神々の黄昏
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第二幕その一
第二幕その一
第二幕 告げられた秘密
ハーゲンは自分の部屋にいた。そこは寝室であり簡素なベッドがある。その白いベッドの横にある椅子に座って瞑想をしていた。その彼のところにだ。
「ハーゲンよ」
彼の頭の中にである。アルベリヒが出て来て声をかけてきたのである。
「我が子よ、眠っているのか?」
「その声は」
「安息と眠りはわしにはない。だが御前はどうなのだ?」
「聞こえている」
こう返すハーゲンだった。
「だが。何の用なのだ?」
「御前に告げる為に来た」
「私にか」
「そうだ。御前は思うままに使える力を持っている」
それを言ったのである。
「それを告げる為にだ」
「そのことはもう知っているが」
「あの女はわしの為に御前という男を産んでくれた」
「母は私に勇気を授けてくれた」
ハーゲンはまずこのことを話した。
「しかしだ」
「しかし。何だ?」
「あんたは私に何を授けてくれた」
頭の中にいる父に問うたのである。
「何をだ」
「知恵を授けたが」
「悪知恵をだな」
こう言い返すハーゲンだった。
「そんなものは有り難いとは思わぬ」
「またそんなことを言うのか」
「あんたはただ自分の精を母の中に入れただけだ」
「愛なぞなくとも子はできる」
アルベリヒはせせら笑うようにして述べてきた。
「女を抱けないわしでもな」
「そんな風にして生まれて嬉しいものか」
ハーゲンは忌々しげに告げた。
「ただ生まれただけなのだからな」
「その憎しみこそがいいのだ」
アルベリヒは我が子のその憎しみをかえって喜んでいた。
「そして陽気な奴等をだ」
「この世もか」
「わしは楽しみを知らず苦痛を背負っている」
それが彼なのだというのだ。
「そのわしを御前は愛する」
「そのつもりはない」
「だがそれは義務だ」
また我が子に言い返す。
「力が強く大胆で賢くもあるな」
「それが何の役に立つのだ」
「わしの役に立つ」
あくまで彼本意である。
「わしは今ニーベルングの軍勢を編成している」
「小人達の軍が何の役に立つ」
「神々を滅ぼす」
そうするというのである。
「これからヴァルハラに登ってだ」
「そして神々になるのだな」
「そうだ。神にだ」
それが彼の野心であった。
「かつてわしから指輪を奪ったあの憎むべきヴォータンはだ」
「最早力はないな」
「己の血を引いたヴェルズングのジークフリートに敗れた」
「そして力を失った」
「奴と光の精達に残っているのは破滅だけ」
そして言った。
「神々の黄昏だけだ」
「そしてあんたが新たな神になる」
「わしが全てを支配するのだ」
そのどす黒い笑みと共に語る。
「そして御前もだ」
「私もか」
「そうだ。わしの後は御前だ」
まるで悪事を囁く様な言葉である。
「御前なのだよ」
「私が神になるのだな」
「御前の忠誠がいかがわしいものでなければだ」
アルベリヒも馬鹿ではない。このことはもう察していた。
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