とあるの世界で何をするのか
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第十九話 初春、頑張る……いや、頑張った
「あっ、神代さん、ちょっといいですか?」
ゴールデンウィーク最初の三連休の翌日、登校して教室に入ったところで初春さんに呼び止められた。
「ん……いいけど、どうしたの?」
「えっとー、ジャッジメントの適正試験がありましてー」
適正試験と聞いて俺は、初春さんが現在ジャッジメントになっているのか、それともこの適正試験でジャッジメントになれるかどうかが決まるのか、というのが分からなかった。一緒にクラス委員をやっているとはいえ、初春さんからジャッジメントについて聞いたことがないし、佐天さん達からもそんな話は聞いたことがない。
「……誰の?」
「わ……私のですよぉ」
取り敢えず初春さんがジャッジメントだという前提で話を進めるとおかしなことになりそうなので、まずは普通に返してみることにしたのだが、初春さんが涙目になりながら答えてくれた。
「へー、初春さんってジャッジメントだったんだ」
「いえ、まだジャッジメントになったというわけではないんですけど……」
やっとこれで初春さんがジャッジメントだという前提で話をしても大丈夫になったと思ったのだが、実はまだジャッジメントになっていなかったようだ。
「適正試験で合格すればなれる……ってこと?」
「はい、そうです」
嬉しそうに初春さんが答える。普通に考えると新年度が始まると同時にジャッジメントも新入団員……団員? ……ジャッジメントは風紀委員だから、新入委員か? が決まるのだと思っていたのだが、違うのだろうか。しかし、初春さんは案の定この適正試験でジャッジメントになることが出来るようだ。というか、ここで落ちても夏休み前までにジャッジメントになれるようなシステムがあるのなら、今回はまだ分からないということにもなるけど……。
「それで、適正試験があるのと俺が呼び止められたことの関係は?」
「あっ、そうでした。その適正試験がゴールデンウィーク中にあるので、その時にクラス委員の仕事があった場合には、私は出られませんので……そのぉ……その時には神代さん一人でお願いしたいんですけど」
本題に戻してみると、クラス委員としての連絡だったようだ。そう言えば、ジャッジメントの適正試験って何種類もあるんだっけ? あと、確か契約書みたいなのに何枚もサインしないといけないとか二次創作で読んだことがある。原作は最初の頃を持っていなかったので……というか、持ってた巻でもほぼ1度きりしか読んでなかったので、そういう記述があるのかどうかも知らないのだが、いくつもの二次創作で同じような記述を見かけたということは、恐らく原作中にもあったのだろう。
「はーい。まぁ、ゴールデンウィーク中にクラス委員の仕事があるとは思えないし、そんなに気にしなくても大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます。もし仕事があった時にはお願いしますね」
「了解。初春さんも頑張ってね」
「はい、もちろんです」
これでクラス委員としての連絡は終了ということでいいのだろう。ということで、最後にやはりどうしても聞いておかなければならないことを聞いておく。
「でもさぁ、ジャッジメントの適正試験って体力的な試験は無いものなの?」
「うっ!」
「あぁ……やっぱりあるんだ」
この一ヶ月で、初春さんの体力がないことはクラス中に知れ渡っているわけだから、俺じゃなくてもこの質問は出ていると思う。
「ありますけど……でも、得意分野の方面で頑張りますっ!」
「うん、頑張って」
まぁ、だいたい予想通りというか、初春さんは情報処理関係の一点突破でジャッジメントになるのだろう。俺は、最後に自分で気合を入れた初春さんへエールを送ると、自分の席についたのである。
二日後、木曜日の授業が終わり寮へと帰る。すでに最初の三日間は過ぎていると言っても、土日にプラスして1日休みがあっただけなので、それほどゴールデンウィークに入ったという実感はなかったのだが、三日の登校を挟んでまた休みが来るのはかなり嬉しい物である。
これからまた四日間の連休があると思えば楽しみでテンションも上がってきそうなものだが、取り敢えず日課になっている原作開始時期調べから始める。
「るぶらん……クレープ……オープン……と……。やっぱり出ないか」
パソコンを立ち上げ、ネットで検索を掛けてみるが、まだまだ先の話なのかネットには情報を載せていないのか、未だに見つけることができないでいる。
(アリス、木山先生の動向は?)
