=アンナがここで叫んだ。
「曲者です!曲者です!」
「だから黙っておれというのだ!」
 追われている男はまたしても怒りの声をあげた。
「わしを捕らえようというのか!」
「その通りです。悪党よ」
 アンナは怒りに満ちた声で男に告げた。
「貴方だけは許しません」
「全く。折角可愛がってやろうというのにだ」
 男は居直った言葉を出した。
「あまりにも騒ぐのでベッドに入った途端に逃げる羽目になったではないか」
「私の純潔は誰にも汚させません」
 アンナは強い声で男に告げた。
「そう、愛しいドン=オッターヴィオ以外には」
「純潔!?そんなものが何だというのだ」
 男は純潔と聞いて強い拒否反応を見せた。
「そんなものがな」
「アンナ!」
「お父様!」
 ここで厳しい大柄な男が出て来た。マントを羽織りその手には剣を持っている。顔立ちはまるで岩石のようで口にはピンと張った黒い口髭がある。
「この男は」
「不貞の輩です」
 父と呼んだその厳しい男に告げるアンナだった。
「どうか騎士長としてこの男に天罰を」
「わかっておる」
 言いながらもう剣を抜いて男に向かっていた。
「わしが成敗してやろう」
「ほざけ、老いぼれが」
 男も騎士長が剣を抜いたのを見てその剣を抜いた。
「私に剣を抜けた罪、償わせてやる」
「罪人は貴方です」
 アンナはその彼に対してきっとした声で告げた。
「私を汚そうとしてまだそのうえ剣を抜くとは」
「私にとって罪とはこの上ない甘美なもの」
 男は不敵に笑って言い放った。
「そして迫り来る輩は誰であろうと斬る」
「やれやれ、まただよ」
 隅に隠れているあの者が今のやり取りを見ながら溜息を出していた。
 
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