神々の黄昏
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第二幕その二
第二幕その二
「わしは既に動いていた」
「既にか」
「ジークフリートは大蛇を倒し指輪を手に入れ」
今度はこのことを話したのである。
「そしてヴォータンを倒しあらゆる力を手に入れた」
「そうだな」
「あの愚か者は自覚はしていないが」
これは彼等にとっては幸いであった。
「ヴァルハラもニーベルングも逆らえぬ」
「指輪の力によって」
「わしでさえもだ」
当然ニーベルングの王であるアルベリヒもであった。
「あの恐れを知らぬ勇士の前ではだ」
「しかしあの男はだ」
「指輪の価値を知らずその魔力も使わない」
やはり彼は指輪を知らなかった。
「ただ愛だけを見て幸福だけを求めている」
「その通りだな」
「その愚か者を倒すのが御前だ」
「それは安心するのだ」
父の問いに静かに述べたハーゲンだった。
「既に私の手の中にある
「もう来ているのだな」
「既にギービヒの為に動いている」
「では指輪を手に入れろ」
アルベリヒの今の言葉は命令だった。
「よいな」
「そうしろというのか」
「あのラインの乙女共やローゲはだ」
彼等のことを話すにあたっては実に忌々しげである。
「あ奴に入れ知恵をして指輪を元に戻そうとするかも知れぬ」
「そうなれば私は神にはなれない」
「わしもじゃ。あの愚か者は権力にも富にも興味はない」
「見ているのは愛だけだ」
「愛なぞ何にもならぬ」
既にそれを捨てているアルベリヒだからこその言葉である。
「何一つとしてだ。役に立つのは権力と富だけだ」
「その通りだな」
「だからだ。早くだ」
またハーゲンに命じるのだった。
「あの指輪を手に入れろ。その為の御前なのだからな」
「私の役目というのだな」
「御前もまた恐れを知らぬ」
ハーゲンもまたなのだ。
「その御前に命じるのだ。それではだ」
「それでは。何だ?今度は」
「このことを誓うか」
「指輪を手に入れることをか」
「そうだ。誓うのかどうなのだ?」
「私は私の為に指輪を手に入れる」
父のことは考えていなかった。あくまで自分が神になろうというのである。
「私に誓う。心配は無用だ」
「ふむ、まあいい」
その誓いは自分に対するものではないので不満だったが頷くことにしたアルベリヒだった。そしてそのうえでまた言うのであった。
「では指輪をだ」
「わかった」
こうしたやり取りをするのだった。これで話は終わった。そして朝になるとだ。ジークフリートが宮殿に帰って来たのである。
彼はすぐにハーゲンを呼んだ。
「ハーゲン、起きているか?」
宮殿の庭で彼を呼ぶ。そのあまりにも広い庭の中でだ。周りは黄金色の宮殿に囲まれている。その庭も緑の芝生に青い水と美しいものである。
「起きているのか?」
「何だ?」
ハーゲンは彼を待っていた。しかしそれを隠して今起きた顔で彼の前に出た。そしてそのうえで起きたばかりの表情を作って彼に問うたのである。
「ジークフリートか」
「そうだ、私だ」
既に彼自身の姿に戻っていた。
「今戻ったところだ」
「そうか、早いな」
今度は親しげな顔を作っての言葉である。
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