(特に変わってない。レベルアッパーは既に完成してるから、あとは広がるのを待ってるだけみたい)
(そうか、何か変わったことがあったら教えてくれ)
(うん、分かった)
アリスには木山先生の動向を見てもらっているが、俺がレベルアッパーの対策を済ませてからも特に動きはないようだ。俺のことに気付いていないのか、それとも何かしら策があるのか……、俺としては前者のほうがいいんだけど。そして、アイテムの4人はちゃんと対策できたのだろうか……。
そう言えば、前回確認したのは麦野さん達の能力が使えることを確認した時だったので、俺のマルチスキルで使用できる能力の数も増えているはずだ。というわけで久しぶりにパラメーターを確認してみることにした。
「おー、増えてる増えてる」
一応、7番目の能力の部分を使って確認してみると、麦野さん達の能力名の下に……50個ぐらいだろうか、新しい能力名が追加されている。麦野さん達の能力が追加された時には既に100個ぐらいの能力があったはずなので、今は150個ぐらいになっているのだろう。
「色々あるけど……使えそうなのは……えっ?」
順番に確認していくと、何か見たことのある能力名が目に入った……いや、実際に目で見てるわけじゃないんだけど……。能力名は視覚阻害、超電磁砲アニメで常盤台狩りの眉毛女が使っていた能力である。確か、この能力が登録されているのは一人だけだったはずなので、既に彼女がレベルアッパーを使用しているということだろう。
そう言えば、超電磁砲アニメでは最初のときから事件を起こしたのがレベルアッパー使用者という設定で、逮捕されたときに携帯音楽プレイヤーを持っている描写がされていたりしたのだが、今のこの時点で量子変速、発火能力、視覚阻害と、レベルアッパー事件の前に関わってくる能力者がレベルアッパーを使用したことになるわけだ。……いや、そう言えば、量子変速に関しては事件を起こした犯人と別に、既に意識不明になっていてアリバイがあった女性が同じ能力だったので、ここに入っている量子変速はその人の能力だろう。あ……確か姉御って呼ばれてて、能力名は忘れたけどコンクリートか何かを動かせる人が居たんだっけ。
能力名は一応最後まで確認してみたが、特にこれといった能力名が見つからなかったので7番目の能力を元に戻しておく。そして、そのまま何気なく学園都市製超能力の項目を見てみると、『7つ』の下にもう一つ追加されて『8つ』という値が出来ていた。すぐ『8つ』に設定してから、追加された『能力名8』を見てみると、デフォルトで入っていたのは『量子変速』だ。確か最初に見たときもデフォルトで入っていたのはこの能力だったと思う。ということは、もしかするとレベルアッパーの使用順に能力名が付けられていて、一番目から順番にデフォルトで入ってくると考えれば、レベルアッパーを最初に使ったのは鎖帷子みたいな名前の、虚空爆破事件の時に既に意識不明になっていた人なのかもしれない。
取り敢えず8番目の能力に何を持ってこようかと悩むところではあるが、これからの季節に使えそうな冷却能力を入れておくことにする。少なくとも名前からして温度を下げることができる能力のはずなので、これから暑くなってくる季節には役に立つだろう。
しかし、いつの間に8つまで能力が使えるようになっていたのだろうか。最初に気付いたときにはすでに7つまで使えるようになっていて……いや、最初の設定は3つまでしか使えなかった。でも、その時には7つまで設定できるようになっていたので7つに設定したのだが、恐らく俺がマルチスキルを身につけたときには3つまでしかなかったのだ。……いや、俺がマルチスキルを身につけたのはパラメーター操作がアップデートされた時で、その時点ではすでに7つまで設定可能だったので、3つというのは俺がレベルアッパーを使ったときの数なのかもしれない。
設定できる個数が増えていくのはレベルアッパーを使用してからの時間が関係してくるのか、それともレベルアッパー使用者数が関係してくるのか、もしくはレベルアッパーで集められた演算能力の大きさに関係してくるのか、実のところそんな事などには全く関係がないのか、現時点ではまだ分からないことが多すぎて予想も立てられないのである。
ゴールデンウィークは普通に友達と遊んだり、暗部の活動として学園都市の外と違法な取引をしようとしてる現場を押さえたり、魔術関連で土御門さんに呼び出されて神裂さんとステイルの前で違法研究所をドラグスレイブでぶっ飛ばしてみたりと、なかなか充実した毎日を送っていた。
そしてゴールデンウィークも最終日となり、まだ残っている宿題を片付けているところでケータイが鳴った。暗部用ではなく通常のほうだ。
「はいはい~」
『あ、神代さん。佐天ですけど、今日って何か予定あったりしますか?』
電話を掛けてきたのは佐天さんだった。ケータイの画面には誰から掛かってきたのかが表示されているはずなのだが、俺は表示を見ることもなく出るので、そのことを知っている友達の男子や佐天さん達5人は自分の名前を言ってくれるのだ。
「今日は特に何もないよ」
『そうですか。それなら、これから初春のジャッジメント就任祝いでカラオケ行くんですけど来ませんか?』
どうやら初春さんはちゃんとジャッジメントになれたようだ。
「うん、いいけど、メンバーは?」
『あたしと初春、あとはアケミ・むーちゃん・マコちんで今5人なんだけど』
「男子俺だけか……」
だいたい予想はしていたが、やはりメンバーは女子だけだった。
『いいじゃない、ハーレムだよ? ハーレムっ!』
「えー? ニューヨークはちょっと遠いしー」
佐天さんがハーレムとか言っているのでボケてみる。俺も男だし、女性から誘われて嬉しくもあるのだが、女子がこうも簡単に男子を誘うという状況はおかしいと思うのだ。しかも、自分からハーレムとか言ってるし……。確かに、元がアニメや漫画の世界ではこういうのが普通のようで、今まで何度も経験しているのだが、この状況には未だに慣れない。
『そのハーレムじゃないっ!』
佐天さんからツッコミが来る辺り、この世界のニューヨークにもハーレムという地名はあるらしい。
「あ、ニューヨークのハーレム、知ってるんだ……」
『知ってるというか、聞いたことがあるっていう程度ですけど……って、そうじゃなくて、カラオケ来てくれませんか?』
俺がつぶやいたところで、佐天さんが本題に戻してきた。これでハーレム云々は有耶無耶にできたのだろう。
「んー、じゃー行くよ」
『ありがとうございます。ではっ!』
「それで、……あ」
取り敢えず行く旨を伝えたあと、どこで何時に待ち合わせるのかを聞こうとしたら既に切れていた。そして、すぐにメールが届いたので見てみると、カラオケ店だと思われる地図と一緒に『待ってま~す』と一言だけ書いてあったのである。
「今かよっ!」
佐天さんに聞こえてるわけもないのに、思わずケータイにツッコミを入れてしまう。しかし、行くと言った手前、余り待たせてはいけないと思ってすぐに準備を始めたのだった。
「は~い、お待たせ~」
地図に書かれた場所まで来ると、佐天さん達を見つけたので声をかけた。
「あー、やっぱり姫羅かぁ~」
俺の姿を確認したとたん、佐天さん達5人がため息をつく。というわけで、今の俺の姿は姫羅である。
「そりゃそうでしょ。この中に男子一人で居るのは精神的にきついんだから」
「えー? でもハーレムだよ~?」
佐天さんはまだこのネタを引っ張りたいようだ。しかし、俺としてはあまり引っ張りたくないので少しクールな感じにして言い放ってみる。
「それは貴方達5人からの、5股で付き合ってくださいって言う告白と捉えても良いのかしら?」
「え゛……」
俺の一言で5人が一斉に固まる。佐天さん以外の4人は佐天さんに冷たい視線を向けているようなので、ついでに俺の冷却能力で佐天さんの周囲の空気を冷やしておく。
「え……っとー……、ごめんなさいっ!」
周囲の4人から冷たい視線を……というか、俺が実際に空気を冷やしているわけだが、4人の視線を受けていることに耐えられなくなったのか、佐天さんが勢い良く謝った。
「まー、いいわよ。行きましょう」
俺はそう言いながら能力を解除する。そして、6人でカラオケ店に入ったのである。
「やっとジャッジメントになれたね。おめでとっ!」
「おめでとー、ういはるん。やったねっ!」
「初春さん、おめでとぉ~!!」
部屋に入ってドリンクや食べ物などが一通り揃ったところで、ジャッジメント就任祝いのカラオケパーティーが始まった。なお、俺が呼ばれたのは5人よりも6人のほうが料金が安くなるからだったようだ。5人までの料金計算と6人からの料金計算が違っていて、6人で来ても5人の時とそれほど違わない料金になるので、割り勘にするなら6人で来たほうが一人当たりが安くなるのである。
「ありがとうございます、皆さん。ようやく念願叶ってジャッジメントになることができましたっ」
「ういはるん頑張ってたもんねー」
「わざわざクラス委員まで立候補したしねー」
初春さんからの報告で皆がねぎらっているのだが、耳に入った言葉で一つ気になることがあった。
「ん? クラス委員に立候補したのが何か関係あるの?」
「あっ、えーと……そのぉ」
「クラス委員とかやってるとジャッジメントに採用されやすくなるんだって」
俺の疑問に初春さんは答えにくそうだったのだが、それを佐天さんが答えてくれた。
「あー、なるほどー。そういうことだったのね」
確かに最初、初春さんがクラス委員に立候補した時、初春さんってこんな感じだっけと疑問に思ったのは覚えている。つまり、クラス委員の立候補もジャッジメントになるためだったわけだ。
「はい。あ、でも、クラス委員の仕事もちゃんとしますよ」
今の話を聞かされただけだと、ジャッジメントになるためにクラス委員を利用しているとも取られかねない。それは初春さんも分かっているようで、慌てて付け足してきた。
「うん、そこは心配してない。初春さんはジャッジメントの肩書きが欲しかったわけじゃなくて、ジャッジメントの仕事がしたいってのが分かるからね。そんな初春さんが、ジャッジメントになれたからといってクラス委員の仕事をサボるようになるとは思わないよ」
「あ……ありがとうございます」
「でも、あんまり無理しないようにね」
「はいっ!」
なんて初春さんと話している間に、誰が入れたのかカラオケの曲が流れ始めた。
それから3時間、俺も含めて6人で歌いまくった。一応俺もこの世界での楽曲をいくつか覚えて……というか、明らかに元の世界での曲の替え歌なのだが、歌うことができるようになっていたので、この3時間の間に7曲ほど披露してみたら概ね好評だったようだ。
「いやー、久々に歌ったねー」
「そうだよ、涙子ってあんまりこういうところ来ないし、最近私たちと居るより初春と居ることのほうが多かったじゃない」
「だねー。このままういはるんと付き合っちゃうんじゃないかってくらいべったりだったもんねぇ」
部屋から出て会計に向かう。佐天さんは分かるとして、初春さん以外は全員レベル0だったはずなので、そんなにカラオケに来れるとも思えないのだが、アケミさんとむーちゃんとマコちんは結構来ているようである。
「わ……わ、私はノーマルですっ! 佐天さんと付き合ったりなんてしてませんっ!!」
「でも、初春がジャッジメントで忙しくなるとあたしは暇になるかなぁ」
「暇になるって事はないんじゃないかな。宿題とかも増えてくるだろうし」
「うわー、そんなので暇じゃなくなるのは嫌だなー」
初春さんがむーちゃんの言ったことに反応しているが、なぜかそれについては俺も含めて全員がスルーだった。
「こちらがお会計になります」
「電卓貸してもらっていいですか?」
「はいどうぞ」
佐天さんは会計で割り勘にするための電卓を借りて、計算をし始める。
「なんで6で割るの!?」
電卓で割るのあとに6を押した佐天さんに、俺は思わずツッコミを入れてしまった。
「え? だって6人だし……」
「何? 自分は呼ばれただけだからって払わないつもりなの?」
佐天さんは6で割るのが当たり前みたいな反応をしているし、アケミさんに至っては俺が割り勘から外れようとしているように見えるらしい。
「違うわよ。なんで初春さんまで勘定に入れてるの? って話よ」
「なんでって、ういはるんも歌ったし食べたし払うのが普通じゃない?」
今度はむーちゃんが答えてくれたが、俺としてはどうも納得がいかない。
「いや、初春さんのジャッジメント就任祝いのパーティーだよね? 初春さんに負担求めるのっておかしくない?」
「あー……そう言われてみれば、そんな気もするねー」
「まぁ、確かにそうかもしれないけど……」
これで多少は理解してもらえただろうかと思っていると、当の初春さんが口を開いた。
「えっとー、さすがにそれは申し訳ないので、私も払いますー」
結局、初春さんの申し出により全員での割り勘になったのである。
後書き
遅れてしまって申し訳ありません。
今回はスランプというか何というか……、一人称で話を進めていくとどうしてもぶつかってしまう壁に当たってました^^;
初春さんがジャッジメントになったのが何時なのか分からなかったので、ゴールデンウィークにしてみました。
2014/08/19 誤字修正(同行→動向)
2015/01/30 カレンダー修正による日付の変更
(本文中に日付は出していませんがちゃんと設定されています)
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